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第一章
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しおりを挟む部屋の入口から中の様子を伺うと、婦人警官と共に3人の少女達がいた。一番年長者らしい小学生だと思われる少女と、もう一人の幼い女の子はおそらく姉妹だろう。
婦警と並んで座っている真ん中の少女は、姉妹の妹と同じ歳くらいか。どうやらずっと泣いているようだ。
泣いている少女を左側の姉妹が慰めるように、頭を撫でたり背中を擦ったりと甲斐甲斐しく世話を焼いてるように見えた。普段から仲の良い、友人のような関係なのかもしれない。
玲一に頼んで正解だな。あんな状態の幼い子供に、どう接したらいいのか分からない。余計に怖がらせて泣かれそうだ。
「宝条さんの石を持っていたのは、あの真ん中の子です」
後ろから潜めた声で刑事が説明を入れる。それに頷きだけ返し、玲一を呼んだ。
「ったく。 泣いてる子供なんて、オレだって苦手だよ」
「俺よりマシだろ。余計に泣かせる自信しかねぇよ」
「なんの自慢だよ」
玲一は呆れながら溜息をつくと、部屋に入り婦警に声をかけ席を代わった。
「あの子は、さっきの男の子供ですか?」
「いえ。あちらの姉妹があの男の子供です。もう一人、あの子は吉野千津。4歳になったばかりらしいです」
「吉野?」
偶然か? まさかここで『吉野』という名を聞くとは。あの子供はもしかして、葵の子供なのか? あいつ……っ、ガキのクセして子供なんか作ったのか!? 女の子にモテないとか言って拗ねてたくせに。
「あの子の父親は?」
「いません。母親と二人暮らしだそうです」
一瞬頭の中が白くなった。
いない……って、どういう事だ?
まさか、葵はもうこの世にいない、のか?
「…それは、 父親が、亡くなったとか…」
「さぁ、そこまでは確認してません」
「母親は? 今何処に?」
「それが…、病院なんです。ひと月程前に倒れて、意識も朦朧としているらしく、話しが出来る状態では無いそうです」
「それじゃ…、あの子は 」
あんなに幼くして、親を亡くす事になるかもしれないのか。
葵…。お前何やってんだよ。家族が欲しいって言ってたじゃないか。ガキだけ作って逃げ出したのか? ……いや。葵はそんな奴じゃない。きっと何か事情があるんだろう? 生きているなら今すぐ出て来い。お前の子供が泣いてるんだぞ。
部屋の中では、玲一が中々泣き止まない幼子に手を焼いている。顔を覗き込み、何やら話し掛けてはいるようだが、肝心の『吉野千津』は顔を小さな手で覆い、周囲を拒絶している。
「先程の男、柴田が吉野母娘の面倒をみていたようです。 あの石を売ろうとしたのも、千津の母親の病院代に充てるつもりだった。そう供述しています」
嘘では無いんでしょうが、と刑事は続けた。
玲一が、千津に何を言ったのか。覆っていた小さな手を下ろし、隣に座った初対面の玲一に、その泣き腫らした顔を向けた。
「柴田が質屋に持って来た、あの石の出どころがどうにも曖昧で、警察としては、すんなり帰す訳にもいかないんですよ」
千津と顔を合せた玲一は酷く驚いた様子で、小さなその顔を食い入るように見つめている。
そんなに怖い顔でじろじろ見ると嫌われるぞ。もう少しにこやかに出来ないのか。
それにしても。こちらからは横顔しか見れないが、随分と綺麗な子だ。あの子の母親は相当な美人なんだろう。葵のやつめ。どこでそんな美人と知り合ったんだ。
「うわぁぁぁあああん!!!」
突然、空気を震わすような大きな泣き声が響く。千津が何かを思い出したのか、また泣き出してしまった。
「宗次っ!!」
やれやれ……。
だからもうちょっとにこやかにしとけば良かったのに。
「来いっ、早く!」
俺が行ったところで泣き止むか?無理だろ。
渋々部屋の中へ足を運ぶ。わんわん泣き続けているその子の前に、しゃがみ込んで声を掛けた。
「あー、初めまして、千津ちゃん。俺は宝条宗次って言います。君のお父さんの知り合いだと思うんだけど、」
「宗次、そうじゃないっ! 違うんだ」
「は? 何が?」
滅多な事では動揺しない玲一が珍しい事に酷く慌てている。
何が違うんだよ。主語を言え、主語を。
「この子は、葵くんの子だっ」
「ああ、…やっぱり?」
「だからっ! 葵くんの子供なんだって!」
「うん? …で?」
「っだぁ、もう! 分かんないのかよっ!」
「ちょっと、オジちゃんたち!」
「「はぁっ!?」」
『オジちゃん』………? 今言われた言葉に玲一と顔を見合わせた。
え?お前の事? いや、お前だろ!
視線で会話を交わしていると、姉妹の姉らしき女の子が腰に手を当て仁王立ちしながら「静かにしてよ!」と説教を始めた。
30過ぎの男が二人、小学生に怒られるとは。
「「ごめんなさい」」
「オジちゃんたちは、千津ちゃんのママの事知ってるの?」
「いや、ママは知らな…」
「ああ、知ってるよ」
は? おい!いくら相手が小学生でも、嘘はいけないぞ、嘘は。
「千津ちゃん…。 オレは千津ちゃんのお父さんも知ってるよ」
べそべそと泣いていた千津が、玲一のその言葉に微かに反応した。
それにしても、玲一はいったい何を考えているんだ。そんな嘘ばかりついて。相手が子供だからって、騙すような事をしてやるな。
批難を込めて玲一を見ると、静かにこちらを見る玲一と目が合った。
「なぁ、宗次。 こんな事があるなんて、オレも信じられないんだけど…」
何だよ、その深刻な目付きは。
玲一は、目を擦る小さな少女の肩に手を置き、俺の前に連れて来た。
「ねぇ、千津ちゃん。 この人をよーく見てごらん」
グズグズと鼻を鳴らした千津が、こちらを向いた。
────……え?
「ヒック …グズ …あ」
紫色の瞳と目が合った。
息が止まる。
「ね? 千津ちゃんと同じでしょ?」
眉の形…、瞳の色…、
背中に電流を流されたような衝撃。
「ぶどうのじゅーす……」
───葡萄のジュース?
「ままのおくびのといっしょ」
ママ? おくび?
それはいったい、どういう……
「この人が、───君のお父さんだよ」
玲一は、俺の目を見ながらそう言った。
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