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第一章
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しおりを挟む「うん。体力以外は、順調に回復してますね」
最新設備の整った大病院の若い医師は、にっこり笑って検査結果を伝えてくれた。
そろそろ自宅療養に移行しましょうか、と嬉しい提案付きで。
あの廃れた病院で葵を発見してから、そろそろ半年が経とうとしていた。
この日は丁度、オメガ検診のついでだからと着いてきた玲一と共に、医師の説明を聞いていた。
「先天性オメガ症候群? じゃあ、葵は生まれつきオメガだった、って事ですか?」
午前中の検査結果をと、カンファレンス室に呼ばれた俺に、何故ベータ性だった筈の葵が、突然オメガ性になったのかを調べてくれた医師が、聞き慣れない症状を告げた。
「正確には、オメガ因子を持って生まれたベータ、という事です。 ベータ性の1000人に1人の割合で見られる、割とメジャーな体質ですよ」
そんな高確率でベータがオメガに転身するのか? それじゃ世の中オメガだらけになる。
「実際には葵さんのように、オメガに変異するのは極稀なケースです。葵さん自身、このオメガ因子の数値が高かった事。それと、おそらく上位アルファ種の宝条家に居たことが原因の一つでしょうね」
医師によれば、オメガ因子を持っていても発現するベータは稀で、環境が大きく作用した結果だという。アルファ、それも上位アルファ種である宝条家でそのフェロモンを多く摂取した事が、葵の中に眠るオメガを目覚めさせた、という事らしい。
「それともう一つ。 葵さん自身が、強くそれを望んだからです」
「え?」
「この症状を持つベータに、心から求めるアルファが現れた時にも、稀に発現する事があるんです。勿論、必ずしもって訳ではありませんが、このケースでいくと、様々な要因が重なって、成るべくして成ったと言うべきでしょうね」
それは───
葵が俺を、心から欲しいと願ったという事か?
「宗次さん。 葵さんは、貴方の為にオメガに変異した、と言っても過言ではありません。 実は興味深い検査結果が出まして…。 その、オメガに変異した筈の葵さんなんですが、オメガフェロモンが出ていないんです」
「え? それは、どういう事ですか?俺にはちゃんと分かりますよ」
葵から発せられる、あの林檎の花の匂い。あれがオメガフェロモンなんじゃないのか?
「はい。確かに宗次さんの認識出来る、葵さんの匂いはオメガフェロモンであって、オメガフェロモンではないんです」
「いや、意味が分からないんですが」
「要するに、葵さんの発する誘引香自体が、宗次さん意外のアルファには何の意味もない、葵さん自身の体臭、というようなものです」
「成程…。宗次は葵くんの体臭に欲情する、変態ショタコンアルファって事ですね」
それまで隣で大人しくしていた玲一が、とんでもない事を言い出した。
「お前ねぇ…! 失礼にも程があるぞっ」
「だってそうだろう? ショタコンアルファ」
やめろよっ!本気で泣くぞっ!
「あはは。 まぁ、小児性愛者かどうかは置いといて、葵さんのフェロモンが宗次さんにしか作用しないというのは確かなんです。なので、番うべくして番った。謂わば好相性同士、といったところでしょう」
俺だけじゃなくて葵にも、俺以外の相手はいないのか。てか、先生? 俺は小児性愛者ではないですからね!?
「あの、先生。 葵は、ベータに戻る事はないんでしょうか」
「ありません。一度オメガに変異してしまったら、ベータには戻れません。 なので身体が回復すれば、発情期も訪れます。勿論、妊娠も可能ですよ」
い、いや、そういう事を聞いた訳じゃないんだが…。ま、まぁ、そうか。うん。それじゃ、その。あの時のやり直しも、何れは出来るって事か。へぇ……、そう………。ふぅ…ん……。
「おい。この変態ショタコンアルファ。顔がアウトだ。猥褻物頒布等罪で捕まるぞ」
「だからっ!それ、やめろよ!」
クソっ!この鬼オメガめっ!玲一こそ、本当にオメガなのか甚だ怪しいぞ!アルファ相手に、よくもここまで暴言を吐けるな。兄さんはこいつの何処がいいんだか。
「ああ、そうだ大城さん。産科の内田先生が、次の健診には、隆法さんも連れて来られるようにと、言ってましたよ」
「へ…? 産科?」
「えぁ!? あぁ、あー…、はい。……分かりました」
「順調らしいですね、赤ちゃん。 おめでとうございます」
「───は? はああぁぁあああ!?」
「うるさいっ! 静かにしろっ!」
聞いてないぞ!? いつの間に!?
何しれっとして…… ん?
あ、……何だ。
「そういう事は早く言えよ。 仕事は別の奴に引き継げ。 ──よかったな、玲一」
「……ああ、 ……どうも」
何だよ、赤くなりやがって。結構可愛いところもあるじゃないか。
さて…と。
これから忙しくなりそうだ。あの頑固な父をどう説得するかは兄に任せるとして、俺は俺でやらなきゃならない事がある。
もう一人、頑なな心を中々拓いてくれない手強い頑固者を想い、そっと息を吐き出した。
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