22 / 44
22.婚約者の変化
しおりを挟む
次の日、私はさっそくアンディ様と教会へ向かうことになった。
大聖女の証である銀色のドレスは綺麗だけど、落ち着かない。
リリーは美人だから似合っているのだが、非道な行いをしてきた私に相応しくないんじゃないかと思ってしまう。
「リリー様、ハークロウ様がいらっしゃいましたよ」
さきほどまで準備を手伝ってくれていたアネッタが、部屋に戻って来た。
「い、今行きます……」
私は昨日のことを思い出し、顔が熱くなった。
アンディ様は私の瞳にキスを何度もした後、何事もなかったかのように屋敷まで送ってくれた。
帰りの馬車の中で、私は誤魔化すように治療院での話をたくさんした。
何か喋っていないと変になりそうだった。
とめどもない私の話をアンディ様はただ静かに微笑んで聞いてくれていた――。
「坊ちゃん、お忙しいのはわかりますけど、リリー様を放っておいてはいけませんよ!」
「そうそう、私たち、坊ちゃんの奥様はリリー様以外考えられませんので、他の男に取られないでくださいませね!」
部屋を出て玄関ホールに下りると、ハークロウ家のメイドさんたちがアンディ様を囲み、問い詰めていた。
(わわ、嬉しいですけど、アンディ様は婚約破棄されたいのに!)
慌てて皆の所に駆け寄ると、アンディ様は破顔した。
「はは、リリーは随分とお前たちに懐かれているようだ! 俺よりもな」
声を出して笑うアンデイ様に、メイドさんたちが「わかっているんですか!?」と目くじらを立てる。
「わかっている。お前たちの忠告はありがたく胸に刻もう」
楽しそうに笑うアンディ様に、私の視線は釘付けになる。
(アンディ様は、この場を納めるため言ったにすぎません……)
同時に私の胸がきゅうと痛くなる。
「リリー」
私に気付いたアンディ様がその眼差しを柔らかいまま向けた。
痛かった胸がドキンと大きく音を立てる。
メイドさんたちが開けた私までの道を、早足で歩いて来る。
「……君のその姿を見るのは初めてではないのに、今日は一段と美しく感じる」
(メ、メイドさんたちの手前、そう言うしかないんですよね!?)
私の手を取りそんな甘い言葉を吐くアンデイ様は、今や目覚めたときとは別人すぎて、どうしていいかわからない。
「行こうか」
真っ赤になる私にくすりと笑うと、彼が手を差し出したので、自身の物を重ねる。
メイドさんたちからは黄色い声が飛び交っていて、私はいたたまれなかった。
アンデイ様の私に触れる手が、大切な物を扱うかのように優しくて、私はまた勘違いしそうになってしまう。
「行ってらっしゃいませ!」
今日は教会に行くため、アネッタとダンさんに治療院を任せた。……アンディ様と二人きりである。
皆に見送られながら、私たちは馬車に乗り込み出発した。
「きょ、教会ってどんな所なんでしょう? 貴族の治療院もすぐそばにあるんですよね?」
向かいに座るアンディ様と顔を合わせるのが恥ずかしい私は、またペラペラと話し出した。
「君はあの区域では地位も権力もある。ただ、昨日の君の話を聞く限り、油断はできない。君を刺した犯人も捕まっていないんだ。けして俺から離れないように」
「はい……!」
私は結局、昨日の馬車の帰り道でマークさんからの話をアンディ様にした。
私の話を疑わずしっかりと聞き、自身の聖騎士団についても調査すると言ってくれた。
私は誠実な彼に応えるように、しっかりと返事をした。
「……やっと目が合ったな」
するとアンディ様は目を細め、私の手を取った。
「あ、あの!?」
思わず目を逸らしてしまう。
「リリー」
アンディ様に取られた手を引き寄せられ、私は彼の膝の上へ座る形になった。
「ア、アンディ様……っ」
降りようとする私をアンディ様はがっちりと掴んで離さない。
「なんでこちらを見ないんだ」
「あ、あのっ……」
色気のある声が耳をくすぐり、何も考えられなくなってしまう。
「昨日、あんなことをしたから嫌われてしまっただろうか?」
「そ、そんなことないです!!」
しゅんとする彼の声に慌てて否定すると、間近で目が合う。
「あ……」
いっぱいいっぱいな私は視線を漂わせた。
顔が熱くなりすぎて、ゆでだこのようかもしれない。
「じゃあ、俺のこと、どう思っているんだ?」
「え――――」
アンディ様は一体、どうしてしまったんだろう。
甘い表情に、声、その発言に許容量を超えた私は瞳を潤ませて彼を見た。
「……リリー、そんな顔、俺意外に見せてはダメだぞ」
「えっ? えっ!?」
アンデイ様は私の肩に頭をぽすんと置いた。
どういうことかわからない私は、ますます挙動不審になる。
「はあ……君を惑わせていい気になってしまったようだ。普段惑わされっぱなしだからな」
「……悪女ということでしょうか?」
アンディ様の大きな溜息に不安になり、つい彼の騎士服をぎゅうと握りしめてしまった。
「ああ。君はとんでもない悪女だ」
そう言われても悲しくなかったのは、アンディ様の表情が何だか嬉しそうだったからだ。
見上げた彼の瞳は、まるで愛しい人を見るような優しさで満ちていた。
「だから俺の目の届く場所にいるように」
そう言うとアンディ様は、私の頬に口付けた。
大聖女の証である銀色のドレスは綺麗だけど、落ち着かない。
リリーは美人だから似合っているのだが、非道な行いをしてきた私に相応しくないんじゃないかと思ってしまう。
「リリー様、ハークロウ様がいらっしゃいましたよ」
さきほどまで準備を手伝ってくれていたアネッタが、部屋に戻って来た。
「い、今行きます……」
私は昨日のことを思い出し、顔が熱くなった。
アンディ様は私の瞳にキスを何度もした後、何事もなかったかのように屋敷まで送ってくれた。
帰りの馬車の中で、私は誤魔化すように治療院での話をたくさんした。
何か喋っていないと変になりそうだった。
とめどもない私の話をアンディ様はただ静かに微笑んで聞いてくれていた――。
「坊ちゃん、お忙しいのはわかりますけど、リリー様を放っておいてはいけませんよ!」
「そうそう、私たち、坊ちゃんの奥様はリリー様以外考えられませんので、他の男に取られないでくださいませね!」
部屋を出て玄関ホールに下りると、ハークロウ家のメイドさんたちがアンディ様を囲み、問い詰めていた。
(わわ、嬉しいですけど、アンディ様は婚約破棄されたいのに!)
慌てて皆の所に駆け寄ると、アンディ様は破顔した。
「はは、リリーは随分とお前たちに懐かれているようだ! 俺よりもな」
声を出して笑うアンデイ様に、メイドさんたちが「わかっているんですか!?」と目くじらを立てる。
「わかっている。お前たちの忠告はありがたく胸に刻もう」
楽しそうに笑うアンディ様に、私の視線は釘付けになる。
(アンディ様は、この場を納めるため言ったにすぎません……)
同時に私の胸がきゅうと痛くなる。
「リリー」
私に気付いたアンディ様がその眼差しを柔らかいまま向けた。
痛かった胸がドキンと大きく音を立てる。
メイドさんたちが開けた私までの道を、早足で歩いて来る。
「……君のその姿を見るのは初めてではないのに、今日は一段と美しく感じる」
(メ、メイドさんたちの手前、そう言うしかないんですよね!?)
私の手を取りそんな甘い言葉を吐くアンデイ様は、今や目覚めたときとは別人すぎて、どうしていいかわからない。
「行こうか」
真っ赤になる私にくすりと笑うと、彼が手を差し出したので、自身の物を重ねる。
メイドさんたちからは黄色い声が飛び交っていて、私はいたたまれなかった。
アンデイ様の私に触れる手が、大切な物を扱うかのように優しくて、私はまた勘違いしそうになってしまう。
「行ってらっしゃいませ!」
今日は教会に行くため、アネッタとダンさんに治療院を任せた。……アンディ様と二人きりである。
皆に見送られながら、私たちは馬車に乗り込み出発した。
「きょ、教会ってどんな所なんでしょう? 貴族の治療院もすぐそばにあるんですよね?」
向かいに座るアンディ様と顔を合わせるのが恥ずかしい私は、またペラペラと話し出した。
「君はあの区域では地位も権力もある。ただ、昨日の君の話を聞く限り、油断はできない。君を刺した犯人も捕まっていないんだ。けして俺から離れないように」
「はい……!」
私は結局、昨日の馬車の帰り道でマークさんからの話をアンディ様にした。
私の話を疑わずしっかりと聞き、自身の聖騎士団についても調査すると言ってくれた。
私は誠実な彼に応えるように、しっかりと返事をした。
「……やっと目が合ったな」
するとアンディ様は目を細め、私の手を取った。
「あ、あの!?」
思わず目を逸らしてしまう。
「リリー」
アンディ様に取られた手を引き寄せられ、私は彼の膝の上へ座る形になった。
「ア、アンディ様……っ」
降りようとする私をアンディ様はがっちりと掴んで離さない。
「なんでこちらを見ないんだ」
「あ、あのっ……」
色気のある声が耳をくすぐり、何も考えられなくなってしまう。
「昨日、あんなことをしたから嫌われてしまっただろうか?」
「そ、そんなことないです!!」
しゅんとする彼の声に慌てて否定すると、間近で目が合う。
「あ……」
いっぱいいっぱいな私は視線を漂わせた。
顔が熱くなりすぎて、ゆでだこのようかもしれない。
「じゃあ、俺のこと、どう思っているんだ?」
「え――――」
アンディ様は一体、どうしてしまったんだろう。
甘い表情に、声、その発言に許容量を超えた私は瞳を潤ませて彼を見た。
「……リリー、そんな顔、俺意外に見せてはダメだぞ」
「えっ? えっ!?」
アンデイ様は私の肩に頭をぽすんと置いた。
どういうことかわからない私は、ますます挙動不審になる。
「はあ……君を惑わせていい気になってしまったようだ。普段惑わされっぱなしだからな」
「……悪女ということでしょうか?」
アンディ様の大きな溜息に不安になり、つい彼の騎士服をぎゅうと握りしめてしまった。
「ああ。君はとんでもない悪女だ」
そう言われても悲しくなかったのは、アンディ様の表情が何だか嬉しそうだったからだ。
見上げた彼の瞳は、まるで愛しい人を見るような優しさで満ちていた。
「だから俺の目の届く場所にいるように」
そう言うとアンディ様は、私の頬に口付けた。
145
あなたにおすすめの小説
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする
白雨 音
恋愛
公爵令嬢オーロラの罪は、雇われのエバが罰を受ける、
12歳の時からの日常だった。
恨みを持つエバは、オーロラの14歳の誕生日、魔力を使い入れ換わりを果たす。
それ以来、オーロラはエバ、エバはオーロラとして暮らす事に…。
ガッカリな婚約者と思っていたオーロラの婚約者は、《エバ》には何故か優しい。
『自分を許してくれれば、元の姿に戻してくれる』と信じて待つが、
魔法学校に上がっても、入れ換わったままで___
(※転生ものではありません) ※完結しました
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる