聖騎士団長の婚約者様は悪女の私を捕まえたい

海空里和

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21.意図と計画

「団長の婚約者殿は、たびたび私に迫っていました」
「……知っている」

 副団長さんの返答にアンディ様は低い声で言った。

(えっ!? アンディ様は知っていたのですね!?)

 それでも私を庇い、優しく抱きしめてくれている彼に胸がぎゅうとなった。

「リリーが今やろうとしていることには関係ない。それに、今回はお前が無理やり迫ったように見えたが?」

 ギロリと睨んだアンディ様に、副団長さんは大きく息を吐いた。

「はあ、その通りです。では、大聖女に無礼を働いた罪で私は聖騎士団をクビですね」
「なっ――――」
「そんなこと、ダメです!!」

 思わず二人の会話に入ってしまった。
 二人が固い表情でこちらに視線を向けた。
 ためらっている場合ではない。全部、今までのリリーが悪いのだから。

「ふ、副団長様は、アンディ様に、なくてはならないお方!! 魔物討伐もこれから激化するのに、優秀な人材を簡単にクビにするなんてダメです!!」
「リリー……」
「アンディ様、全て私のしてきたことが悪いのです! 私は彼のクビを望みません!! 大聖女がそんなに偉いのなら、副団長様をクビになんてさせません!! ………………させられませんよね?」

 勢いで偉そうなことを言ってしまったので、途中で自信がなくなった。

(副団長さんをクビにできるくらい大聖女が偉いなら、その逆もできますよね?)

 おそるおそるアンディ様を見上げれば、彼がふわりと笑った。

「まったく、君は」

 呆れたように言っているけど、その表情は甘くて、心臓が跳ねてしまう。

「ふっ、はははは! 私の負けです、団長」

 私たちの様子を窺っていた副団長さんが急に笑い出した。
 その顔にさきほどの冷たさはなく、どこかすっきりとしていた。

「……お前、リリーを試しただろう?」

 今度はアンディ様の声と表情が冷たくなり、空気が凍りそうな感覚を覚えた。

「私は最後の砦ですよ、団長。悪女に聖騎士団を乗っ取られでもしたら大変ですから」
「……今のリリーは、そんなこと思いつきもしないだろう」

 あっけらかんと笑う副団長さんに、アンディ様は溜息混じりに返した。

「……そのようですね。リリー様」
「は、はいっ!」

 副団長さんは穏やかな笑みを浮かべると、私に跪き、手を取った。

「大聖女であるあなたに数々のご無礼、申し訳ございませんでした。そして、寛大なお言葉にも感謝いたします」
「こちらこそ、申し訳ございませんでした?」

 状況が理解できず、ぱちくりと私も謝罪を述べた。

「ふ……。本当に別人ですね。実際にお会いすると、それは明らかです」

 私の顔を見た副団長さんは笑いを含んだ声で言った。

「だから、そう言っているだろう」

 怒り気味にアンディ様がそう言うと、私の肩を引き寄せ、副団長さんから引き剥がした。

「……なるほど。団長のさきほどの発言も、本気だと理解しました」
「さきほどの発言??」
「リリー、俺に急ぎの用があったんだろう!? 執務室に行こう!」

 副団長さんの発言に私が首を傾げると、アンディ様にぐりんと反対側を向かされ、そのまま連れて行かれてしまった。

「団長が、独占欲が強いことも意外でした」

 後ろでくすくすと笑っている副団長さんから遠ざかりながら、私は人差し指を頭につけて考えた。

(独占欲? 私を捕まえるのを誰にも譲りたくないってことでしょうか?)

 だから副団長さんから助けてくれたのだろうか。
 そう思うと、胸がちくりとした。
 私も、彼以外に捕まる気はない。だけど、さきほどのアンディ様のぬくもりが甘くて、幸せで。
 私のために走って来てくれた優しい彼に、期待しそうになってしまった。


「リリー、入って」

 ぼんやりしているうちに、彼の執務室に辿り着く。

「あれ? アネッタは?」

 気付けば部屋に二人きりで、私は辺りを見渡した。

「表に控えているそうだ」
「えっ……」

 アネッタは気を利かせてくれたのかもしれないが、急に二人にされては困る。
 困惑する私の視界が急にふわりと宙を舞う。

「アンディ様!?」

 彼に横抱きにされていることに気付き、私は慌てる。

「……ライリーが本当にすまなかった。怖かっただろう」
「いえ。自分がしでかしてきたことへの報いです……。だから大丈夫です」

 アンディ様に下ろしてもらえるよう、腕に手をかけた。
 だけど彼は私を支える腕に力を入れ、唇を耳に近付けた。

「リリー、震えている。俺の前では気丈に振舞わなくていい。君は大聖女の前に、普通の女性なのだから」

 優しくて甘い声に酔いそうになる。
 いまさらながらに、自分の手がまだ震えていることに気付いた。

「君の涙を見るのは二度目だったな」

 私を抱えたままソファーに座り、じっとアンディ様が見つめる。
 私はさきほど彼の胸で泣いてしまったことを思い出し、顔が赤くなった。

「み、見ないでくださ……」

 手で顔を覆おうとして、アンデイ様にその手を取られる。

「アンディ、様?」
「嫌だ」

 アンディ様はそう言うと、私の瞳に唇を落とした。

「!?!?」

 突然の出来事に、まるで爆発したかのように顔が熱い。

「君の涙を見るのは嫌だと思うのと同時に、それが見られるのは俺だけであって欲しいとも思う」

 アンデイ様はそう言うと、何度も私の瞳にキスを降らせた。
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