聖騎士団長の婚約者様は悪女の私を捕まえたい

海空里和

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43.悪女は婚約者に捕まる

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「目が覚めたか?」

 甘い甘いイケメンボイスで目が覚めた。
 見たことのない美しい壁紙の天井、グランジュ家に負けないくらいの質のいいスプリングの感触に戸惑う。

「ここはどこでしょう……?」
「ここは俺の屋敷だ」
「!?」

 ベッドサイドに目をやれば、アンディ様が私の手を握っていた。ずっと握ってくれていたのだろうか。

(そ、それより……)
「どうしてハークロウ様のお屋敷に……?」
「どうして名前で呼ばないんだ」

 びくびくしながら聞いた私に、アンディ様がムッとした。

「あの……身分が違いすぎますので」

 そう答えた私をアンディ様が抱き起した。

「ひゃっ!?」
「君は俺の婚約者なんだから、名前で呼んでいい」
「それは……リリー様の中にいた私であって私では……」

 顔が近くて心臓が煩い。ごまかすように言えば、アンディ様の眉が寄る。

「俺は、君の魂に証を刻んだと言ったはずだ。俺が愛したリリーは君だ」
「あの……でも……」

 もごもごとすれば、アンディ様に手を取られ、甲にキスをされた。

「俺と結婚して欲しい」
「……っ! アンディ様のキス魔!!」
「なっ!? なんだ、それは!? 先ほども言っていたな」

 甘いことばかり言うアンディ様に耐えられなくなってしまった私は思わず叫んでしまった。

「だ、だって、リリー様にいっぱいキス……したじゃないですか!」
「な!? それは君だったからで」
「でも、身体はリリー様のものです!」

 アンディ様に言ったって仕方のないことなのに、止まらない。
 今まで溜まった思いが口からどんどん出てしまう。
 そんな私をアンディ様が抱きしめた。

「すまない……君が辛い思いをしているのはわかっているが、でも、その……嫉妬……だろうか?」

 図星をつかれた私はびくりと肩を揺らした。

「そうか……。君もまだ俺を想ってくれていると自惚れてもいいのか?」

 切ない表情で覗き込むアンディ様に、ずるい! と思う。

「俺はもう、何年も待つ気はないからな?」

 そう言ってアッシュグレーの瞳を細めると、アンディ様は私の唇を塞いだ。

「ふっ……ん」

 もう離さないとばかりに激しく口づけをするアンディ様に、何も考えられなくなる。

「結婚、してくれるな?」
「……もう証を刻んだのに、聞くんですか?」

 唇を離したアンディ様が問う。
 私と結婚しないとアンディ様は死んでしまうのだ。それなのにずるい、という顔をした。

「そうだ。君は俺だけの悪女だからな。二度と逃がす気はない」

 そう言うと、今度は優しく唇をついばんだ。

(アンディ様はこんなに甘い方だったでしょうか!?)

 動悸が激しすぎて、頭が追い付かない。

「やっぱり、爪は短いんだな」

 私の手をもう一度取り、愛おしそうに視線を落とす。

「俺のリリーは君だけだ」

 その表情のまま私を見つめるものだから、嫌でも想われているのだと自覚させられる。
 余裕の表情を見せたアンディ様は怒涛に畳みかける。

「返事は?」
「……はい」
「やっと観念したな」

 押されるように返事をした私をアンディ様が、捕らえたかのように私の手首を掴んだ。
 そして拘束した私にキスをする。
 アンディ様はやっぱりキス魔だ、私はそう思いながらも甘い時間に酔いしれた。


 あの後、何度も私にキスをしたアンディ様は満足したのか、私を笑顔で抱きしめている。
 そんな甘い空気が続く中、私は心配を口にした。

「あの、アンディ様、私のうちは貧乏で……」
「知っている」
「弟妹の学費を稼ぐために聖女をやっておりまして……」
「知っている」

 アンディ様は私のことをどうやら調べさせていたようで。私はますます不安になった。

「リリー様は侯爵令嬢で大聖女でした。そんな方が前婚約者では、私なんか侯爵家が認めないのではないでしょうか」
「それについては手を打ってある」
「え……」

 アンディ様はにやりと笑うと、私の頬にキスをした。

「もう逃がさないと言っただろう?」
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