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42.本物の婚約者(アンディ視点)
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「リリー!」
目の前で彼女が崩れ落ちるのを俺は何度見ればいいのだろうか。
守りたくてあえて彼女と関わらないようにしていたというのに。
(もう二度と失ってたまるか!)
「見せてください、ハークロウ団長」
リリアンを強く抱きしめれば、副神官長が駆け寄って来た。
「……血を流しすぎて貧血を起こしたのでしょう。聖女を呼んできてください」
副神官長はその場にいた神官に指示をすると、彼は急いで飛んで行った。
リリアンの顔は青白く、身体も冷たい。
彼女が副神官長を元に戻すために飛び込んだときは、本当に焦った。
「あの、ハークロウ様……リリー様のこと、気付いていらしたんですよね?」
アネッタがおずおずと聞く。
「ああ……」
神官長の屋敷に踏み入ったとき、すぐに違和感を覚えた。
これは誰だ、俺のリリーではないと。
すぐ側にいたリリアンの俺を見つめる瞳、微かに感じる証の聖魔力、それらで俺はすぐに仮説を立てた。この二人は入れ替わっていたのではないかと。だが、確証もない上に、もし本当にそうなら、俺のリリーに危険が及ぶのを避けたい。
俺はリリーに今までと変わらず接することにした。目の前に本当に惚れた女性がいるのに最低だと思う。
案の定、安っぽい演技をするリリーのことはすぐにわかった。悲しいことに、付き合いだけは長い。
俺が惚れたリリーのことは、過ごした時間は短いが、彼女以上にすぐにわかった。
その眼差し、挙動、全てが愛おしい。俺に真実を伝えようと癖の仕草を一生懸命にする様は、可愛くてどうにかなりそうだった。俺はあのとき抱きしめたい衝動をこらえて、必死に顔を背けたのだ。
彼女の安全のため、リリーを確実に捕らえるため、計画を台無しにするわけにはいかなかった。
「リリアン様!」
一人でいいはずなのに、心配した元準聖女たちが大勢聖堂に駆けつけた。
彼女の人となりが垣間見られて、俺は思わず口元が緩んだ。
「あーあー、てか、あんな大勢の前でキスするかね? 普通?」
後始末をしていたライリーと話し終え、グレイブ商会長が合流する。
「……仕方ないだろう。証を完全にリリアンに移行させるにはあれしか方法はなかった」
誓いの証は魂に刻まれるが、リリアンの魂がリリーと入れ替わっていた影響で、悪女の方に形だけ残ってしまっていた。
「団長は単にリリアン嬢を自分のものだと誇示したかっただけでしょう。独占欲が強いですからね」
「あの子もこれから大変だなあ。俺の孫の嫁に来たほうがいいんじゃないか?」
からかうライリーとグレイブ商会長を睨みつける。
「リリーは俺の婚約者だ」
「わーってるって! だから、真面目に取るな!」
「あのー……皆さま、リリー様のこと気付いていらしたんですか?」
アネッタがぽかんとして会話に入って来た。
「ああ。アネッタ、君には辛い思いをさせてすまない。リリーが君に張り付いていたから手出しできなかった」
「そんな……! リリー様を助けてくださってありがとうございます!」
頭を下げる俺にアネッタは慌てて言った。
「でも皆様、どうやって連携を……?」
アネッタが首を傾げる。
「グレイブ商会長には感謝しかないな」
「本当だよ。こき使いやがって」
リリーのことを怪しんでいた俺の元に特殊な魔道具を通じて手紙が届いた。
それはシスターからのもので、神官長とリリーが禁術にまで手を出していることが書かれていた。下手に動くと入れ替わりの相手――リリアンの命が危ないことも書かれてあった。
秘密裏に動けるグレイブ商会長が、魔力を封じる魔道具の入手や、リリーの証拠集めをしてくれた。
魔道具を通じてライリー、副神官長とも密に連携を取り、リリーとの結婚式の準備を進め、油断させたところで片を付けるはずだった。
(けっきょくはリリーに無茶をさせてしまったな)
彼女が他人のためにじっとしていられないのはわかっていたはずなのに。
「マーク、ライナは?」
リリーを聖女に任せた副神官長が心配そうにやって来た。
「安心しろ。聖女がしっかり癒してくれて、今は治療院で保護されている」
「そうですか。マークには孤児院の面倒も見てもらって、世話をかけましたね」
「お前は囮っていう危険な役目を買って出ただろうが。ったく、若くないのに無茶しやがって」
「辛辣ですねえ」
禁術の使用は大罪だ。その証拠を得るため、副神官長はあえて無防備に過ごした。自分が絶対に狙われるだろうと。
そして、副神官長を襲って来た犯人は聖騎士団の団員だった。俺たちは気付かないふりをして、今日まで泳がせてきたのだ。
「神官長と元大聖女はどうなる?」
「……呪具の一つは壊れました。もう一つも破壊しますので、命までは取られないでしょう。ただ、術者の代償は大きいと聞きます。魔力が枯渇するのではないでしょうか」
「ふん、自業自得だな」
難しい顔の副神官長に商会長が一蹴した。
二人の身柄は聖騎士団で拘束しているが、魔力が枯渇するということは、まともな状態ではいられないだろう。取り調べも難しく、このままどこかに幽閉になるだろう。
「じゃあ、これでようやく本物のリリー様とハークロウ様がご結婚されるのですよね?」
アネッタが願うように身体の前で手を組んで言った。
「……その前に副神官長」
俺の婚約者はリリアン以外考えられない。ただ、誰にも邪魔されないよう手を打つ必要があった。
俺の意図を汲んだ副神官長が目を閉じて笑みを浮かべた。
「ええ。元々、私はあの子が相応しいと思っていましたから」
「俺も大賛成だぜ。みんながあの聖女さんを望んでるんだ」
「あの子の魂はどこにあろうと、どんな人でも救おうとしていたのですね」
副神官長は入れ替わりに気付いてやれなかったことを申し訳なさそうにしていた。
「だからどんな姿だろうと人を惹きつけるんだろうさ。なあ、団長さん?」
グレイブ商会長がにやりとこちらに顔を向けた。
そうだ。俺はあの心に惹かれたのだ。
目の前で彼女が崩れ落ちるのを俺は何度見ればいいのだろうか。
守りたくてあえて彼女と関わらないようにしていたというのに。
(もう二度と失ってたまるか!)
「見せてください、ハークロウ団長」
リリアンを強く抱きしめれば、副神官長が駆け寄って来た。
「……血を流しすぎて貧血を起こしたのでしょう。聖女を呼んできてください」
副神官長はその場にいた神官に指示をすると、彼は急いで飛んで行った。
リリアンの顔は青白く、身体も冷たい。
彼女が副神官長を元に戻すために飛び込んだときは、本当に焦った。
「あの、ハークロウ様……リリー様のこと、気付いていらしたんですよね?」
アネッタがおずおずと聞く。
「ああ……」
神官長の屋敷に踏み入ったとき、すぐに違和感を覚えた。
これは誰だ、俺のリリーではないと。
すぐ側にいたリリアンの俺を見つめる瞳、微かに感じる証の聖魔力、それらで俺はすぐに仮説を立てた。この二人は入れ替わっていたのではないかと。だが、確証もない上に、もし本当にそうなら、俺のリリーに危険が及ぶのを避けたい。
俺はリリーに今までと変わらず接することにした。目の前に本当に惚れた女性がいるのに最低だと思う。
案の定、安っぽい演技をするリリーのことはすぐにわかった。悲しいことに、付き合いだけは長い。
俺が惚れたリリーのことは、過ごした時間は短いが、彼女以上にすぐにわかった。
その眼差し、挙動、全てが愛おしい。俺に真実を伝えようと癖の仕草を一生懸命にする様は、可愛くてどうにかなりそうだった。俺はあのとき抱きしめたい衝動をこらえて、必死に顔を背けたのだ。
彼女の安全のため、リリーを確実に捕らえるため、計画を台無しにするわけにはいかなかった。
「リリアン様!」
一人でいいはずなのに、心配した元準聖女たちが大勢聖堂に駆けつけた。
彼女の人となりが垣間見られて、俺は思わず口元が緩んだ。
「あーあー、てか、あんな大勢の前でキスするかね? 普通?」
後始末をしていたライリーと話し終え、グレイブ商会長が合流する。
「……仕方ないだろう。証を完全にリリアンに移行させるにはあれしか方法はなかった」
誓いの証は魂に刻まれるが、リリアンの魂がリリーと入れ替わっていた影響で、悪女の方に形だけ残ってしまっていた。
「団長は単にリリアン嬢を自分のものだと誇示したかっただけでしょう。独占欲が強いですからね」
「あの子もこれから大変だなあ。俺の孫の嫁に来たほうがいいんじゃないか?」
からかうライリーとグレイブ商会長を睨みつける。
「リリーは俺の婚約者だ」
「わーってるって! だから、真面目に取るな!」
「あのー……皆さま、リリー様のこと気付いていらしたんですか?」
アネッタがぽかんとして会話に入って来た。
「ああ。アネッタ、君には辛い思いをさせてすまない。リリーが君に張り付いていたから手出しできなかった」
「そんな……! リリー様を助けてくださってありがとうございます!」
頭を下げる俺にアネッタは慌てて言った。
「でも皆様、どうやって連携を……?」
アネッタが首を傾げる。
「グレイブ商会長には感謝しかないな」
「本当だよ。こき使いやがって」
リリーのことを怪しんでいた俺の元に特殊な魔道具を通じて手紙が届いた。
それはシスターからのもので、神官長とリリーが禁術にまで手を出していることが書かれていた。下手に動くと入れ替わりの相手――リリアンの命が危ないことも書かれてあった。
秘密裏に動けるグレイブ商会長が、魔力を封じる魔道具の入手や、リリーの証拠集めをしてくれた。
魔道具を通じてライリー、副神官長とも密に連携を取り、リリーとの結婚式の準備を進め、油断させたところで片を付けるはずだった。
(けっきょくはリリーに無茶をさせてしまったな)
彼女が他人のためにじっとしていられないのはわかっていたはずなのに。
「マーク、ライナは?」
リリーを聖女に任せた副神官長が心配そうにやって来た。
「安心しろ。聖女がしっかり癒してくれて、今は治療院で保護されている」
「そうですか。マークには孤児院の面倒も見てもらって、世話をかけましたね」
「お前は囮っていう危険な役目を買って出ただろうが。ったく、若くないのに無茶しやがって」
「辛辣ですねえ」
禁術の使用は大罪だ。その証拠を得るため、副神官長はあえて無防備に過ごした。自分が絶対に狙われるだろうと。
そして、副神官長を襲って来た犯人は聖騎士団の団員だった。俺たちは気付かないふりをして、今日まで泳がせてきたのだ。
「神官長と元大聖女はどうなる?」
「……呪具の一つは壊れました。もう一つも破壊しますので、命までは取られないでしょう。ただ、術者の代償は大きいと聞きます。魔力が枯渇するのではないでしょうか」
「ふん、自業自得だな」
難しい顔の副神官長に商会長が一蹴した。
二人の身柄は聖騎士団で拘束しているが、魔力が枯渇するということは、まともな状態ではいられないだろう。取り調べも難しく、このままどこかに幽閉になるだろう。
「じゃあ、これでようやく本物のリリー様とハークロウ様がご結婚されるのですよね?」
アネッタが願うように身体の前で手を組んで言った。
「……その前に副神官長」
俺の婚約者はリリアン以外考えられない。ただ、誰にも邪魔されないよう手を打つ必要があった。
俺の意図を汲んだ副神官長が目を閉じて笑みを浮かべた。
「ええ。元々、私はあの子が相応しいと思っていましたから」
「俺も大賛成だぜ。みんながあの聖女さんを望んでるんだ」
「あの子の魂はどこにあろうと、どんな人でも救おうとしていたのですね」
副神官長は入れ替わりに気付いてやれなかったことを申し訳なさそうにしていた。
「だからどんな姿だろうと人を惹きつけるんだろうさ。なあ、団長さん?」
グレイブ商会長がにやりとこちらに顔を向けた。
そうだ。俺はあの心に惹かれたのだ。
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