悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ

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カーティア、夜道を歩く。

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夜の森の中をカーティアは一人歩いていた。
翌朝には学外訓練は終了し学生たちは学園に戻ることになる。疲れ切って熟睡している学生たちを起こさないようにカーティアはこっそりとテントを抜け出しあてもなく歩いていた。
三日間の訓練で心身ともに疲れている。それでもカーティアは眠れなかった。考えることが多すぎて。

「・・・眠れないのか」
ぼんやりと考え事をしていたカーティアは突然目の前に現れたアルドを一瞬幻覚かと思った。返事をしないカーティアにアルドは不審そうな顔になる。
「どうした。何かあったのか」
「・・・いいえ、大丈夫。眠れなかっただけ。もう少ししたら戻るわ」
少し遅れて返事をしたカーティアにアルドはもの言いたげにしたがそれ以上何も言わなかった。
「・・・テントまで送ろう」
「えぇ。ありがとう」
肩を並べて歩く。無言がなんとなく気まずくてカーティアは話題を探す。
「・・・あ」
隣を歩くアルドの顔を見上げる。頬の傷には真新しい包帯が当てられていて、傷がどうなっているのかはわからなかった。アルドが傷がある方と逆の自分の頬に触れる。
「問題ない。数日もすれば治る。傷も残らないはずだ」
傷を見つめた後俯いたカーティアを慰めるようにアルドは優しい声を出した。初めて聞くような声だった。
カーティアはその場に立ち止まった。俯いたまま顔は上げられない。
「・・・アルドは」
「なんだ」
「アルドは私のことをどう思っているの」
質問を間違えたような、一番聞きたかったことを聞けたような。どちらともつかずにカーティアは唇を噛んだ。
アルドの沈黙が怖い。
「・・・前を見てくれ」
アルドの声にカーティアはゆっくりと顔をあげた。そして目を見開く。
カーティアの目の前には一角獣が立っていた。正確に言えば水で出来た一角獣が。優美な姿で立つ一角獣はその場でくるりと一回りするとカーティアの足元に膝を折る。まるでカーティアがその背に乗るための準備をするように。
「・・・乗っていいの?」
「大丈夫」
アルドの手を借りて恐る恐るカーティアは一角獣の背に座る。ご丁寧に鞍まで形成された水の一角獣はカーティアを乗せたままで歩き出した。
「・・・まるで『青の森に帰るとき』の場面みたいね。最近出たばかりの本なのにアルドももう読んでいたの?」
はしゃいだ声をあげたカーティアにアルドはわずかにほほ笑んだ。『青の森に帰るとき』は恋物語だ。真面目な青年と浮世離れした少女が出会い様々な苦難を乗り越え結ばれる物語。一角獣が出てくるのは主人公である青年がヒロインである少女に愛の言葉を告げるときだ。一角獣に乗った少女に向けて朴訥な主人公が一生懸命に紡ぐ愛の言葉が本当に素晴らしくてカーティアはほぅっと息を吐いたものだった。そして今、カーティアは気づいた。アルドがその場面を再現していることに。
「・・・物語のように、とは、言えないが。・・・俺は、君がどう思っていようと、君のことが好きだよ」
まっすぐに見つめるアルドの視線にカーティアの顔は知らず知らずのうちに真っ赤に染まっていた。
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