この野菜は悪役令嬢がつくりました！

第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事

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「国王陛下に、お目通りを願いたいのです」
「どうして、かな？」

　セルジュは静かに先を促した。まるでレティシアの言いたいことが、すべて分かっているようだった。

「この度、議会からバルニエ領に通達がありました。ご存じですよね？」
「……ああ、もちろん。追加徴税の指令だね」
「あれは、不当です」

　はっきりと、そう告げたレティシアを、セルジュは苦い笑いを浮かべて見つめていた。

「私が、学院在籍中に王国の史書をすべて読んだことはご存じですね？　その中のどこにも、今回のような事例は見当たりませんでした。王国内で疫病が蔓延した際も、飢饉が起こった際も、大規模な反乱が起こった際も、畑が実らず民が危機に陥った際は、必ず王家が国庫を開いて施していました。
だけど今回はどうです。国庫を開くことも税を減らすこともせず、民を困窮させるばかり。畑を投げ出してしまう者がいても何も対処しないだなんて前代未聞です。
その上、聖女の生誕を祝うためとはいえ、民の暮らしも考えずに祭りを大々的に開くなど……為政者のとるべき行いではありません。それも、必要なものをただ偶然豊作だった領地に補填させようだなんて……」
「……ああ、そうだね」
「だからアベル様に国王陛下との交渉の余地をお与え下さい」
「……交渉？」
「この度の徴税がいかに不当か訴え、税としてではなく祭りの開催の助力として改めてご依頼を頂くこと、そしてその見返りについて、直接陛下と交渉する機会を頂きたいのです。そのためにはまず、権威ある方に仲立ちをして頂かないと」
「……なるほど、父上だね」
「はい」

　セルジュの笑みを見て、レティシアは手応えを感じた。咎められる危機は、去ったかもしれない。

　だがそんな予想に反して、セルジュの面持ちは再び渋いものに変わった。

「父上か……どうだろう？」
「む、難しいでしょうか？」
「仲立ちのお役目そのものはこれ以上無い適任だと思うのだけど、ね……まずランドロー伯爵とシアとの関係を納得させねばならないし、それに交渉が成ったとしても父上のお立場からすれば陛下が否と言えば逆らえない。交渉の前の問題が山積みだ」
「やっぱり、そうなのよね……」

　一応、ジャンに言われたとおり、アベルに教えを請うていた手紙は作ってある。だがこう言われてしまうと、それも通用するのかどうか、自信がもてない。

「やはり、別の方にお願いした方がいいのかしら……」
「そう……だな。話を聞く限り、陛下との間を取り持てるお方ならば、いいのだろう？」
「はい」
「その上で、出来るだけこちらの事情に首を突っ込まずにいてくれる……シア、重臣のどなたかにお願いするつもりかい？」
「いえ、それならば父以外にはいないでしょう」
「では、貴族ではない、権威がおありで、なおかつシアに好意的なお方……」

　そこまで呟くと、レティシアは顔を上げた。同じく顔を上げたセルジュと、ぱっちりと目が合った。

　やはり、同じ人物を思い描いたようだ。

「あの方……でしょうか」
「あの方……しかおられまい」
　
　静かに頷き合うと、同時に、その名を口にした。

「大司教……グレゴワール三世猊下」