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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事
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「まぁいい。どこも不調はないんだな?」
「もちろんですとも。毎日お家で過ごしているというのに、何かあるはずがないじゃないですか」
「…………『毎日お家で』ね。それが本当なら、安心して今すぐ立ち去るところなのだが」
ギクリと、レティシアの胸に太い楔が刺さった。この兄にはバレているのだ。昼間、こっそり『お出かけ』していることが。
だがどこに行っているのか、どれくらいの頻度で行っているのかなどは知られていないはずだ。退屈し始めたらちょっとお散歩に出ている程度にしか思われていないはずだ。
「まさか、『散歩に行っている程度』とごまかせているとでも?」
「な、何のことでしょう? やっぱりたまには外を出歩かないと、健康に悪いんですもの」
「……そろそろ、話してくれないか」
兄の視線はあくまで穏やかで優しかった。その優しさが、詰問されているようでもあった。じりじりと壁際に追い詰められているような感覚に、何故か陥るのだ。
以前、セルジュの「出かけた先を教えろ」という要求も、「教会に行こう」という提案も、一方的にはね除けてしまった。そのせいで強く言いづらいということも理由の一つではある。
「頼むよ、シア。今日のように夕食をすっぽかすようなことがあればネリーが困るんだよ。何も知らなければ庇いようもないじゃないか」
それは、今日とてつもなく迷惑をかけてしまったレティシアにとっては胸に突き刺さる言葉だった。
それに今後、セルジュに協力を仰げればこれ以上頼もしいことはない。いっそ、話してしまおうか……そう、考えた。
「わかったわ、お兄様。お話しします」
「……ありがとう」
「その上で、お兄様に相談があるのだけど……いいでしょうか?」
「もちろんだとも」
兄の頼もしい頷きを見て、レティシアは腹を括った。セルジュにソファを進め、自分もその向かいに座り、すぅっと息を吸い込み、はき出す。
アベル達に素性を告白した時以来の緊張だった。
「お兄様、実は……」
「うん」
一つ一つ、レティシアは語り始めた。
バルニエ領に行くことになったいきさつ、そこで出会った人、畑を戻したこと、そして今畑を広げていこうと皆が一丸となって尽力していること。
言葉が、これほど重いものだとは思っていなかった。いつ兄がレティシアを咎めるか、気が気じゃなかった。
だがセルジュは、一言一言、静かに頷いて聞いていた。一言も口を挟まず、レティシアの言葉を、水が染み入るように受け止めていた。
そして、しばし瞑目して、口を開いた。
「なるほど、君はずっと、我々には想像も及ばない大仕事を成していたんだね」
「大仕事……?」
「バルニエ領は不毛の地と聞く。収穫量も毎年よそと比べて格段に少なくて、領主の手腕のおかげで冬を越せていると言っていい。そんな土地が、例年の数倍の収穫量を報告してきたのだから、何かあると思うのは当然だろう。それが君の力だとは、さすがに驚いたが」
「そ、そんなことは……すべてアベル様や領民の皆さんの努力があればこそです」
「うん、そうだね。だが彼らの長年の努力を実らせた最後の一手が、君の力だったんだよ。私は、それを誇りに思う」
セルジュの温かな掌が、ふわりと降ってきた。
ぐっと握りしめていた拳から、すぅっと力が抜けていく。
「それで?」
「え?」
「相談したいこととは、何だい?」
レティシアは、安堵したその一瞬の後に再び全身に力を込めた。
だけど今度は、先ほどよりもずっと前向きで挑戦的な気持ちでいた。
「もちろんですとも。毎日お家で過ごしているというのに、何かあるはずがないじゃないですか」
「…………『毎日お家で』ね。それが本当なら、安心して今すぐ立ち去るところなのだが」
ギクリと、レティシアの胸に太い楔が刺さった。この兄にはバレているのだ。昼間、こっそり『お出かけ』していることが。
だがどこに行っているのか、どれくらいの頻度で行っているのかなどは知られていないはずだ。退屈し始めたらちょっとお散歩に出ている程度にしか思われていないはずだ。
「まさか、『散歩に行っている程度』とごまかせているとでも?」
「な、何のことでしょう? やっぱりたまには外を出歩かないと、健康に悪いんですもの」
「……そろそろ、話してくれないか」
兄の視線はあくまで穏やかで優しかった。その優しさが、詰問されているようでもあった。じりじりと壁際に追い詰められているような感覚に、何故か陥るのだ。
以前、セルジュの「出かけた先を教えろ」という要求も、「教会に行こう」という提案も、一方的にはね除けてしまった。そのせいで強く言いづらいということも理由の一つではある。
「頼むよ、シア。今日のように夕食をすっぽかすようなことがあればネリーが困るんだよ。何も知らなければ庇いようもないじゃないか」
それは、今日とてつもなく迷惑をかけてしまったレティシアにとっては胸に突き刺さる言葉だった。
それに今後、セルジュに協力を仰げればこれ以上頼もしいことはない。いっそ、話してしまおうか……そう、考えた。
「わかったわ、お兄様。お話しします」
「……ありがとう」
「その上で、お兄様に相談があるのだけど……いいでしょうか?」
「もちろんだとも」
兄の頼もしい頷きを見て、レティシアは腹を括った。セルジュにソファを進め、自分もその向かいに座り、すぅっと息を吸い込み、はき出す。
アベル達に素性を告白した時以来の緊張だった。
「お兄様、実は……」
「うん」
一つ一つ、レティシアは語り始めた。
バルニエ領に行くことになったいきさつ、そこで出会った人、畑を戻したこと、そして今畑を広げていこうと皆が一丸となって尽力していること。
言葉が、これほど重いものだとは思っていなかった。いつ兄がレティシアを咎めるか、気が気じゃなかった。
だがセルジュは、一言一言、静かに頷いて聞いていた。一言も口を挟まず、レティシアの言葉を、水が染み入るように受け止めていた。
そして、しばし瞑目して、口を開いた。
「なるほど、君はずっと、我々には想像も及ばない大仕事を成していたんだね」
「大仕事……?」
「バルニエ領は不毛の地と聞く。収穫量も毎年よそと比べて格段に少なくて、領主の手腕のおかげで冬を越せていると言っていい。そんな土地が、例年の数倍の収穫量を報告してきたのだから、何かあると思うのは当然だろう。それが君の力だとは、さすがに驚いたが」
「そ、そんなことは……すべてアベル様や領民の皆さんの努力があればこそです」
「うん、そうだね。だが彼らの長年の努力を実らせた最後の一手が、君の力だったんだよ。私は、それを誇りに思う」
セルジュの温かな掌が、ふわりと降ってきた。
ぐっと握りしめていた拳から、すぅっと力が抜けていく。
「それで?」
「え?」
「相談したいこととは、何だい?」
レティシアは、安堵したその一瞬の後に再び全身に力を込めた。
だけど今度は、先ほどよりもずっと前向きで挑戦的な気持ちでいた。
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