この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ

文字の大きさ
155 / 170
第6章 聖大樹の下で

17

しおりを挟む
 議会場は騒然とするどころか、かえって静まりかえっていた。

 まさか、国王がリュシアンに手を上げることがあるとは。これまで口では厳しく言いつつ、跡継ぎとして、なによりも唯一残った息子として目を掛けていたことはこの場にいる者なら誰でもうかがい知るところだった。

 確かに、リュシアンが駄々をこねていたようにしか見えなかった。そのせいで時間を浪費したことも確かだ。
 
 だが周囲の目がある中で、あれほど激しく叱りつけたことは、初めてだ。

 「失礼いたしました」と言って、リュシアンの側近であるセルジュが入室したのを見ると、国王は息をついていた。 

「皆の者、見苦しいものを見せてしまった。許せよ」

 席についた国王は、冷静にそう告げた。リュシアンの話しは終わり、そう告げているようだった。

 国王の声が、議会の再開を示す。

「それでは一同、話を戻そうか。ランドロー伯爵の言う、大司教様の八年前の疑惑について……だったかな。先ほども言った通り、八年も前のすでに決した疑惑を覆すほどのものを出さねば、お前の言い分を聞くわけにはいかぬな」
「……はい」
「だから、尋ねていたな。何故、今、あの方の罪を暴こうとする? あの件とお前の領地が何か関係しているか? 表向きは何も関わりないように見えるが?」
「それは……」

 国王の視線が、アベルの横に控えているリール公爵に向いた。

「宰相、どうだ?」

 リール公爵が、ちらりとアベルを窺い見る。

「宰相、そなたが死んだ・・・はずのエルネストの側に控えていることと何か関係しているのか?」

 アベルとリール公爵が小さく頷きを交わすと、リール公爵は一歩歩み出た。

「ランドロー伯爵には我が娘の教師役をお引き受け頂いておりました」
「……ランドロー伯が、レティシアの?」
「はい。恐れながら、陛下もご存じの通り、処刑前日にエルネスト殿下をバルニエ領に送るよう手配したのは私めでございます。それ以降、密かに交流を続けておりました」

 議場は、またもざわついた。エルネスト王子が生きていることすら知らなかった者も、いたからだ。

「その才知は八年経った今もご健在であられた。ゆえに、私は娘の教育をお願いしていたのです。この通り、娘はさる事情でここ数ヶ月謹慎しておりました。その間、新たな見識を身につけさせようと、辺境伯となられたエルネスト王子……ランドロー伯爵に教育係を要請した次第です」

 国王だけでなく重臣達全員に示すように、リール公爵は何通もの手紙の束を卓に出して広げた。

 レティシアが一人で何枚も書き連ねた手紙の束だ。

「ほぅ」

 国王が、手紙の内容とアベルを見比べている。

「確かに、熱心に教えを請うているようだな……もしや最近のバルニエ領の豊作も、このことと関係しているのか?」

 リール公爵は、頷いた。そして続くように、アベルが立ち上がり答えた。

「彼女は聖女候補として申し分ない力の持ち主ですが、その力を持て余し気味でした。学院在籍前には同じく魔力を持て余していた私が相談に応じておりました。その経緯で、我が領に彼女による『恵み』がもたらされたのです」
「左様です。そのため、今回の追加徴税の命が下った際も、私以上に娘のレティシアが熱心に対策を練ろうとしておりました」
「……やはり、最近の奇妙な状況はレティシア嬢が絡んでいたか」

 国王の発した言葉は、重臣達も同意しているようだ。皆、うすうす考えていたことのようだ。

「確かに我が領の近年まれに見る豊作は彼女のおかげです。ですが他の領地が不作に陥っていることとは無関係です」
「どうしてそう言える?」
「我々以外に、この状況を理解している人物が、語ってくれています」

 そう言うと、アベルは懐からペンダントを取り出した。澄んだ真っ青な石に細工が施されている美しいペンダント……アベルが以前、レティシアに贈ったものの片割れだ。

 レティシアは侍女のネリーに渡したのだが、ネリーに譲って貰ったのだ。

「これは私が作った魔石。魔力を込めて色々なことができる。誰かの声を送ったり、それを記憶したり……学院在籍中に、そこにいるセルジュと共に作ったおもちゃのようなものですが」

 セルジュは答えず、アベルから視線を逸らせていた。

 そんな様子に、アベルはずっと気付いてはいたが、触れずにいた。そして今も、触れないまま続けた。

 皆に見えるように、掌に載せた魔石にそっと魔力を注いだ。すると、ぼんやりと声が聞こえてきた。その場の誰のものでもない声が。

『私を、あなた方の手元に置くために、あんなことを?』
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

処理中です...