この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ

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第6章 聖大樹の下で

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「これは……!」

 その『声』の応酬を聞いた者は皆驚きを隠せないでいた。

 これまで行ってきたこと、これからやろうとしていること、そして今、レティシアの身柄を捕らえているということまですべて、大司教が自らの口で語っていた。
 
 レティシアが何度も『大司教様』と呼んでいることも、否定しなかった。それもまた、この声の信憑性を高めた。

「猊下がそのようなことを……!」
「これは明確な王位簒奪ですぞ」
「いや、しかしご自身が王位に就こうというのではない」
「同じだろう。影から国政を意のままに操ろうとしているのだ」

 重臣達が口々に考えをぶつけ合う。

 アベルはその光景を、どこか冷めた思いで見ていた。八年前のエルネスト王子の処分について議論していた時と、何も変わってないと、思っていた。

 そして、それら全てを聞きながら、国王も視線を彷徨わせていた。思考を整理することで、精一杯のようだった。

「……セルジュ」
「は」

 唐突に、国王はセルジュの名を呼んだ。セルジュはリュシアンの側近であり、国王自身が名を呼ぶことはそう多くない。

 だがセルジュは驚くことなく、静かに国王の側へと歩み寄った。

「お呼びでしょうか」
「……先ほどの『声』の中には、お前の声も混ざっていたな」

『お兄様……お兄様も、この企てに……?』
『……ああ』

 そんな声も、確かに聞こえた。

 セルジュは淡々と頷き、その場にいる者たちを見回していた。

「知られてしまったなら、致し方ありませんね」
「認めるのか。お前も、この企てに加担していると」
「もちろん。すべて、加担しておりますとも。アネット嬢をそれとなく殿下と出会わせることも、その後密かに大司教様にお会いする機会を設けることも、我が妹との婚約を破談に運ぶことも、妹が『魔女』だという噂を広めたことも、そして今……妹を大司教様の元に置くためのはかりごともすべて……私以外に、出来る者はいないでしょう」
「セルジュ……!」

 蕩々と語り出したセルジュを、誰よりも苦々しい面持ちで見つめているのは、父であるリール公爵だった。

「お前は何という事を……自分が何をしたか、わかっているのか……!」
「ええわかっております。自分がやろうとしていること、大司教様がおやりになろうとしていること、すべて……あなたよりも、はるかに深く理解していますよ、お父様」
「では、俺のことは?」

 アベルの声に、セルジュは冷たい笑みを浮かべたまま振り返った。ようやく、アベルと視線を合わせた。

 そこに浮かんでいたのは、自虐とも自暴自棄ともとれる、かつての友とは全く違う暗い感情だった。

「お前が、料理人にレシピの変更を命じたんだろう」
「……その通りです、エルネスト殿下」
「王妃殿下や、リュシアンの更に毒を盛ったのも?」
「私ではありませんが……指示は私のものです」
「その後、私と料理人が処刑されることになると、わかっていたんだな?」
「当然でしょう。私だけは、すべてを大司教様から聞いていたのですから」

 アベルは、そんな言葉を受けても、何も言わなかった。ただ静かに首を横に振って、そして静かに一歩退いた。

 聞き出すべき話が出尽くしたとみた国王は、アベルの名を呼んだ。

「お前達の目的は、レティシア嬢だったのだな。大司教が手元に置くために、教会に軟禁され、よりにもよってお前達の安全を交換条件に、逃げ出すこともままならないと……」
「……はい」
「わかった。だが、それを知ったとて、どうしようもないぞ」
「そんな……!」

 アベルが、大きな足音を立てて卓の反対側に座る国王の元に詰め寄った。誰も、止める間などなかった。

「何故ですか! ここまで明確に国政を乗っ取ろうとしているのに。そのために、あろうことか宰相のご令嬢を軟禁しているのですよ。いかに大司教の地位にある方といえど、許される無礼ではない!」
「そう、許されざる非礼だ。だが、どうやってそれを突きつける? 相手は、教会なのだぞ」
「そ、それは……!」
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