この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ

文字の大きさ
157 / 170
第6章 聖大樹の下で

19

しおりを挟む
「教会は絶対不可侵。例え重臣達であろうと、国王であろうと、教会の行うことに口出しも手出しも出来ない。それが、この国が開かれた当初からの決まりだ」

 国王はそう、苦い表情で告げた。

「そんなことを言っている場合では……! ここまでご自身で言っているのですよ」
「お前よりもあの方のことはわかっているつもりだ。国政乗っ取りだと詰め寄っても、若き国王を助ける所存だと言うに違いない」
「レティシアのことは!?」
「『魔女』の噂が出回っている危険な身の上ゆえに保護した……そう言われるだろうな。そして、我々はそれを飲み込まねばならないのだ」
「馬鹿な……」

 アベルが拳を卓に叩きつける。皆がビクッと身を震わせても、アベルはその憤りを引っ込めるつもりはなかった。

「ここでお前が怒ったところでどうにもならん。何か、ないのか? 国政への関与ではなく、教会の威信に関わるような何かが……!」

 国王自身が、信じられないほど不穏な言葉を口にしたが、咎め立てする者はいなかった。代わりに、期待の目をアベルに向けている。

 調子の良いものだと思いながらも、アベル自身も頭を捻っている。何か、ないのかと。

 誰も声を発しなくなったその時、バタン、と荒々しく扉が開いた。見ると、衛兵が引き留めるのを振り払いながら、アネットが駆け込んできていた。

「アネット嬢、どうした?」

 国王の問いに答えず、アネットは重臣達を睨み据えて叫ぶ。

「どうして誰も助けないんですか!」
「……何のことかな」
「レティシア様です! 危ないってもうわかっているんでしょう? 誰のせいかもわかっているんでしょう? それなのにどうして、何もしようとしないんですか!」

 何を意味しているのか、誰もが皆わかっていた。だからこそ、何も答えられなかった。

 聖女とはいえ平民出身のアネットに無礼だと言う者すら、いなかった。
 それまで追求されていたにも拘わらず、セルジュが、宥めるようにアネットに近寄った。

「アネット嬢、話を聞いていたのでしょう。ならば、迂闊に動けない理由もおわかりのはずですが」
「そんなの、人の命に比べたら何だって言うんですか! 口先であれこれ言って負かしても、大切な人が一人死んでしまえば何にもならないでしょう!」
「困った人だ……」
「それはあなたです、セルジュ様! 危険なのはレティシア様なんですよ! あなたの妹なんですよ! どうしてそんな暢気にしていられるの! 私よりも、ずっと妹として可愛がってきた人なのにどうして……!」
「待て。今の言葉は、どういう意味だ?」

 国王の鋭い声が飛んだ。アネットは、余計なことを口にしたと気付いたようだが、もう遅かった。

 四方から、追求の視線が飛んでくる。

 どう答えたら良いのか、アネットが戸惑っていると、別の声が聞こえた。

『だが、私にとってはアネットの方がふさわしいのだよ。聖女としての、神聖術以外の条件がすべて揃っているのは、あの子の方だ』

 また、聞こえた。この場にいる誰のものでもない、大司教の声だ。

「アネット嬢、もしや……リュシアン殿下から何か受け取りましたか?」
「は、はい。これを……」

 アネットが、胸元から小さな石を取り出した。魔力を帯びているのか、ほんのり光っている。

 声は、その石から聞こえていた。

『……そうですね。レティシアは、聖女としても役目はこなすでしょうが、あなたの望む傀儡にはなり得ないでしょう』

 次に聞こえたのは、セルジュの声だ。皆から視線を向けられ、セルジュは苦笑いを浮かべた。

「お察しの通り、これもまた、あの方がお話しされていたことです。先ほどのものと同様、これはエルネスト王子が作られた魔石であり、私がもつこの魔石とだけ、声を送り合うことが出来るのです。まだ試作段であったため、声が届くのが一両日もかかったりと問題が多いですが」 

 アネットの横で、セルジュが胸元から魔石を取り出してひらひらと見せていた。二つは似た色と形をしている。

 アベルにとっては、見覚えのあるものだった。

「お前も、まだ持っていてくれたか……セルジュ」

 セルジュは小さく笑うだけで、否定しなかった。

「つまり、今聞こえているこの話は、お前が直に聞き、この片割れの石に送ったものなんだな」
「勝手に送られているだけですよ。ただし、私が直に聞いたという点は、否定のしようもありません」

 セルジュとアベルのやりとりの間も、声の応酬は続いていた。大司教とセルジュ、二人の不穏な空気を漂わせた会話が。

『そう、子だ。私の血が流れたお世継ぎが、生まれれば……!』
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

処理中です...