都市街下奇譚

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四十七夜目『友達の友達4』

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これは、友人から聞いた話なんですがね、そうマスターの久保田は、グラスを磨きながら何気ない気配で口を開く。客足は奇妙なほど途絶えて、その言葉を耳にしたのは自分ただ一人だった。



※※※



最初は桂圭子、次が及川祐子、どちらも何にも特別じゃない何処にでもいるような女子高生だったし、自分の仲間と言える友達だった。気がついたら一人ずつ順番に病気になったり行方不明になったりした。浅川瑠美はその度にその友達のLINEと電話番号を消去して、自分には何も関係ない、何も起こらないでと祈る。そうして幾夜も震えながら夜を過ごしていた。以前まだ元気だった桂圭子が教えてくれたホームページに乗っていた『友達の友達』と言うものが起こす怪異は、見る度に形を変えているようだけどどれもこれも見る事に執着している。それに気がついてからはホームページを見るのも恐ろしくなって、瑠美はホームページのURLを急いで削除した。

見ると駄目なものなら今後見ないでいればいい。

そう心で呟いて恐ろしいモノを見ない事に誓う。そして自分は知らないふりをしたのに、親友の佐伯美琴が怪我で失明したと聞いたときは愕然とした。佐伯美琴は少し前から影に得体の知れない何かが居ると言い始めて、それから次第に可笑しくなっていった。見舞いに行っても煌々と照りつける蛍光灯の下で、影に視線を投げつける様子は異様としか言えない。何にもないと自分にも言い聞かせるように、美琴にそんなの気のせいと言ったのだ。でも、それは気のせい何かじゃなかった。美琴は自分の部屋で隠れて籠っていたのに、眼に怪我をして失明し精神まで病んでしまったらしい。病院に入院したままの美琴は「暗い!灯りをつけて!あれがくる!」と叫び続ける状態で、何が起きたのか確かめることもできない。そして気がついたら友達が一人ずつ怪異に呑まれた瑠美を、周囲の人間は遠巻きにするようになった。瑠美と仲良くしていたら次の怪異に自分が巻き込まれると薄々感じているのだ。

誰も自分は関係ないとこにいたいと思ってる。

友達の友達に襲われる予定の瑠美と友達になると、次は自分の番になると誰もが考えている。そう思うと瑠美自身も気分が悪くなるのだ。せめて誰か友達の友達を避ける方法を教えてくれれば、瑠美だって不安から逃れて少しは安心できる。だけど、今の瑠美は孤立無援で、それを知る術は『見る』事にしかない。

《友達の友達から逃げる方法》

検索すると異常な程のヒット数の表示が出てきて、瑠美は愕然とする。この中でどれが正しい方法で、どれが間違っているのか試す時間が瑠美に与えられているのだろうか。片っ端から読んでいっても、方法はみんなまちまちだ。簡単に出来そうなものはその場で片っ端から実行するが、他のページではその方法は逆に友達の友達を呼び寄せると書かれていたりする。しかも既に瑠美が実行した電話番号を消す事では避けられないのは、美琴で証明済みでもあった。そうなるとドンドン実行が難しい方法を試すしかなくなって、到底瑠美では実行出来ない生け贄なんてものまで出始める。

《生け贄を友達の友達に差し出す方法》

そんな事をして結局駄目だったらとも思うが、それで自分が助かるならとも瑠美は思い始めていた。自分を助けてくれない同級生なんて、誰が巻き込まれても関係ない。そう考えると生け贄を捧げることも容易い事のような気すらする。眠りの浅い悪夢の中のような日々で、瑠美がそれに踏み切る理性のハードルはドンドン低くなっていく。

スマホがあって良かった。

登録してある電話番号は小学生の時や中学生の時の、今は殆ど関わりのない同級生のものもある。別に高校からの友人でも全く問題だとは思わなかった。既に今の瑠美にとっては、自分が友達の友達に襲われない手段をとるのが最優先なのだ。

《友子に聞いたんだけど、なに
達川の駅前に新しいスイーツが
の店ができたらしいよ。でもさ
友子ってば美味しいって
達川って何処?立川?友子
が間違って、打っちゃってかな
いい加減場所だけでも知りたい
くれたいいのにって思わない。》

友子なんて友人は瑠美にはいない。でも、そんなことはどうでもいいことだ。文章の中身なんて嘘っぱちでも、おまじないを実行できさえすれば瑠美には十分目的を果たせる。片っ端からLINEやメールで、同じ文章を送りつけていく。勿論相手からは訝しげな間違って送った?とか、友子って誰?とか散々返答が来るのは想定内だ。返事が来るって事は相手がこの文章をちゃんと読んだってこと。読んだと分かれば、瑠美にとってはもう十分なのだ。

《あのメールどういうつもり?》

他の高校の友人が問いかける返事をよこしたのに、瑠美はおやと目を止めた。読んだことは確かだけど、他の誰とか間違いないっていう反応と違う。

《友達の友達がくる、にがさないってわざと文章作ったの?》

続いた指摘にギョッとする。今まで既に二桁以上の友達に送ったのに気がつかれたのは始めてだった。バレたらどうなるのかは知らないし、バレた時にはどう対処したらいいかも書いていない。瑠美はどうしようと悩みながら、指摘して来た相手の名前を見下ろす。

え?

相手は桂圭子だった。今も病院に入院したままで、意識不明のはずの桂圭子からのメール。しかも、瑠美のスマホには電話番号は登録していない筈の、桂圭子だ。誰でもいいと以前の友達から聞いた連絡先を登録して、LINEやメールした時にウッカリ桂圭子のモノまで登録して送ってしまったのかもしれない。それでも問題は桂圭子が、LINEもメールも出来ない状況にあると言うことだ。訳が分からないまま呆然と画面を見下ろしていると、新しいメッセージが入る。
 
《友達の友達が、いくよ。》

その文字を見た瞬間、瑠美は絶望に悲鳴をあげた。避けようととった手段が最悪の形をとり始めている。寝たきりの意識のない桂圭子が、そのせいで友達の友達に化けてしまったのだと瑠美はスマホを見下ろし呻き声をあげた。

《あんた、にがさない。》

どうしようと震え上がる瑠美は、このまま自宅にいては危ないと咄嗟に気がついた。高校では別れたけど小学生の時から知り合いの、桂圭子は瑠美の家を知っている。つまりはここにいたら桂圭子が来た時、家の中に来るのを待つだけになってしまう。瑠美は咄嗟に身の回りの物を取り上げ、家から夜の道に向かって飛び出した。何処にいったら桂圭子に知られないのか瑠美には想像も出来ないが、一先ずここから離れなければ。瑠美はそれだけを考えながら人通りの多い駅前に向かって駆け出した。何処から桂圭子が見ているのか、それともすぐ傍に立っているのか分からない。そんな恐怖感で訳がわからなくなりそうだ。友達は一人ずつ消えて、後は瑠美一人という感覚もその恐怖を更に煽る。

「瑠美ちゃん?」

その声に瑠美は小さく悲鳴を上げて咄嗟に振り返った。背後から声をかけた相手が、驚いて目を丸くしながらどうかしたのと問いかける。スーツ姿の女性は瑠美が通っている塾の講師小松川咲子で、仕事終わりなのだろうバックを片手に瑠美を見つめた。

「センセぇ…。」

顔見知りに出会った安堵に泣き出したくなる瑠美は、思わず桂圭子に追いかけられている事を凄まじい勢いで話し出した。彼女は唖然としながら話を聞いていたが、そう言えばと思い出したように瑠美の顔を見つめる。

「塾に瑠美ちゃんが来てないか問い合わせの電話があったわ。お母さんだと思って今日は授業がないってお話ししたけど。」

おかしいなって思ったのよと彼女は呟く。瑠美の母親なら塾の講習の内容は把握している筈だと思ったが、自習室に来ている子もいるからその確認かと思ったというのだ。だが、そこで年嵩の女性の声の電話というのに、瑠美は目を丸くしていた。以前桂圭子の母親が、友達の友達が誰か探していると言う話をした事がある。桂圭子の母親なら意識不明の圭子のスマホを、代わりに操作するのは可能かもしれない。だとしたら、瑠美が怯えるあのLINEは、桂圭子の母親が送っている可能性がある。その話をし終えると、小松川は少し険しい表情を瑠美に向けた。

「もし本当の事なら一人で出歩く方が危ないわ、私が一緒に帰ってあげる。」
「ありがとう、センセぇ。」

半べそをかきながら小松川に瑠美がいうと、彼女はにこやかにいいのよと微笑み瑠美の手をとり歩き出す。LINEのメッセージも桂圭子の母親がやっているのだと分かれば、家を飛び出して逃げ続けなくても家のドアを閉じたままでもやり過ごせるかもしれない。

「それにしても、なんでその人は瑠美ちゃんを追いかけてるの?」
「友達の友達が来るって聞いたから、それから逃げようとしておまじないを実行したの。」
「おまじない?」

他の人に友達の友達が行くように、文章の頭と終わりに《友達の友達がいく、にがさない》って暗号にしてみんなに一斉に送信したのとか細い声で瑠美が答える。カツカツとヒールの音をさせる小松川を追いかけながら、夜道を自宅に向かう瑠美はふと違和感に気がついた。小松川は迷いもなく手を繋いで歩いているが、小松川は自分の家を知っているのだろうか。

「センセぇ…、家知ってるんだっけ?」

一度も自宅に塾の先生にすぎない彼女を招くような事があるわけはない。なのに彼女は躊躇いもなく歩いていて、住所すら瑠美に聞こうともしなかった。手を咄嗟に振り払おうとした瑠美の手を爪が食い込むほどの力で握った彼女は、無表情に振り返った。その顔は能面のように冷たく感情の片鱗も感じさせず、瑠美は息を飲んで彼女の顔を真正面から見つめた。

「せ、センセぇ…。」
「友達の友達が来たら困るの、あなただけじゃないのよ。瑠美ちゃん。」

氷のような冷たい声に瑠美は目を見開く。何故小松川がそんなことを言い出したのか、瑠美には全く想像もつかない。震え上がる瑠美の手を鉤爪のように爪を食い込ませて、彼女は唐突ににこやかな微笑みを浮かべた。

「知ってる?生け贄には友達の友達が目をつけてる人間が一番なんですって。そのホームページみた?」



※※※


そういう感じのホラー映画ありましたよね。

ビデオテープをダビングして見せるって話と自分がいうと、久保田はありましたねえと笑いながら言う。ビデオテープにしろ携帯にしろ、身近で便利のいい家電が恐怖の伝達に一役買う話はよくある。よくあるのは身近だから、余計に怖さを感じるのかもしれない。そう思うと身の回りは案外得体の知れないものばかりかもしれないのだ。インターネットの普及で何でも直ぐに調べられてしまうのも、それに一役買っているのかもしれない。そんな風に考えてしまいながら、何気なくカウンターに置いた自分のスマホを見下ろす。
何気なく開いた検索バーに《と》と打ち込んだ瞬間、予測変換の一番最初に《友達の》と表示されたのに自分は思わず目を丸くしていた。

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