30 / 181
潜伏期
30.
しおりを挟む
たった一ヶ月。
あれからほんの一ヶ月の時間をあけただけで、再びアキコは関東に向かってまた男と同じように待ち合わせた。ただし今度は以前とは違い、あの日最後に別れてあの背中を見送った改札口前のホール状の空間で待ち合わせたのだが。
駅ビルに接続する半分開放された広場のような私鉄の改札口の前は、地下へもぐるエスカレーターとビルが組み合わされて、その合間から夜空が微かに見えた。ただ夜空には星一つなく、ただ暗く黒く塗り込められている。そして風がビルの合間の空気を巻き込み吹き込んで生暖かく肌を撫でる奇妙な空間だったが、ここでは誰もそれを気にしている様子もない。
ここではこれが当然なのかも…………
部分的な空の存在すら誰も気にもかけない高層ビルの下。でも東北の地方都市にはこんな場所はないし、アキコが暮らす町には尚更こんな近代的な施設はないのだ。それに何よりアキコの暮らす土地なら、この時間は満天の星空が広がり海辺の潮騒が聞こえる。ここには何時までもなりやまない喧騒と車のエンジンの音。それ以外には聞き覚えのあるような音は何一つ
ヒョウ…………
ビクリとその音に体が強ばるが、見渡してもその哭き声の元は分からない。街路樹にも電線にも鳥のような姿は見えないし、同時にその哭き声に反応したのはアキコただ独りなのだ。それに気がついてしまうと、アキコは微かに落ち着かない気分で部分的に空の見える場所を選んで立ち尽くしていた。私鉄の先にヤネオシュンイチが暮らす世界があるのは、アキコにもそれくらい等にわかっている。
私鉄の先には男が、日々生活する現実が存在している。
自分が住む場所に自分の現実が存在しているのと同じように、その先に彼だけの現実も確かに存在しているのだ。となるとこの間の待ち合わせはなんであの駅だったのだろうと、内心では考えもするのだが。それでも今回の現実に近い場所を待ち合わせに決めた青年は、少なくともまだアキコとこの関係を続けたいとは考えているしアキコの存在を現実のものととらえているのだろう。
この先で、彼がどんな生活をしているのか
そんなことを考えながらただボンヤリと空を見上げ、微かに孤独すら感じながらアキコは立ち尽くす。何故かここでは奇妙なほどに孤独で、自分を特異的で異質だと感じてしまう。周囲とは自分は異質だと思うのは自分がきっと悪い人間だからだろうし、この周囲に広がっている楽しげな気配や存在と自分は違うからだ。自分は何しろ深くて暗くて重くて、淫靡な別の空気を纏ってここにいる。これから虐められ罰を受けるためにここに立ち尽くしているのだ。
「ねぇ、おねぇちゃん、おっぱいおっきいね?おじさんとセックスしよう?」
唐突に覗き込むようにしながら酔った中年に詰め寄られていたのには、アキコは予想もしていなくて驚いてしまう。それほどスタイルが見える服ではないが胸元を隠すには至らないし、アキコはかなり一人きりで立ち尽くしていて目立っていたのだ。性的なことをあからさまに言われ戸惑うアキコに、相手は調子に乗ったように更に乗り出して胸元を覗きこむ。
「谷間にチンポ挟んでチンチン、チュパチュパしてよ?おじさんもおねぇちゃんのマンコ気持ちよくしてあげるからさぁ?」
「あはは、おねぇちゃん困ってるよ?おねぇちゃん、おじさん達と4Pしようか?穴全部チンポいれてあげるよ?」
誰も助けてくれずそんな卑猥な言葉をかけられるのに、咄嗟に場所をずらすが相手も諦めず手で卑猥な動きをして見せて尚更言葉をかけてくる。両手で乳房を揉むような仕草や、指を穴にいれるような卑猥な仕草にアキコは顔色を変えているのに止めようとしない。
「ね?シッポリヌッポリしようよ、おねぇちゃん」
何故かこんな風に無意味に室よに、性的な言葉を男から投げられているのだろうとアキコは戸惑う。性行為を強いられるような、卑猥なことばかり。ここに来て何度も網のように投げつけられていて、逃げても尚更追いかけられ一つが終わればまた別な相手だ。
「おねえちゃん、一緒にのみにいかない?気持ち良いことしに行こう。」
なんでこんなことばかりと携帯電話を何度も見下ろし、纏わりつくように話しかける中年男性から逃げ続ける。しかもこれも罰という言葉が頭を掠めて過るのに、まだヤネオが現れてもいないのに影の腕を埋め込まれた子宮が疼く。子宮が疼き出すとまるで腹の中で何かが暴れだすように、勝手に体だけが快楽に欲望を示して、股間が熱く潤み始めていた。
「おねぇちゃん、おマンコしよう。おじさんのチンポおっきいよ?気持ちいいよ?」
こんな卑猥なことばかり言葉をかけられるのも、腹の中で欲望が蠢き渇望が沸き上がり始めているからだと分かっている。男達はアキコの放つその渇望を匂いのように嗅いでいるに違いないと、アキコは俯き目を細めて溜め息をつく。これ以上絡まれたら渇望に呑まれて、複数の男達とセックスに耽る気がしなくもないのだ。
何本もの怒張に穴という穴を埋められ淫らに喘ぐ。
それはフィがチャット上の妄想で使うことの多いシュチュエーションで、電車の中でだったり広場だったり場所は様々。だが相手は確実に複数の男に群がられて犯され滅茶苦茶にされる上に、自分はそれに歓喜の声をあげるしかない。多人数に犯され嫌がりながらもよがる女に興奮するのだろうと思うが、それが現実ならどうなのだろうとジワジワと渇望が沸き上がる体で考える。
「おねぇちゃん、向こうの影でチンチン咥えてみない?」
ああ、でも現実に起こったとしたら不快感で気持ち悪いだろうと、アキコは冷ややかな気分でその言葉を放つ男から距離をおく。それでもついてこようとする男にアキコの耳元であの哭き声が響いて、アキコは思わず暗い空を見上げる。濁った夜空には星の明かりもなく、ただ暗く遠い。
ヒョウ…………
掠れたその声がついてこようとした男にも聞こえたように、男は僅かに戸惑いを浮かべて辺りを見渡すと気が削がれたようにスゴスゴと元の帰途に戻り始める。その後も再三見ず知らずの男に絡まれて、一度は腕をとられもしたのだが、未だにヤネオシュンイチは現れないまま。
もしかして本当に見ず知らずの男達にレイプされるのを待ってるの?
駅の直ぐ傍には柄の悪い若者達が屯している公園もあるし、少し歩けばホームレスと呼ばれる男達もいる。そんな場所で何時までもこうして不安げに立ち尽くすアキコが目立たない筈がないのは分かりきっているのだ。それでも辺りには自分の様子を伺うヤネオの姿はないし、次から次へと男達には卑猥な言葉を投げ掛けられる。
「ねぇねぇ、あっちにねラブホテル街があるんだよ?一緒にいっていいことしようか?」
酔っていると何故こんなにも直接的な言動を始めるのか。一度なんか真剣に胸を揉まれそうになってアキコは青ざめてもいるのに、奇妙なほど股間が濡れるのはアキコのせいなのだろうか。耳元で黒い影がほくそ笑み、囁きかけてくるせいで頭がおかしくなりそうだ。
チンポ下さいって言えば、山ほどチンポがもらえるぞ?ほら、いってみろ?
そんなこと言う筈もないのに頭の中では何人もの怒張を穴に捩じ込まれ、ヒィヒィと哭き喘ぐ自分自身が男達に汚されていた。口腔、膣、直腸、穴という穴にズポリズポリと赤銅色のプラムのような亀頭を突き入れられて、奥深くに精液を注ぎ続けられるのだ。その妄想に股間が濡れて下着が肌に張りついて行くのを感じてしまう。
いいだろ?もっとと強請れ。
チンポと連呼して、変態女を犯して貰え。
おマンコしてくださいと泣きわめけ。
そんな言葉が頭の中で自分を貶めようとするのに、アキコは次第に血の気が引いていく気がしていた。もしかして本当にヤネオシュンイチがそれを願っているのだとしたら、そう思うと不安感は否応なく増していく。そして結局はその日もやはり三十分も遅れてきた男を、アキコは言葉もなく青ざめて見つめる。
「ごめん、電車が少し遅れて。ナンパされてた?」
その質問に微かにアキコは眉を潜めてしまった。決して気持ちのいいことではないのたが、彼にとってはそれは優越感になるらしいのがその口調で分かったからだ。そうかと心の中で苦く考える、他の男からも誘われるような女を連れているという優越感なのたろう。それは以前に会った時にはなかったのか感じられなかったのかは分からないが、美醜の分からないアキコには理解できない感状だった。
「ごめん、冗談にならないか。…………本当にごめんね?送れちゃって。」
その表情に気がついた男がきまり悪そうに言う。本当は遅れたことへの良いわけだったのか、アキコがナンパされるような女だということに対する照れ隠しなのか、その言葉の真意はアキコにはやはり分からない。だが男の微笑みにつられてアキコは、一瞬の不快感を忘れて穏やかな微笑を浮かべその笑顔に答えていた。
前回と同じように食事をしながら二人の間には、一種の不思議な緊張感があった。何か微かに違和感も感じさせる緊張感はこの後に続くことのせいなのか、全く違うものなのかは難しくてアキコにはまだ汲み取れない。それがまるで空気になって漏れ出したかのように互いの間に緊張をにじまる。
そんな緊張を破ったのは、目の前のシュンイチの携帯の着信音だった。不意に目の前の青年の表情が微かに変わり、慌てたように携帯でメールを打ち始める。それは食事が前に並んでも何度もやり取りとして続き、アキコに違和感に似た不快感を感じさせた。
「……食事しないの?」
その声に男は微かに視線を上げてアキコの表情を見るが、その手は今だ携帯を操っていて微かな苛立ちを感じさせた。食事を突く箸がその苛立ちをあらわすような音を立て、無作法だと分かりながらもせっかくの和食の味も半減してしまったような気がしてアキコは更に不快だった。シュンイチは悪びれた様子もなく携帯を操作し続けながらアキコの機嫌をとるように話しかける。
「仕事の仲間からなんだよ。」
そんなことが聞きたいわけではないと心の中で呟く。
普通女性との食事中にずっと携帯をいじり続けているなんてどうだろう。例え、恋している訳でない相手だとしても、余りにも相手として無作法ではないかと感じる。そう思っていたのに追い討ちをかけるように、今度は種類の違う着信音が鳴った。
シュンイチは一瞬と惑うような表情を浮かべて、それはアキコの鋭い勘を刺激するのに充分なものだった。
「でたら?」
「あ……あぁ…………、はい。」
微かな緊張を浮かべて男が電話を受ける。
微かな声音の変化。
そして微かにもれる受話器の向こうの声。
アキコの真っ直ぐな視線に男は少し話してくると、個室に仕切られたその場を中座する。既に冷めて味気ない料理を食べるでもなく突きながら、深く溜息をついて箸を置いた。男はアキコがとても耳が良いのを知らないのだ。昔から勘が鋭く人の言葉の抑揚で感情すら聞き取るとに長けていたのは、自分が口にした言葉で相手が不快感を感じていないかをきにかけ続けたからだ。同時に看護師としても、アキコは日々その技能を磨き続けているようなもの。
どう考えても女性からの電話だった。
女の勘だけではなく、声音や漏れる女性の声。
彼の見せる態度だって同じことだ。
恋をしていると感じていたからこそ、それは酷く不快だった。
自分以外の女の存在が彼の周りにある。しかも、前回会ったときはなかったのに、今回はまるで探しでもしているかのように頻回なアプローチをしている。本当に仕事仲間であれば、女性でも構わずここで話せば良いのにそうしないのはそうではない相手だからと心が呟く。でも、現実的に見るとアキコだけが片思いをしているのだとも言えるのだ。それに、前回は気がつかなかっただけで、そうだったからと断定はできない。もしかして既に自分の方が後から来た存在なのかもしれない。何しろ自分は現実の存在として逢ったのはたった一ヶ月前が初めてなのだから。そしてそれ以上に、アキコには決定的に勝てないものがある。
距離だ。
どんなにしても、片道五時間半は覆せない。
悲しい気持ちでそう思った。罰を与える男に恋をして、こうして他に女がいると気がついても、それでも逢ってくれれば良いのかもとも思ってしまう自分が酷く悲しい。
私は社会人で給料を貰う身で、だからこそ学生の彼に負担をかけないというつもりで電話代も、ここまで来ることも、食事代もホテル代も、何だかんだと言って自分が負担している。そこまでして、自分は一体何を得ようとしているのか。
やがて戻ってきた男の言い訳を聞き流しながら、アキコはボンヤリと流されるままに再びシュンイチと一緒にホテルに向かっていた。
あれからほんの一ヶ月の時間をあけただけで、再びアキコは関東に向かってまた男と同じように待ち合わせた。ただし今度は以前とは違い、あの日最後に別れてあの背中を見送った改札口前のホール状の空間で待ち合わせたのだが。
駅ビルに接続する半分開放された広場のような私鉄の改札口の前は、地下へもぐるエスカレーターとビルが組み合わされて、その合間から夜空が微かに見えた。ただ夜空には星一つなく、ただ暗く黒く塗り込められている。そして風がビルの合間の空気を巻き込み吹き込んで生暖かく肌を撫でる奇妙な空間だったが、ここでは誰もそれを気にしている様子もない。
ここではこれが当然なのかも…………
部分的な空の存在すら誰も気にもかけない高層ビルの下。でも東北の地方都市にはこんな場所はないし、アキコが暮らす町には尚更こんな近代的な施設はないのだ。それに何よりアキコの暮らす土地なら、この時間は満天の星空が広がり海辺の潮騒が聞こえる。ここには何時までもなりやまない喧騒と車のエンジンの音。それ以外には聞き覚えのあるような音は何一つ
ヒョウ…………
ビクリとその音に体が強ばるが、見渡してもその哭き声の元は分からない。街路樹にも電線にも鳥のような姿は見えないし、同時にその哭き声に反応したのはアキコただ独りなのだ。それに気がついてしまうと、アキコは微かに落ち着かない気分で部分的に空の見える場所を選んで立ち尽くしていた。私鉄の先にヤネオシュンイチが暮らす世界があるのは、アキコにもそれくらい等にわかっている。
私鉄の先には男が、日々生活する現実が存在している。
自分が住む場所に自分の現実が存在しているのと同じように、その先に彼だけの現実も確かに存在しているのだ。となるとこの間の待ち合わせはなんであの駅だったのだろうと、内心では考えもするのだが。それでも今回の現実に近い場所を待ち合わせに決めた青年は、少なくともまだアキコとこの関係を続けたいとは考えているしアキコの存在を現実のものととらえているのだろう。
この先で、彼がどんな生活をしているのか
そんなことを考えながらただボンヤリと空を見上げ、微かに孤独すら感じながらアキコは立ち尽くす。何故かここでは奇妙なほどに孤独で、自分を特異的で異質だと感じてしまう。周囲とは自分は異質だと思うのは自分がきっと悪い人間だからだろうし、この周囲に広がっている楽しげな気配や存在と自分は違うからだ。自分は何しろ深くて暗くて重くて、淫靡な別の空気を纏ってここにいる。これから虐められ罰を受けるためにここに立ち尽くしているのだ。
「ねぇ、おねぇちゃん、おっぱいおっきいね?おじさんとセックスしよう?」
唐突に覗き込むようにしながら酔った中年に詰め寄られていたのには、アキコは予想もしていなくて驚いてしまう。それほどスタイルが見える服ではないが胸元を隠すには至らないし、アキコはかなり一人きりで立ち尽くしていて目立っていたのだ。性的なことをあからさまに言われ戸惑うアキコに、相手は調子に乗ったように更に乗り出して胸元を覗きこむ。
「谷間にチンポ挟んでチンチン、チュパチュパしてよ?おじさんもおねぇちゃんのマンコ気持ちよくしてあげるからさぁ?」
「あはは、おねぇちゃん困ってるよ?おねぇちゃん、おじさん達と4Pしようか?穴全部チンポいれてあげるよ?」
誰も助けてくれずそんな卑猥な言葉をかけられるのに、咄嗟に場所をずらすが相手も諦めず手で卑猥な動きをして見せて尚更言葉をかけてくる。両手で乳房を揉むような仕草や、指を穴にいれるような卑猥な仕草にアキコは顔色を変えているのに止めようとしない。
「ね?シッポリヌッポリしようよ、おねぇちゃん」
何故かこんな風に無意味に室よに、性的な言葉を男から投げられているのだろうとアキコは戸惑う。性行為を強いられるような、卑猥なことばかり。ここに来て何度も網のように投げつけられていて、逃げても尚更追いかけられ一つが終わればまた別な相手だ。
「おねえちゃん、一緒にのみにいかない?気持ち良いことしに行こう。」
なんでこんなことばかりと携帯電話を何度も見下ろし、纏わりつくように話しかける中年男性から逃げ続ける。しかもこれも罰という言葉が頭を掠めて過るのに、まだヤネオが現れてもいないのに影の腕を埋め込まれた子宮が疼く。子宮が疼き出すとまるで腹の中で何かが暴れだすように、勝手に体だけが快楽に欲望を示して、股間が熱く潤み始めていた。
「おねぇちゃん、おマンコしよう。おじさんのチンポおっきいよ?気持ちいいよ?」
こんな卑猥なことばかり言葉をかけられるのも、腹の中で欲望が蠢き渇望が沸き上がり始めているからだと分かっている。男達はアキコの放つその渇望を匂いのように嗅いでいるに違いないと、アキコは俯き目を細めて溜め息をつく。これ以上絡まれたら渇望に呑まれて、複数の男達とセックスに耽る気がしなくもないのだ。
何本もの怒張に穴という穴を埋められ淫らに喘ぐ。
それはフィがチャット上の妄想で使うことの多いシュチュエーションで、電車の中でだったり広場だったり場所は様々。だが相手は確実に複数の男に群がられて犯され滅茶苦茶にされる上に、自分はそれに歓喜の声をあげるしかない。多人数に犯され嫌がりながらもよがる女に興奮するのだろうと思うが、それが現実ならどうなのだろうとジワジワと渇望が沸き上がる体で考える。
「おねぇちゃん、向こうの影でチンチン咥えてみない?」
ああ、でも現実に起こったとしたら不快感で気持ち悪いだろうと、アキコは冷ややかな気分でその言葉を放つ男から距離をおく。それでもついてこようとする男にアキコの耳元であの哭き声が響いて、アキコは思わず暗い空を見上げる。濁った夜空には星の明かりもなく、ただ暗く遠い。
ヒョウ…………
掠れたその声がついてこようとした男にも聞こえたように、男は僅かに戸惑いを浮かべて辺りを見渡すと気が削がれたようにスゴスゴと元の帰途に戻り始める。その後も再三見ず知らずの男に絡まれて、一度は腕をとられもしたのだが、未だにヤネオシュンイチは現れないまま。
もしかして本当に見ず知らずの男達にレイプされるのを待ってるの?
駅の直ぐ傍には柄の悪い若者達が屯している公園もあるし、少し歩けばホームレスと呼ばれる男達もいる。そんな場所で何時までもこうして不安げに立ち尽くすアキコが目立たない筈がないのは分かりきっているのだ。それでも辺りには自分の様子を伺うヤネオの姿はないし、次から次へと男達には卑猥な言葉を投げ掛けられる。
「ねぇねぇ、あっちにねラブホテル街があるんだよ?一緒にいっていいことしようか?」
酔っていると何故こんなにも直接的な言動を始めるのか。一度なんか真剣に胸を揉まれそうになってアキコは青ざめてもいるのに、奇妙なほど股間が濡れるのはアキコのせいなのだろうか。耳元で黒い影がほくそ笑み、囁きかけてくるせいで頭がおかしくなりそうだ。
チンポ下さいって言えば、山ほどチンポがもらえるぞ?ほら、いってみろ?
そんなこと言う筈もないのに頭の中では何人もの怒張を穴に捩じ込まれ、ヒィヒィと哭き喘ぐ自分自身が男達に汚されていた。口腔、膣、直腸、穴という穴にズポリズポリと赤銅色のプラムのような亀頭を突き入れられて、奥深くに精液を注ぎ続けられるのだ。その妄想に股間が濡れて下着が肌に張りついて行くのを感じてしまう。
いいだろ?もっとと強請れ。
チンポと連呼して、変態女を犯して貰え。
おマンコしてくださいと泣きわめけ。
そんな言葉が頭の中で自分を貶めようとするのに、アキコは次第に血の気が引いていく気がしていた。もしかして本当にヤネオシュンイチがそれを願っているのだとしたら、そう思うと不安感は否応なく増していく。そして結局はその日もやはり三十分も遅れてきた男を、アキコは言葉もなく青ざめて見つめる。
「ごめん、電車が少し遅れて。ナンパされてた?」
その質問に微かにアキコは眉を潜めてしまった。決して気持ちのいいことではないのたが、彼にとってはそれは優越感になるらしいのがその口調で分かったからだ。そうかと心の中で苦く考える、他の男からも誘われるような女を連れているという優越感なのたろう。それは以前に会った時にはなかったのか感じられなかったのかは分からないが、美醜の分からないアキコには理解できない感状だった。
「ごめん、冗談にならないか。…………本当にごめんね?送れちゃって。」
その表情に気がついた男がきまり悪そうに言う。本当は遅れたことへの良いわけだったのか、アキコがナンパされるような女だということに対する照れ隠しなのか、その言葉の真意はアキコにはやはり分からない。だが男の微笑みにつられてアキコは、一瞬の不快感を忘れて穏やかな微笑を浮かべその笑顔に答えていた。
前回と同じように食事をしながら二人の間には、一種の不思議な緊張感があった。何か微かに違和感も感じさせる緊張感はこの後に続くことのせいなのか、全く違うものなのかは難しくてアキコにはまだ汲み取れない。それがまるで空気になって漏れ出したかのように互いの間に緊張をにじまる。
そんな緊張を破ったのは、目の前のシュンイチの携帯の着信音だった。不意に目の前の青年の表情が微かに変わり、慌てたように携帯でメールを打ち始める。それは食事が前に並んでも何度もやり取りとして続き、アキコに違和感に似た不快感を感じさせた。
「……食事しないの?」
その声に男は微かに視線を上げてアキコの表情を見るが、その手は今だ携帯を操っていて微かな苛立ちを感じさせた。食事を突く箸がその苛立ちをあらわすような音を立て、無作法だと分かりながらもせっかくの和食の味も半減してしまったような気がしてアキコは更に不快だった。シュンイチは悪びれた様子もなく携帯を操作し続けながらアキコの機嫌をとるように話しかける。
「仕事の仲間からなんだよ。」
そんなことが聞きたいわけではないと心の中で呟く。
普通女性との食事中にずっと携帯をいじり続けているなんてどうだろう。例え、恋している訳でない相手だとしても、余りにも相手として無作法ではないかと感じる。そう思っていたのに追い討ちをかけるように、今度は種類の違う着信音が鳴った。
シュンイチは一瞬と惑うような表情を浮かべて、それはアキコの鋭い勘を刺激するのに充分なものだった。
「でたら?」
「あ……あぁ…………、はい。」
微かな緊張を浮かべて男が電話を受ける。
微かな声音の変化。
そして微かにもれる受話器の向こうの声。
アキコの真っ直ぐな視線に男は少し話してくると、個室に仕切られたその場を中座する。既に冷めて味気ない料理を食べるでもなく突きながら、深く溜息をついて箸を置いた。男はアキコがとても耳が良いのを知らないのだ。昔から勘が鋭く人の言葉の抑揚で感情すら聞き取るとに長けていたのは、自分が口にした言葉で相手が不快感を感じていないかをきにかけ続けたからだ。同時に看護師としても、アキコは日々その技能を磨き続けているようなもの。
どう考えても女性からの電話だった。
女の勘だけではなく、声音や漏れる女性の声。
彼の見せる態度だって同じことだ。
恋をしていると感じていたからこそ、それは酷く不快だった。
自分以外の女の存在が彼の周りにある。しかも、前回会ったときはなかったのに、今回はまるで探しでもしているかのように頻回なアプローチをしている。本当に仕事仲間であれば、女性でも構わずここで話せば良いのにそうしないのはそうではない相手だからと心が呟く。でも、現実的に見るとアキコだけが片思いをしているのだとも言えるのだ。それに、前回は気がつかなかっただけで、そうだったからと断定はできない。もしかして既に自分の方が後から来た存在なのかもしれない。何しろ自分は現実の存在として逢ったのはたった一ヶ月前が初めてなのだから。そしてそれ以上に、アキコには決定的に勝てないものがある。
距離だ。
どんなにしても、片道五時間半は覆せない。
悲しい気持ちでそう思った。罰を与える男に恋をして、こうして他に女がいると気がついても、それでも逢ってくれれば良いのかもとも思ってしまう自分が酷く悲しい。
私は社会人で給料を貰う身で、だからこそ学生の彼に負担をかけないというつもりで電話代も、ここまで来ることも、食事代もホテル代も、何だかんだと言って自分が負担している。そこまでして、自分は一体何を得ようとしているのか。
やがて戻ってきた男の言い訳を聞き流しながら、アキコはボンヤリと流されるままに再びシュンイチと一緒にホテルに向かっていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる