58 / 104
58.ご褒美
しおりを挟む「おはようございます、花子様」
朝早く、ムツキが寝室の扉を開けると、
ベッドで眠っていた花子を優しく起こした。
「こんなに朝早くから……どうしたの?」
まぶしそうに目を細めながら、花子はカーテン越しの光に顔を向けた。
「お早くお食事を済ませてください。
向かわなければならない場所があるんです」
「行かなければならない場所……?」
疑問を抱きつつも、花子は言われるままに朝食を済ませ、
ムツキとともに外へ出た。
ムツキは手にした書類を確認しながら、
高級店が立ち並ぶ通りを抜け、ある場所へと向かっていた。
「ムツキ、どこに行くの?」
「もうすぐです。」
やがて、行き止まりにしか見えないレンガ色の壁の前で、ムツキが立ち止まった。
「ここです」
「……え?」
花子が首をかしげると、ムツキは昨晩セバスから受け取った書類を手渡した。
「これは?」
「花子様、その書類に魔力を流して、壁に貼ってください」
「へっ……?」
戸惑いながらも、ムツキの真剣な表情に押され、
花子は書類に魔力を流し、壁に貼り付けた。
最初は何も起こらなかったが――
数分後、レンガの壁が白く光り出し、
重厚な木造の扉が現れた。
「なにこれ……」
驚きのあまり固まる花子。
「さあ、花子様。扉を開けて中へどうぞ」
「入れるの……?」
「もちろんです。」
恐る恐る扉に手をかけると、
ギィー……と重厚な音を立てて開いた。
中に足を踏み入れると、扉は音もなく閉まった。
「花子様、こちらです」
ムツキに導かれ、広いエントランスを抜け、
上階へと続く階段を上る。
その先には、こぢんまりとしたカウンターがあり、
白髪にモノクルをかけた小柄な老人が座っていた。
「おや、珍しいね。ルービック家の人間がここを訪れるなんて、何十年ぶりかな」
「さて、ご用件は?」
言葉に詰まる花子の代わりに、ムツキが書類を差し出した。
「ミート伯爵。こちらが閲覧許可書類です」
ミート伯爵は書類に目を通すと、
引き出しから平らな石板を取り出し、カウンターに置いた。
「では、こちらに両手を開いて押し当ててください」
言われるままに手を当てると、石板が白く光り、
銀色の鍵がふわりと浮かび上がった。
「これが閲覧許可証だ」
鍵を受け取ると、それは白く光り、
花子の左手に吸い込まれるように消えた。
「では、行きましょうか、花子様」
カウンター横の通路を進むと、
先ほどと同じような重厚な扉が現れた。
「さあ、扉を開けてください」
扉を開くと――
そこには、懐かしい本の香りが満ちる、
広大な空間が広がっていた。
天井まで届く本棚、静謐な空気、
そして、どこか懐かしい温もり。
「……うそ。すごすぎ……」
あまりの光景に、花子はその場で固まってしまった。
「花子様!」
ムツキの声で我に返ると、思わず本棚へ駆け寄ろうとしたが、止められた。
「ちょっ……なんで止めるの、ムツキ!」
「ここは“魔法図書館”です。
所定の席に座り、先ほどの鍵を使って本を呼び出すのです。」
「へっ、そうなの?」
「はい。花子様の席は、あちらです。」
案内されたのは、中央よりやや右寄りにある、
豪華な椅子とテーブルが設えられた場所だった。
花子はそこに腰を下ろし、
左手に意識を集中して鍵を呼び出すと――
(読みたい……あの続編を……!)
鍵が静かに振動し、目の前のテーブルに、
念願の続編がふわりと現れた。
「うそ……すごすぎ……!」
思わず声を上げてしまい、ムツキにたしなめられる。
「お静かにお願いします、花子様」
「……あ、そっか。図書館だった。」
慌てて口をつぐむと、
目の前の本をそっと手に取り、ページをめくる。
(う……うれしい……! 幸せ……!)
花子は、夢にまで見た“続き”の物語に没頭し、
ムツキの声がかかるまで、ひたすら読みふけった。
12
あなたにおすすめの小説
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる