転生してもオタクはなおりません。

しゃもん

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75.悔恨

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 アインに伴われたひじりは、  
 彼の乗ってきた乗物に同乗し、  
 大海おおみが運び込まれた病院へと向かった。

 渋滞に巻き込まれることもなく、  
 乗物は間もなく病院の前に到着した。

「こちらです」

 アインは正面の扉ではなく、  
 横手にある別の扉へと進んだ。

「なぜ、あちらを使わない?」

「正面は、入院患者専用です」

「……どういう意味だ」

「そのままの意味です」

 アインはそっけなく答えると、  
 壁の鍵穴に白い水晶をかざし、  
 静かに開いた小部屋へと入った。

 だが、ひじりはなぜかその場に立ち尽くし、  
 部屋に入ろうとしなかった。

 アインは、黙って彼を見つめたまま、動かずに待った。

「……くそっ」

 ひじりは心の中で悪態をつきながら、  
 ようやく足を踏み出し、小部屋へと入った。

 アインが壁の赤い文字を数回タッチすると、  
 扉が閉まり、部屋が音もなく動き出す。

 不快な振動が数分続いた後、  
 扉が開いた。

「こちらです」

 アインが先に出ると、  
 通路には濃厚な白檀の香りが漂っていた。

 アインは振り返らずに歩き出し、  
 ひじりも無言でその後に続いた。

 やがて、重厚な白い扉の前でアインが立ち止まる。

 ひじりは無表情のまま、  
 その扉を勢いよく開けた。

 扉は音もなく横に開き、  
 中には白いシーツをかけられた小柄な女性が、  
 静かに横たわっていた。

大海おおみ……ふざけてないで起きんか!」

 怒鳴りながら近づいたひじりは、  
 彼女の体に手を伸ばす。

 だが、その手は途中でピタリと止まった。

「おい、なんの冗談だ……いいから、すぐに起きろ……」

 いつもの大海おおみなら、  
 近づいた瞬間に手を取って壁に投げ飛ばしてくるはずだった。

 だが、何の反応もない。

 そっと触れた彼女の頬は、  
 まるで氷のように冷たかった。

「おい……ふざけるな……いい加減……  
 いい……いっ……大海おおみ……!」

 ひじりは、  
 その冷たい体を抱きしめるように覆いかぶさり、  
 声もなく、ただ彼女を抱きしめ続けた。

 心の中で、何度も何度も――  
「起きろ」と、「目を開けろ」と――

 その様子を、いつの間にか来ていたマリアが、  
 アインの背後から静かに見つめていた。

 何も言わずにその場を後にしたマリアは、  
 通路にいたフィーアに小声で尋ねた。

「ブランたちが到着するまで、あとどのくらいかしら?」

「連絡を入れてすぐに向かわれましたが……  
 あと数時間はかかるかと」

「そう……わかったわ。  
 それと、あの子の様子は?」

花子はなこ様なら、ムツキとキサラギと別室で……」

 フィーアはそれ以上、言葉を続けられなかった。

 マリアは、その言いよどみだけで、  
 花子の様子を察した。

(……まだ、受け止めきれていないのね)

 自分でさえ、あの直後は冷静でいられなかったのだから、  
 無理もない。

(ブランたちが来るまでは、私がしっかりしなくては)

 そう思った瞬間、  
 通路の反対側から、ドライを伴ったブラウンが現れた。

「ブラウン」

「遅くなりました、お祖母様。  
 先ほど、情報はすべて封鎖しました。  
 今回の件が外部に漏れることはありません」

 その報告に、マリアはようやく気づいた。

(……そうだ。情報封鎖。  
 これが外に漏れれば、王家もルービック家も……)

「助かったわ。さすがね、ブラウン」

「いえ、フィーアから連絡が入った直後に、  
 父・ブランから指示がありました。  
 王家もすぐに動いていたので、迅速に対応できました。」

「……ブランが、そんなことを……」

(あのバカ息子が、愛する人が関わると、  
 途端に有能になるなんて……)

 マリアの中で、ようやく思考が正常に戻り始めた。

(あの子の考える“最善”は、  
 大海おおみを日ノ本に戻すこと――)

「マリア様、どちらへ?」

「フィーア、ついてきて。中央棟へ向かうわ。」

 マリアが病院の中央棟へ向かうのを見送ったブラウンは、  
 すぐに踵を返し、泣き崩れている花子はなこのもとへ向かった。

「そういえば、セバスの姿が見えないが……  
 花子はなこのところに?」

「いえ、セバス様はブラン様の命で、  
 大海おおみ様を運ぶ準備のため、港へ向かわれました。」

「そう……わかったわ。」

 ブラウンとフィーアは、廊下の行き止まりで立ち止まり、  
 銀色の水晶に視線を向けた。

 水晶が白く光り、  
 生き物のように二人の全身をなぞると、  
 目の前の壁が音もなく消えた。

 ブラウンはそのまま中へと足を踏み入れる。

 そこには、豪華な応接セットと、  
 湯気を立てる白いカップが置かれていた。

花子はなこ……大丈夫かい?」

 ソファーにぼんやりと座る花子はなこの背後から、  
 ブラウンはそっと彼女を抱きしめた。

「わたし……おばあ様を守れるって、思ってたの……  
 でも、実際は……」

「状況は、フィーアから聞いてる。  
 だから今は、あまり考えるな。」

「でも……」

 ブラウンは、どうしていいかわからず、  
 ただ黙って、彼女を抱きしめ続けた。

 信子のぶこたちが来るまで――  
 その小さな背中を、ずっと、ずっと抱きしめていた。
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