昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[ヴィル]

ホットサンド

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 リアに謝罪の手紙を書くことにした。
 ついでに、アレンにも書くと決めた。リアが許してくれても、彼がいいと言わなければ会えない気がしたからだ。

 俺は反省文が得意だ。
 学生時代に校舎を燃やすたび書かされていたので、昼寝をしながらでも書けるレベルに達している。
 さあ、本領発揮だ。彼女がグッとくるような手紙を書いてやる。

 すまなかった。
 俺がばかだった。
 君が「おかえりなさい」と言ってくれない一日は、ひどく虚しい。
 アレンやフィデルと軽口を言い合えない日は、心底つまらない。
 俺は愚かにも、皆を傷つけてしまった。
 待ちに待った婚姻に舞い上がっていた。
 まるで周りが見えていなかった。
 これを教訓としよう。
 約束する。常に聖女の夫としてふさわしいかを己に問い続けよう。
 だからリア、どうか俺を許してほしい。

 ――こんな感じでどうだ。後半、もう少し韻を踏んだほうがいいだろうか。
 あまり立派なことを書くと「話が違う」と突っ込む余地を与えてしまう。だからこれで勘弁してほしい。
 リア、頼むからこの部屋から出してくれ。
「最高の警戒を」と頼んだら、毒見だの【鑑定】だのが何度もあり、温かい珈琲すらも出てこない。そのうえ書斎だからベッドもないのだ。

 キースが返事を持って戻ってきた。
「何か言っていたか?」俺は嬉々ききとして尋ねた。
「いいえ。食事をしていかないかと言われて……」
「ほう? 今日のメニューはなんだった?」
「ホットサンドという新しいサンドウィッチを頂きました」

 ホットサンド……聞いたことがない。まさか、リアの新発明か!?
「何が挟まっていた? ホットとはなんだ? 肉か?」
「上下から鉄板で挟んでサンドウィッチを焼きつけたものです。表面はカリッとしていて香ばしく、熱によって中のチーズがトロリと溶け、白ソースとともに熱々の具材と混ざり合って、とても美味でした」

「でかした!」と彼の手元を見た。しかし、彼は手紙しか持っていない。
「あれ? 俺のはどこだ? いつもの弁当バスケットは?」
「私が頂いたのは料理長のまかないです。リア様はご自分の部屋で作られて、オーディンス様とジェラーニ様の三人で召し上がっているようでした」

 なるほど。俺が帰ったら、それを振る舞ってくれるつもりなのだろう。
 クリスを呼ぶ時もそうだった。新しいことをする際、彼女は必ず予行練習をするのだ。
 胸がじんと熱くなった。
 命を狙われている俺を、妻が心配してくれている。帰りを待ち望み、温かい食事を用意してくれているのだ。
 特務師の問題が片付いたら、すぐに帰ろう。

 胸をときめかせながら手紙の封を切った。
 きっと以前のように、俺のいない日常のことがたくさん書いてあるはずだ。そして、結びの言葉はもちろん「早く帰ってきて」だ。いや、待てよ。「愛しています」かもしれない。
 早く彼女に会いたい。愛しているよ、リアぁぁ~♪

「――あれ? 一枚だけか?」
「では……私は失礼いたします」
 キースはすぅーっと部屋から出ていった。
「なんだよ。いつもなら手紙の内容を知りたがるのに……」
 俺はそっと便箋を開いた。
 
「旦那様へ、
 今日のお夕飯は、ホタテのお料理です。 リアより」

 俺はずっこけた。
 なんだこれは。想像していたのとまるっきり違うぞ。
 というか、結婚した途端アッサリしすぎじゃないか? 本当に俺の美しい謝罪文を読んだのか? まるで話がつながっていないぞ!

 アレンからの手紙も読んでみた。

*――――
 団長へ、
 お疲れさまです。
 俺の聖女は手紙を読んで「やだナニコレ、韻を踏んでいてキモチワルイ」と言っています。
 書き慣れた反省文を信じるほど、俺の聖女はアホウではないということです。今後の行動がすべてでしょう。
 カール殿下の説得で、ミストが武装を解除しました。よかったですね。
 十分に反省したなら戻ってきてもいいですよ。
 ただ、今日の夕食は魚介なので、もし嫌なら外で食べて帰ってきてほしいとのことです。

 アレンより
――――*

 もはやアレンの補足がないと、リアが何を言っているのかわからなくなってきている……。

 俺は聖女宮へ戻り、必死で彼女に謝った。
 まだ接近禁止中で、すぐアレンに追い払われたものの、彼女はふわふわと微笑んでいた。

 王宮の冷たい料理にはうんざりで、昼食を抜いてしまったため、料理人に頼んでホットサンドを作ってもらった。
 ところが、どういうわけか周りの者が口をそろえて「やめたほうがいい」と言う。
 俺がリアの料理を「やめておく」など、できるわけがない。

 天気が良かったので庭のテーブルに運ばせた。
「本当に召し上がるのですか?」キースが心配そうに俺をのぞき込んでいる。
「当然だろう。リアの料理はすべて食べたい」
 彼が「気をつけて食べてくださいね」と言い終わる前に、俺は豪快にかぶりついていた。

「んがあーアッツぅーーー!!」

 ホットサンドの「ホット」とは異世界語で「溶岩」に違いない。それはマグマのサンドウィッチだった。
 超高温のハムやトマトが飛び出してきて、俺の上あごと舌を溶かし、そこにクソ熱いチーズとリアの白ソースが追撃をかけてくる。
 熱と塩でじゅんじゅんとダメージを加え続ける恐ろしい食べ物だ。
 王族たるもの食事を吐き出すわけにはいかない。大慌てで飲み込んだら喉まで焼かれて痛くなった。

「わざわざ団長がいない日を狙って作ってくれたのに。手の焼ける人ですねぇ」
 ショゲてソファで横になっていた俺を、アレンが見下ろしていた。
「王国一の猫舌で、しかも短気な人にホットサンドは無理なのですよ。ホットとは異世界語で『熱い』という意味だそうです」

 早く食べたい気持ちを抑えて少し温度が下がるのを待つか、フーフーして冷ましながら食べられる人でなければ楽しめない、と彼は言う。
 俺としては適温になったのを見計らって提供してもらいたいところだが、それでは意味がないと彼は言った。冷ます時間に味わう美味があるらしい。俺には理解できない世界だ。

「リアは?」と尋ねた。
「ベランダ菜園のお手入れ中です」
 彼はそう言いながら何かを差し出した。
「以前、私が口の中を切った時にもらった薬です。もしよければ」
「うん……ありがとう」
「塗った後、十五分ほど飲食を控えると効果が高いそうです」
 やはり彼は優しい男だ。

 口を開けてキースに塗ってもらうと、とんでもない臭気と、この世のものとは思えぬ苦みが広がった。
「アレン、これ……まさか」
「ん? ああ、シンドリのですから、効きますよ」
 薬師シンドリの薬、それは健康の代償として臭気とひどい味に耐える苦行の代名詞だ。
「先に言……オォエッ」
「こちらが何もしていないのに、自ら次々とお仕置きされていく人も珍しいですよね」
 彼は笑顔で扉のノブに手を掛けた。

「あとで俺の聖女が【治癒】をかけてくれると思いますよ」と言うと、彼はクスクス笑いながら出ていった。
 前言撤回。あいつ、絶対にわざとだ。
 【治癒】をかけてもらえるなら、薬なんか要らないじゃないか。ちくしょう。

「大丈夫ですか?」と、キースが背中をさすった。
「ばか、背中なんかさすったら余計に……うッ……ヴォエッ!」
 俺は再びソファに突っ伏した。
 今さらだが、フィデルの言う「アレンと対立関係になるな」という言葉がチクチクと胸に刺さる。つくづく彼は敵に回したくない。

 その晩、俺は揚げたホタテにリアの具入り白ソースをたっぷりと乗せて頬張った。溶岩のように熱いのは問題だが、温かい食事はありがたい。
 俺はぎゅっと奥歯で幸せをみしめたのだった。

 ☟

 出会った当初に比べ、すっかりオルランディア人らしくなったリアだったが、新しい店を開店させて落ち着いた頃、久々に突拍子もないことを言い出した。


――――――――――――――
noteのメンバーシップのみ、この後に下記の3エピソードを公開しています。
・ミストの聖人叙事詩(ミストとアレンが世紀の発見)
・フォンダン・オ・ショコラ(リアとアレンのバレンタイン)
・いつものモツ焼き屋(アレンとシンの男子トーク)
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