昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

婚活 §2

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「おそらく、もうお相手がいないと思うのです。だから……」
 イレーネさんは声を小さくして言った。
「相手が、いない?」
 ……この美女は何を言っているのかしら。

 彼女の普段の口ぶりから、てっきり社交の場に足を運んでいるのかと思っていた。
 ところが、神薙だった頃のわたしに「淫乱」と発言した事件や、そのあとに起きた婚約破棄の影響で、夜会はおろか社交の場にまったく行けていないと言う。
 一家全員がヒト族で構成されている貴族の中で、アラニス家の格は最高位。慈善家としても有名だ。それにも関わらず、政略結婚の打診すらも来ないと彼女は言った。

「お友達のキャスカさんとジュリアさんも同類だと思われていますわ。わたくしと状況がほとんど同じで、ただただ申し訳なくて……」
 過去を最も忌み嫌っているのは彼女自身だった。自分のしたことを悔やんでも悔やみきれず、深い反省の谷底から上がって来られなくなっている。

「ねえイレーネさん、少なくとも神薙云々うんぬんの話はもう関係ないでしょう? だって、こうして仲良しですわ。キャスカさんとジュリアさんだって、頻繁に聖女宮ここに来て一緒にお茶をしているのに……」
「世間の皆さまは、まだお怒りなのですわ」
「わたしが気にもしていないことを、世間の人が代わりに腹を立てる意味がわからないわ。はっきり言ってありがた迷惑よ。やめさせるには、どうしたらいいのかしら……」
「リア様ったら。ふふっ」

「まず、世間の皆さまに、わたしたち四人が仲良しであることを知っていただくほうがいいわ」
 そうは言ってみたものの、普段から一緒にお出かけはしているし、ほかに何をしたらいいのだろう。どこか公の場に出て行くとか?

「あ、わかった!」
 わたしはパチンと指を鳴らした。
「四人そろって夜会へ行くのはどうかしら?」
「え……いや、リア様、それはですね――」
「ねえ、旦那様ぁ? イレーネさんたちと一緒に夜会へ行ってもよろしいですか?」
「ちょぁっ! 待ってリア様! それはダメですわーっ!」

 夫は久々の休暇で、朝からずっと何かモグモグしつつ、幸せそうに新作の推理小説を読んでいた。そこへ声をかけると「は?」と言ったきり固まっている。

「わたしたちが仲良しであることを世に知らしめたいのです。三人が安心して結婚相手を探せるように」
「ま、まさか、一人で夜会へ行くつもりかっ!」
 彼は目を見開き、ワナワナ震えながら言った。

 あら……怒ってる? それとも、困ってる?
 アレンさんを見ると、目が点ならぬ「目が線」になっていた。これはわたしが何かやらかしている時の顔だ。
 おそらく一人で行ってはいけないのだろう。結婚したら夫婦で行くのがルールとか、その手の決まりがあるに違いない。さりげなく「わかっているふう」に方向転換をしよう。

「え、えーと、つまりぃ……旦那様、一緒に行ってくださいますぅ?」
「当たり前だっ!」
 きゃーーっ。またぷりぷりざえもんが出たわー!
「どうして旦那様はすぐにプリプリなさるの? でも、ありがとうございます♪」
「どこの夜会に行く気だ」
「近くて行きやすいところ?」
「そんなわけがないだろう!」
 きゃーんっ(泣)
「じゃあ、旦那様が決めてくださいますぅ?」

「き、聞いたかアレン……。俺の妻はどうなっているんだ……」
「はいはいはい、それはお互い様ですから」と、アレンさんは適当に彼をなだめている。

 招待状をまとめてある箱から、聖女が行けそうな格式の夜会を探すと言って大騒ぎになってしまった。
 わたしが見てもどうせわからないので「お菓子を食べていなさい」と言われ、イレーネさんとポテチをパリパリしながら待った。

「これはどうでしょうか?」
 マイヤー侯爵夫妻が主催する舞踏会を見つけてくれたのはアレンさんだ。
「参加者一人につき、友人を二人まで連れて来ていいと書いてあります。定期的に開催されており、催しそのものに関して悪いうわさは聞きません。格式も問題ないでしょう」
 わたしたち夫婦のお友達としてイレーネさん、キャスカさん、ジュリアさんの計三人を連れていけるのでちょうどいい。

「イレーネ嬢、念のために忠告しておく」と、夫は厳しいまなざしで言った。
「聖女と親しい間柄だと世に知られたとたん、いろんな人間が近づいて来る。相手をしっかり見極めないと痛い目に遭うぞ。こういう夜会には、悪い男が必ず来ている。十分注意をしてもらいたい。君に何かあると妻が悲しむからな」
「か、かしこまりました!」イレーネさんは緊張した面持ちで答えた。

 夫の言うことは正しい。彼女たちにとっては久々の夜会だ。わたしも経験が浅いし、しっかり対策をしたほうがいいだろう。
「旦那様のお友達か、騎士団の方々も一緒に参加していただけないでしょうか。知り合いの目を増やせば、危険度が下がりますわ。身内の紹介でダンスのお相手を選ぶとか」
 聖女様の役に立ちたいと思っている人たちに甘える作戦ではあるけれど、安全性にこだわるなら騎士団員に頼りたい。

「それなら心当たりがある。相談しておくよ」と、彼は言ってくれた。
「なんだか前にもこんなことがあったような? 作戦会議みたいな」
「ニッコロの時だろう?」
「はっ、そうですわ! 彼はどうなりましたの?」
「どうもこうもない。相変わらずの独身貴族だ」
「あら、では、これが終わったら、またニッコリさんの婚活作戦ですわね♪ 忙しくなりますわっ。アレンさんも一緒に行きましょうね? ダンスしましょう、ダーンス♪ 練習の成果を皆さまにお見せしなくては!」

 わたしがクルンと回って見せると、アレンさんはくすくす笑った。
「それなら、本番前にスローダンスも練習しましょうね?」
 彼がそう言うと、なぜかイレーネさんが真っ赤になっていた。


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