昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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1[リア]

お披露目会 §2

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 オルランディアという国は、日本なら絶対にやらないようなことを結構平気でやる国だ。
 神薙お披露目会のメインイベントとも言える「杖の試練」もその一つである。

 国宝『神薙の杖』の先端には、大きくカットされた青白い希少石が付いており、それが神薙の力を増幅するらしい。
 わたしが杖を持つことで、一部の天人族の体調に影響を及ぼすと聞いた。しかし、そこで倒れるような天人族は、神薙の夫の資質を持ち合わせていないと判断されるようだ。
 どのような苦痛なのかは知らないが「結婚したくば耐えやがれ」とでも言うような、かなり乱暴なやり方だ。
 力を増幅させると言いつつ、神薙の力が何かわかっていないという点も、いかにもオルランディアらしい。

「しっかり両手で握ってくれ」
 ヴィルさんはわたしに杖を手渡した。

 しばらくすると、おへその下あたりにじんわりと温かくなってきた。
 初めはただの違和感。それが徐々に大きくなっていく。
 まるで熱いものを飲み込んで、それが中で膨張しているような感じだった。内側から圧迫されて苦しい。

 はふー、はふー……息が荒くなる。これは、わたしの試練でもあるのだろうか??
「んん~~……うぅぅ……」
「リア様、大丈夫ですよ。意識して呼吸をしてください」と、イケ仏様が背中をさすってくれた。
 苦しさをこらえるために、つい息を止めてしまう。
 二人に背中を支えられているからどうにか倒れずに済んでいるけれど、とても一人では立っていられない。
 体の中で膨張している何かがパンパンになるまで膨らみ、限界に達したところでバン!と弾けたような感じがした。
「ひゃっ!」
 破裂した風船のように、熱が体のあちこちから一気に噴き出していく。頭と顔に何かが突き抜け、手の指先、足にも肩にも、熱い風が通り抜けた。

「リア、大丈夫だ。怖がらなくていい」
「リア様、こちらを見て。息をして。そう、ゆっくりですよ」
「はぁ……はぁ……い、今のは?」
 抜けてしまったあとは、もう苦しくなかった。
「がんばりましたね。ここから先はつらくないですよ」と、イケ仏様が乱れた前髪を直してくれた。
 熱風が通り抜けていった道をなぞるように、温かいものがずっと流れ出しているような感覚がある。
「はふぅー」と、ぬくぬくの息を吐いた。まるで中華まんになったような気分だ。しっとりホカホカしている。

 ヴィルさんが「始まるぞ」と言うと、オーディンス副団長がうなずいた。
「まるで止まる気配がありませんね」
「これは予想どおり荒れるぞ。とんでもない力だ」
 二人の会話を聞いて首をかしげた。このホカホカまんじゅうが何を荒らすというのだろう。

 数分後、会場の半数近くの人が腹部を押さえたり、頭や腰に手を当てたりして苦悶くもんの表情を浮かべていた。
 一部の人に影響が出るとは聞いていたけれど、これではほとんど「なぎ倒した」も同然の状態だ。
「ど、どうしましょう、わたしのせいで……」
「平気だ。リアはそのまま」と、ヴィルさんは涼しい顔をしている。
「でっでっでも……」
「リアは優しいな。もう場所なんか気にせず口づけをしてしまおうか」
 緊迫感のなさすぎるヴィルさんである。
「だっ……」
「ん? ダメなのか?」
 体のぬくぬくが一気に熱々になった。
 
 イケ仏様に助けを求めるべく視線を向けると、そこには苦痛で顔をゆがめた彼がいた。
「おい、アレン、大丈夫か。第一騎士団の意地を見せろ」と、ヴィルさんがからかっている。
「うるさい! 私は普段から浴びている量が違うのですよ!」
 最大の味方にまで望まぬ攻撃を食らわせてしまった……。
 彼に何かあったら、わたしの代わりに怒ってくれる人がいなくなってしまう。それに、たまに拝める至高のハンサムに眼福を感じることもできなくなる。

「いやです。死なないでください……」
「リア、死なないから大丈夫だよ。アレン、がんばれっ。あははははっ」
 こんな状況なのに、ヴィルさんは不謹慎にもケタケタと楽しそうに笑っていた。
「うるせぇぞ、この金髪クソ野郎!」
 イケ仏様はブチキレており、ひとしきりクソとかシネとか言ってキレ散らかすと、なぜか持ち直した。
 なんだか本気で心配しているわたしがバカみたいだ。
 
 苦しそうな人たちを見ているのがつらくて、杖を手放したくなった。
 しかしヴィルさんは「命に別状はないから平気だ」と言う。この状況で、どうして平気でいられるのか、彼のことがよくわからなくなってきた。

「団長が肝心なことを説明しないから不安がらせているのですよ」と、イケ仏様がヴィルさんをにらみつけながら言った。
 その言い方は、まるで「勉強をしないからテストの点が良くならないのよ」と子どもを諭すお母さんのようだ。
「肝心なことって?」わたしは首をかしげた。

「今、苦しんでいる連中は、能力が足りないにもかかわらず、あるように装った者だ。その結果、罰が下っていると考えてもらいたい」と、彼は言った。
「能力詐称の罰?」
「この集まりには魔力量の規定があり、能力の足りない者は、試練の前に退出しなくてはならなかった。しかし誰一人として外に出なかった。毎度こうなるのがお決まりだ」

 天人族には自分の魔力量を国に申告する義務があるそうだ。ところが、だいぶ多めに「盛って」届け出る例が後を絶たない。
 仕方なく「杖の試練」という形で、ふるいにかけているそうだ。
「命にはかかわらないが、自業自得さ。これに耐えられなければ、夫にはなれない」と、彼は呆れたように言った。
「神薙の力って、こういうものなのですか? 人を苦しめるような……」
「それなりの男でなければ夫は務まらないということだ。これがリアの力のすべてではないよ」

 能力詐称をあぶり出すのは仕方ないにしても、やり方が雑なところがなんともこの国らしい。
 最初から魔力量詐称ができない仕組みにしたり、会場の入り口に魔力測定機を置いたりすれば、試練など課さなくてもいいはずなのに……。
「すまない。リアにこんな光景を見せるのは反対だった。それもあって中止にしたかった」
「わたしのためだったのですね」
「まあ、ワガママも大いにあるが……」
 彼は顔だけこちらに向けると、照れくさそうに笑った。

 陛下から試練の終了が告げられ、ホッとして杖を返していると、誰かがフラフラと前に出てきた。
 わたしたちのいる壇上へ続く十段ほどの階段を、金色のマッシュルームヘアの男性が上がって来ようとしている。
 濃紺のお貴族様ロングジャケットに白のパンツ姿。その髪型をプラスすると、いかにも「ボンボン坊ちゃま」の雰囲気を醸し出していた。

 彼は口をパクパクして何か言おうとしている。
「か、神薙……様。私、私は~……!」
 なんだか様子がおかしい。酔っぱらっているのだろうか。目の焦点が合っていないし、手をぶらんぶらんさせて軟体動物のようだ。

「止まれ! 神薙に近づくな!」
「リア、下がれ。俺の後ろにいろ」
 ヴィルさんとオーディンス副団長が同時にわたしの前に出て、ボンボン坊ちゃまキノコに立ちはだかった。その前ではジェラーニ副団長と第一騎士団員が警戒態勢を取っており、王の警護を担当している近衛騎士団も陛下を連れて後ろへ下がる。

 二人の間からそっと様子を見ていると、その気配を察したヴィルさんが「見ない方がいい。杖の試練でおかしくなっている」と低い声で言った。
「わたしのせいで……?」

「神薙様、私を、どうか私を、夫にぃ~っ!」
 彼は酔っぱらったタコのようにクネクネふにゃふにゃと揺れながら叫んでいる。
「貴様、それ以上近づけば斬る!」イケ仏様が剣のグリップに手をかけた。
 陛下かヴィルさんが抜剣の許可を出せば斬られてしまう。
「ど、どうしましょう……」
「大丈夫だ。どうせ長くは持たない」と、ヴィルさんが言った時だった。
 突然、うぎゃーという叫び声が聞こえた。足を滑らせたのか、キノコが絶叫しながら階段をゴロゴロ転がり落ちていく。

「ぼ……ボンボンキノコ様、大丈夫でしょうか」
 心配して見ていると、イケ仏様がブフッと噴き出して振り返った。
「リア様、勝手に彼を変な名で呼ばないでください」
「す、すみません。髪型がまるで高級キノコのようだったので……」

 ケガはないだろうかと気にしていると、ヴィルさんが舌打ちをして振り返り、わたしを抱き寄せた。
「ヴィ、ヴィっ、ヴィルさんっ?」
「恥ずかしメーター」が一気に限界まで振り切れ、体がブルブル震える。
 こんな大勢の前でもそれをやるのですか~~っ!?
「こんなにおびえて、可哀そうに」
「ちっ違います。怖いのではなくてっ」
 あなたのせいなのですがーッ!?

 彼はわたしがおびえて震えていると思い込み、暴走している。
 ヴィルさん、落ち着いて! ここは高速道路ではありません。車幅ギリッギリの路地ですよ。止まってーっ。
 何百というお客様が、その様子を見ていた。
 わたしはもう一度「大丈夫」と言ってみたけれど、彼が余計に力を込めてきたので、もう諦めて抵抗するのをやめた……。

 ☟

 ボンボンキノコ様は神薙に対する傷害未遂で、警備の騎士に連行されたが、どう考えても杖のせいなので、罪に問わないでいただくよう陛下にお願いした。

 魔力量詐称のせいで具合が悪くなった人たちが、肩を落としてぞろぞろと出口へ向かっていく。まるで街を支配することを諦め、仲良く巣に戻るゾンビのようだ。
 挨拶すら交わしていないし、性格の良い人もいるはずなのに、こんな形で縁が切れるなんて切ない。
 想定をはるかに上回る犠牲者ゾンビが出たため、換気と休憩の時間が設けられた。
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