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4[リア]
魔素と魔力
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会議室に飛び込むと、ミスター・フォトジェニックが微笑みながら立ち上がった。
「明るい知らせがありそうですね?」
「アレンさんのお熱が下がりました。ヘルグリン菌が消えましたっ」
「間に合いましたか」
「先生のおかげですー!」
「いいえ、リア様の御力です。ハラハラしましたが、よく頑張りましたね」
先生は机に手をついて俯くと、深く長い安堵の吐息を漏らした。囁くように「良かった」と言うと再び顔を上げた。
「この一週間は私にとっても挑戦と学びの日々でした……」
ユミールさんを「先生」と呼び始めて約一週間、わたしはついに魔法が使えるようになっていた。
もちろん初心者の域は抜け出せていないけれども、アレンさんを助けられるギリギリのところまでは到達できた。
特訓を受ける前、先生から一つだけ教える条件が提示されていた。
「後日、座学を必ず受けること」
力のある者は無知ではいけません、と先生は言った。無知なまま魔法を使う人の周りでは悲劇が起きやすいとのことなので、理解を深めるための座学を受け始めた。同時に、先生の推薦図書を読んで自習もすることに。
なにせ無知がヴィルさんとのケンカの原因になったわけだし、それも踏まえて『魔法を使うと死にやすい』という理由を詳しく解説して頂く予定だった。そう簡単に死にたくはないので、解決策なども考えていきたい。
ひとしきり労い合うと、席に着いてお勉強の支度を整えた。先生も何やら分厚い本を机に並べている。
今日は内容が少しセンシティブらしく、先生と二人きりだった。最大でも八人しか入れない小さな会議室で、わたしたちは向かい合って座っている。
先生は丸いメガネをかけると、分厚い本をめくって人体の絵が載ったページを開いた。
「今日は天人族と神薙の種族間の違いを中心に説明してゆきます」
「はいっ」
先生は柔らかな口調で、わたしの魔力量は天人族と比べて非常に多いと言った。個人差はあれど、もともと神薙は魔力量が多いらしい。
「これは肉体の構造に起因しています」と、先生は人体の図を指差した。
「どこがどう違うのかというお話をする前に、まずは『魔力を構成している要素』を知っておかなくてはなりません」
魔力とは化学変化によって生み出されるもので、その原料となる成分は『魔素』と呼ばれている、と先生は言った。
「魔素とは『万物に宿り、在るもの』です」
木、石、水、草花、あらゆる自然物の中、食べ物や飲み物、空気中にも含まれている。魔素というのは総称であって、実際には多くの種類があるらしい。
「我々は食べ物やお茶などの自然物に含まれる天然魔素を、飲食によって体内に取り込んでいます。種類ごとに様々な特徴があります。お肌に良い魔素なんていうのもありますよ?」
「わぁ、そうなのですねぇ~」
同じ農産物であれば、似たような魔素を持っている。けれども、個体差があるそうだ。
生育環境の違いが、魔素の個体差を生み出す。土や近くにある植物の影響を受けるからだそうだ。加工食品であれば、製法によっても魔素は変化するらしい。
「種別ごとにだいたいは似たような魔素を持っている。しかし、その中には多少の個体差がある。これは我々人間も同じです。この世の生物は皆そうです」
「ふむふむ」
「飲食で摂取する魔素、そして人体の生命活動の中で作られる魔素があります。これがすなわち個体差を生み出す要因です」
「自分でも作っているのですねぇ」
「生きとし生けるものの体内には常に様々な魔素が存在していますが、それらは『外から摂取した魔素』と『自ら作った魔素』に大きく分類されます」
魔素の世界は不思議で溢れている。
魔力は魔素同士が結びつく化学反応で作られるらしい。しかし、すべての魔素が魔力の素になるわけではないそうだ。
「この辺りを深掘りすると魔法化学の授業になってしまうので、ご興味があれば別の日にご説明しましょう」
先生は穏やかな笑顔を見せた。
化学はあまり得意ではないけれど、後日、簡単に教えて頂くことにした。
「自ら生成した魔素と、外から摂取した魔素、これらの中から必要なものが抜き出され、人体の中で合成されて魔力が作られる。作られた魔力は下腹部に貯め置かれ、魔力操作で引き出して使う。ここまではよろしいでしょうか?」
「はいっ」
「では、人体のことについて説明をしていきましょう」
先生の説明によれば、魔素は体の一箇所に集まり、ゆっくりと合成されて魔力に変換されているそうだ。そして、リラックスしているときや眠っているときは、その合成速度が加速する。
やっぱりアレンさん達の長時間労働は良くないと確信した。ワークライフバランスの大切さを引き続きお伝えしなくては、と思った。
「──と、ここまでが天人族の話です。寝れば魔力満タンになるのが天人族だと思っておいてください。では続いて、神薙についてお話ししましょう」
「はいっ」
「天人族と大きく異なる点があります。まず魔力の貯蔵庫が人一倍大きい。そして、それにも関わらず魔素を貯め置く部分が無いに等しいほど小さい。つまり、自力で回復できる魔力が非常に少ないというのが特徴です」
ほむ……。
「先生、つまりこういうことでしょうか。材料を置く倉庫がないから生産ができない。それなのに完成品を置く倉庫だけが異様に大きい……」
「そういうことになりますね」
「あのぅ……それ、ダメなやつでは? 超オバカさん仕様ではありませんか?」
「神薙の体には、そういった構造上の矛盾があるのですよねぇ」と、先生は悲しげな顔で言った。
そ、そんなぁ~(泣)
「明るい知らせがありそうですね?」
「アレンさんのお熱が下がりました。ヘルグリン菌が消えましたっ」
「間に合いましたか」
「先生のおかげですー!」
「いいえ、リア様の御力です。ハラハラしましたが、よく頑張りましたね」
先生は机に手をついて俯くと、深く長い安堵の吐息を漏らした。囁くように「良かった」と言うと再び顔を上げた。
「この一週間は私にとっても挑戦と学びの日々でした……」
ユミールさんを「先生」と呼び始めて約一週間、わたしはついに魔法が使えるようになっていた。
もちろん初心者の域は抜け出せていないけれども、アレンさんを助けられるギリギリのところまでは到達できた。
特訓を受ける前、先生から一つだけ教える条件が提示されていた。
「後日、座学を必ず受けること」
力のある者は無知ではいけません、と先生は言った。無知なまま魔法を使う人の周りでは悲劇が起きやすいとのことなので、理解を深めるための座学を受け始めた。同時に、先生の推薦図書を読んで自習もすることに。
なにせ無知がヴィルさんとのケンカの原因になったわけだし、それも踏まえて『魔法を使うと死にやすい』という理由を詳しく解説して頂く予定だった。そう簡単に死にたくはないので、解決策なども考えていきたい。
ひとしきり労い合うと、席に着いてお勉強の支度を整えた。先生も何やら分厚い本を机に並べている。
今日は内容が少しセンシティブらしく、先生と二人きりだった。最大でも八人しか入れない小さな会議室で、わたしたちは向かい合って座っている。
先生は丸いメガネをかけると、分厚い本をめくって人体の絵が載ったページを開いた。
「今日は天人族と神薙の種族間の違いを中心に説明してゆきます」
「はいっ」
先生は柔らかな口調で、わたしの魔力量は天人族と比べて非常に多いと言った。個人差はあれど、もともと神薙は魔力量が多いらしい。
「これは肉体の構造に起因しています」と、先生は人体の図を指差した。
「どこがどう違うのかというお話をする前に、まずは『魔力を構成している要素』を知っておかなくてはなりません」
魔力とは化学変化によって生み出されるもので、その原料となる成分は『魔素』と呼ばれている、と先生は言った。
「魔素とは『万物に宿り、在るもの』です」
木、石、水、草花、あらゆる自然物の中、食べ物や飲み物、空気中にも含まれている。魔素というのは総称であって、実際には多くの種類があるらしい。
「我々は食べ物やお茶などの自然物に含まれる天然魔素を、飲食によって体内に取り込んでいます。種類ごとに様々な特徴があります。お肌に良い魔素なんていうのもありますよ?」
「わぁ、そうなのですねぇ~」
同じ農産物であれば、似たような魔素を持っている。けれども、個体差があるそうだ。
生育環境の違いが、魔素の個体差を生み出す。土や近くにある植物の影響を受けるからだそうだ。加工食品であれば、製法によっても魔素は変化するらしい。
「種別ごとにだいたいは似たような魔素を持っている。しかし、その中には多少の個体差がある。これは我々人間も同じです。この世の生物は皆そうです」
「ふむふむ」
「飲食で摂取する魔素、そして人体の生命活動の中で作られる魔素があります。これがすなわち個体差を生み出す要因です」
「自分でも作っているのですねぇ」
「生きとし生けるものの体内には常に様々な魔素が存在していますが、それらは『外から摂取した魔素』と『自ら作った魔素』に大きく分類されます」
魔素の世界は不思議で溢れている。
魔力は魔素同士が結びつく化学反応で作られるらしい。しかし、すべての魔素が魔力の素になるわけではないそうだ。
「この辺りを深掘りすると魔法化学の授業になってしまうので、ご興味があれば別の日にご説明しましょう」
先生は穏やかな笑顔を見せた。
化学はあまり得意ではないけれど、後日、簡単に教えて頂くことにした。
「自ら生成した魔素と、外から摂取した魔素、これらの中から必要なものが抜き出され、人体の中で合成されて魔力が作られる。作られた魔力は下腹部に貯め置かれ、魔力操作で引き出して使う。ここまではよろしいでしょうか?」
「はいっ」
「では、人体のことについて説明をしていきましょう」
先生の説明によれば、魔素は体の一箇所に集まり、ゆっくりと合成されて魔力に変換されているそうだ。そして、リラックスしているときや眠っているときは、その合成速度が加速する。
やっぱりアレンさん達の長時間労働は良くないと確信した。ワークライフバランスの大切さを引き続きお伝えしなくては、と思った。
「──と、ここまでが天人族の話です。寝れば魔力満タンになるのが天人族だと思っておいてください。では続いて、神薙についてお話ししましょう」
「はいっ」
「天人族と大きく異なる点があります。まず魔力の貯蔵庫が人一倍大きい。そして、それにも関わらず魔素を貯め置く部分が無いに等しいほど小さい。つまり、自力で回復できる魔力が非常に少ないというのが特徴です」
ほむ……。
「先生、つまりこういうことでしょうか。材料を置く倉庫がないから生産ができない。それなのに完成品を置く倉庫だけが異様に大きい……」
「そういうことになりますね」
「あのぅ……それ、ダメなやつでは? 超オバカさん仕様ではありませんか?」
「神薙の体には、そういった構造上の矛盾があるのですよねぇ」と、先生は悲しげな顔で言った。
そ、そんなぁ~(泣)
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