202 / 392
5[リア]
悪役失格
しおりを挟む
ヴィルさんは濃い原色のドレスはあまり好きではなく、淡いスモークがかった色を好む人だ。濃い色なら落ち着いた感じのものが良いと言っている。
今回、曲に合わせて二羽の鳥に見えるようにと彼が選んだ生地も、淡いスモーキーイエローだった。シッポの代わりに大きなバックリボンを付けてほしいと言って、彼が大きさまで指定してリボンを付けさせていた。
彼女の真っ赤なドレスは、彼からしてみると「論外」だと思う。
彼はゆるいヘアスタイルが好きだ。
巻き髪のハーフアップが大好きで、フルアップもキッチリではなくゆるゆるのふわふわがいい。ツインテールなら下めにして巻き巻きすれば、頬ずりをしてかわいいかわいいと言ってくれる。
なのに、この三画コーン令嬢は脳天に近い場所でギチギチツインテールにしている。
それと、いくら誘いたいからって露出が多すぎる。
彼は柔らかくて、丸くて、ふわふわ揺れるものが好きなのに、彼女は上から下まで、どこもかしこもキツキツのパツパツのガチガチだ。
この人、本当にヴィルさんのことが好きなのだろうか……。
もちろん相手の好みにすべてを合わせる必要はないし、自分の好きな格好をすればいいとは思う。けれども、まったく相手の気を引かない格好をしながら、変なうわさを流して人を突き飛ばすのは少し違う気がする。
取り巻きの二人もそうだ。
アレンさんを「ねらっている」なんて、本人が一番嫌がる言い方をした。
ねらっているわりに二人とも彼のことを知らなすぎる。
そもそもアレンさんは女性に対して軽く潔癖なところがあるし、好き嫌いがハッキリしている。
彼は「頭が悪くて香水が臭くてケバい女は大嫌い」と口に出して言うのをはばからない。
「これは大事なことなので声を大にして言っておきたい」とも言っていた。
当然、周りも皆それを知っている。少し情報収集をすれば、秒で手に入る情報だ。
なのに、お化粧がケバケバな彼女たちはその嫌いなタイプのど真ん中。彼をねらい撃ちする以前に、射程圏内にも入っていない。
ヴィルさんとアレンさんの様子をうかがうと、まるで汚いものでも見るような目で彼女たちを見ていた。
フィデルさんとマークさん、三人を拘束している部下の騎士団員も、皆嫌そうな顔だ。
流行と男子ウケは必ずしもイコールではつながらない。これは世界が違えど同じなのだろう。しかし、嫌いな女性に対する男性の反応は、こちらの世界のほうがずっと素直で容赦がなかった。
「はぁ……」
吐息をついて頭を抱えた。
恋のライバルって、もう少しハラハラさせるものだった気がする。
ヴィルさんを好いている女性が大勢潜んでいることは承知のうえだ。そういう人たちから嫌がらせを受けることも最初から覚悟していた。今まで競い合う相手がいなかったことのほうがおかしいとすら思っているくらい。
でも、このタイミングでライバル出現は遅すぎる。
だって、もう婚約しちゃっているのだもの……。発表が今日だっただけで、手続きはとっくに終わっていた。
彼女は今、三角コーンと同程度の役割しか担えていない。
迂回を促す看板の隣に置かれているアレと、ただの通行人であるわたしの間に敵対関係が成立するわけもなかった。
ポルト・デリングのうわさ話は、妨害工作としてかなり有効だったと思っている。
でも、今から妨害をするのなら、結婚式場で新郎を連れ去るとか、わたしの弱みを握って脅すとか、命を狙うとか、もっとえげつない作戦でなければ無理だろう。
見えない場所で先代の悪口を言われても、こちらは痛くもかゆくもない。
この目撃者の多さと周りの怒り具合は深刻だ。
ここでわたしが「不敬です」と言ったら、ヴィルさんは彼女をギロチン刑にするだろう。それはやり過ぎというものだ。
なまじ身分が高いので、この状況でちょうどいい感じのお仕置きが難しい。
①コテンパンにやられてから反撃する
②放っておく
この二択しかないのでは?
むぅ~、どうしましょう。
なんだか疲れたし、そもそも先代の悪口だから「わたしには関係ない」という気もする。
……よし、決めた。
この三角コーンはスルーさせていただきます。
「あのぅ、ヴィルさん? 無事にマリンとも会えましたし、そろそろ美味しいシャンパンでも頂きに参りましょう?」
「ハ……?」
まずい。
彼のエメラルドの瞳がグリーンピースになってしまった。
そんなシュウマイみたいな目ができるのですね、ヴィルさん。
「もういいかなって、思いまして……」
「リア、これは誰がどう見ても不敬罪だぞ?」
「アー、マァ不敬は不敬ナノデショーケレドモォー」
はっ、いけないっ。どうでも良すぎて棒読みになってしまった(汗)
婚約者と話しているのよ、しっかりしなさいリア。
感情込めてけー! ふぁいっ、オー!
「えーと、あの、ほら……そう! 時間ももったいないですし」
「何を言っているか、わかっているのか?」
「……こういう人たちを都度捕らえていては、キリがありませんよ?」
「それはそうだが」
「皆がわたしの代わりに怒ってくださるのはうれしいのですが、あの方を罰してもわたしには何の得にもならないので」
「本当にそれでいいのか?」
「言いたい人には言わせておけばいいのですよ。そもそも先代とわたしの区別もついていないのですから」
彼は困った表情を浮かべてアレンさんを見た。
顔を見合わせて軽くうなずくと、アレンさんは彼に加勢した。
「リア様、不敬罪は現場での親告が大原則です。たった今ここで言わなければ、この件を罪に問うことはできなくなります。本当にそれでよいのですか?」
グレーの瞳が心配そうにわたしを見ていた。
「でも、婚約発表の日の思い出に不敬罪なんて……」と、わたしは口をとがらせた。下手に騒ぐより、この件を忘れてしまうほうがわたしは幸せだ。
「仕方ありませんねぇ」
彼は眉尻を下げて薄く微笑んだ。
ヴィルさんもしぶしぶあきらめてくれたようだ。
彼は三人の令嬢の名前を手帳にメモすると、部下に命じて会場から追い出した。
「ワガママを言ってごめんなさい」と声をかけたけれど、何か考え込んでいて耳に届いていないようだった。
彼はわたしの手を取り、また休憩室へと向かう廊下を歩き始めた。
今回、曲に合わせて二羽の鳥に見えるようにと彼が選んだ生地も、淡いスモーキーイエローだった。シッポの代わりに大きなバックリボンを付けてほしいと言って、彼が大きさまで指定してリボンを付けさせていた。
彼女の真っ赤なドレスは、彼からしてみると「論外」だと思う。
彼はゆるいヘアスタイルが好きだ。
巻き髪のハーフアップが大好きで、フルアップもキッチリではなくゆるゆるのふわふわがいい。ツインテールなら下めにして巻き巻きすれば、頬ずりをしてかわいいかわいいと言ってくれる。
なのに、この三画コーン令嬢は脳天に近い場所でギチギチツインテールにしている。
それと、いくら誘いたいからって露出が多すぎる。
彼は柔らかくて、丸くて、ふわふわ揺れるものが好きなのに、彼女は上から下まで、どこもかしこもキツキツのパツパツのガチガチだ。
この人、本当にヴィルさんのことが好きなのだろうか……。
もちろん相手の好みにすべてを合わせる必要はないし、自分の好きな格好をすればいいとは思う。けれども、まったく相手の気を引かない格好をしながら、変なうわさを流して人を突き飛ばすのは少し違う気がする。
取り巻きの二人もそうだ。
アレンさんを「ねらっている」なんて、本人が一番嫌がる言い方をした。
ねらっているわりに二人とも彼のことを知らなすぎる。
そもそもアレンさんは女性に対して軽く潔癖なところがあるし、好き嫌いがハッキリしている。
彼は「頭が悪くて香水が臭くてケバい女は大嫌い」と口に出して言うのをはばからない。
「これは大事なことなので声を大にして言っておきたい」とも言っていた。
当然、周りも皆それを知っている。少し情報収集をすれば、秒で手に入る情報だ。
なのに、お化粧がケバケバな彼女たちはその嫌いなタイプのど真ん中。彼をねらい撃ちする以前に、射程圏内にも入っていない。
ヴィルさんとアレンさんの様子をうかがうと、まるで汚いものでも見るような目で彼女たちを見ていた。
フィデルさんとマークさん、三人を拘束している部下の騎士団員も、皆嫌そうな顔だ。
流行と男子ウケは必ずしもイコールではつながらない。これは世界が違えど同じなのだろう。しかし、嫌いな女性に対する男性の反応は、こちらの世界のほうがずっと素直で容赦がなかった。
「はぁ……」
吐息をついて頭を抱えた。
恋のライバルって、もう少しハラハラさせるものだった気がする。
ヴィルさんを好いている女性が大勢潜んでいることは承知のうえだ。そういう人たちから嫌がらせを受けることも最初から覚悟していた。今まで競い合う相手がいなかったことのほうがおかしいとすら思っているくらい。
でも、このタイミングでライバル出現は遅すぎる。
だって、もう婚約しちゃっているのだもの……。発表が今日だっただけで、手続きはとっくに終わっていた。
彼女は今、三角コーンと同程度の役割しか担えていない。
迂回を促す看板の隣に置かれているアレと、ただの通行人であるわたしの間に敵対関係が成立するわけもなかった。
ポルト・デリングのうわさ話は、妨害工作としてかなり有効だったと思っている。
でも、今から妨害をするのなら、結婚式場で新郎を連れ去るとか、わたしの弱みを握って脅すとか、命を狙うとか、もっとえげつない作戦でなければ無理だろう。
見えない場所で先代の悪口を言われても、こちらは痛くもかゆくもない。
この目撃者の多さと周りの怒り具合は深刻だ。
ここでわたしが「不敬です」と言ったら、ヴィルさんは彼女をギロチン刑にするだろう。それはやり過ぎというものだ。
なまじ身分が高いので、この状況でちょうどいい感じのお仕置きが難しい。
①コテンパンにやられてから反撃する
②放っておく
この二択しかないのでは?
むぅ~、どうしましょう。
なんだか疲れたし、そもそも先代の悪口だから「わたしには関係ない」という気もする。
……よし、決めた。
この三角コーンはスルーさせていただきます。
「あのぅ、ヴィルさん? 無事にマリンとも会えましたし、そろそろ美味しいシャンパンでも頂きに参りましょう?」
「ハ……?」
まずい。
彼のエメラルドの瞳がグリーンピースになってしまった。
そんなシュウマイみたいな目ができるのですね、ヴィルさん。
「もういいかなって、思いまして……」
「リア、これは誰がどう見ても不敬罪だぞ?」
「アー、マァ不敬は不敬ナノデショーケレドモォー」
はっ、いけないっ。どうでも良すぎて棒読みになってしまった(汗)
婚約者と話しているのよ、しっかりしなさいリア。
感情込めてけー! ふぁいっ、オー!
「えーと、あの、ほら……そう! 時間ももったいないですし」
「何を言っているか、わかっているのか?」
「……こういう人たちを都度捕らえていては、キリがありませんよ?」
「それはそうだが」
「皆がわたしの代わりに怒ってくださるのはうれしいのですが、あの方を罰してもわたしには何の得にもならないので」
「本当にそれでいいのか?」
「言いたい人には言わせておけばいいのですよ。そもそも先代とわたしの区別もついていないのですから」
彼は困った表情を浮かべてアレンさんを見た。
顔を見合わせて軽くうなずくと、アレンさんは彼に加勢した。
「リア様、不敬罪は現場での親告が大原則です。たった今ここで言わなければ、この件を罪に問うことはできなくなります。本当にそれでよいのですか?」
グレーの瞳が心配そうにわたしを見ていた。
「でも、婚約発表の日の思い出に不敬罪なんて……」と、わたしは口をとがらせた。下手に騒ぐより、この件を忘れてしまうほうがわたしは幸せだ。
「仕方ありませんねぇ」
彼は眉尻を下げて薄く微笑んだ。
ヴィルさんもしぶしぶあきらめてくれたようだ。
彼は三人の令嬢の名前を手帳にメモすると、部下に命じて会場から追い出した。
「ワガママを言ってごめんなさい」と声をかけたけれど、何か考え込んでいて耳に届いていないようだった。
彼はわたしの手を取り、また休憩室へと向かう廊下を歩き始めた。
50
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる