昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

謁見の準備

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 『神薙の家』プロジェクトは順調だった。
 独身寮として使われていた東三区の建物を買い取り、まずは場所を確保した。
 建物は二つの年代に分けて建てられており、半分は建て替えたほうが良いものの、もう半分はリフォームするだけで使えるそうだ。スタッフの募集も始まり、子どもたちの受け入れ準備は着々と進んでいる。

 神薙予算がかなり余っていたので、プロジェクトの予算に振り替えてもらった。リフォーム費用は全額それでまかなえるし、別のことにも回せそう。日頃のケチケチ節税対策も、こうして役に立つのだからたいしたものだ。
 ただ、毎月の運営費となると話は別だった。
 安定した運営のためには、広い範囲から寄付を集めたい。行く先々でさりげなく話題にするよう心がけていた。興味を示してくれる人が多く、皆さん一様に「寄付はしたかったけれど、教会が絡むと面倒で」と話していた。宗派争いは貴族からも良く思われていないらしい。そればかりか「孤児院へ寄付しても、お金がほかへ流れている」という不穏な噂まで聞こえてきた。

 洗濯機の件でときどき会うグルグルさんとクルクルさんも、サクッと寄付をしてくれた。
 彼らはヴィルさんの仲介がきっかけでベルソール商会に就職し、魔道具の開発と製造の事業部長にそれぞれ着任している。ガッツリと収入が得られるようになり、研究費は会社持ち。そのおかげで懐事情が激変したと言う。
 話だけ聞けばセレブとしての地位を確立したかのように聞こえるのだけれども、お茶を飲むのも忘れて設計についてしゃべりまくってしまうところも、全然気にしない感じの風貌も、以前とまったく変わらない。彼らはセレブになっても気さくで良い人たちだった。

 わたしの草の根的活動とは別に、イケオジ陛下とお義父様も動いてくれている。
 王宮からの公式発表が出て、新聞や雑誌に大きな広告が載り、上位貴族や経済界のトップと言われる人々が集まる会議ではムツゴロウの二人が堂々たるプレゼンをした。
 第三騎士団が警備する公共施設には、小銭でも寄付できる募金箱が設置されている。
 当初は日本のコンビニのレジ横を真似した試みだったものの、オルランディア版は箱が団員のすぐ隣にある。憧れの騎士様に大接近しながら慈善活動に参加できると評判を呼び、ちょっとした推し活要素が加わっていた。
 神薙の家は、この王国始まって以来の大規模な慈善事業だ。皆の協力のおかげで着実に広まっている実感がある。

 街の調査班からは新たな孤児の情報も入ってきていた。慈善家の屋敷で保護して、施設の完成を待つことになっている。

 ☟

「リアお姉ちゃん、着たよー」
 甘えん坊のディーンが走ってサロンに入ってきた。
 陛下が子どもたちに会いたいと言ってくれたので、皆で正装用の服を試着しているところだ。
 ディーンはお子さま用スーツに赤い蝶ネクタイ。つやつやマッシュルームヘアとプニプニほっぺが相まって、食べちゃいたいくらいカワイイ。

 続いてやって来たショーンは、わたしの前で微笑みながらクルリと回った。
 正装のせいでイケボーイに拍車がかかっている。ヘアサロンでニッコリさんと同じ髪型に整えてからというもの、もう格好良すぎて困っているのだ。
 すでに女ったらしの片鱗が見え隠れしている彼を、正統派イケメンになるようしっかり育てなくてはと皆で焦っている。

 ロリーはアレンさんにしがみついてマイペースにお菓子の話をしていた。
 彼女の自己中には毒がない。いつも甘いものに夢中で、なんでも聞いてくれる彼のことが大好きなのだ。「アレン聞いて。抱っこして」が口癖で、彼とセットで皆の癒しになっている。
 正装ドレスは本人の強い希望でイチゴケーキの柄になった。

 ドレス姿のサナとエッラが入ってくると、周りから拍手が上がった。
 お花のコサージュが付いた色違いのドレスがかわいい。皆で悩みに悩んで選んだヘアアクセサリーもピッタリだ。
「すごくきれいよ。お姫様みたい。やっぱりこのドレスにして大正解でしたねぇ~」
 自分で選んでおきながら、感動して泣きそうだった。二人がお嫁に行くとき、たぶんわたしは号泣すると思う。
 彼女たちは少し照れくさそうにしていたけれど、最高の笑顔を見せてくれた。

 最後にサロンに入ってきたテオは、ヴィルさんから服の着方やタイなどの最終チェックを受けている。紳士のマナーについては、紳士に任せるのが一番だ。
 テオの服と飾りはオシャレ番長のアレンさんが選んでくれたので、絶対に間違いない。

 エムブラ宮殿に来てからというもの、子どもたちの変化は目を見張るようだった。
 日に日に言葉の数が増えているし、本を読んでわからないことがあると周りに質問している。
 特にテオとサナは激変と言っても過言ではない。服が変わっただけで二人の行動はガラリと変わった。
 サナはガニ股で歩かなくなったし、足を開いて座ることもしなくなった。鏡をよく見るようになり、髪のお手入れや基礎化粧品の使い方を教わって、きちんと自分でお手入れをしている。
 テオは周りから教わったり、真似してみたりしながら、オルランディア紳士を目指して着実に成長している。丸まりがちだった背中も、ぴんと伸ばして立つようになった。

「カッコイイですよ、テオ君」
 声をかけると、彼は顔を赤らめた。
「リア姉ちゃんも一緒に行くんだよね? 王様のところ」
「ええ。わたしのおじい様も一緒よ」
「挨拶ってさ、失敗したら王様に怒られるの?」
「がんばる子どもを𠮟るような方ではないわ」
「でもさ、やっぱ普通のお辞儀じゃないとダメだよね?」
「ん? 普通じゃないお辞儀があるの?」
 わたしはテオの不思議な質問に首を傾げた。

「呼び方は分かんないけど、なんかあるんだよ」
「ほむ?」
「前にね、孤児院に来た騎士様が見せてくれたことがあって」
「騎士様がやるお辞儀なの?」
「多分そう。で、昼間さ? カッコイイのをやりたいって駄々をこねて……」
 テオが何か言いかけると、ショーンが慌てた様子で「でも僕、文句は言ってないよ?」と弁解した。
 どうやら言い出しっぺはショーンのようだ。イケボーイは何を企んでいるのやら?
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