昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

やや焦げマカロン

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「そろそろ焼ける時間ですよ」と、アレンさんがわたしから本を取り上げた。

「あん……まだ読んでたのに」
「本人の前で一問一答を読む意味が分かりません。私のことなんて何でも知っているでしょう? あと、私が書いた部分は読まなくていいですからね」
「もうちょっとだけ」
「窯を見なくていいのですか? また焦げて泣いても知りませんよ?」
「はっ、いけない! そうでした!」

 久々に丸一日フリーになったため、マイキッチンでパタパタと活動していた。
 三時のお茶に合わせて焼いた本日のスペシャルを、いざチェーック!

「あ……ちょっと焦げちゃってる……」
「ほら、言わんこっちゃない」
「でもでもっ、これは成功だと思いますよ?」
「長かったですねぇ」

 ふっふっふ、今日のおやつはすごいですよ。
 テッテレー! やや焦げマカロ~~ン!

 冷ましてクリームを挟んだら、うっすら焦げた部分を隠すように盛りつけて完成だ♪
 皆さま、どうぞ斜め下あたりからご覧ください(側面だけ見る感じで)
「はぁん……なんて可愛いのでしょう♪」
 ここまでの苦労が呼び起こされ、感動で胸が熱くなる。これは食べるも涙、語るも涙だ。

 お菓子作りは化学実験に似ていて、割合や分量が命だ。
 パウンドケーキやクッキーなど、少し間違えてもどうにかなる初心者向けレシピはあれど、大半は正確な分量が分からないと失敗する。
 パイに関しては、こちらの世界に来る直前に二回ほど焼いていたのでどうにかなった。そもそも頻繁にキッチンに立っていたので、覚えているレシピは人より多い。
 思い出したものからレシピノートを書いているし、料理長という天才が味方についていることもあって、大抵のものは再現できていた。
 ところが、マカロンは作った回数も少なかったうえ、一部の工程で見極めに経験を要するなど難易度はお高めだ。環境の整った日本でやっても失敗したことがある。
 それをレシピもない場所で、記憶だけを頼りに試行錯誤しているのだから、そもそも無謀な話だった。

 しかし、敵は腹の中にあり!
 一度「食べたい」と思ってしまったが最後、もうわたしは止められない。マカロンの食感と歯ざわりは、他のものでは代用が利かないのだ。

 王都のお菓子屋さんを探した。売っていない。
 料理人の皆にも聞いた。誰も知らない。
 王宮にいるパティシエさんにも聞いた。王国一のパティシエでも知らない。

 なぜなのですか?
 日本ではコンビニでも売られていたのに。
 コンビニにあるということは、生活必需品だという証拠ではありませんか?
 ペンにメモ帳、ストッキングにおぱんつ、お弁当とサンドウィッチ、切手に宅配便、公共料金の支払い……そしてマカロンですよ。
 必需品なのです。だから、コンビニにあるのです。
 バーガーショップでも売られていました。
 ハンバーガーを小さいうちに獲る(?)とマカロンなのですよ。だって形状がソックリではありませんか。きっと、お父さんがチーズバーガーで、お母さんは照り焼きバーガーなのです。
 
 わたしは試行錯誤を続けていた。
 何度も何度もニッチャリとした、またはカリカリになった、ひどい食感の塊を食べてきた。
 しかし、ご覧ください!(側面だけ)
 リア様の食い意地は、岩をも通すのです。
 はぁぁ、会いたかったですよ、マカロンさん。ちょっと茶色く日焼けしていますけれども、健康的でよろしいわ。

「アレンさん、こちらが噂のマカロンですわっ」
「ようやくの対面ですね?」
「さっそく味見を致しましょうっ」

 いそいそと珈琲を淹れ、キッチンカウンターでつまみ食いをしながら話していると、玄関ホールからヴィルさんの声が聞こえた。

「はあ? なんだと?! 追い返せっ!!」

 思わず顔を見合わせた。
 ヴィルさんったら。お休みの日になにをプリプリと怒っているのでしょう? 「追い返せ」って、またいつものインチキ魔道具屋でも来たのですか?

「なんれひょうねぇ?」もぐもぐ。
「あー、これ珈琲と良く合いますねぇ」もぐもぐ。
「でしょう? 頑張って良かったですわ」
「どうします? 行ってみますか?」
「ここの従業員に怒鳴るのはやめてくださいとお願いしているのに、一向に改善されませんねぇ」
「もう一度釘を刺しましょう」

 わたし達はマカロンと珈琲に後ろ髪を引かれながら、ノロノロと玄関ホールへ向かった。

「ヴィルさん、どうなさったの?」
「げっ、リア!」
「なんだか、来ちゃいけなかったみたいな言い方ですわね」

 婚約者に「げ!」というリアクションは、どうなのでしょうか。

「アレン、ちょっと後で話がある」と、ヴィルさんは言った。
「わたしはお邪魔虫ですの?」
「いや、違う! そういう意味ではない。これは、その、つまりは、えー……警備上の問題であるからして……」
「さっき『追い返せ』と聞こえましたけれども、どなたがいらっしゃったのですか?」

 ヴィルさんはバツが悪そうに「聞こえてしまったか」と頭をかいている。

「執事長に向かって怒鳴るのもおやめくださいね。彼は陛下の命でわたしのために働いているのです。ヴィルさんの部下ではございません。文句があるならわたしに言ってくださいね?」
「分かっている。すまない……本当に、すまない」

 執事長に視線を向けた。
 彼はヴィルさんと目配せをするとため息をつき、観念したように話し始めた。

「実は……アラニス伯のご令嬢がいらしております。ただ、先触れがなかったものですから、まずはランドルフ様にお伺いを立てた次第です」
「アラニス伯令嬢? 存じ上げませんけれども、またわたしが忘れているのでしょうか?」
「最近、アラニス伯家に入られたばかりのご令嬢です」
「入られたばかりとは?」

 アラニス様と言われても、聞いたことがあるような、ないような……。
 しかし、そもそも忘れている可能性が高いので自信がない。お茶会でお会いしたおばあちゃまのお孫さんとかかしら?
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