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2[リア]
ピリピリ
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「王宮へ行かれる際は、必ず誰かのそばにいてください。王宮とは言え妙な輩はいます」
くまんつ様の言い方は、何か含んでいるような気がしていた。
ヴィルさんがお見合いの日にピリピリしていることと関係があるのかしら、と。
それ以外にも、たくさん気になっていることがあった。
しかし、日々ヴィルさんの行動に気を取られ、普段なら「なんで?」「どうして?」と周りに聞くようなことを、ことごとくスルーしてしまっていた。
後日、お見合いの場で事件が起きることになったのは、そんなスルーを積み重ねてしまったせいかも知れない。
──その日は、第一騎士団のピリピリ度合いが普段の比ではなかった。
「どういうことだ! 説明しろ!」
お見合いの取りまとめをしている元気ハツラツ君は、ヴィルさんに胸ぐらを掴まれて壁に押し付けられていた。
ヴィルさんは見たこともないほど激怒しており、世界を癒す王家の微笑みは宇宙の彼方へ消えていた。
彼は理由もなく怒る人ではないので、ハツラツ君が何かやらかしたのだと思う。
なんとなく嫌な予感がした。
今日は何か起きそうだ、と。
「アレン、リアから離れるな!」と言って、ヴィルさんは元気ハツラツ君をむんずと掴んだ。
「その男、どうするのですか?」と、アレンさんが尋ねる。
「つまみ出す!」
顔を真っ赤にしたヴィルさんは、部屋の出入り口に向かってハツラツ君を引きずっていった。
廊下から「うわあぁ」というハツラツ君の悲鳴が聞こえた。放り投げられたのだろう。
「不安にさせてすみません。彼は仕事ぶりに問題のある文官でした。おそらく今日を最後にして、見合いの件からは外れてもらうことになると思います」
これまで無表情を貫いていたアレンさんまでもが額に青スジを浮かべていた。
お見合いを巡り、見えないところで何かが起きている。そう思うのに十分な状況が揃っていた。
同じような話を聞いている三十分の繰り返しは苦行であり、それをこのトゲトゲした空気の中でするのは余計にキツい。
「このやり方ではわたしの結婚相手は見つからない」と、改善を求めるつもりだった。
ところが、肝心の担当者が部屋から追い出される事態。
怒っているヴィルさん達には話しにくい。
少し時間を置いて、落ち着いてからにしようと思った。
──しかし、事件はその前に起きてしまった。
そのお見合い相手の名前は「ナントカ子爵」程度にしか覚えていない。
印象深い人ではあった。なにせ彼が話し始めた途端「あー、これはダメだ」と思ったのだ。
なくて七癖とは良く言ったもので、彼は瞬きが異様に多く、舌なめずりを頻繁にするペロペロさんだった。生理的に無理だった。
ただ、こちらはプレゼンをされる側で、相手には持ち時間がある。
元気ハツラツ君が時短してくれるのはお見合い相手が変わるときのインターバルのみだ。プレゼンの時間は短くしてもらえないしお見合いのキャンセルもできなかった。
彼いわく、それが「決まり」なのだそうだ。
自分のお見合いなのに、なぜ「規則を守って」とか、「このような決まりなので我慢してください」と言われるのかがよく分からない。
ハツラツ君は話しやすい人ではあったけれども、妙に頭の固いところがあった。それがヴィルさん達を怒らせたのかも知れない。
ペロペロさんのプレゼンは、今までのお見合い相手とはまったく異なるジャンルだった。
ここに来てようやくの新ジャンル。しかし、残念ながら歓迎できるものではなかった。
それは、キョーレツな下ネタが大渋滞を起こしている不謹慎なセクハラプレゼンだった。
いやはや、王宮のフィルターは一体どうしちゃったのでしょうか。
ヴィルさんがハツラツ君の胸ぐらを掴んでユサユサしてしまう気持ちも分かる気がした(わたしもやりたい)
これが終わったらメチャメチャ文句言おう、と心に決めた。
長々と語られる不謹慎ネタに、わたしの全機能が停止した。
黙っていることで気を良くしたのか、相手はさらにひどい方向へと話を発展させる。
ついにわたしの脳が拒絶反応を起こし始めた。
とてもではないけれど、三十分を耐え抜く自信がない。何とかしなくては、と思い始めた。
誤解を恐れずに言うなら、下ネタが嫌いだと言っているわけではない。
わたしも大人なので、気心知れた相手と話す分にはなんでもないし、むしろ、そういう相手とならば話題が何であっても楽しい。
信頼関係のない相手に向かって、歓迎されていない話をベラベラ喋り続ける。この無神経さが苦手なのだ。
万が一に備え、わたしは防犯グッズのような魔道具を持たされていた。
このお見合いのために、猫型ロボットがポケットから出すような未来のお道具が導入されたのだ。
名前は忘れてしまったけれども、それはピンポン玉より少し小さいくらいの球状で、シリコンのような柔らかい素材でできていた。
仕組みについての説明も一応聞いたけれども、魔法の話が出てきて、まるでチンプンカンプンだった。とにかく、ぐにゅっと押せば受信機がブルブル震えるらしい。
部屋の外にいるヴィルさんが受信機を持っているので、押せば彼に通報ができる仕組みだ。
危険な目に遭っているわけではないけれど、押すべきか迷った。
自問自答のお時間です。
残りの時間、我慢できるのか? いいえ。
話の内容に興味があるのか? いいえ。
彼を夫にしたいのか? いいえ。
では、いつ押すのですか?
今ですね。
もにゅっ。
……押しちゃった。
くまんつ様の言い方は、何か含んでいるような気がしていた。
ヴィルさんがお見合いの日にピリピリしていることと関係があるのかしら、と。
それ以外にも、たくさん気になっていることがあった。
しかし、日々ヴィルさんの行動に気を取られ、普段なら「なんで?」「どうして?」と周りに聞くようなことを、ことごとくスルーしてしまっていた。
後日、お見合いの場で事件が起きることになったのは、そんなスルーを積み重ねてしまったせいかも知れない。
──その日は、第一騎士団のピリピリ度合いが普段の比ではなかった。
「どういうことだ! 説明しろ!」
お見合いの取りまとめをしている元気ハツラツ君は、ヴィルさんに胸ぐらを掴まれて壁に押し付けられていた。
ヴィルさんは見たこともないほど激怒しており、世界を癒す王家の微笑みは宇宙の彼方へ消えていた。
彼は理由もなく怒る人ではないので、ハツラツ君が何かやらかしたのだと思う。
なんとなく嫌な予感がした。
今日は何か起きそうだ、と。
「アレン、リアから離れるな!」と言って、ヴィルさんは元気ハツラツ君をむんずと掴んだ。
「その男、どうするのですか?」と、アレンさんが尋ねる。
「つまみ出す!」
顔を真っ赤にしたヴィルさんは、部屋の出入り口に向かってハツラツ君を引きずっていった。
廊下から「うわあぁ」というハツラツ君の悲鳴が聞こえた。放り投げられたのだろう。
「不安にさせてすみません。彼は仕事ぶりに問題のある文官でした。おそらく今日を最後にして、見合いの件からは外れてもらうことになると思います」
これまで無表情を貫いていたアレンさんまでもが額に青スジを浮かべていた。
お見合いを巡り、見えないところで何かが起きている。そう思うのに十分な状況が揃っていた。
同じような話を聞いている三十分の繰り返しは苦行であり、それをこのトゲトゲした空気の中でするのは余計にキツい。
「このやり方ではわたしの結婚相手は見つからない」と、改善を求めるつもりだった。
ところが、肝心の担当者が部屋から追い出される事態。
怒っているヴィルさん達には話しにくい。
少し時間を置いて、落ち着いてからにしようと思った。
──しかし、事件はその前に起きてしまった。
そのお見合い相手の名前は「ナントカ子爵」程度にしか覚えていない。
印象深い人ではあった。なにせ彼が話し始めた途端「あー、これはダメだ」と思ったのだ。
なくて七癖とは良く言ったもので、彼は瞬きが異様に多く、舌なめずりを頻繁にするペロペロさんだった。生理的に無理だった。
ただ、こちらはプレゼンをされる側で、相手には持ち時間がある。
元気ハツラツ君が時短してくれるのはお見合い相手が変わるときのインターバルのみだ。プレゼンの時間は短くしてもらえないしお見合いのキャンセルもできなかった。
彼いわく、それが「決まり」なのだそうだ。
自分のお見合いなのに、なぜ「規則を守って」とか、「このような決まりなので我慢してください」と言われるのかがよく分からない。
ハツラツ君は話しやすい人ではあったけれども、妙に頭の固いところがあった。それがヴィルさん達を怒らせたのかも知れない。
ペロペロさんのプレゼンは、今までのお見合い相手とはまったく異なるジャンルだった。
ここに来てようやくの新ジャンル。しかし、残念ながら歓迎できるものではなかった。
それは、キョーレツな下ネタが大渋滞を起こしている不謹慎なセクハラプレゼンだった。
いやはや、王宮のフィルターは一体どうしちゃったのでしょうか。
ヴィルさんがハツラツ君の胸ぐらを掴んでユサユサしてしまう気持ちも分かる気がした(わたしもやりたい)
これが終わったらメチャメチャ文句言おう、と心に決めた。
長々と語られる不謹慎ネタに、わたしの全機能が停止した。
黙っていることで気を良くしたのか、相手はさらにひどい方向へと話を発展させる。
ついにわたしの脳が拒絶反応を起こし始めた。
とてもではないけれど、三十分を耐え抜く自信がない。何とかしなくては、と思い始めた。
誤解を恐れずに言うなら、下ネタが嫌いだと言っているわけではない。
わたしも大人なので、気心知れた相手と話す分にはなんでもないし、むしろ、そういう相手とならば話題が何であっても楽しい。
信頼関係のない相手に向かって、歓迎されていない話をベラベラ喋り続ける。この無神経さが苦手なのだ。
万が一に備え、わたしは防犯グッズのような魔道具を持たされていた。
このお見合いのために、猫型ロボットがポケットから出すような未来のお道具が導入されたのだ。
名前は忘れてしまったけれども、それはピンポン玉より少し小さいくらいの球状で、シリコンのような柔らかい素材でできていた。
仕組みについての説明も一応聞いたけれども、魔法の話が出てきて、まるでチンプンカンプンだった。とにかく、ぐにゅっと押せば受信機がブルブル震えるらしい。
部屋の外にいるヴィルさんが受信機を持っているので、押せば彼に通報ができる仕組みだ。
危険な目に遭っているわけではないけれど、押すべきか迷った。
自問自答のお時間です。
残りの時間、我慢できるのか? いいえ。
話の内容に興味があるのか? いいえ。
彼を夫にしたいのか? いいえ。
では、いつ押すのですか?
今ですね。
もにゅっ。
……押しちゃった。
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