昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

文字の大きさ
74 / 392
2[リア]

絵心

しおりを挟む
 ──ガーデンパーティー当日。

 くまんつ様たちがやって来た。
 初日にわたしを助けてくださったゴリさん……もとい第三騎士団の皆さんだ。

 くまんつ様はいつ会っても紳士で優しくて素敵な方だ。
 彼とヴィルさんとは幼馴染だそうで、二人の容赦ない掛け合いに、皆お腹を抱えて笑っていた。
 彼と話しているヴィルさんは、いつもの世界を癒すキラキラスマイルとは少し違い、自然で優しい微笑みを浮かべていた。

 よく晴れた日のバーベキューパーティーは癒しの時間だ。
 わたしのつたないチキン南蛮は、料理長の試行錯誤によってオルランディア風にアレンジされ、会心の一撃を放っていた。

 料理長はオルランディア風に味を調整し終えると、いつもわたしに改良版のレシピをくれる。
 異世界レシピを輸出して、オルランディア版を逆輸入することによってウィン・ウィンの関係ができているのだ。
 うちの料理長は「神の舌」の異名を持つすごい料理人で、お父様は有名な料理評論家、おじい様は王宮料理人だったという。
 知っているレシピをお渡しすれば、すべてプロ仕様のすごいレシピに生まれ変わるかも知れない♪

 くまんつ様はブランド牛もほったらかしで、タルタルソースをたっぷり背負った鶏を美味い美味いと食べてくれた。


 以前、ヴィルさんからの手紙に「とても絵が上手なお友達」の面白い話が書いてあった。それが実はくまんつ様のことらしい。

「え? 団長って、そんなに絵うまかったっけ?」
「いや、見たことないなぁ」

 くまんつ様の部下の人達が口々に言った。
 どこからともなく、紙とペンが出てくる。

「ふっ……仕方ないですね。神童と呼ばれた私の才能をお見せしましょう」

 くまんつ様はとても堂に入った感じで、サラサラっと何か描いてくださった。
 「リスの絵」だと言う。

 見せて頂こうと近づいていくと、後ろから慌てた様子のアレンさんに呼び止められた。

「リア様! それを見ては駄目です!」
「え?」

 一瞬、彼のほうを振り返った。
 しかし、くまんつ様が前で「ほら」と言った。
 前後から声をかけられ、「ん?」と前を向く。
 くまんつ様は、親切に紙をこちらへ向けてくださっていた。
 それを見た瞬間、アレンさんが止めようとしていた理由が分かった。

 時が止まった──

 「遅かった! リア様、しっかりしてください」と、アレンさんの声が遠くで聞こえる。

 画伯だ。
 くまんつ様は画伯なのだ……。

 大きな体に繊細さを持つギャップ系紳士。
 なのに、そこ・・はストレートなのだ。

 やられる……
 も、も、もう、防御が間に合いませんっ。

 そして、時は動きだした。

 「くまんつ砲」に腹筋を破壊され、呼吸困難に陥った。
 わたしを助けにきたアレンさんに対しても、彼は「ほらほら、アレン」と、容赦ない攻撃をしかけた。
 わたしを介抱しながら必死に抵抗していたアレンさんは、「こっちに向けるな! 見……」と言い残し、わたしと共に庭園の芝生の上に散った。

 くまんつ様のリスは、耳が上と左右に四つある。上の二つはリスの耳で、左右の二つは人間の耳だ。
 目はぐるぐるで焦点が合っておらず、人間と同じ形の鼻に、物凄い出っ歯がついていた。
 そして、縦縞だったはずの模様は、海軍も驚くほどの横縞に。もっふりとしているはずのシッポは、稲妻の形をしていた。

 激やせして出っ歯になったシマシマの海軍ピカ●ュウである。
 ヴィルさんが「これは世界の人々のリスではないぞ」とツッコんだせいで、余計に庭園でうずくまる負傷者が増えた。
 幼少期から見慣れていて耐性のあるヴィルさんだけがスンとしていて無事だった。

 画力以外の才能が爆発したその芸術作品もとい無慈悲な大量破壊兵器は、「俺のリス」と名付けられ、くまんつ様のサインが入ってわたしの手元にやって来た。


 帰り際、くまんつ様がじっとわたしを見て言った。

「リア様、見合いで王宮へ行かれる際は、絶対にヴィルのそばを離れないでください」
「はい?」
「絶対に、片時も離れないでください。アレンでもフィデル先輩でも構いません。必ず誰かのそばにいてください。王宮とは言え妙な輩はいますから」

 お見合いの最中は護衛と離れざるを得ないのですけれどねぇ……と思いつつも、「分かりました」と答えた。
 そして、皆で手を振り、彼らが帰っていくのを見送った。


 迷《・》画「俺のリス」は、アレンさんが用意してくれた小さな額に入れられた。

「アレンさん、辛いことがあったときは、これを一緒に見ましょうねぇ」
「腹筋はやられますが、元気は出そうですね」

 暖炉の上にお座りしているクマ君の後ろに額を立てかけた。
 それを見て「裏返しで置くのですね?」と、彼が言った。

「そのほうが効果が高いと思うのです」
「ほう」
「落ち込んだときは、よよよ……っと、ここに来て、おすがりします」

 額を取り、くるりと表をこちらに向けた。

 わぁ……すごい(笑)

 自然と笑顔になり、笑顔を通り越して腹筋にクる。
 アレンさんが「急にこっちに向けるな」と、暖炉につかまって痙攣していた。
 いくらでも笑える凄いアイテムを手に入れてしまった。


 相変わらずお見合いリストにヴィルさんの名前は載っていなかったので、自分から積極的に距離を縮めるのは躊躇があった。
 彼は王族だし、現実的に考えれば考えるほど、『わたし、遊ばれているのでは?』というネガティブな考えが頭をかすめる。

 わたしは神薙様なのだし、開き直って好き好きしてしまうのも、ある意味正解だとは思う。
 しかし、そういう「割り切ったお付き合い」的なものには慣れていないし、結局は遊ばれそうな気がした。
 彼が人目を盗むようにグイグイ迫ってきても、上手く対処もできずにいる。

 不思議と物理的な拒絶が難しい。
 彼を見るとドキドキするし、彼の目を見ると動けなくなる。
 距離を取ったほうが良いと思っていても、なかなかそれができずにいた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

処理中です...