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[リア]
山積する課題 §2
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ドドドド……と、地響きのような音が徐々に近づいていた。棚の上の置き物に振動が伝わり、カタカタと音を立てている。
「これって、まさか馬の足音ですか?」と尋ねた。
「んー、そのようですね」と、アレンさんは微妙な面持ちだ。
思わず横目で彼を見ると、バチっと目が合った。お互いに言葉は発しなかったが、おそらく考えていることは同じだろう。想定よりも音が大きいような気がするのだ。
ヴィルさんは額に手を当て「なんか、嫌な予感がするな」とつぶやいている。
「呼びに行った方と、連絡係の方、二頭で戻って来るのですよね?」と、わたしは確認をした。
「その、はず、なの、だが……」
「二頭でこんなに音が??」
「いいや、これは間違いなく十頭以上だ。しかも、例の馬だと思う」
教会の正面入り口へ出ると、団員が慌ただしく給水用の桶に水を汲み、馬が休憩する場所へ運んでいた。
子どもたちが不安そうな顔で「なんの音?」と集まって来ている。
「このお兄さんのお友達が、こちらに来る予定があって」と言いかけたところで、小さなディーンが泣きだしてしまった。音が怖いのだろう。
「こ、怖くないよ。あれは可愛いお馬さんがパカパカ走っている音よ?」
慌ててディーンを抱きしめ、背中を優しくなでた。
多少は落ち着いたものの、わたしのスカートの後ろに隠れてグスグスとべそをかいている。
「ロリーは大丈夫かしら……」
近くを見回して双子の妹を探していると、彼女はパカーンと口を開け、アレンさんのズボンにつかまっていた。兄妹の間で反応が真っ二つに割れている。
「大丈夫よ、みんな。怖くないからね?」とは言ったものの、第三騎士団のお馬さんが本当に怖くないかと言うと……ごめんなさい……。
性格は素直で甘えん坊、とても賢いけれど、普通のお馬さんよりもだいぶ大きく、バッキバキの筋肉に覆われ、アフロヘアーのようなたてがみを持つ個体がいるなど想像以上に多毛だ。そのかわいらしい内面とは裏腹に、鋭い眼光を放つコワモテは、まるでマフィアの親分さんのよう。鼻息も荒く「ブモブモ」と音を立てることがある。この勢いで突っ走って来られると、軽くトラウマになるのではないかと心配だ。
「皆、子どもが怖がらないよう、そばについていろ」と、ヴィルさんが指示を出した。
アレンさんはロリーを抱き上げ、ヴィルさんもディーンを小脇に抱えた。内気なエッラはすでに隊長さんがしっかりと抱っこしていたし、サナも団員の影に隠れている。
「この時期、第三は暇なのか?」と、ヴィルさんが小声で言った。
「まさか。少なくともウチよりは忙しいですよ」と、アレンさんは眉根を寄せている。
急に足音が小さくなった。土埃を上げないよう配慮してくれたのか、巨大馬軍団は少し離れた位置から徐行をし始めたようだ。
「おいおいおい、幹部がゴッソリ来ているぞ」と、ヴィルさんが指をさしている。
「団長、あの金髪って、もしや……」
「にっこりゴリラだ。あいつも出世して幹部候補になったからな」
謎の『にっこりゴリラ』さんとは……いったいどの方だろう?
「ヴィルさん、アレンさん、そのニッコリさんとは?」
「右側の金髪の男がそうだ」と、ヴィルさんが指さした。
「私の後輩です。陽気な奴なので、少しうるさいかもしれません」とアレンさん。
うわさのニッコリさんは、ゴリラとは似ても似つかぬ金髪のイケメンだった。ちょっとタレ目なところが甘ったるくていい感じだ。
それにしても、なぜゴリラ……? 学生時代からのあだ名で、本名はニッコロ・ロキアさんと言うらしい。
ディーンがしゃくり上げてまた泣き始めた。
「お、お馬さん、足ふといねー、モフモフだねー、おっきいねー」
ヴィルさんに抱えられた状態の彼を必死であやすものの、間近に迫った巨大馬の顔が怖すぎるのか、目を真っ赤にしてギャン泣きである。
もう抱きしめてヨシヨシするしか打つ手がない。かわいそうで、わたしまで泣きそうだ。うえーん、くまんつ様のばかー。
ロリーは相変わらずアレンさんに抱っこされてポッカーンとしていた。彼にほっぺをプニプニされても表情が変わらないところを見ると、許容量オーバーでフリーズ状態だと思われる。
馬を降りたくまんつ様が「第三騎士団、馳せ参じました」とフォーマルなお辞儀をしたものだから、大慌てでわたしも頭を下げた。
わたしは今「平民の商人の娘」という設定なので、くまんつ辺境伯の嫡男より頭が高いのはダメのダメダメだ。
彼が頭を下げきる前にシュバッ!と膝を曲げてスカートをさばき、彼よりも低く頭を下げた。急に屈伸をしたものだから右の太ももがピクピクしている。
「お久しぶりです。くま……いえクランツ様」
ノォォォーッ! 慌てたせいでクマと呼んでしまった。ニッコリさんと数人が下を向いて笑っている。もう大失敗だ……。
「お前、暇なの?」
ヴィルさんが直球をぶつけた。初球からデッドボールだ。
もう彼に平民の変装をさせるのはやめたほうがいいかもしれない。もともとバレやすいうえ、子どもの前でお構いなしに魔法を使うし、辺境伯嫡男を「お前」呼ばわりだ。毎回「お忍び」と言いつつ、悲しいくらいに忍べていなかった。
「あんだと? 陛下の生誕祭を控えているのに、俺が暇なわけねぇだろっ」
くまんつ様も平常どおりだ。わたしの超高速屈伸はなんだったのかしら。
「幹部がこぞって来るとは思わなかったが、話が早くて助かる。実は、この教会の警護を頼みたい」
くまんつ様は「ふうん?」と言うと、ツタの張った教会に目をやった。
「これって、まさか馬の足音ですか?」と尋ねた。
「んー、そのようですね」と、アレンさんは微妙な面持ちだ。
思わず横目で彼を見ると、バチっと目が合った。お互いに言葉は発しなかったが、おそらく考えていることは同じだろう。想定よりも音が大きいような気がするのだ。
ヴィルさんは額に手を当て「なんか、嫌な予感がするな」とつぶやいている。
「呼びに行った方と、連絡係の方、二頭で戻って来るのですよね?」と、わたしは確認をした。
「その、はず、なの、だが……」
「二頭でこんなに音が??」
「いいや、これは間違いなく十頭以上だ。しかも、例の馬だと思う」
教会の正面入り口へ出ると、団員が慌ただしく給水用の桶に水を汲み、馬が休憩する場所へ運んでいた。
子どもたちが不安そうな顔で「なんの音?」と集まって来ている。
「このお兄さんのお友達が、こちらに来る予定があって」と言いかけたところで、小さなディーンが泣きだしてしまった。音が怖いのだろう。
「こ、怖くないよ。あれは可愛いお馬さんがパカパカ走っている音よ?」
慌ててディーンを抱きしめ、背中を優しくなでた。
多少は落ち着いたものの、わたしのスカートの後ろに隠れてグスグスとべそをかいている。
「ロリーは大丈夫かしら……」
近くを見回して双子の妹を探していると、彼女はパカーンと口を開け、アレンさんのズボンにつかまっていた。兄妹の間で反応が真っ二つに割れている。
「大丈夫よ、みんな。怖くないからね?」とは言ったものの、第三騎士団のお馬さんが本当に怖くないかと言うと……ごめんなさい……。
性格は素直で甘えん坊、とても賢いけれど、普通のお馬さんよりもだいぶ大きく、バッキバキの筋肉に覆われ、アフロヘアーのようなたてがみを持つ個体がいるなど想像以上に多毛だ。そのかわいらしい内面とは裏腹に、鋭い眼光を放つコワモテは、まるでマフィアの親分さんのよう。鼻息も荒く「ブモブモ」と音を立てることがある。この勢いで突っ走って来られると、軽くトラウマになるのではないかと心配だ。
「皆、子どもが怖がらないよう、そばについていろ」と、ヴィルさんが指示を出した。
アレンさんはロリーを抱き上げ、ヴィルさんもディーンを小脇に抱えた。内気なエッラはすでに隊長さんがしっかりと抱っこしていたし、サナも団員の影に隠れている。
「この時期、第三は暇なのか?」と、ヴィルさんが小声で言った。
「まさか。少なくともウチよりは忙しいですよ」と、アレンさんは眉根を寄せている。
急に足音が小さくなった。土埃を上げないよう配慮してくれたのか、巨大馬軍団は少し離れた位置から徐行をし始めたようだ。
「おいおいおい、幹部がゴッソリ来ているぞ」と、ヴィルさんが指をさしている。
「団長、あの金髪って、もしや……」
「にっこりゴリラだ。あいつも出世して幹部候補になったからな」
謎の『にっこりゴリラ』さんとは……いったいどの方だろう?
「ヴィルさん、アレンさん、そのニッコリさんとは?」
「右側の金髪の男がそうだ」と、ヴィルさんが指さした。
「私の後輩です。陽気な奴なので、少しうるさいかもしれません」とアレンさん。
うわさのニッコリさんは、ゴリラとは似ても似つかぬ金髪のイケメンだった。ちょっとタレ目なところが甘ったるくていい感じだ。
それにしても、なぜゴリラ……? 学生時代からのあだ名で、本名はニッコロ・ロキアさんと言うらしい。
ディーンがしゃくり上げてまた泣き始めた。
「お、お馬さん、足ふといねー、モフモフだねー、おっきいねー」
ヴィルさんに抱えられた状態の彼を必死であやすものの、間近に迫った巨大馬の顔が怖すぎるのか、目を真っ赤にしてギャン泣きである。
もう抱きしめてヨシヨシするしか打つ手がない。かわいそうで、わたしまで泣きそうだ。うえーん、くまんつ様のばかー。
ロリーは相変わらずアレンさんに抱っこされてポッカーンとしていた。彼にほっぺをプニプニされても表情が変わらないところを見ると、許容量オーバーでフリーズ状態だと思われる。
馬を降りたくまんつ様が「第三騎士団、馳せ参じました」とフォーマルなお辞儀をしたものだから、大慌てでわたしも頭を下げた。
わたしは今「平民の商人の娘」という設定なので、くまんつ辺境伯の嫡男より頭が高いのはダメのダメダメだ。
彼が頭を下げきる前にシュバッ!と膝を曲げてスカートをさばき、彼よりも低く頭を下げた。急に屈伸をしたものだから右の太ももがピクピクしている。
「お久しぶりです。くま……いえクランツ様」
ノォォォーッ! 慌てたせいでクマと呼んでしまった。ニッコリさんと数人が下を向いて笑っている。もう大失敗だ……。
「お前、暇なの?」
ヴィルさんが直球をぶつけた。初球からデッドボールだ。
もう彼に平民の変装をさせるのはやめたほうがいいかもしれない。もともとバレやすいうえ、子どもの前でお構いなしに魔法を使うし、辺境伯嫡男を「お前」呼ばわりだ。毎回「お忍び」と言いつつ、悲しいくらいに忍べていなかった。
「あんだと? 陛下の生誕祭を控えているのに、俺が暇なわけねぇだろっ」
くまんつ様も平常どおりだ。わたしの超高速屈伸はなんだったのかしら。
「幹部がこぞって来るとは思わなかったが、話が早くて助かる。実は、この教会の警護を頼みたい」
くまんつ様は「ふうん?」と言うと、ツタの張った教会に目をやった。
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