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[リア]
山積する課題 §1
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王都にある孤児院は、いずれも教会に併設されていて、どこも定員を超えている。
一般家庭が里親となって面倒を見ている場合、補助金をもらえる支援制度があるそうだ。
「王宮に申請を出して、許可が下りればもらえる」と、ヴィルさんは言った。
「定期的に子どもの様子を確認しに行くのですか? それとも事前の調査を入念にする感じですか?」
わたしはその支援制度がどのように機能しているのかを軽く尋ねた。
彼の顔がサッと曇り、血の気が引くように青ざめていく。彼は決まりが悪そうにアレンさんと視線を交わし、言葉を詰まらせて口元を引き締めた。
「ものすごく言いにくいのだが、そこまでは、していないと思う」
「えっ……うそでしょう?」
彼が言うには、申請が承認されたあとで子どもを放り出したり、奴隷のように使ったり、不適切な扱いをしそうな人でも簡単に里親になれて、その子が亡くなっていたとしても、毎月ちゃっかりとお金だけはもらえるオバカ制度のようだ。
湧き上がってくる負の感情を必死に抑えていたら、頬の筋肉が硬直してヒクヒクと引きつった。
王宮のずさんな仕事ぶりには、わたしも苦い経験がある。
勝手に拉致しておきながら「帰りたがるとは想定外」などと言われたり、お見合いに悪党が入り込んで人質にされたり……すでに食傷気味だった。
「もし、これが失敗したら」「もし、悪用されたら」など、負の観点から物事を考えようとしないのが王宮の特徴だ。どのような悲劇や損害が生まれるかを想像しようともしない人々が、積み木の家のように脆い計画を作り、結果的に危機管理のなっていない施策ばかりになる。
里親への補助金制度も、おおかた頭がお花畑の文官が考え、陛下がろくに確認もせず承認したであろうヘッポコ制度だ。
ヴィルさんも日頃から「法が不完全だ」と口では言うものの、神薙法の改定以降、王族としてそれらを改めるようなアクションを起こしている様子はなかった。
「不正受給している家庭は、相当多いでしょうね」と、わたしはため息交じりに言った。
「その結果が目の前にあるのではないかと思って、さっきから変な動悸が止まらない。早急に叔父と話をしよう」と、ヴィルさんは少し焦った表情を見せている。
「帰りに王宮へ寄りませんか? この服で行ったらマズイでしょうか」
「いいや、そうも言っていられない」
彼は王宮へ先触れを出し、裏口から密かに入れてもらえるよう頼んでくれた。
教会の事務所に入ってみると、古びた鉄製の金庫があった。表面には長年のホコリがこびりついていて、ところどころ塗装が剥げてサビている。扉を開けようとしたものの、ダイヤル式のロックがかかっていて開かない。
「中に何か入っているなら、取り出しに戻ってくる可能性があるな」
彼は管理人らしき人物についても調べるつもりでいるようだ。
やることが次々と見つかり、それらを書き留めていくアレンさんのペンは走り続けている。
「よし、まずは山積した課題を分類するぞ」と、ヴィルさんは腰に手を当てた。
多くの問題が絡み合っている。わたしたちは混沌に足を突っ込まないよう、起きている問題と、やるべきことを大きく四つに分けて優先順位をつけた。
一つ目は、今日動けば明日にでも解決できる直近の課題。
食べ物、水、薪のライフラインと、衣類や靴の調達だ。
これらはわたしとヴィルさんのポケットマネーで賄うことにした。
二つ目は、彼らの新しい住まいに関する課題。
王宮主導で保護施設を作るべく、陛下に相談をするつもりだ。
財源の確保など、やることが多いため、実現には最速でも数か月、一年以上かかることも視野に入れなければならない。
それまでの間、わたしの家で彼らを保護するつもりだ。ただ、うちの従業員は王命で神薙に仕えている人たちで、見ず知らずの子どもの世話は想定外かつ契約外だ。まずは彼らに事情を説明し、協力してもらえるか確認をしなくてはならない。協力が得られなければ人を雇う。いずれにせよ陛下の許可が必要だ。
三つ目は、過ぎてしまった日々の課題。
子どもが消えた怪しい孤児院の実態調査。この寂れた教会を管理していた人物の調査と捜索。ポンコツ補助金制度の見直し。補助金を受給している世帯の実態調査と、不正受給への対応。
王都内にテオたちと似た境遇の子どもが、ほかにもいる可能性は高い。その子たちの保護と調査も必要だ。これらはすべて王宮が責任をもって対応すべきだろう。
四つ目は、六人の子どもの調査だった。
神薙と同じ屋根の下にいる騎士や従業員は、親戚まですべてを対象とした厳しい調査を経て採用された人たちだ。
わたしが保護した子どもとは言え、同じ宮殿に住まわせる以上、この厳しいルールは彼らにも適用される。
しかし、その過程で出自がわかる可能性が高いので、むしろ好都合だ。じっくりと調査していただこう。
「すべてを自分でやろうとは思わないことだ」とヴィルさんは言った。
「時間がかかることは、王宮や調査機関、あるいは部下たちに働きかけ、きっかけを与えて動かす。我々は頻繁に進捗確認をし、全体の動きを止めないよう監視する」
わたしはうなずいた。
「急ぎの件と、我々にしかできないことを優先的に対応しよう」
「わかりました」
「今やるべきことは大至急、王宮へ向かうことだ。そのためには、一時的にここを誰かに任せなくてはならない」
「わたしが残ろうかと思うのですが」と言うと、彼は「それはダメだよ」と首を振った。
「神薙が自ら王宮へ出向くから大勢の人間を迅速に動かせる。それに、古い教会は警護がしづらい。ここを狙われたらお終いだ。あの子たちのためにも、リアはここにいるべきではない」
「でも……騎士の皆に子どもの世話を頼むのは申し訳なくて」
「まあな、確かに任務外だし、雑用ばかりではあるが、神薙の代理とあらば尊――」
ヴィルさんは急に話すのをやめて黙り込んでしまった。
「どうしました?」と、彼をのぞき込んだ。
「ああ、いや、この間、クリスが何かゴチャゴチャ言っていたような……」
「ん? ……あっ!」
「雑用でもいいから、神薙の仕事を手伝いたい」と言っている人がいた。
「第三騎士団だ!」「第三騎士団!」
わたしとヴィルさんは、互いに指をさし合った。
一般家庭が里親となって面倒を見ている場合、補助金をもらえる支援制度があるそうだ。
「王宮に申請を出して、許可が下りればもらえる」と、ヴィルさんは言った。
「定期的に子どもの様子を確認しに行くのですか? それとも事前の調査を入念にする感じですか?」
わたしはその支援制度がどのように機能しているのかを軽く尋ねた。
彼の顔がサッと曇り、血の気が引くように青ざめていく。彼は決まりが悪そうにアレンさんと視線を交わし、言葉を詰まらせて口元を引き締めた。
「ものすごく言いにくいのだが、そこまでは、していないと思う」
「えっ……うそでしょう?」
彼が言うには、申請が承認されたあとで子どもを放り出したり、奴隷のように使ったり、不適切な扱いをしそうな人でも簡単に里親になれて、その子が亡くなっていたとしても、毎月ちゃっかりとお金だけはもらえるオバカ制度のようだ。
湧き上がってくる負の感情を必死に抑えていたら、頬の筋肉が硬直してヒクヒクと引きつった。
王宮のずさんな仕事ぶりには、わたしも苦い経験がある。
勝手に拉致しておきながら「帰りたがるとは想定外」などと言われたり、お見合いに悪党が入り込んで人質にされたり……すでに食傷気味だった。
「もし、これが失敗したら」「もし、悪用されたら」など、負の観点から物事を考えようとしないのが王宮の特徴だ。どのような悲劇や損害が生まれるかを想像しようともしない人々が、積み木の家のように脆い計画を作り、結果的に危機管理のなっていない施策ばかりになる。
里親への補助金制度も、おおかた頭がお花畑の文官が考え、陛下がろくに確認もせず承認したであろうヘッポコ制度だ。
ヴィルさんも日頃から「法が不完全だ」と口では言うものの、神薙法の改定以降、王族としてそれらを改めるようなアクションを起こしている様子はなかった。
「不正受給している家庭は、相当多いでしょうね」と、わたしはため息交じりに言った。
「その結果が目の前にあるのではないかと思って、さっきから変な動悸が止まらない。早急に叔父と話をしよう」と、ヴィルさんは少し焦った表情を見せている。
「帰りに王宮へ寄りませんか? この服で行ったらマズイでしょうか」
「いいや、そうも言っていられない」
彼は王宮へ先触れを出し、裏口から密かに入れてもらえるよう頼んでくれた。
教会の事務所に入ってみると、古びた鉄製の金庫があった。表面には長年のホコリがこびりついていて、ところどころ塗装が剥げてサビている。扉を開けようとしたものの、ダイヤル式のロックがかかっていて開かない。
「中に何か入っているなら、取り出しに戻ってくる可能性があるな」
彼は管理人らしき人物についても調べるつもりでいるようだ。
やることが次々と見つかり、それらを書き留めていくアレンさんのペンは走り続けている。
「よし、まずは山積した課題を分類するぞ」と、ヴィルさんは腰に手を当てた。
多くの問題が絡み合っている。わたしたちは混沌に足を突っ込まないよう、起きている問題と、やるべきことを大きく四つに分けて優先順位をつけた。
一つ目は、今日動けば明日にでも解決できる直近の課題。
食べ物、水、薪のライフラインと、衣類や靴の調達だ。
これらはわたしとヴィルさんのポケットマネーで賄うことにした。
二つ目は、彼らの新しい住まいに関する課題。
王宮主導で保護施設を作るべく、陛下に相談をするつもりだ。
財源の確保など、やることが多いため、実現には最速でも数か月、一年以上かかることも視野に入れなければならない。
それまでの間、わたしの家で彼らを保護するつもりだ。ただ、うちの従業員は王命で神薙に仕えている人たちで、見ず知らずの子どもの世話は想定外かつ契約外だ。まずは彼らに事情を説明し、協力してもらえるか確認をしなくてはならない。協力が得られなければ人を雇う。いずれにせよ陛下の許可が必要だ。
三つ目は、過ぎてしまった日々の課題。
子どもが消えた怪しい孤児院の実態調査。この寂れた教会を管理していた人物の調査と捜索。ポンコツ補助金制度の見直し。補助金を受給している世帯の実態調査と、不正受給への対応。
王都内にテオたちと似た境遇の子どもが、ほかにもいる可能性は高い。その子たちの保護と調査も必要だ。これらはすべて王宮が責任をもって対応すべきだろう。
四つ目は、六人の子どもの調査だった。
神薙と同じ屋根の下にいる騎士や従業員は、親戚まですべてを対象とした厳しい調査を経て採用された人たちだ。
わたしが保護した子どもとは言え、同じ宮殿に住まわせる以上、この厳しいルールは彼らにも適用される。
しかし、その過程で出自がわかる可能性が高いので、むしろ好都合だ。じっくりと調査していただこう。
「すべてを自分でやろうとは思わないことだ」とヴィルさんは言った。
「時間がかかることは、王宮や調査機関、あるいは部下たちに働きかけ、きっかけを与えて動かす。我々は頻繁に進捗確認をし、全体の動きを止めないよう監視する」
わたしはうなずいた。
「急ぎの件と、我々にしかできないことを優先的に対応しよう」
「わかりました」
「今やるべきことは大至急、王宮へ向かうことだ。そのためには、一時的にここを誰かに任せなくてはならない」
「わたしが残ろうかと思うのですが」と言うと、彼は「それはダメだよ」と首を振った。
「神薙が自ら王宮へ出向くから大勢の人間を迅速に動かせる。それに、古い教会は警護がしづらい。ここを狙われたらお終いだ。あの子たちのためにも、リアはここにいるべきではない」
「でも……騎士の皆に子どもの世話を頼むのは申し訳なくて」
「まあな、確かに任務外だし、雑用ばかりではあるが、神薙の代理とあらば尊――」
ヴィルさんは急に話すのをやめて黙り込んでしまった。
「どうしました?」と、彼をのぞき込んだ。
「ああ、いや、この間、クリスが何かゴチャゴチャ言っていたような……」
「ん? ……あっ!」
「雑用でもいいから、神薙の仕事を手伝いたい」と言っている人がいた。
「第三騎士団だ!」「第三騎士団!」
わたしとヴィルさんは、互いに指をさし合った。
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