昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

おハマりなさい

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「こちらのチョコレートは、どちらでお買い求めになられたのですか? まるで宝石です。美しいうえに美味しすぎます!」
 イレーネ嬢は顔を紅潮させ、また目に涙を浮かべてトリュフチョコをうっとりと眺めた。

「実はこれも自分で作っているのです」
「このような美食を自ら……? まさか、あの王都を席巻している白ソースも、本当に神薙様御本人がお作りになられたのですか?」
「わたしの母国では、どちらも一般的なものですの。口寂しくてついつい」
「なんて羨ましい」と言いかけて、イレーネ嬢はピタリと止まった。

「ああああぁ、わたくし、お詫びに来たのに……なんということをッッッ!!」
 彼女はガッと頭を抱えた。
 また謝罪病をぶり返しそうになったので「まあまあ」と制止してアーモンドパイをすすめた。

「あああっ。パリパリとして、サクサクで……このバターの香り……はああああぁぁんっ!」
「こちらは、それの間にチョコクリームを挟んだものですわ」
「ああ~~っ。なんて、なんて罪なことをなさるのでしょうか!」
「こちらのポテチはしょっぱいお菓子です。お口をリセットするのによろしいですよ?」
「……くっ……う……っ! てっ、手がっ! もう手が言うことを聞きませんわっ!」

 ほほほ♪
 よしよし。その調子でお菓子とお茶の沼におハマりなさいませ。

「初めての女性のお客様ですから、ゆっくりしていってくださいね」
「初めて? そうなのですか?」
 イレーネさんはポテチを口に運び続けていた手を一瞬止めた。

「仕事に関係のない人という意味では、初めてだと思います。身分を隠さずに会える若い女性となると、なかなかいなくて。いきなりご招待すると強制的になってしまって気が引けますしね」

 彼女は眉尻を下げてポテチをパリパリと食べると、ラベンダーの香り付きのお手拭きで指を軽く拭った。

「神薙様がそんなに気を遣わずともよろしいのに……。ここでお茶会を主催されたら大勢押し寄せますでしょう?」
「護衛の皆があまり良い顔をしないのです。色々あったせいか、わたしも知らない人は少し怖いですし」
「そう、ですよね」
「飛び込んできてくださってありがとう。すごく勇気が要ることですよね」

 さらさらと心地の良い風が吹いて、穏やかな時間が流れていた。

「あの、神薙様……」
「イレーネさん、リアでいいですよ?」
「い、いいえ! そんな、恐れ多いですわ!」
「気にしないで。わたしはイレーネさんとお呼びしますから」
「うぅ……で、では……リア様?」
「はい?」
「こちらのお菓子、南一区の目抜き通りでお店が出せると思いますわ」
「そう言ってくださると嬉しいです。実は近々お店が出る予定なのです。さすがに南一区は敷居が高くて、もう少し庶民街寄りなのですけれど」

 貴族を満足させ、ちょっと手を伸ばせば庶民でも買えるものを売る。それがわたしとベルソールさん共通のモットーだ。
 日本でいう銀座のような南一区にお店を構えることもできたけれども、それはあえてしなかった。品質は高くても、敷居は低いほうがお互いに居心地も良いはずだから。

「もっ、もしやケーキ店の跡地ではございませんか? あの四つ角のところの!」
「ご存知でしたか? 売りに出ていたところを知人が見つけて声を掛けてくださったの」
「わたくし、昨日見かけたのです。白と金の装飾の、とても立派なお店が開店の準備をしていて」
「ええ。チョコレート屋さんになりますわ。明日あたり、内装が終わる予定です」

 彼女の目がキラキラと輝いた。
「お友達を誘って買いに参ります! 彼女たちにも教えて差し上げなくてはっ」

 わたしはそれに笑顔で応えた。
 ……ああっ(喜)
 普通だわ! なんて、なんて、普通のお茶会なのかしらっ。こんなに普通のお茶会は久々……いいえ、初めてかもしれないわ!

 王宮から言われて参加しているお茶会と比べると、それは雲泥の差だった。
 最近、あのお茶会はアクの強い参加者ばかりになりつつあり、わけの分からない相談をされることが多い。
 「温泉が溢れているのだけど、どうしたらいいでしょう?」などと、どう考えてもわたしに聞くことじゃないだろうと思うような相談を立て続けに持ちかけられ、もう正直つらくてたまらない。
 シラネーヨと言いたいのを必死にこらえて「お風呂以外の用途に使ってみたらいかがですか?」なんて答えている自分にご褒美をあげたいとすら思っていたところだ。
 ああ、これぞ夢にまで見た普通のお茶会。
 よそのお家で暮らす女子と日常会話をしたのが久々すぎて、嬉しくて泣きそうだ。
 まったく! 誰ですか、彼女を「追い返せ」なんて言ったの(ぷんっ!)



 ひとしきりお洋服の話などで盛り上がっていると、彼女はまた「お詫びに来たのに、わたくしはぁぁ!!」と思い出したように悶絶した。

「お詫びは終わりましたでしょう? 今は一緒に罰を受けている最中ですのよ? しっかり集中なさって」
「リア様、これが罰ですと、世の中から犯罪はなくならないと思いますわ……」
「そうねぇ、では新しいお菓子を企画する罰なんてどうかしら」
「なぜ犯罪率を上げようとなさるのですか?」
「くふふ……♪」

 単品でのスペックが未知数だったイレーネ嬢から、オモシロ女子の匂いがぷんぷんと漂っていた。
 わたし達、過去のことはすべて水に流して、仲良しになれるのではないでしょうか。
 ほらね、ヴィルさん。
 やっぱりお客様にはお茶をお出しするのが正解なのですよ♪
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