301 / 392
[リア]
おハマりなさい
しおりを挟む
「こちらのチョコレートは、どちらでお買い求めになられたのですか? まるで宝石です。美しいうえに美味しすぎます!」
イレーネ嬢は顔を紅潮させ、また目に涙を浮かべてトリュフチョコをうっとりと眺めた。
「実はこれも自分で作っているのです」
「このような美食を自ら……? まさか、あの王都を席巻している白ソースも、本当に神薙様御本人がお作りになられたのですか?」
「わたしの母国では、どちらも一般的なものですの。口寂しくてついつい」
「なんて羨ましい」と言いかけて、イレーネ嬢はピタリと止まった。
「ああああぁ、わたくし、お詫びに来たのに……なんということをッッッ!!」
彼女はガッと頭を抱えた。
また謝罪病をぶり返しそうになったので「まあまあ」と制止してアーモンドパイをすすめた。
「あああっ。パリパリとして、サクサクで……このバターの香り……はああああぁぁんっ!」
「こちらは、それの間にチョコクリームを挟んだものですわ」
「ああ~~っ。なんて、なんて罪なことをなさるのでしょうか!」
「こちらのポテチはしょっぱいお菓子です。お口をリセットするのによろしいですよ?」
「……くっ……う……っ! てっ、手がっ! もう手が言うことを聞きませんわっ!」
ほほほ♪
よしよし。その調子でお菓子とお茶の沼におハマりなさいませ。
「初めての女性のお客様ですから、ゆっくりしていってくださいね」
「初めて? そうなのですか?」
イレーネさんはポテチを口に運び続けていた手を一瞬止めた。
「仕事に関係のない人という意味では、初めてだと思います。身分を隠さずに会える若い女性となると、なかなかいなくて。いきなりご招待すると強制的になってしまって気が引けますしね」
彼女は眉尻を下げてポテチをパリパリと食べると、ラベンダーの香り付きのお手拭きで指を軽く拭った。
「神薙様がそんなに気を遣わずともよろしいのに……。ここでお茶会を主催されたら大勢押し寄せますでしょう?」
「護衛の皆があまり良い顔をしないのです。色々あったせいか、わたしも知らない人は少し怖いですし」
「そう、ですよね」
「飛び込んできてくださってありがとう。すごく勇気が要ることですよね」
さらさらと心地の良い風が吹いて、穏やかな時間が流れていた。
「あの、神薙様……」
「イレーネさん、リアでいいですよ?」
「い、いいえ! そんな、恐れ多いですわ!」
「気にしないで。わたしはイレーネさんとお呼びしますから」
「うぅ……で、では……リア様?」
「はい?」
「こちらのお菓子、南一区の目抜き通りでお店が出せると思いますわ」
「そう言ってくださると嬉しいです。実は近々お店が出る予定なのです。さすがに南一区は敷居が高くて、もう少し庶民街寄りなのですけれど」
貴族を満足させ、ちょっと手を伸ばせば庶民でも買えるものを売る。それがわたしとベルソールさん共通のモットーだ。
日本でいう銀座のような南一区にお店を構えることもできたけれども、それはあえてしなかった。品質は高くても、敷居は低いほうがお互いに居心地も良いはずだから。
「もっ、もしやケーキ店の跡地ではございませんか? あの四つ角のところの!」
「ご存知でしたか? 売りに出ていたところを知人が見つけて声を掛けてくださったの」
「わたくし、昨日見かけたのです。白と金の装飾の、とても立派なお店が開店の準備をしていて」
「ええ。チョコレート屋さんになりますわ。明日あたり、内装が終わる予定です」
彼女の目がキラキラと輝いた。
「お友達を誘って買いに参ります! 彼女たちにも教えて差し上げなくてはっ」
わたしはそれに笑顔で応えた。
……ああっ(喜)
普通だわ! なんて、なんて、普通のお茶会なのかしらっ。こんなに普通のお茶会は久々……いいえ、初めてかもしれないわ!
王宮から言われて参加しているお茶会と比べると、それは雲泥の差だった。
最近、あのお茶会はアクの強い参加者ばかりになりつつあり、わけの分からない相談をされることが多い。
「温泉が溢れているのだけど、どうしたらいいでしょう?」などと、どう考えてもわたしに聞くことじゃないだろうと思うような相談を立て続けに持ちかけられ、もう正直つらくてたまらない。
シラネーヨと言いたいのを必死にこらえて「お風呂以外の用途に使ってみたらいかがですか?」なんて答えている自分にご褒美をあげたいとすら思っていたところだ。
ああ、これぞ夢にまで見た普通のお茶会。
よそのお家で暮らす女子と日常会話をしたのが久々すぎて、嬉しくて泣きそうだ。
まったく! 誰ですか、彼女を「追い返せ」なんて言ったの(ぷんっ!)
☟
ひとしきりお洋服の話などで盛り上がっていると、彼女はまた「お詫びに来たのに、わたくしはぁぁ!!」と思い出したように悶絶した。
「お詫びは終わりましたでしょう? 今は一緒に罰を受けている最中ですのよ? しっかり集中なさって」
「リア様、これが罰ですと、世の中から犯罪はなくならないと思いますわ……」
「そうねぇ、では新しいお菓子を企画する罰なんてどうかしら」
「なぜ犯罪率を上げようとなさるのですか?」
「くふふ……♪」
単品でのスペックが未知数だったイレーネ嬢から、オモシロ女子の匂いがぷんぷんと漂っていた。
わたし達、過去のことはすべて水に流して、仲良しになれるのではないでしょうか。
ほらね、ヴィルさん。
やっぱりお客様にはお茶をお出しするのが正解なのですよ♪
イレーネ嬢は顔を紅潮させ、また目に涙を浮かべてトリュフチョコをうっとりと眺めた。
「実はこれも自分で作っているのです」
「このような美食を自ら……? まさか、あの王都を席巻している白ソースも、本当に神薙様御本人がお作りになられたのですか?」
「わたしの母国では、どちらも一般的なものですの。口寂しくてついつい」
「なんて羨ましい」と言いかけて、イレーネ嬢はピタリと止まった。
「ああああぁ、わたくし、お詫びに来たのに……なんということをッッッ!!」
彼女はガッと頭を抱えた。
また謝罪病をぶり返しそうになったので「まあまあ」と制止してアーモンドパイをすすめた。
「あああっ。パリパリとして、サクサクで……このバターの香り……はああああぁぁんっ!」
「こちらは、それの間にチョコクリームを挟んだものですわ」
「ああ~~っ。なんて、なんて罪なことをなさるのでしょうか!」
「こちらのポテチはしょっぱいお菓子です。お口をリセットするのによろしいですよ?」
「……くっ……う……っ! てっ、手がっ! もう手が言うことを聞きませんわっ!」
ほほほ♪
よしよし。その調子でお菓子とお茶の沼におハマりなさいませ。
「初めての女性のお客様ですから、ゆっくりしていってくださいね」
「初めて? そうなのですか?」
イレーネさんはポテチを口に運び続けていた手を一瞬止めた。
「仕事に関係のない人という意味では、初めてだと思います。身分を隠さずに会える若い女性となると、なかなかいなくて。いきなりご招待すると強制的になってしまって気が引けますしね」
彼女は眉尻を下げてポテチをパリパリと食べると、ラベンダーの香り付きのお手拭きで指を軽く拭った。
「神薙様がそんなに気を遣わずともよろしいのに……。ここでお茶会を主催されたら大勢押し寄せますでしょう?」
「護衛の皆があまり良い顔をしないのです。色々あったせいか、わたしも知らない人は少し怖いですし」
「そう、ですよね」
「飛び込んできてくださってありがとう。すごく勇気が要ることですよね」
さらさらと心地の良い風が吹いて、穏やかな時間が流れていた。
「あの、神薙様……」
「イレーネさん、リアでいいですよ?」
「い、いいえ! そんな、恐れ多いですわ!」
「気にしないで。わたしはイレーネさんとお呼びしますから」
「うぅ……で、では……リア様?」
「はい?」
「こちらのお菓子、南一区の目抜き通りでお店が出せると思いますわ」
「そう言ってくださると嬉しいです。実は近々お店が出る予定なのです。さすがに南一区は敷居が高くて、もう少し庶民街寄りなのですけれど」
貴族を満足させ、ちょっと手を伸ばせば庶民でも買えるものを売る。それがわたしとベルソールさん共通のモットーだ。
日本でいう銀座のような南一区にお店を構えることもできたけれども、それはあえてしなかった。品質は高くても、敷居は低いほうがお互いに居心地も良いはずだから。
「もっ、もしやケーキ店の跡地ではございませんか? あの四つ角のところの!」
「ご存知でしたか? 売りに出ていたところを知人が見つけて声を掛けてくださったの」
「わたくし、昨日見かけたのです。白と金の装飾の、とても立派なお店が開店の準備をしていて」
「ええ。チョコレート屋さんになりますわ。明日あたり、内装が終わる予定です」
彼女の目がキラキラと輝いた。
「お友達を誘って買いに参ります! 彼女たちにも教えて差し上げなくてはっ」
わたしはそれに笑顔で応えた。
……ああっ(喜)
普通だわ! なんて、なんて、普通のお茶会なのかしらっ。こんなに普通のお茶会は久々……いいえ、初めてかもしれないわ!
王宮から言われて参加しているお茶会と比べると、それは雲泥の差だった。
最近、あのお茶会はアクの強い参加者ばかりになりつつあり、わけの分からない相談をされることが多い。
「温泉が溢れているのだけど、どうしたらいいでしょう?」などと、どう考えてもわたしに聞くことじゃないだろうと思うような相談を立て続けに持ちかけられ、もう正直つらくてたまらない。
シラネーヨと言いたいのを必死にこらえて「お風呂以外の用途に使ってみたらいかがですか?」なんて答えている自分にご褒美をあげたいとすら思っていたところだ。
ああ、これぞ夢にまで見た普通のお茶会。
よそのお家で暮らす女子と日常会話をしたのが久々すぎて、嬉しくて泣きそうだ。
まったく! 誰ですか、彼女を「追い返せ」なんて言ったの(ぷんっ!)
☟
ひとしきりお洋服の話などで盛り上がっていると、彼女はまた「お詫びに来たのに、わたくしはぁぁ!!」と思い出したように悶絶した。
「お詫びは終わりましたでしょう? 今は一緒に罰を受けている最中ですのよ? しっかり集中なさって」
「リア様、これが罰ですと、世の中から犯罪はなくならないと思いますわ……」
「そうねぇ、では新しいお菓子を企画する罰なんてどうかしら」
「なぜ犯罪率を上げようとなさるのですか?」
「くふふ……♪」
単品でのスペックが未知数だったイレーネ嬢から、オモシロ女子の匂いがぷんぷんと漂っていた。
わたし達、過去のことはすべて水に流して、仲良しになれるのではないでしょうか。
ほらね、ヴィルさん。
やっぱりお客様にはお茶をお出しするのが正解なのですよ♪
45
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる