昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

甘~い罰

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 ヴィルさんが来訪目的を確認してくれている間、わたしは庭園にある四阿で、鼻歌を歌いながらお茶とお菓子の支度をした。
 イレーネ嬢がヴィルさんに連れられてやって来ると、侍女とメイドは一礼して少し離れた木陰のテーブルへと下がっていった。

「来訪目的は『お詫び』とのことだ」と、ヴィルさんが言った。
 どうやら彼女はケンカの続きをしに来たわけではないらしい。
 ヴィルさんはわたしの頬に小さなキスをすると、小声で愛を囁いた。そして、少し離れた場所にある木陰のベンチに座った。
 従者のキースさんが、彼のもとにお茶とお菓子を届けに行き、読みかけの本を渡している。

 わたしの視界に入っているのは侍女、メイド、ヴィルさんとキースさんのみ。
 ただ、わたしの後ろにある生け垣の向こう、わずか数メートルの位置にアレンさんが潜んでいた。彼女が少しでもおかしな素振りをすれば、彼が飛び出して取り押さえる。
 それに加えて、周りを囲む木々の影に、護衛の騎士団員がモッサリといた。
 わたしとしては非常に物々しいティータイムだ。

 イレーネ嬢は相変わらず豪奢なドレスを着ていたけれど、珍しくスカートが横に広がっていなかった。
 トレードマークの赤ドレスも、キチキチの縦巻きツインテールも封印し、落ち着いたブルーのドレスで、やや強めにカールした髪を後ろで一つに束ねている。
 回し蹴りを繰り出したら三人ぐらいまとめて殺せそうな厚底靴も履いていなかった。
 フツウのキレイ系女子になっちゃっててツマンナイと思ってしまうのはわたしだけだろうか。
 色んな意味で彼女のビジュアルはセンセーショナルだったので、普通に戻ってしまうと少し寂しい。

「こんにちは、どうぞお掛けになって……」と言い終わらないうちに、フッと彼女の姿が視界から消えた。
「あっ」と思わず声が出た。あまりに急な出来事で止めることができなかったのだ。

「神薙様、先日は本当に申し訳ございませんでした! わたくしが愚かでございました!!」
 彼女は膝をついて土下座をしていた。

 芝生に這いつくばり、泣きながら謝罪をし続ける彼女を、どうにか立たせて椅子に座らせた。

 顔を合わせてわずか数分しか経っていないのに、彼女は涙でぐちゃぐちゃになっていた。ハンカチを差し出すと、彼女は嗚咽を漏らして辛そうに泣き続けた。



「あ、あのね、イレーネさん……」
 彼女が少し落ち着いてから話しかけた。

「もう、今ので全部ナシに致しましょう? わたし、気にしていませんから」
「いいえ。いいえ……どうか、わたくしを罰してくださいませ」
「そんな……罰もナシですよ」
「どうか、お願い致します」
「罰なら別の形でたっぷり受けたはずです」
「わたくし、どんな罰でも受けるつもりで参りましたっ」

 んもー、ガンコな方ですねぇ。
 うちの宮殿には罰の在庫はございませんよ?

「そんなことより、甘いものはお好きですか?」
「……え?」
「今日ね、マカロンを焼いてみたのです」
「まか、ろん……で、ございますか?」
「ここの人達にとっては、異世界のお菓子ということになるのでしょうけれども」
「異世界の、お菓子……」

 泣きはらした顔のまま、彼女はゴクリとつばを飲み込んだ。

「お口に合うか分からないのですが、お茶に致しませんか?」
「いいえ、頂けません。わたくしは罰を受けに参りました」

 どうしてそんなに罰を受けたいのでしょう。
 困った方ですねぇ。

「どうしても罰を受けたいとおっしゃるの?」と、わたしは訊いた。
 彼女は「そのために参りました」と言った。その目には強い意志が宿っている。

 ふぅ……
 これではティータイムにならないわ。
 仕方がありませんね。

「分かりました。では、あなたに罰を与えます」と、わたしは言った。
「なんなりとお受け致します!」と、彼女の意思も固い。

「では、罰として……マカロンとお茶をどうぞ」
「はっ?」
「これが罰ですわ」
「いや……あの……」
「とっても甘くて、香り高くてっ、すごくすごーくツライと思いますわっ。さあ、頑張るのですよっ」
 わたしは涙を拭うフリをした。
「そ、それは罰とは言えないかと……」
「大丈夫。あなた一人にツライ思いはさせません。わたしも一緒に罰を受けますわっ」

 お茶会には『主催者がお菓子に手を付けたら来客も食べて良い』という謎ルールがある。わたしが主催者なのでパクリと一口食べて見せた。
「本日の罰はイチゴ味ですの。お茶は陛下から頂戴したカルセド産の茶葉で、秋摘みだそうです」

 マカロン本体が結構甘いので、クリームの甘さを控えめにして正解だった。
 カルセドのお茶も美味しい。秋摘みの茶葉は芳醇な味わいがしてマカロンに良く合った。思わず幸せな吐息がほうっと出る。
「さあ、罰ですわよ。どうぞ?」

 イレーネ嬢は恐る恐る手を伸ばし、口に運ぶ。お上品に一口かじり、クワッと目を見開いた。

「も、ものすごく美味しいですわ!」
「本当? 良かったです」
「周りはサクサクとしているのに、中がしっとりしていて……この食感、この味わい……イチゴの香りと、鼻を抜けていく香ばしいこの香りは……」
「粉末状のアーモンドを使っていますの」
「アーモンドの粉を!? なんて贅沢な味わいなのでしょう。こんなクッキーは初めてですわ!」
「好きなだけ召し上がってくださいね」
「はあぁああ……お、お茶も素晴らしいですわっ」
「あ、こちらのトリュフチョコレートもオススメですよ? 良かったらどうぞ」

 流行に敏感なイレーネ嬢に美味しいと言ってもらえるということは、マカロンも焼き時間を間違えなければ売りに出せるかも知れない。今度、ベルソールさんにも試食してもらおう。彼が「これは売れる」と言えば、それは売れるのだ。
 ムフフ、ムフフフ♪ また儲かってしまうかも知れないわ。
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