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[リア]
ヲタの圧
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「ニッコリさんは子ども達の面倒を見てくれていたご縁があって、時々お茶を飲みに来てくださるの。先日の舞踏会も、実は彼の婚活を応援する目的で行ったのです」
イケメン騎士が自分と共通の慈善事業に関わっていると知り、イレーネさんは興奮気味だ。
「絶対に引く手あまたですわっ。だって、ロキア様は人気ですもの」
「でも、相当頑張らないと結婚できないと、周りから厳しく言われていました」
「大丈夫ですわっ」
「広場の姿絵屋さんでも彼の絵は売られていないとか……」
「いいえ、リア様。それは違いますわ」
「あら?」
ノン、ノン、ノン……と、彼女は人差し指をふりふりした。あなたはちっとも分かっていない、と言いたいようだ(おもしろい。笑)
「あれは、売り切れているのですわっ」
「え……売り切れ?」
「そうなのです。入荷したら即完売! ロキア様は入手困難なのですっ。ある日突然、第三騎士団員として現れた方で、大変な噂になりましたの。子爵領から戻られたとかで。まさに彗星のごとく現れたイケメン騎士様ですわっ」
突如、ニッコリさんスゴイ人気者説が飛び出してきた。もしかしたら、わたしとヴィルさんが変な作戦を企てなくても、彼はあっさりと結婚相手が見つかる人なのかも知れない。
「……ということは、いつでも姿絵が買えるヴィルさんは人気がないということですか?」
「いいえ。ランドルフ様の姿絵は『版画』でございます」
「んっ? 版画?」
彼女はまた人差し指を立てた。
「よろしいですか? 陛下やランドルフ様、それからクランツ様などの姿絵は版画でございます。業者がどんどん刷りますの。いつでも誰でも買うことができますわ」
彼女はグイッと身を乗り出して「もはや新聞や広告と一緒のレベルですの」と言った。
うん、騎士ヲタの圧がすごい(嬉)
「わたしもついヴィルさんの姿絵は買ってしまったのですけれど、あれは大量生産の版画だったのですねぇ?」
「ええ。しかしながらッ!」
「は、はいっ」
「人気騎士の中でも一握りの……例えば、オーディンス様やロキア様、あとマーリス様とか……そのあたりの方々には、本気で恋をしているご令嬢が相当な数いらっしゃいます。巷では『ガチ恋勢』などと呼ばれておりますが、彼女たちは『手描き』でなければ納得いたしません」
「そ、そうなのですねぇー」
一般大衆向けは版画で、マニア向けは手描き。 ヴィルさんがキャベツなら、アレンさんは、さしずめパクチーとかバジルとか?(叱られるわ)
彼女はさらに小声で付け加えた。
「特にオーディンス様は、あのメガネ型の魔道具のせいでお顔を拝見することもままならなくなっております。そのせいで姿絵の需要が高く、予約をしても手に入るのはだいぶ先。価格もとんでもなく高騰しております」
「やはり、あのメガネは魔道具なのですねぇ?」
「ええ。もはやわたくしには長細い岩にしか見えませんわ」
「わたしも最初はそうでした!」
アレンさんの変移をまとめるとこうだ。
出会ったときは岩メガネ。数日でイケ仏に進化し、そこから徐々にイケメン化。訓練所で突如として岩メガネに戻り、再びイケ仏になって、最近またすごいイケメンになりつつある。
「そもそもですが、オーディンス様のガチ恋勢はほかの方々とは少し違いますの。『推しの推しはわたくしの推し』を合い言葉に、神薙様御用達のお店へ行くことを『聖地巡礼』と呼んでおります。横の結束も強いですし、長細い岩を見かけると、オーディンス様でなくとも手を合わせていますわ……。ほとんど新興宗教のようなのです。薄っすら恐怖を感じることがございますわ」
推しの推しというか、わたしはただの警護対象なのですが……。
しかし、長細い石を崇めるアレン教が味方だと思うと、なんだか心強くもある(強そうだし)
「先日の舞踏会は、わたくし散々な目に遭いましたけれども、あの出来事の直前までは幸せでございました」
「騎士様だらけでしたものね?」
「あれを楽園と言うのですわ。わたくし、壁と一体化したかったのです。あの思い出を胸に、ひとりでも強く生きてゆけます。本日も第一騎士団の皆さまを見られて眼福でございましたし」
今はそんな気分なのだろう。しかし、この状況から見ても、養父であるアラニス伯はおそらく諦めていない。いずれ彼女のために動こうと思っているはずだ。そうでなければ、彼女を養女として俗世間に置きっぱなしにしておく意味がないからだ。
ひどく名誉を傷つけられた令嬢は、遠く離れた地の聖堂や教会で住み込みの仕事をすることになると聞いた。
この国で領地をまたいだ引っ越しをするには、一定の条件を満たさなくてはならない。合法的に町を出るためには、聖職者の助けが必要なのだ。
あのままエルデン伯家に残っていたら、彼女は今頃、どこかの田舎にある教会で、懺悔と祈りに縛られた生活を送っていたに違いない。
アラニス伯がすぐに養女にしたいと申し出たのは、彼女を救おうという強い意思があったからだと思う。
状況が彼女に「諦めるな」と語りかけているように思えるけれども、今はまず、彼女の心を癒すことが先決かもしれない。
わたし達は途切れることなくお喋りをしていた。
彼女は新しいものが大好きで、流行りものには目がない。甘いものや美味しいもの、そしてイケメン騎士様が大好きだ。
冗談を言えば即座にツッコミが返ってきて、彼女自身もお茶目な冗談を飛ばす人だ。
気楽で楽しいひとときだった。
「次はお友達のお二人にも一緒に、この甘ったるい罰を受けて頂きたいわ」と、わたしは提案をした。
彼女は青い瞳を潤ませて「よろしいのですか?」と言った。
わたし達は次のお茶会日程を決めた。
「一足先に行って罰を受けてきた、と話すのですよ?」
「リア様……?」
「わたしが二人のことも呼んでいると。異世界でマカロンと呼ばれている、それはそれは世にも恐ろしい罰が与えられるので覚悟をなさって、と」
プフッと彼女が噴き出した。
食べ切れなかったお菓子を箱に詰めてお土産として渡すと、彼女は三人で罰を受ける予行練習をすると言って喜んでくれた。
わたしが手を振って彼女の馬車を見送るのを、宮殿の皆は不思議そうな顔で見守っていた。
――――――――――――――
※メンバーサイトに幕間エピソードがあります。
『仕掛け人』
第18章後半に出てくるシーンの準備が、この時期から始まっています(アレンとミスト)
活動状況も下記URLで発信しております。
https://note.com/mutsukihamu
イケメン騎士が自分と共通の慈善事業に関わっていると知り、イレーネさんは興奮気味だ。
「絶対に引く手あまたですわっ。だって、ロキア様は人気ですもの」
「でも、相当頑張らないと結婚できないと、周りから厳しく言われていました」
「大丈夫ですわっ」
「広場の姿絵屋さんでも彼の絵は売られていないとか……」
「いいえ、リア様。それは違いますわ」
「あら?」
ノン、ノン、ノン……と、彼女は人差し指をふりふりした。あなたはちっとも分かっていない、と言いたいようだ(おもしろい。笑)
「あれは、売り切れているのですわっ」
「え……売り切れ?」
「そうなのです。入荷したら即完売! ロキア様は入手困難なのですっ。ある日突然、第三騎士団員として現れた方で、大変な噂になりましたの。子爵領から戻られたとかで。まさに彗星のごとく現れたイケメン騎士様ですわっ」
突如、ニッコリさんスゴイ人気者説が飛び出してきた。もしかしたら、わたしとヴィルさんが変な作戦を企てなくても、彼はあっさりと結婚相手が見つかる人なのかも知れない。
「……ということは、いつでも姿絵が買えるヴィルさんは人気がないということですか?」
「いいえ。ランドルフ様の姿絵は『版画』でございます」
「んっ? 版画?」
彼女はまた人差し指を立てた。
「よろしいですか? 陛下やランドルフ様、それからクランツ様などの姿絵は版画でございます。業者がどんどん刷りますの。いつでも誰でも買うことができますわ」
彼女はグイッと身を乗り出して「もはや新聞や広告と一緒のレベルですの」と言った。
うん、騎士ヲタの圧がすごい(嬉)
「わたしもついヴィルさんの姿絵は買ってしまったのですけれど、あれは大量生産の版画だったのですねぇ?」
「ええ。しかしながらッ!」
「は、はいっ」
「人気騎士の中でも一握りの……例えば、オーディンス様やロキア様、あとマーリス様とか……そのあたりの方々には、本気で恋をしているご令嬢が相当な数いらっしゃいます。巷では『ガチ恋勢』などと呼ばれておりますが、彼女たちは『手描き』でなければ納得いたしません」
「そ、そうなのですねぇー」
一般大衆向けは版画で、マニア向けは手描き。 ヴィルさんがキャベツなら、アレンさんは、さしずめパクチーとかバジルとか?(叱られるわ)
彼女はさらに小声で付け加えた。
「特にオーディンス様は、あのメガネ型の魔道具のせいでお顔を拝見することもままならなくなっております。そのせいで姿絵の需要が高く、予約をしても手に入るのはだいぶ先。価格もとんでもなく高騰しております」
「やはり、あのメガネは魔道具なのですねぇ?」
「ええ。もはやわたくしには長細い岩にしか見えませんわ」
「わたしも最初はそうでした!」
アレンさんの変移をまとめるとこうだ。
出会ったときは岩メガネ。数日でイケ仏に進化し、そこから徐々にイケメン化。訓練所で突如として岩メガネに戻り、再びイケ仏になって、最近またすごいイケメンになりつつある。
「そもそもですが、オーディンス様のガチ恋勢はほかの方々とは少し違いますの。『推しの推しはわたくしの推し』を合い言葉に、神薙様御用達のお店へ行くことを『聖地巡礼』と呼んでおります。横の結束も強いですし、長細い岩を見かけると、オーディンス様でなくとも手を合わせていますわ……。ほとんど新興宗教のようなのです。薄っすら恐怖を感じることがございますわ」
推しの推しというか、わたしはただの警護対象なのですが……。
しかし、長細い石を崇めるアレン教が味方だと思うと、なんだか心強くもある(強そうだし)
「先日の舞踏会は、わたくし散々な目に遭いましたけれども、あの出来事の直前までは幸せでございました」
「騎士様だらけでしたものね?」
「あれを楽園と言うのですわ。わたくし、壁と一体化したかったのです。あの思い出を胸に、ひとりでも強く生きてゆけます。本日も第一騎士団の皆さまを見られて眼福でございましたし」
今はそんな気分なのだろう。しかし、この状況から見ても、養父であるアラニス伯はおそらく諦めていない。いずれ彼女のために動こうと思っているはずだ。そうでなければ、彼女を養女として俗世間に置きっぱなしにしておく意味がないからだ。
ひどく名誉を傷つけられた令嬢は、遠く離れた地の聖堂や教会で住み込みの仕事をすることになると聞いた。
この国で領地をまたいだ引っ越しをするには、一定の条件を満たさなくてはならない。合法的に町を出るためには、聖職者の助けが必要なのだ。
あのままエルデン伯家に残っていたら、彼女は今頃、どこかの田舎にある教会で、懺悔と祈りに縛られた生活を送っていたに違いない。
アラニス伯がすぐに養女にしたいと申し出たのは、彼女を救おうという強い意思があったからだと思う。
状況が彼女に「諦めるな」と語りかけているように思えるけれども、今はまず、彼女の心を癒すことが先決かもしれない。
わたし達は途切れることなくお喋りをしていた。
彼女は新しいものが大好きで、流行りものには目がない。甘いものや美味しいもの、そしてイケメン騎士様が大好きだ。
冗談を言えば即座にツッコミが返ってきて、彼女自身もお茶目な冗談を飛ばす人だ。
気楽で楽しいひとときだった。
「次はお友達のお二人にも一緒に、この甘ったるい罰を受けて頂きたいわ」と、わたしは提案をした。
彼女は青い瞳を潤ませて「よろしいのですか?」と言った。
わたし達は次のお茶会日程を決めた。
「一足先に行って罰を受けてきた、と話すのですよ?」
「リア様……?」
「わたしが二人のことも呼んでいると。異世界でマカロンと呼ばれている、それはそれは世にも恐ろしい罰が与えられるので覚悟をなさって、と」
プフッと彼女が噴き出した。
食べ切れなかったお菓子を箱に詰めてお土産として渡すと、彼女は三人で罰を受ける予行練習をすると言って喜んでくれた。
わたしが手を振って彼女の馬車を見送るのを、宮殿の皆は不思議そうな顔で見守っていた。
――――――――――――――
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第18章後半に出てくるシーンの準備が、この時期から始まっています(アレンとミスト)
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