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[リア]
激励の言葉
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聖職者たちがいなくなり、謁見の間はしんとしていた。
「あの男児に褒賞をやらねばな」と、陛下が静寂を破った。
「テオのことですか?」と、ヴィルさんが尋ねる。
「子どもが消えるのが同じ曜日だという情報は大きかっただろう」
「確かに。最初からその日に絞って捜査をしていました」
「幼いのにあっぱれだ。何か喜びそうなものを考えてやってくれ」
「では、皆で検討して選んでおきます」
陛下はこちらを見てニッコリ微笑むと、その視線をくまんつ様へと移した。
「クランツ、私は第三騎士団を『警備員』などと思ったことは一度もない。あのクソジジイが言ったことは気にするな」
くまんつ様は深々と頭を下げて「もったいないお言葉です」と言った。けれども、その表情は少し曇っている。
もしかしたら、団員の皆さんにも「警備員」発言が知られているのかも知れない。
捜査の中心は特務師団で、第三騎士団はあくまでも協力と支援をしただけだ。ここで自分だけが褒められても、あまり意味がないのかも知れない。
そうかと言って、厳しい行動規範がある騎士に、変装をして潜入するような特務師の仕事はできない。この件で騎士団が大きな手柄を上げることは不可能だった。
「リアもそう思うだろう?」と、陛下が急に話を振ってきた。
一瞬ドキッとしたけれども、わたしも陛下と同じ意見だった。
なにせわたしは実際に助けていただいたことがあるし、第一騎士団との合同訓練も見たことがある。彼らがただの警備員レベルではないことはよく知っている。
今回の件は、たまたま特務師団が得意とする分野だった。ただそれだけのことだ。対外的には誰の名誉も傷ついていない。
淑女教育の先生は「聖女の言葉には大変な重みがある」と言っていた。だから、良いことは積極的に想いを言葉にしたほうがいいのだと。
実際にお世話になったわたしが励まさなくては……!
「もちろんですわっ。くまんつ様はわたくしの英雄です。先ほども、やっぱりステキだなと思って拝見しておりました。強くて、男らしくて、大好きですわっ。ほかの団員の皆さまもっ」
・・・。
ちょっと、柄にもなく気負いすぎたというか、急なことで慌てたというか……。もう少し考えてからしゃべればよかった。
第三騎士団の名誉について語らなければならない場面なのに、わたしは「くまんつ様カッコイイ大好き」という話をしてしまったのだ(大バカモノですわ-っ。泣)
論点がズレているし、しかも言葉の選択も間違えた気がする。
くまんつ様のお顔が、刀鍛冶に打たれる寸前の鋼のように、ぎゅーんと真っ赤になっていった。
恐る恐るヴィルさんと陛下を見ると、二人はニヨニヨとうれしそうな顔でこちらを見ている。アレンさんは下を向いて笑っていた。
はああっ……完全にやってしまっている(涙)
「あっ、あのっ、すみません、変な言い方をしてしまって。決してそういう意味ではなくてっ……。じゃあ、どういう意味なのかと聞かれますと、それはそれで別の言葉が思い浮かばないのですけれどもっ。わたしは皆さんに助けていただいたことがありますし、すごく感謝していて、今のわたしがあるのは第三騎士団の皆さまのおかげで……っ」
あああぁぁっ、わたしまで刀鍛冶スタンバイ状態になってしまった。
誰か熱いうちに叩いてください。
ついでに陛下とヴィルさんのニヨニヨも止めてほしい。うわぁぁんっ。
ひとりで慌てていると、地下から特務師団長が上がって来てくれた。
無事、全員を牢に入れたとのこと。話が教会の件に戻ったおかげで、わたしはそれ以上の地獄を見ずに済んだ。
☟
聖職者が子どもを奴隷として売っていた。
こんな大事件が起きても、人々は今までどおり通い慣れた聖堂か教会へ行くだろう。
そこは生活の一部であり、代わりになる場所がない。聖女の像があろうとなかろうと、彼らは健康や成功を神に祈る。
トップがごっそりいなくなった東方聖教会は、残った聖職者を中心に立て直しをしていくだろう。
不祥事の影響が表れるのは、貴族からの寄付だ。活動資金が減り、厳しい時期が続くはず。
ただ、仮に聖職者が一人もいなくなり、教会がすべてなくなったとしても、人々はどこかに集まって、いつもどおり神に祈るような気がした。
わたしから見たオルランディアはそういう国だった。
☟
くまんつ様たちが退出した後、ようやく普通の「お祝い詣で」が始まった。
次から次へとやって来る貴族の祝辞に応え続け、顔筋酷使タイムを過ごすこと数時間。ノルマを果たし、サロンでお茶を頂いて「ほうっ」と息をついた。
しかし、それも束の間だ。すぐに次の予定が入っている。
聖女になって以来、急な呼び出しが増え、その前後に「ついで」の予定を立て続けに入れられることが多かった。
うわさに聞いていたとおり、聖女様は忙しい。
「あちらのお部屋をお借りしておりますので、お着替えをいたしましょう」
侍女長が別の『はれんちスリーブ』ドレスを出してきた。
次の予定は肖像画のデッサンだと言う。
ヴィルさんからドレスの指定があったらしく、ブルーのペラペラから、淡いグリーンの豪華なペラペラへお着替えをした。
支度部屋から出ると、待ち構えていた婚約者がいきなり抱きつこうと両腕を広げている。またサワサワする気だ(!)
すかさずアレンさんが体を張って盾になり、ガッと肘鉄を食らわせて止めてくれた。華麗かつ鉄壁の守りだ。
しかし、出待ちをした挙げ句、護衛からエルボーを食らう婚約者って、正直どうなのだろう(面白いけど)
以前、アレンさんが彼に対し「あなたにリア様は任せられない」という主旨のことを言っていたことがあった。多分その任せられないところとは、こういうド天然かつドスケベなところなのだと思う。
彼には日本で見たアニメの「ふ~じこちゃあ~ん」という台詞がピッタリだった。
「場所さえわきまえてくれれば問題ないのになぁ」などと思いながら、指定された部屋へ向かう。
まさかそこに苦行が待ち構えているなんて思いもしなかった……。
「あの男児に褒賞をやらねばな」と、陛下が静寂を破った。
「テオのことですか?」と、ヴィルさんが尋ねる。
「子どもが消えるのが同じ曜日だという情報は大きかっただろう」
「確かに。最初からその日に絞って捜査をしていました」
「幼いのにあっぱれだ。何か喜びそうなものを考えてやってくれ」
「では、皆で検討して選んでおきます」
陛下はこちらを見てニッコリ微笑むと、その視線をくまんつ様へと移した。
「クランツ、私は第三騎士団を『警備員』などと思ったことは一度もない。あのクソジジイが言ったことは気にするな」
くまんつ様は深々と頭を下げて「もったいないお言葉です」と言った。けれども、その表情は少し曇っている。
もしかしたら、団員の皆さんにも「警備員」発言が知られているのかも知れない。
捜査の中心は特務師団で、第三騎士団はあくまでも協力と支援をしただけだ。ここで自分だけが褒められても、あまり意味がないのかも知れない。
そうかと言って、厳しい行動規範がある騎士に、変装をして潜入するような特務師の仕事はできない。この件で騎士団が大きな手柄を上げることは不可能だった。
「リアもそう思うだろう?」と、陛下が急に話を振ってきた。
一瞬ドキッとしたけれども、わたしも陛下と同じ意見だった。
なにせわたしは実際に助けていただいたことがあるし、第一騎士団との合同訓練も見たことがある。彼らがただの警備員レベルではないことはよく知っている。
今回の件は、たまたま特務師団が得意とする分野だった。ただそれだけのことだ。対外的には誰の名誉も傷ついていない。
淑女教育の先生は「聖女の言葉には大変な重みがある」と言っていた。だから、良いことは積極的に想いを言葉にしたほうがいいのだと。
実際にお世話になったわたしが励まさなくては……!
「もちろんですわっ。くまんつ様はわたくしの英雄です。先ほども、やっぱりステキだなと思って拝見しておりました。強くて、男らしくて、大好きですわっ。ほかの団員の皆さまもっ」
・・・。
ちょっと、柄にもなく気負いすぎたというか、急なことで慌てたというか……。もう少し考えてからしゃべればよかった。
第三騎士団の名誉について語らなければならない場面なのに、わたしは「くまんつ様カッコイイ大好き」という話をしてしまったのだ(大バカモノですわ-っ。泣)
論点がズレているし、しかも言葉の選択も間違えた気がする。
くまんつ様のお顔が、刀鍛冶に打たれる寸前の鋼のように、ぎゅーんと真っ赤になっていった。
恐る恐るヴィルさんと陛下を見ると、二人はニヨニヨとうれしそうな顔でこちらを見ている。アレンさんは下を向いて笑っていた。
はああっ……完全にやってしまっている(涙)
「あっ、あのっ、すみません、変な言い方をしてしまって。決してそういう意味ではなくてっ……。じゃあ、どういう意味なのかと聞かれますと、それはそれで別の言葉が思い浮かばないのですけれどもっ。わたしは皆さんに助けていただいたことがありますし、すごく感謝していて、今のわたしがあるのは第三騎士団の皆さまのおかげで……っ」
あああぁぁっ、わたしまで刀鍛冶スタンバイ状態になってしまった。
誰か熱いうちに叩いてください。
ついでに陛下とヴィルさんのニヨニヨも止めてほしい。うわぁぁんっ。
ひとりで慌てていると、地下から特務師団長が上がって来てくれた。
無事、全員を牢に入れたとのこと。話が教会の件に戻ったおかげで、わたしはそれ以上の地獄を見ずに済んだ。
☟
聖職者が子どもを奴隷として売っていた。
こんな大事件が起きても、人々は今までどおり通い慣れた聖堂か教会へ行くだろう。
そこは生活の一部であり、代わりになる場所がない。聖女の像があろうとなかろうと、彼らは健康や成功を神に祈る。
トップがごっそりいなくなった東方聖教会は、残った聖職者を中心に立て直しをしていくだろう。
不祥事の影響が表れるのは、貴族からの寄付だ。活動資金が減り、厳しい時期が続くはず。
ただ、仮に聖職者が一人もいなくなり、教会がすべてなくなったとしても、人々はどこかに集まって、いつもどおり神に祈るような気がした。
わたしから見たオルランディアはそういう国だった。
☟
くまんつ様たちが退出した後、ようやく普通の「お祝い詣で」が始まった。
次から次へとやって来る貴族の祝辞に応え続け、顔筋酷使タイムを過ごすこと数時間。ノルマを果たし、サロンでお茶を頂いて「ほうっ」と息をついた。
しかし、それも束の間だ。すぐに次の予定が入っている。
聖女になって以来、急な呼び出しが増え、その前後に「ついで」の予定を立て続けに入れられることが多かった。
うわさに聞いていたとおり、聖女様は忙しい。
「あちらのお部屋をお借りしておりますので、お着替えをいたしましょう」
侍女長が別の『はれんちスリーブ』ドレスを出してきた。
次の予定は肖像画のデッサンだと言う。
ヴィルさんからドレスの指定があったらしく、ブルーのペラペラから、淡いグリーンの豪華なペラペラへお着替えをした。
支度部屋から出ると、待ち構えていた婚約者がいきなり抱きつこうと両腕を広げている。またサワサワする気だ(!)
すかさずアレンさんが体を張って盾になり、ガッと肘鉄を食らわせて止めてくれた。華麗かつ鉄壁の守りだ。
しかし、出待ちをした挙げ句、護衛からエルボーを食らう婚約者って、正直どうなのだろう(面白いけど)
以前、アレンさんが彼に対し「あなたにリア様は任せられない」という主旨のことを言っていたことがあった。多分その任せられないところとは、こういうド天然かつドスケベなところなのだと思う。
彼には日本で見たアニメの「ふ~じこちゃあ~ん」という台詞がピッタリだった。
「場所さえわきまえてくれれば問題ないのになぁ」などと思いながら、指定された部屋へ向かう。
まさかそこに苦行が待ち構えているなんて思いもしなかった……。
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