拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

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28「第一のカップリング8」

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「ここは…」

青空の下、サアア…と爽やかな風が吹き抜け、コバルトブルーに輝く湖面に優しく触れては波紋を作っていく。その周りには白い花が咲き乱れ、吹き抜けていく風に合わせて、まるでダンスを踊るように揺れている。

「こんな場所があるなんて…燈堂とうどう、お前知っていたか?」
「いや…」

呆然と、ただただ美しい景色を前に魅入られたように立ち尽くす二人の肩にシルフィとヴェルメリオが乗る。

「お前たち…ここに私たちを連れて来たかったのか?」

野分のわき先輩の問いに、シルフィとヴェルメリオが肯定するように短く鳴く。

「…美しい、な」

湖の周りを囲むように咲き乱れる白い花たちが風に揺れる様に、緑眼が柔らかく細められる。

「ああ…そうだな」

隣からの同意の言葉に、野分先輩が可笑しそうに笑って燈堂先輩の方へと顔を向ける。

「意外だな。お前はもっと豪奢ごうしゃなものが好みかと思って──」

しかし、言いかけた野分先輩の言葉はそこでピタリと止まった。何故なら、そこには景色ではなく真っ直ぐに己を見ている赤い瞳があったのだから。

「と、燈堂?」

そのあまりにも真っ直ぐな眼差しに、野分先輩が戸惑ったような声音で燈堂先輩の名を呼ぶ。

けれど、燈堂先輩から返事はなく、ただただ真っ直ぐに己を見つめてくる真剣な眼差しに何かを思い出したらしい野分先輩の頬が赤く色付いていく。

そんな野分先輩を見ると、燈堂先輩が無言で一歩分開いていた距離を詰めた。

「! な、何──」
「…野分」

急に近付いた距離に驚く間もなく、己の頬に添えられた燈堂先輩の手の感触に緑の瞳が動揺で揺れる。
その様に、それまで真っ直ぐに注がれていた真剣な赤い眼差しがふっと緩められて。そして、

「可愛いな」

とろりと蜂蜜を思わせる甘い微笑みと共にその言葉を口にした。

「なっ、おま、いきなり何を言って──」
「キスして良いか」
「!?」
「というか、したい。頼む、させてくれ」
「~~~お、お前っ、自分がいま何を言っているのか分かってるのか?!」
「分かってる。だからこうして頼んでるだろう」
「た、頼んでるって…だってお前、」

燈堂先輩の勢いに押されたようにタジタジになった野分先輩の脚が一歩退が…ろうとしたが、それよりも早く腕を掴まれてしまって。そのまま引き寄せられたかと思えば、燈堂先輩の腕が野分先輩の腰に回された。

「なぁ、ダメか?」
「…っ」

ぴったりとお互いの胸と胸が密着し、燈堂先輩が懇願するように至近距離から野分先輩の顔を覗き込む。

「っ、だ」
「だ?」
「~~~だめとか頼むとか言う前にちょっと待て!!」

限界まで赤くなった顔でそう叫ぶや否や、野分先輩が燈堂先輩の胸を押し返す。
だが、どうやら野分先輩の腰に回している燈堂先輩の腕の力の方が強かったらしい。
その証拠に、最初の何秒かは頑張って押し返していた様子だったが、およそ一分後、諦めたのか、今はその腕の中で燈堂先輩にもたれ掛かるようにゼェハァと肩で息をしている。

「お前、何でそんなに力が強いんだ…」
「野分が非力なだけだろう」
「私は標準だ。この馬鹿力」
「ははっ、馬鹿力か。それは初めて言われたな」
「………」
「? どうした?」
「…お前、私の事が憎いんじゃなかったのか」
「…は?」
「いや…違うな。今の聞き方は卑怯だった。忘れてくれ」

思い直すように頭を振り一つ深く息を吐き出すと、野分先輩は燈堂先輩を真っ直ぐに見据えた。

「燈堂、済まなかった」
「…さっきも聞いたが、それは何に対しての謝罪だ?」
「お前を殴って逃げた挙句、話も聞こうとしなかった事。それから…これまでの事、全てだ」
「………」
「これから言う事は言い訳にしか聞こえないと思う。だが…あの時、私はショックだったんだ。その、何と言うか、お前が、わ、私に……」

途端、顔を赤らめて言い難そうに口ごもる野分先輩。俺はその反応でその先に続く言葉が分かった。

あー…多分『唐突にキスをしてきたから』だって言いたいのだろう。
野分先輩の事だから、いざ冷静になってその時の事を思い出すと今更ながらの羞恥と戸惑いが込み上げてきちゃったとか、そんな所っぽいな。

しかし、野分先輩にはここはその羞恥心を乗り越えて頑張って貰わねば話が進まない。

という訳で、俺は物陰からハンドサインを送った。出番ですよ!お二方!

「! シルフィ?」
「ヴェルメリオ?」

俺の合図を受け、二人の肩に乗っていた契約精霊たちが同時に地面に降り立つ。そして、お互いに近付いていき…

「!」
「!?」

そのまま身を寄せ合い、仲睦まじそうにすりすりとお互いに顔を擦り付け合い始めた。

精霊たちのまさかの行動に二人は暫しポカンとしていたが、ちらりと送られたシルフィさんの意味ありげな視線に野分先輩は気が付いたようだ。

「シルフィ、お前……そうか、そうだな」

そう呟くと、己を鼓舞するように息を深く吸い、野分先輩がその眼鏡の奥の緑眼を再び真っ直ぐに燈堂先輩へと向ける。

「燈堂、今までの事を今すぐ許してくれと言うつもりはない。私の謝罪を受け入れられない程に私を憎んでいるというならば、私はその憎しみを受け止めよう」
「…え?」

燈堂先輩の赤い眼が驚いたように見開かれる。

「だが、これだけは言わせてくれないか」
「お、おい」
「私はお前が許してくれるまで何度でも、何年でも謝り続けよう」
「野分、ちょっと待──」
「だから、いつかお前が私を許してくれたなら、その時は──」
「だから、待てと言っているだろう!」

突然の燈堂先輩の大声に、場に静寂が落ちた。そして、野分先輩の両肩を掴んで燈堂先輩は緑眼を真剣な眼差しで覗き込んだ。

「と、燈堂?」
「野分、お前さっきから一体何を言っているんだ?」
「え…?」
「俺はお前の謝罪をあの時受け取ったはずだが?それに、俺はお前を憎んでなどいない」

燈堂先輩のその言葉に、緑眼が信じられないというように見開かれる。

「だ、だが、お前は私の恋愛経験の無さを馬鹿にして嫌がらせしてきたじゃないかっ」
「嫌がらせ?何の事だ?」
「な、何の事って…」
「…野分、何か誤解…というより話が噛み合っていない気がするのは俺の気のせいか?」
「………」
「ちゃんと聞くから、落ち着いて話してみろ」

「な?」と宥めるように自身に落とされる優しい赤い眼差しに、野分先輩の表情に落ち着きが戻っていく。

「…お前にこれまでの事を謝罪した時、私は殴られると思っていたんだ。だが…お前に突然キ、キスをされて。それだけでも驚いたのに私を、だ、抱きたいなどと言われた時、私はお前がそんな嫌がらせをしたいと思う程に私を憎んで、許せないでいるのだと思──」
「ちょっと待て。何故そうなる?」
「? だってお前、私に恋愛経験の有無を聞いてきたじゃないか」
「確かに聞いたが、あれは…その、と、兎に角、何故その質問から俺が野分を憎んでいるという事になるんだ」
「私の事を馬鹿にしたんだろう?だから、その上で私を抱くなどという嫌がらせをしようとしているのだと思──」
「違う!そんな訳ないだろう!」

野分先輩が言い終わるより先に、焦ったように否定の言葉を発した燈堂先輩に、緑眼が驚いたようにパチクリと瞬く。

そんな野分先輩の反応を見て、燈堂先輩は額に手を当て「そういうか…」と大きく息を吐き出した。

「…野分」
「な、何だ」
「はっきり伝えなかった俺が悪かった。まさか、お前がそんな誤解をしているなんて思わなかったんだ」
「誤解…?」
「だが、俺もあの時自覚…というか思い出したばかりで、まだ気持ちの整理が出来ていなかったんだ」
「と、燈堂?何を言って──」
「いや…それこそ言い訳だな」

そう言って自嘲するように笑った燈堂先輩だったが、直ぐに覚悟を決めたように真っ直ぐに野分先輩を見据えて、次の瞬間こう言った。

「…野分。俺は、お前が好きだ」と。
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