拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

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27「第一のカップリング7」

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放課後の校内を早足で歩き回り、誰かを探すようにキョロキョロとしている野分のわき先輩。その後を物陰に隠れながらこっそりと追跡する俺。

はたから見れば完全に不審者だが、チートなスペックをフル活用して気配遮断と認識阻害の魔法を使っているので誰かに見咎められる心配はない。なので安心して追跡できるのだ!

え?『のだ!』じゃない?チートの無駄遣い?

それは、あの、あれですよ。それはそれ、これはこれって奴ですよ。俺もこんな使い方で良いのかって思わなくもなかったけど、気にしたら負けって事で。うん、そういう事にしておきましょう!

はい!そんな感じで探偵の気分を味わっている内に、もうそろそろ十七時になりそうなのでこの話はここまでという事で!

「野分先輩!」

時計を確認し、物陰から出て背後から野分先輩に呼びかける。勿論、今初めて野分先輩を見つけたように装う事も忘れてはいけない。

「どうでしたか?『例の場所』は」

『例の場所』とは当然『告解部屋』の事であるが、野分先輩の性格上、『お悩み相談室』を利用したと周囲に知られるのは嫌だろう。

すると、そう俺が配慮したと分かったのか、野分先輩がふっと少しだけ口角を上げた。

「ああ、とても良い所だったよ」

そう言った野分先輩の表情は憑き物が落ちたかのように穏やかなもので。どうやら、『聖職者モブ』に成りすまして前向きになるようにした誘導……ゲフンゲフン、助言は先輩のためになったようだ。

いやまあ、知っていたといえば知っていたのだけれど。でもやっぱり、心のどこかで騙している事への罪悪感があったのだろう。

少しだけ、心が軽くなった。

…おっと、いかんいかん。若干しんみりしてしまったがまだ作戦は続行中なんだ。気を引き締めなければ!

「ところでなんだが、燈堂とうどうを見なかったか?」

待ってました、その質問! さあ、気を取り直して第二段階の作戦開始だ!

「え、燈堂先輩ですか?」
「ああ。先程からずっと探しているんだがいなくてな」
「うーん…あ、そういえば、ここへ来る途中に燈堂先輩らしき後ろ姿を部室棟付近で見かけましたよ」
「部室棟? …そうか、そこはまだ見ていなかったな」

そう呟きながら案の定『だが、何故そんな所に?』と言いたげな顔をする野分先輩に、俺は用意していたセリフを付け足す。

「あの、確証は無いですよ? 直ぐにその場から離れてしまったので…」

(不自然にならない程度に)申し訳なさそうにシュン…と項垂れてみせる。

「い、いや君を責めている訳ではない。それに君はあいつが苦手だっただろう。その反応も無理はないだろう」
「野分先輩…」
「だが、情報提供感謝する。一先ひとまず、そこへ行ってみるとしよう」
「お役に立てたなら良かったです。頑張って下さいね。応援してますから!」

俺の平穏な学園ライフのために!

「ありがとう」

なんて俺が考えている事など露程も知らない野分先輩は、柔らかな笑顔を浮かべて足早に去っていった。

…さて、俺も後を追うとしますかね。


*****


部室棟は、東端にある大聖堂から正反対の西端に位置しており、校舎から少し離れた所にある運動場の傍に建っている。

一階から三階は運動部系が、四階から六階は文化部系の部室があり、それなりに人の出入りがある場所だ。

…え?本当にそんな所に燈堂先輩がいたのを見たのかって?

勿論、答えは『ノーいいえ』だ。

じゃあ、嘘をついたのか。それも『ノーいいえ』だ。

意味が分からないって? ふっふっふ、安心したまえ。ちゃんと説明しようじゃあないか。

まず、『部室棟付近で燈堂先輩を見た』と言った事だが、これは嘘だ。何故なら、俺は今日燈堂先輩の姿を一度も見ていないからだ。
だが、『今現在、燈堂先輩がどこにいるのか』という質問に対しては『部室棟付近にいるだろう』と答えれるだろう。

どういう事かと言うと、それを説明するためには時を十時間程前に遡らせる必要がある。

今日の早朝、俺は燈堂先輩のロッカーに一通の手紙を入れた。

内容は『本日の放課後、十七時半頃に部室棟の裏にある雑木林に来て下さい』とだけ。

これだけ見れば、ただの告白のお手紙のようだが、俺はその手紙に『緑色の鳥の羽』も添えて同封しておいた。

そう、お察しの通り、この羽は野分先輩の契約精霊であるシルフィさんのものだ。

え?何故そんな物を俺が持っていたのかって?

それは…んー、まあ気になる所だろうが、後で説明するので今はスルーしておいてくれると助かる。

そんな訳で、野分先輩の契約精霊の羽があるが、差出人は『不明』という状況に、燈堂先輩ならば当然これらの違和感に気が付いた事だろう。…手紙の文字が野分先輩ではない事にも。

であれば、燈堂先輩はこう思ったはず。

『野分に何かあったのかもしれない』と。

つまり、先ほど『今現在、燈堂先輩がどこにいるのか』という質問に対して『部室棟付近にいるだろう』と答えれると言ったのは、正確には『部室棟の裏にある雑木林に来るように不穏な手紙を出しておいたので、来ているだろう』という事になる。

因みに、部室棟の裏にある雑木林を舞台に選んだ理由だが…

「───燈堂!」

…おっと、野分先輩が来たようなので、その理由はまた後ほど。

「! 野分!」

左肩に契約精霊のヴェルメリオを乗せた状態で、それまでどこか落ち着かない様子でいた燈堂先輩だったが、野分先輩が現れるなり、鬼気迫る表情で詰め寄って。

「無事か!?」
「…え?」

野分先輩の両肩を強く掴んでそう第一声を放った燈堂先輩に、緑眼が戸惑いに瞬く。

「な、何を──」
「怪我は?何もされていないな?」

怪我の有無を調べようとペタペタと身体中をチェックするように触れてくる燈堂先輩に、思わずといったように野分先輩が顔を赤くして「ま、待て!落ち着け!」と言いながら慌てたように燈堂先輩の胸を押し返す。

すると、野分先輩の肩に乗っていたシルフィがまるで『落ち着け』と言うように彼の耳元で短く鳴き声を上げた。

さすがシルフィさん。思わずナイスアシストだと示すように茂みの陰から親指を立ててしまう。

「一体、何の事だ?」

訳が分からないというように首を傾げる野分先輩に、燈堂先輩が「今朝この手紙がロッカーに入れられていた」と言いながら制服のポケットから一通の手紙を取り出して見せる。

しかし、最初こそ怪訝な表情をしていた野分先輩だったが、受け取った手紙の中身に目を通すなり、フッと口端を上げた。
どうやら、手紙の文字で差出人は俺だと気が付いたようだ。

まあ、それもそうだろう。なんせ、野分先輩は一度、俺が遅刻をした時に書いた反省文を見ている。
普通なら一度見ただけの他人の文字を再度見た所で分かるものだろうかと思うだろうが、そこはほら、野分先輩だから。

…よし、ここまでは順調だな。

展開は、おおむね予想した通りに進んでいる。野分先輩もこの状況が俺のお膳立てによるものだと気が付いているだろう。

という訳で…後は謝って仲直りするだけですよ!野分先輩!

文字通り、陰ながら心の中で声援を飛ばす。

「? おい、なぜ笑っているんだ」

燈堂先輩が訝しげに眉を寄せる。そんな燈堂先輩の表情に対して、野分先輩の表情は穏やかなものだった。

「ああ、済まない。まさか、お前がそこまで私の事を心配してくれるとは思ってもみなかったものでな。気にしないでくれ」
「なっ、し……んぱいくらいするだろ」

「こんな不穏な手紙を見れば誰だって…」と視線を逸らしながらごにょごにょと続けた燈堂先輩に、野分先輩がクスクスと笑う。

「笑うな」
「済まない、つい」

…お? なんか、いい雰囲気じゃないか、これ? いけ!ここですよ野分先輩!

先日の事を切り出すなら今だ!と送った念を察知してくれたのかは分からないが、野分先輩が「…燈堂、この間の事だが…」と口火を切った。

「済まなかった」
「…それは、何に対しての謝罪だ?」

抑揚のない声。野分先輩も普段聞いている尊大な声音とは違う燈堂先輩の声を聞いて、恐らくそれほどまでに怒っているのだと思ったのだろう。野分先輩は身体をびくりと震わせた。

「それは…」
「それは?」

燈堂先輩の問いに、何か答えようと野分先輩の口が開いては閉じるを繰り返す。

その様を『いけ!そこだ!頑張れ!』と心の中で応援しながら固唾を飲んで見守る。

しかし、結局何も言えぬまま俯いてしまった野分先輩に、向けられていた赤い眼差しが気まずげに逸らされた。

あーもうっ、何やってんですか野分先輩!

あまりの焦れったさに思わず、茂みから出て行きたくなる衝動を必死に抑え込む。落ち着け、俺。まだ、特に燈堂先輩に気付かれる訳にはいかないのだから。

深呼吸をして『よしっ』と小さく気合を入れ直し、茂みの陰から野分先輩と燈堂先輩のに合図を送る。

「! おい?シルフィ?!」
「待て!どこへ行くんだ、ヴェルメリオ!」

俺の合図を受け、二人の制止の声など聞こえていないかのように突然同時に雑木林の奥へと入っていった各々の契約精霊たちの後を追い、二人も雑木林の奥へと向かう。

「突然どうしたんだ?」
「分からんが…今は追うしかないだろう」

戸惑いながらも自分たちの後を追ってきている二人を時折確認するように背後を見やる契約精霊たちの様子から『着いて来い』という意思を感じ取った二人がお互いに頷き合う。

そんな二匹と二人の後をつかず離れずの距離で追う俺の口元がニヤリと上がる。


さあ、お覚悟しやがれですよご両人!
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