拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

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30「interlude」side ──

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東陽暦2090年、9月9日。この日、国内の某ホテルで大規模な火災が発生した。

当初は火の回りが異常に早すぎる事から複数人による同時放火という計画的犯行が疑われたが、特に被害が酷かった現場から救助された人々は皆口を揃えてこう証言した。

───「『黒い化け物』の仕業だ」と。


*****


その日、件のホテルでは、有名人、著名人、政治家といった名立たる顔触れが一堂に会するパーティーが開かれていた。

そして、パーティーがそろそろ終わろうかというその時、突然会場の中央に『それ』は現れた。

始まりの合図は、甲高い女性の悲鳴だったという。

その声に会場中の人間の視線が集まった時には、既に『それ』はパーティー会場の丁度中央付近に佇んでいて。

黒い霧のようなものを纏って、動物のような姿形をしているのに手足が無数にある『それ』は、全身にギョロギョロとした目玉が幾つもあり、その異形な存在が放つ禍々しい魔力に、誰もが身動きが出来ないでいたらしい。

そんな、会場中の注目を一身に浴びていた『それ』だったが、唐突に身体をぶるぶると震えさせると、がぱりと、大きく口を開け──そして、叫び声を上げた。

その声は、およそこの世のものとは思えないおぞましい奇声だったとその場に居合わせた人間は皆そう証言した。

後に調査の結果判明した事だが、会場にいた人間は勿論、ホテルにいた人間は全員この奇声を聞いた瞬間、咄嗟に耳を塞いだものの一瞬にして恐怖で動けなくなったらしい。

その場に立ち尽くす者、へたり込む者、果てはあまりの恐怖に失神した者もおり、誰も彼もが逃げる事はおろか、悲鳴を上げる事さえ出来ない中『それ』は叫び続け──会場は一瞬にして火の海になった。

火災報知器の音が鳴り響き、いつの間にか止まっていた奇声の呪縛から身体の自由を取り戻した人間たちが迫る火の手と『それ』から逃げようと出入口付近でパニックが起きる。

人が減って火が増えていく空間で、ただただ緑色の目から涙を溢す事しか出来ない少年の事など気にする余裕のある大人はいなかった。

ずず、ずず…と何かを引きずるような音をさせながら『それ』が少年の直ぐ目の前にまで迫る。

全身の目玉全ての視線が少年に向けられ、無数の牙が開いている口から見え隠れする。

まさに絶体絶命の危機。

しかし、その時『それ』の背後から太刀を構え、飛び掛かる一人の人影があった。

その人影──男は、無数にある手足の半数を一閃で切り落とした。

再び上がる、耳を塞ぎたくなる程のおぞましい奇声。

だが、男はそれを気にする素振りを見せなかったどころか、『それ』が奇声を上げている間に少年を抱き上げ、一瞬にして距離を取った。

恐怖で気を失ったのだろう。男の腕の中でぐったりとしている少年を気にかけながら、男は再度『それ』に向かって太刀の切っ先を向ける。

半数の腕を切り落とされ、恨みがましそうに無数の目で男を見ていた『それ』の視線がいつの間にか男の側で宙に浮かんでいた一体の人型の精霊に向けられる。

途端、『それ』は本能で理解した。『敵わない』と。

けれど、それでも『それ』は戦った。否、戦わなくてはならなかった。

戦闘は激しいものだった。腕に抱えた少年を庇いながらではあるものの、徐々に、確実に『それ』を圧倒していく男。

そして、とうとうその時はやって来た。

削り取られ、弱体化した『それ』に、男がとどめの大技の一撃を入れる。

霧散して消えゆく中で『それ』が最後に見たものは、男の『黒灰色の髪』と、その傍らで宙に浮く美しい人型の精霊だった。


*****


その後、無事ホテルの火災は鎮圧され、崩れた瓦礫の中から逃げ遅れた人々も全員救い出された。

そして、証言者たちによる『それ』───『黒い化け物』について、政府は派遣された『国家魔法士』によって討伐された事を報じた。

『国家魔法士』とは、国が認めた魔法に優れたエリート中のエリートの人間しかなれないもので。有事の際に派遣され、人々を助ける使命を負っているが、その詳しい正体は明かされていない。

今回派遣された『国家魔法士』は一人だったそうだが、偶々あの日あのホテルにもう一人『国家魔法士』が居合わせていたため、協力して事に当たったという。

それから、ニュースは連日『黒い化け物』の事を取り上げ続けた。

特に、『黒い化け物』が出現した時に現場に居合わせた者たちの所にはしつこく報道陣が殺到し、彼らは暫く家から出られなかった。

そうして、世間が漸く落ち着きを見せ始めた頃、政府はその『黒い化け物』を『魔物』と命名したと報じた。

これがこの国に初めて『魔物』が出現した事件となり、この日を境に度々『魔物』が出現するようになった。

いつ、どこに、なぜ現れるのか。

今日に至るまで何一つ解明されていないが、『魔物』と相対する内に有効打となるのは『精霊と契約している者の攻撃魔法のみ』という事が判明した。

故に、政府はいくつかの教育機関に『精霊と契約でき得るかどうか』を審査する権利を与え、『魔物』に対抗できる人員を増やす政策に躍起になった。

その甲斐あってか、最初の内は神出鬼没な『魔物』に対して悪戦苦闘していたが、政策が功を奏し、年数が経つ毎に『魔物』に対抗できる人間が増えていき、最近に至っては弱い『魔物』ばかりが出現するようになってきた事と出現頻度が減少傾向にある事から、かつての緊張感からは考えられない程に気が緩んでいる空気になってきているのは否めないだろう。

「…まあ、今の内に精々せいぜい油断してれば良いさ」

誰にも邪魔などさせはしないのだから。

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