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5「チュートリアル1」
しおりを挟む…と、まあそんなこんなで今に至るという訳なのだが…
「よっ、椿。さっきの見てたぜー?モテモテだな!」
「…見てたなら助けろよ、友広」
げんなりとしながら、意気揚々と話しかけてきた髪と眼が空色の男を見やる。
彼の名は安田友広。隣の寮部屋に住んでいる奴で、入学式の前日に割り当てられた寮の自分の部屋に荷物を運び込んでいる時にご丁寧に「これから宜しく」と挨拶にやって来たのだ。
実を言うと、友広の存在は以前から…というより前世の知識で知っていた。
隣の部屋に住んでいるという何ともゲームでは攻略対象になりがちな設定を持っているが、ゲームでの友広はいわゆる『お助けキャラ』というサブキャラ的な立ち位置だった。
つまり、この世界で唯一気を張らずに安心して話せる存在だ。まあ、それを抜きにしてもすぐに打ち解けたので既に下の名前で呼び合うくらいには気心しれた間柄になっているのだが…
「いやいや、無茶言うなって。オレに死ねってか?」
手を顔の前でぶんぶんと振って心底嫌そうな顔する友広に、本当に友達か?と疑いたくなる。
「にしても、あの『椿様』がなぁ…」
「? 何だよ」
意外なものでも見たかのようにしみじみと呟く友広の言葉に首を傾げる。
「まあ噂に聞くより話し易い奴だって昨日分かったけどさ、『全属性の椿様』って言えばオレの中学でも有名だったぜ?誰に対しても塩対応だって」
友広の疑問は最もだろう。先ほどの行動に俺自身も驚いているのだから。
前世の俺は地味で誰かに好かれた事なんて一度もなかった。でも、今世の俺は前世とは雲泥の差なくらい好かれていて。
前世の記憶を思い出すまでの俺は、どうせ見てくれと肩書きしか見てない連中ばかりだと決めつけて、おざなりな対応しかしていなかった。
けれど、今なら先ほどの男子生徒のように純粋な好意もあるのだと分かる。
だから、全ては無理でも、せめて勇気を出して話しかけてくれた目の前の好意くらいは有り難く受け取ろうと思ったのだ。
「……まあ、心境に変化があったといえばそうだな」
「へえ? まあ、何があったのか気になるところだけど…そろそろ時間みたいだな」
友広が言うや否や、パーティー会場前に集まっていた新入生全員に先生が会場の準備が出来たのでそろそろ入場する時間だという旨を告げた。
二人の先生が重厚な造りの両開きの扉を重苦しい音を立てながら開いていく。
…さあ、いよいよチュートリアルが始まる。
緊張からかドキドキと高鳴る心臓の上に手を置き、チュートリアルの内容を思い出す。最初に登場する攻略対象は確か…青い髪と眼をした上級生だったはずだ。
そして、パーティー会場の入り口付近でその上級生が手渡してくれた花のコサージュを胸に付けるという話だったはずなのだが…
………どれがその上級生なんだ?
パーティー会場の入り口付近に立ち、会場へと入っていく新入生たちにコサージュを渡している上級生たち。だが、特徴である青髪青眼を持つ上級生は十人はいる。
困った。これでは誰がその攻略対象で、今後気を付けるべき相手なのか分からない。
………いや、待てよ?別に必ずその攻略対象からコサージュを受け取る必要はないのでは?
ここで違う上級生からコサージュを貰っておけば、出会いイベント自体が無かった事になって、その後のストーリーも変わってくるのではなかろうか。
「…よし」
俺は心の中で、だ・れ・に・し・よ・う・か・な・天・の・神・様・の・言・う・と・お・り、と唱えた。
結果、選ばれたのは一番手前にいる青髪青眼の上級生だった。
コサージュを貰うために並んでいる人混みをかき分け、俺は選んだ上級生のもとへと向かった。
「はい、入学おめでとう」
「ありがとうございます」
コサージュを受け取り、胸に付ける。よし、これで良いだろう。
「…あれ?君たしかさっき入学式で新入生代表の挨拶してた子だよね?石留君だっけ?」
「え? ああ、はい。そうですけど…」
おもむろに話しかけられ、歩き出そうとしていた足を止める。
「ああ、いきなりごめんね。僕は二年の浪川匠っていうんだ。宜しくね」
「あ、はい。こちらこそ」
自然な動作で差し出された手を握り返すと、浪川先輩は青い眼を細めてにこやかに笑った。
けれど、その笑顔を見た瞬間、俺は奇妙な感覚に捕らわれた。
何だろう?笑ってるんだけど、なんかこう違和感があるっていうか…
「あの…じゃあもう行きますね」
「うん。またね」
よく分からないがこれ以上話してはいけないような気がして、俺は浪川先輩に軽く会釈すると足早にパーティー会場に足を踏み入れたのだった。
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