拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶

文字の大きさ
24 / 34

22「第一のカップリング2」

しおりを挟む
と言っても、俺の都合で燈堂とうどう先輩と野分のわき先輩を『中間試験イベント』でくっつける事に対して罪悪感がない訳ではない。

勿論、本音では俺の安寧のために二人が付き合ってくれればと思っている。だが、いくら俺の今世の人生がかかっているとは言え、それはあちらにも同じ事が言える訳で。

だから、本当に、ほんとーーーーに!『あわよくば』という魂胆でいる。

従って、最悪二人が付き合わなくても、二人の仲を取り持つ事によって俺から注意が逸れれば、それで良しなのだ。

それに、この二人をくっつけるタイミングとして『中間試験イベント』を選んだのにもちゃんと理由がある。

このイベントは、野分先輩ルートで出てくるイベントで。どういうイベントかというと、野分先輩の悩みが明かされるというものだった。

ゲームでは、学園生活最後の中間試験が迫って、今回こそは燈堂先輩に勝たなければという強迫観念に近い思考に追い詰められていた野分先輩のいつもと違う様子を心配した主人公に、野分先輩は自分の悩みをこう打ち明ける。

『本当は同年代の者たちのように、気の置けない友人が欲しい。だが…みなが求めているのは「真面目で完璧な私」だ。だから…こんな腑抜けた願望を持っている本当の私を知ったら、きっと失望するだろう。そう考えると怖くて堪らない』

前世でこのイベントを見た時「優等生も大変なんだなぁ」くらいにしか思わなかったが、今なら分かる。
あの言葉は、言動はどうあれ自由気ままに振る舞っている燈堂先輩が羨ましいという思いから来た言葉だったのだと。

だから、気に入らないし、何かと目に付いてしまう。そして、昔は仲が良かった分余計に変わってしまった幼馴染が許せなかった。

…と、まあ、少し話が脱線したが、そんな経緯で主人公に悩みを吐露した野分先輩に、主人公は野分先輩の悩みに対して………何て言ってたっけな?
ま、まあそこは忘れたが、野分先輩の心に刺さるような事を言った主人公(恐らく)に、野分先輩は初めて恋心を自覚するのだ。

そう!大事な所だからもう一度言おう!

野分先輩は、このイベントで、『恋心』を、『自覚』するのだ!

つまり!ゲームでは相手は主人公だったが、ここで相手を『燈堂先輩』にげ替える事ができれば!

めでたく第一のカップリングが誕生するという寸法なのである!

…え?そんな上手く事が進むのかって?

無論、俺とて簡単にいくとは思っていない。

だから、まずは野分先輩の意識改革をした訳だし、お相手である燈堂先輩の方にも何かしら根回しをする必要がある事も分かっている。分かってはいるのだが…

「あー…気が重い…」

保健室の扉の前で大きく溜め息を吐き出し、これからしなくてはならない事を思うと二の足を踏んでしまう。

野分先輩と勉強会をした日から三日後の木曜日、放課後を待ち、俺はここ──保健室にやって来た。

言っておくが、体調が悪い訳でもどこか怪我をした訳でもない。

では、なぜ特に保健室にお世話になる必要がないのにここへやって来たのか?

その理由は単純明快、この曜日この時間帯に燈堂先輩が必ずいるからである。

別に他の場所で燈堂先輩と会っても良かったのだが、出来れば他の生徒に見られたくない所で接触したかった。

何故かって?一緒にいる所を見られて燈堂先輩との噂を立てられるのを避けるためだ。

ここで面倒臭い噂を立てられると、野分先輩と燈堂先輩とをくっつける計画に弊害が出てしまう可能性がある。

そんな展開は出来るだけ避けたい。なので、こうして誰にも見られず、かつ燈堂先輩が一人でいるタイミングで接触する必要があったという訳だ。

…いや、まあ厳密に言えば、この中にいるのは『一人』ではないのだけれど。

大勢を常に引き連れて中心にいる燈堂先輩に話しかけるなんて真似は当然したくないので、仕方がないと自分に言い聞かせる。

「ふぅ…よし、行くか」

深呼吸して覚悟を決め、取っ手に手をかける。いざ、参らん!


*****


「………」
「ふっ、そんな怖い顔をするな、石留椿」
「…したくもなりますよ」

嫌悪感を隠そうともしない俺の視線に、燈堂先輩は愉快なものを見るように口角を上げる。

そんな燈堂先輩に対して、俺はもう一度大きく溜め息を吐き出した。

先程、俺は『何故か』鍵がかかっていなかった保健室の扉を開けて中に入った。
そして、俺は目撃した。まさにこれからベッドで情事をおっぱじめようとしていた二人の生徒を。

一人は当然ながら燈堂先輩で、もう一人は薄黄色の髪と眼をした可愛らしい顔立ちの男子生徒だった。

…別に同性愛に偏見はない。ないが、俺は普通に女の子が好きだし誰彼構わず手を出す趣味もない。だから、燈堂先輩が誰と行為を致していようがどうでもいいのが本音だが、思わず顔に出てしまうくらいには節操なくそういう行為をする燈堂先輩を嫌悪してしまう。

だがしかし、燈堂先輩は野分先輩と(あわよくば)くっついて貰わなければならない。そのためには、燈堂先輩の節操のなさをどうにかしなければならないのだ。

「知っていて邪魔をしに来た……という訳ではないようだな?」
「当たり前でしょう」

勿論、嘘である。俺は知っていて、今日起こるこの『イベント』を選んだ。

ゲームでは、燈堂先輩は毎週木曜日の放課後に保険医がいなくなる事を良い事に、毎回違う相手を連れ込んで情事に耽っていた。
その事を知らずに偶々たまたま保健室を訪れた主人公は、先程の俺同様まさにおっぱじめようとしていた場面に遭遇してしまう。そして、お相手の男子生徒が慌てて保健室を出ていった事で二人きりになってしまい、こういう事を毎週しているという事実を燈堂先輩から聞き、主人公は燈堂先輩に要約すると「そんな不誠実な事をして虚しくないんですか?」というような内容の事を言った事で、初めて面と向かってそんな事を言われた燈堂先輩は主人公に対して強い関心を持つようになり、また節操なしになった理由の片鱗を見せる場面でもあった。

ここで大事な点は、このイベントで主人公の燈堂先輩に対する認識が変わる事だ。

それまで、主人公は燈堂先輩の事を節操なしのナンパ野郎としか思っていなかったが、このイベントを機にその態度の理由を知り、印象が変わった事で接し方が変わるのだ。

無論、俺にそんな予定はないが、燈堂先輩が節操なしになった理由の片鱗を見せる場面はこのイベントしかないため、選ばざるを得なかったという訳である。

ん?そうまでしてこのイベントで何をしたいのかって? それは…まあこれからその目的を果たすので見てて欲しい。

「まあ、別に先輩が誰と何をしてようがどうでもいいですけど、こんな保健室の使い方は良くないと思いますよ」

暗に本当に保健室を必要とする生徒に迷惑をかけるなと言い、退室しようと踵を返す。

すると「待て、石留椿」と燈堂先輩に呼び止められた。

「? 何ですか?」

よし、かかった!と思いながら怪訝けげんげに振り返って足を止めると、燈堂先輩は乱れた制服のままベッドから降り、俺の目の前まで近付いてきた。
そして、そのままじっと俺の眼を見つめていたかと思うと、突然俺の頬に手を伸ばしてきて。

「…本当に、邪魔しに来たんじゃないんだな」
「? そう言ったはずですけど?」

答えながら、さり気なく伸ばされた手から身を引いて避けた俺を見て、燈堂先輩は愉快そうに喉を鳴らした。

「本当に俺に興味がないんだな。いや、寧ろ嫌っているか」
「そうですね」

はっきりとそう答えた俺に、燈堂先輩は「ふっ、面白い奴だ」と笑みを見せた。

「この俺様に向かって『嫌い』だと言った奴はお前で二人目だ」

…きた!

そう。背筋に悪寒が走りながらも耐えていたのも、全てはこのセリフを燈堂先輩に言わせるため。

ゲームでは、自分以外にそんな事を言った人間がいた事実に主人公は何となく胸がモヤつくという場面だったが、当然俺にそんな現象は起きないのでノープロブレムだ。
 
そんな訳でやっとやって来たチャンスに、気がきそうになるのを何とか抑え、用意していたセリフを言う。

「二人目…ですか?」
「そうだ。お前で二人目だ」
「ちなみにですけど、一人目は誰なんですか?」
「ほお?気になるか?」
「まあ、気が合いそうですから」
「何だ、そういう理由か。つまらんな」
「つならなくて結構です。それで、その一人目という人はどんな方なんですか?」

初めて自分の話に興味を示した(ふりをした)俺に、燈堂先輩は複雑そうな顔をしながら口を開いた。

「どんな…と言われると、超がつく真面目な奴、だな」
「真面目な人、ですか?」
「ああ。あんな堅物は他に見た事がない」
「………」
「? 何だ?」
「いえ…その方のお話しをしている先輩が何だか悲しそうな顔をされていたので」
「悲しそう…だと?」

驚いたように赤い眼を見開く燈堂先輩に、心の中で謝っておく。ごめんなさい、嘘です。本当は懐かしそうな顔でした。

とは言え、ここで燈堂先輩の意識を変えなければならないので、それは黙っておく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり… 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

処理中です...