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3.王子、異国のモフモフにチヤホヤされる
しおりを挟むガタン、ガコン、ドシャア。
「……あのさ、最後の揺れ、絶対なんか落としたよね」
「車輪の音だろう」
「その音、人の悲鳴混じってなかった!?」
そんな不穏な振動を最後に、馬車はついに停止した。
ここが俺の“研修地”……獣人の国リュクス領。
大臣がよこした手紙では、“風光明媚(自然の景色が美しく、眺めがいいこと)で心洗われる”らしいが。
「……目の前に立ってるの、どう見ても斧持った熊だけど?」
「歓迎のつもりかもしれん」
「優しさの基準がハードだな!?」
しかし、熊(立派な獣人だった)だけじゃなかった。
次々に現れる、尻尾・耳・牙を備えた獣人たち。
耳がふさふさな狐族、長身で色気のある豹族、ちんまりとしたウサギ族まで……
やたらとビジュアル偏差値が高い。
そしてなぜか、彼らは口を揃えてこう言った。
「「ようこそ、我らが“姫”!!」」
「俺、王子!!!!!」
それでも歓迎ムードは止まらない。
「この子、顔がいいぞ」
「髪がさらさらしてる!」
「指が細い! 細い指は良い文明!」
ラクス王子はなんと、獣人国の理想造形にドンピシャだった。
「ちょ、待って、これなんか違う! 俺は研修に来ただけで!」
「研修!? 結婚の間違いじゃなくて!?」
「“け”しか合ってないわ!!」
こうして始まるラクス王子のなぜか愛されライフ。
彼の見た目と気さくな性格は、獣人たちにバカ受けだった。
昼には果物が盛られ、夜には毛布が三重に追加され、朝起きたら誰かが髪を結ってくれている
「おかしい、王宮より生活レベルが高い……」
だがしかし。順調すぎる話にトラブルは付き物。
「おい、そこの王子」
「……ん?」
目の前に立ちはだかったのは、やたら鋭い眼差しの虎族の青年だった。
背が高くて筋肉がついていて、顔がいい。顔がいいのがむかつく。
そして手には獣人製の長剣を携えていた。
「お前、ルークに近づきすぎだ」
「……誰?」
「俺の許嫁だ!!!!」
「ちょっ……初耳!!?」
その日、ラクス王子は悟った。
「顔がいいだけで生まれる敵もある」と。
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