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12.結婚式
しおりを挟む会場は獣人の村の広場。手作りの花飾り、笑顔と拍手、太鼓と笛の音が鳴り響く中、ついに結婚式が始まる。
神官役の村長が司会を務め、式が進行する。
「では、新郎ラクス、新郎カイル、誓いの言葉を」
ラクスは恥ずかしさに詰まりながらも、言葉を告げる。
「俺は……この人といると、馬鹿になるし、焦るし、顔も熱くなる。でも、そんなの全部まとめて好きだと思えた。だから、人生まるごと預ける。お前に」
カイルが真剣な眼差しで告げる。
「王子だったあなたを、俺は守るだけの存在だと思っていた。でも、今は違う。あなたを守ることが、俺の人生そのものだ。愛している。生涯かけて、君の隣に立ち、守ってみせる!」
「……うぉおおおおお~~~~!!!!!」
兄ラゼルドの様子
最前列、ガチガチに着飾った長兄ゼラルドが弟の姿を見つめ、式の最初から目元が怪しい。
ラクスが誓った瞬間、ぶるぶる震えはじめる。
「では――誓いのキスを、どうぞ」
その瞬間、会場にふわっと風が吹いたような静寂。
鳥のさえずりも、太鼓の音も、遠くなって。
ラクスは、まっすぐカイルを見上げた。
カイルも、何のためらいもなく、ラクスの頬に手を添えた。
長く、静かなキス
ふたりの唇が触れ合う。
軽く触れるだけで終わるかと思ったそのキスは、直ぐには終わらなかった。
触れて、離れず、呼吸も忘れるほどの、長い、長い口づけだった。
村のざわめきが、いつしか消える。
誰もが、ふたりのキスから目を逸らせなかった。
からかう者もなく、見惚れて言葉を失った。誰もがただ、「これが本物の愛か」と知った。
兄ラゼルドは、もう言葉にならず、袖でぐしぐし顔をぬぐっていた。
ルークとカグラは呆れながらも、どこか目をそらしていた。
唇を離したあと、ラクスの頬が、ほんのり赤く染まっていた。
「……長くない?」
カイルは、目を細めて微笑んだ。
「誓いだから。一度だけじゃ、足りなかった」
「……お前、たまにすごいこと言うな」
「うっ……ぐっ……俺の弟が……ついに……っっ!!」
バッシャァァァァ(←涙の音)
村人「お、ラクスの兄さんが海になってる!!」
ルーク「頭の冠が泣きすぎてズレてます!」
カグラ「兄、限界突破してやがる……!」
「ラクス……!お前は昔から、誰の言うことも聞かなくて、
無鉄砲で、馬車からも勝手に飛び降りて……!でも今日のお前は……誰よりも大人で、誰よりも、幸せだ……!!カイル殿……頼む……っっ!!この問題児をよろしくお願いしますぅぅぅぅぅ!!」
ラクスは顔をひきつらせた。
「……式より泣くってどういうこと……」
「俺そんな感動的なこと言ったか……?」
「兄様は、昔からそういう方だ」
*
後日、村の住民達の間で噂が広まった。
「あの王子は神で、その兄は聖人だった」
「兄が泣いた地に花が咲いた」
「愛の水たまりを村が保存してる」
そんな村人たちを眺め、ラクスは肩の力を抜いた。
「……ま、いっか。あんなに泣いてもらえるなんて、悪くなかったしな」
カイルは愛しそうに見つめながら呟く。
「……うん。お前は、みんなに愛されてる」
「一番に愛してくれてるお前が言うなら、そうかもな」
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