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第二章『えっ! 踊り子なのに魔物と戦うんですか!?』
第31話 受付嬢・ムース
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次の日の早朝。
何もない草原をひたすら歩き、なだらかな丘を三つ越える。
昼を過ぎ、夕陽が巨大なお椀に入っていくかのように沈む盆地に、サブルブ村はあった。
「のどかというか、おそろしいくらい静かな村ですね」
都会の喧騒とは無縁の静寂。
豊かな自然の匂いが鼻孔をくすぐる。
アグリナの街から北にある、小さな農村にヒミカとユーマは辿り着いた。
「運良く高額クエストを受注できてよかったわ。片道丸一日かかっても、十分お釣りがくるわね」
「はい。でもゴブリンとスライムの討伐だけで金貨十枚って破格どころじゃないですよね。本当に支払ってくれるのでしょうか」
「ギルドに届いた正式な依頼なんだし、大丈夫でしょ。ムースちゃんが嘘ついてるとも思えないし」
アグリナ街での二日間、ギルドで、ヒミカとユーマは立て続けにクエストに失敗し、死人のように意気消沈してギルドのロビーで膝を突き合わせていた。
そんな姿を見かねてか、掃除をしていたムースという受付嬢に話しかけられたのだ。
『よかったら今朝届いたばかりのクエスト受けますか? 畑の農作物を荒らすスライムとゴブリンの討伐依頼ですわ。報酬、なんと金貨十枚でしてよ』
『金貨十枚!? ほんと? 嘘じゃないよね?』
受け取った用紙には確かに、スライムとゴブリンの討伐依頼と書かれていた。報酬の金貨十枚についても。
『タラウス方面に近いサブルブ村からですの。あそこはアグリナの野菜市場の中心となる大きな農地がありますのよ』
(サブルブ村……。そういえば、野菜が届かないとかそんなことを言っていたような)
『本当は一度先輩方にも目を通してもらって、さらに依頼人にも確認してから掲示板に張り出すのですが、それだと張り出した瞬間、他のパーティさんに受注されちゃうかもしれません……。お困りのようですし特別に今すぐ手配いたしますわ』
『受ける、受けるわ! ありがとう! 私ヒミカ。あなたは?』
『新人受付嬢のムースです。これからもごひいきに、ですわ!』
『ちょっと待ってください、勇者様。今の僕達には、クエストの前金すら払えません!』
『あっ……終わった……』
『前金は報酬の二割、つまり金貨二枚ですけど、雑草すら食べそうなヒミカちゃん達は払えないですわよね。わかりましたわ、今回はわたくしがポケットマネーで受け持ちます』
『いいの!? でも、どうしてそこまで』
『もちろん、クエストを処理すればするほどわたくしのギルド受付嬢としての評価が上がりますわ。それに、ヒミカちゃんとは年齢が近いし、友達になりたいって思ってましたの』
『ほんと? 私でよければぜひ!』
手を差し出した時、地の底から響くようなお腹の音が聞こえた。
『ごめん、友達としてもう一つお願いしていいかしら』
『ヒミカちゃん? 顔が怖いんですけど』
『食べたいの』
『へ?』
『なんでもいいから食料を頂戴。報酬から差し引いてもいいわ。さもないと空腹であなたのことをたべちゃうかも』
『勇者様、顔が怖いです! 空腹でも一般人を脅迫するような真似はダメです!』
『──きゅん』
『きゅん?』
『な、なんでもないですわ。余りもののパンとコーヒーで良ければ──』
『いただきます! そしてごちそうさま!』
『ふふっ。他の先輩方には秘密にしておいてくださいね。クエストの成功、お祈りしています♪」
回想終了。
「ムースさんから、お昼のお弁当までもらっちゃいましたし、頑張らないとですね」
「サンドイッチ、美味しかった~。報酬を手に入れたら、ご飯でも奢らないと。それに、初めての友達だし」
「ぼ、僕は?」
「ユーマは私の騎士でしょ?」
「それってどういう──」
「そのままの意味よ。さぁ、ちゃっちゃと依頼人を探しましょう」
報酬の金貨十枚は、二週間は働かずとも三食食べて暮らせる。
サブルブ村は、村と呼ぶには人の手による開拓があまり進んでいないことがわかる。
丘に囲まれているため風は弱く、この土地だけ止まっているかのような、ゆったりとした時間が流れていた。
「村は高齢化が進んでて、低級魔物でも手を焼くとか。 娯楽もなく、使いどころがない大金を払ってでも日々の暮らしを守りたいのかもしれませんね
延々と続く畑に沿って村長の家を探していると、『お~い』とヒミカ達を呼び止める声がした。
鍬を振るっていた三十代くらいの男が、タオルで汗を拭いながらこちらに向けて手を振っている。
「いやぁ~、このような田舎までどうもご苦労様です。しかもこんな別嬪さんが来てくれるとは」
「冒険者のヒミカです」「同じくユーマです」
「いやぁ~、若い力っていいですねぇ。私はこう見えてもサブルブ村では最年少なんですよ。最近世間では地方創生? なんて言葉が流行ってるでしょう。村の者は若い力が必要だって言ってね、無理矢理村長を押し付けられたんですよ。まぁ、正直肩書だけで、毎日畑仕事ばかりしてますがね。はっはっは」
「早速ですが、依頼の詳細について教えていただいても?」
久しぶりに外部の人間と話せて嬉しかったのか。長話になりそうだったので本題を切り出した。
「ああ、依頼。そういえばでしたね」
「ゴブリンとスライムに畑を荒らされてるって聞きました。村の人たちでは対処できないのでしょうか」
「いやぁ~、村の者達は私以外みんな高齢でね。動けるのは私しか居ないんだが、私も雑務で忙しく
てね。それに、奴らはただの魔物じゃないんですよ」
(あれ、たった今畑仕事しかすることないって言わなかったっけ)
「ただの魔物じゃない、とは?」
村長は腕を組んでしかめっ面をすると、重苦しい息を吐いた。
「ただのスライム、ただのゴブリンではありません。奴らは、冒険者と同じようにパーティを組んでいるのです」
「群れを成す魔物は多くいますが、低級魔物では珍しいですね」
「いやぁ~、堅苦しい話は一旦ここまでにして、まずは夕飯でも食べませんか。ウチの村は野菜とキノコばかりですが、都会では味わえない絶品ですよ」
(……何かを見落としてるような)
ふと浮かんだ疑問をかき消すように、またしても空腹の鐘が鳴るのだった。
何もない草原をひたすら歩き、なだらかな丘を三つ越える。
昼を過ぎ、夕陽が巨大なお椀に入っていくかのように沈む盆地に、サブルブ村はあった。
「のどかというか、おそろしいくらい静かな村ですね」
都会の喧騒とは無縁の静寂。
豊かな自然の匂いが鼻孔をくすぐる。
アグリナの街から北にある、小さな農村にヒミカとユーマは辿り着いた。
「運良く高額クエストを受注できてよかったわ。片道丸一日かかっても、十分お釣りがくるわね」
「はい。でもゴブリンとスライムの討伐だけで金貨十枚って破格どころじゃないですよね。本当に支払ってくれるのでしょうか」
「ギルドに届いた正式な依頼なんだし、大丈夫でしょ。ムースちゃんが嘘ついてるとも思えないし」
アグリナ街での二日間、ギルドで、ヒミカとユーマは立て続けにクエストに失敗し、死人のように意気消沈してギルドのロビーで膝を突き合わせていた。
そんな姿を見かねてか、掃除をしていたムースという受付嬢に話しかけられたのだ。
『よかったら今朝届いたばかりのクエスト受けますか? 畑の農作物を荒らすスライムとゴブリンの討伐依頼ですわ。報酬、なんと金貨十枚でしてよ』
『金貨十枚!? ほんと? 嘘じゃないよね?』
受け取った用紙には確かに、スライムとゴブリンの討伐依頼と書かれていた。報酬の金貨十枚についても。
『タラウス方面に近いサブルブ村からですの。あそこはアグリナの野菜市場の中心となる大きな農地がありますのよ』
(サブルブ村……。そういえば、野菜が届かないとかそんなことを言っていたような)
『本当は一度先輩方にも目を通してもらって、さらに依頼人にも確認してから掲示板に張り出すのですが、それだと張り出した瞬間、他のパーティさんに受注されちゃうかもしれません……。お困りのようですし特別に今すぐ手配いたしますわ』
『受ける、受けるわ! ありがとう! 私ヒミカ。あなたは?』
『新人受付嬢のムースです。これからもごひいきに、ですわ!』
『ちょっと待ってください、勇者様。今の僕達には、クエストの前金すら払えません!』
『あっ……終わった……』
『前金は報酬の二割、つまり金貨二枚ですけど、雑草すら食べそうなヒミカちゃん達は払えないですわよね。わかりましたわ、今回はわたくしがポケットマネーで受け持ちます』
『いいの!? でも、どうしてそこまで』
『もちろん、クエストを処理すればするほどわたくしのギルド受付嬢としての評価が上がりますわ。それに、ヒミカちゃんとは年齢が近いし、友達になりたいって思ってましたの』
『ほんと? 私でよければぜひ!』
手を差し出した時、地の底から響くようなお腹の音が聞こえた。
『ごめん、友達としてもう一つお願いしていいかしら』
『ヒミカちゃん? 顔が怖いんですけど』
『食べたいの』
『へ?』
『なんでもいいから食料を頂戴。報酬から差し引いてもいいわ。さもないと空腹であなたのことをたべちゃうかも』
『勇者様、顔が怖いです! 空腹でも一般人を脅迫するような真似はダメです!』
『──きゅん』
『きゅん?』
『な、なんでもないですわ。余りもののパンとコーヒーで良ければ──』
『いただきます! そしてごちそうさま!』
『ふふっ。他の先輩方には秘密にしておいてくださいね。クエストの成功、お祈りしています♪」
回想終了。
「ムースさんから、お昼のお弁当までもらっちゃいましたし、頑張らないとですね」
「サンドイッチ、美味しかった~。報酬を手に入れたら、ご飯でも奢らないと。それに、初めての友達だし」
「ぼ、僕は?」
「ユーマは私の騎士でしょ?」
「それってどういう──」
「そのままの意味よ。さぁ、ちゃっちゃと依頼人を探しましょう」
報酬の金貨十枚は、二週間は働かずとも三食食べて暮らせる。
サブルブ村は、村と呼ぶには人の手による開拓があまり進んでいないことがわかる。
丘に囲まれているため風は弱く、この土地だけ止まっているかのような、ゆったりとした時間が流れていた。
「村は高齢化が進んでて、低級魔物でも手を焼くとか。 娯楽もなく、使いどころがない大金を払ってでも日々の暮らしを守りたいのかもしれませんね
延々と続く畑に沿って村長の家を探していると、『お~い』とヒミカ達を呼び止める声がした。
鍬を振るっていた三十代くらいの男が、タオルで汗を拭いながらこちらに向けて手を振っている。
「いやぁ~、このような田舎までどうもご苦労様です。しかもこんな別嬪さんが来てくれるとは」
「冒険者のヒミカです」「同じくユーマです」
「いやぁ~、若い力っていいですねぇ。私はこう見えてもサブルブ村では最年少なんですよ。最近世間では地方創生? なんて言葉が流行ってるでしょう。村の者は若い力が必要だって言ってね、無理矢理村長を押し付けられたんですよ。まぁ、正直肩書だけで、毎日畑仕事ばかりしてますがね。はっはっは」
「早速ですが、依頼の詳細について教えていただいても?」
久しぶりに外部の人間と話せて嬉しかったのか。長話になりそうだったので本題を切り出した。
「ああ、依頼。そういえばでしたね」
「ゴブリンとスライムに畑を荒らされてるって聞きました。村の人たちでは対処できないのでしょうか」
「いやぁ~、村の者達は私以外みんな高齢でね。動けるのは私しか居ないんだが、私も雑務で忙しく
てね。それに、奴らはただの魔物じゃないんですよ」
(あれ、たった今畑仕事しかすることないって言わなかったっけ)
「ただの魔物じゃない、とは?」
村長は腕を組んでしかめっ面をすると、重苦しい息を吐いた。
「ただのスライム、ただのゴブリンではありません。奴らは、冒険者と同じようにパーティを組んでいるのです」
「群れを成す魔物は多くいますが、低級魔物では珍しいですね」
「いやぁ~、堅苦しい話は一旦ここまでにして、まずは夕飯でも食べませんか。ウチの村は野菜とキノコばかりですが、都会では味わえない絶品ですよ」
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ふと浮かんだ疑問をかき消すように、またしても空腹の鐘が鳴るのだった。
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