戦国ベースボール伝

hiroshi0731

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逆襲!これが新朝倉軍の力

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-翔-

「アウト!」

一塁塁審が高々と右手をあげた。

よしっ。直澄の必死なプレーが、折れかかった景固の気持ちを繋いだ。
武将が戻ってくる中、俺は慌てて吉統のもとに駆け寄った。

「吉統さん・・・」

俺は、さっきの回で気が付いた、頼照の攻略法を告げた。

「え?それは真ですか?」

驚きを口にする吉統。

「間違いありません。
今から他の皆さんにも説明するので、先程のサインはカイトから出しますので。」

「御意。」

吉統は、頷きながらバッターボックスへと向かった。
俺は、慌てて自軍へと戻り、みんなを集めた。

「時間がないので、手っ取り早く、頼照の攻略法をお伝えします。」

「なにっ?!」

吉統同様、驚きを露にする武将たち。

「攻略のポイントは2点。
まず1つめは、頼照のグローブの位置。直球は、握りを丁寧に確かめる必要がないため、投球動作の際、グローブを胸元に置いています。
変化球の場合は、握りを確かめるため、グローブ内を確認したいのか、直球の時より、グローブ1つ分高め、それも身体から若干離して置いています。」

「ほ、ほんとかよ?」

思わず、直澄が声をあげた。

「間違いないです。これで直球か変化球かがわかります。
次に変化球の見分け方ですが、横の変化については、この試合外に逃げる球の選択率が8割を越えています。
おそらく、中に食い込む球はコントロールミスによるデッドボールを恐れているのかと思われます。
そして、縦変化、フォークの見分け方は・・・頼照ではなく、頼竜です。
頼照の球種の中で、一番やっかいなのが、このフォークです。
相当な落差で変化していますからね。
と、言うことは捕手も相当取りにくいということです。
フォークの時に、頼竜の身体が若干前のめりになる。
恐らく次の動作に移りやすいように、つまり投球がワンバウンドしたとしても、しっかり対処できるようにでしょう。」

「・・・。」

「ま、まじかよ!すげぇぜ、翔!」

直澄が目を輝かせている。

「サインは、ボイスサインを使います。
『しっかり』はストレート、『集中』はフォーク、『狙って』は横変化でいきましょう。あとは、皆さんの実力次第です。」

「球種わかってんだから、打てってか?簡単に言ってくれるぜ!」

そう言いながら微笑む武将たち。
さぁ、反撃開始だ!

頼照攻略法をまとめると・・・。

①癖から球種を読み、カイトからボイススサインを出す
「しっかり」など単語だけだと気付かれる可能性があるため、「さぁ、いい球きたらしっかり打って行きましょう。」のように応援の一部にサイン単語を組み込む

②基本的には、ストレート・横変化に絞る
落差あるフォークは凡退の可能性が高いため
また、横変化は外に逃げる球に限定し、中に食い込む球は割合も低いため捨てる

-カキーン-

「?!」

サイン確認、戦略伝達を終えたその時、快音が鳴り響き、自軍応援団が歓喜に包まれた。
一塁に目を向けると、塁上で小さくガッツポーズをしている吉統。

「インコースのストレートをしっかりおっつけてセンター前でした。」

カイトが近寄ってきて、吉統のヒット内容を報告してくれた。
初ヒットを打たれたが、マウンド上の頼照は落ち着いている。
周りの選手も、何の問題もないといった様子。

次は、景忠・・・どうする。打たせるか、それとも送らせるか。

「景忠さん。」

「バントだろ?わかってるよ。」

バットを用意しながら、そう返す景忠。

「いや、打って行きましょう。」

「なにっ?」

景忠にとって、意外な答えだったのか、ネクストサークルからバッターボックスに行こうとした足を止めて聞き返してきた。

「球種がわかるんですから、打っていきましょうよ。ここで試合を決めましょう。
それとも、コースまでわからないと自信がないですか?」

「はっ。言ってくれる。」

そう言いながらも、ニヤッと笑みをつくりながら、バッターボックスに向かって行った。



-堀江景忠-

あやつめ、この試合が始まってからのわずかの時間で、相手の癖を把握し、攻略法を授けてきよった。
ここまでされて、結果が出せぬは武士の恥。

「ここ大事!集中していきましょう!」

副軍師からのサインが聞こえた。

-シュッ、バシッ-

「ボール!」

フォーク・・・当たりだ。さて、次は?

「さぁ、いいの狙って行きましょう!」

-シュッ、バシッ-

「ボール!」

外へのスライダー。これも当たり。
どうやら、セットポジションになっても癖は変わらないか。

「いいカウント!狙って行きましょう!」

-シュッ-

さっきよりボール2つ分・・・中っ!

-カキーン-

振り抜いた打球が右中間を破った。

「なっ?」

慌てるマウンド上の頼照。お前・・・既に丸裸だぞ。
やるだろ、うちの坊っちゃん軍師も。

センター仲考から凄まじい返球がきたおかげで打点はもらい損ねたが、無死二、三塁か。まぁ、仕事としては十分だろう。
自軍の方を振り向くと、ガッツポーズではしゃぐ面々・・・おいおい軍師まで。

全く・・・頼りになるんだか、ならないんだか。
そう言いながら、小さく・・・小さくだが、柄にもなくガッツポーズをしている自分がいることに気づいた。



-真柄直澄-

来やがった・・・チャンス。
球種はわかるって言ってもよ・・・二人みたいにあんなにキレイに変化球打ち返せんのかよ。
しかも、俺が変化球にからっきしなのを頼照は知ってやがる。
今日も、ストレートはきてねぇ。

「バッター?」

「あ、あぁ。」

やべぇ、考え事してたら、審判に呼ばれちまった。
俺は、気持ちの整理がついていないまま、打席に入り、バットを構えた。

「さぁ、チャンスです!集中集中!」

げっ!いきなりフォークかよ。

-シュッ、バシッ-

「ストライク!」

ストライクか・・・。
頼照のやつ、俺の苦手な変化球でどんどんストライク取っていくつもりだ。
やばい・・・やばい。やっぱ・・・打てねえよ。
ま、まぁ、俺が三振したって、景健さんが控えてるんだし。

「さぁ、狙って行きましょう!」

そんなこと考えてる間に、次はスライダーかよ。

「?!」

頼照が投球動作に入ったと同時に、サードランナーの吉統が走り出した。

ばかっ!あの野郎!
タイミング、アウトじゃねぇか!

-シュッ-

ちくしょう。当たれっ!

-カーン-

「ファール!」

辛うじて、バットの先っぽに当たり、バックネットを越えていった。

「吉統、てめぇいったい・・・。」

「当たったじゃん。」

俺の話を遮って、吉統が話始めた。

「お前さぁ、頭で考えてどうこうって器用さ持ち合わせてないんだからさ。
だったら、スラッガーらしく、デカイの狙って思いっきり振り切れよ。」

「・・・。」

何も言い返せず、俺は、バッターボックスで構え直した。
腹立つ・・・けど、確かにそうかもな。
俺は、馬鹿だからさ、難しいことはわかんねぇ。
だったら、来た球打ってやらぁ!

「直澄さん!しっかり!」

「?!」

『しっかり』は、ストレート!

-ビシュッ-

インローに渾身のストレートだが、打ち損じは・・・しねぇ!

-カキーン-

「・・・。」

打った瞬間確信した。
俺の放った打球は、応援団で埋め尽くされた外野席に突き刺さるってことをよ!

ードンッー

俺の打球は、外野席中段まで届いた。
一瞬、全体が静まり返った・・・が、すぐさま割れんばかりの歓喜に包まれた。

「どうだ!見たか、この野郎!」

俺は、馬鹿にした吉統を指差し言い放ってやった!
最高の気分だよ、ばか野郎!



-翔-

よし!よし!よし!

「やりやがったぜ!」

自軍、応援団ともに拍手喝采だ。

「直澄さん、ナイスバッティングです!」

ダイヤモンドを一周し、自軍に戻ってきた直澄とハイタッチをして、喜びを共有した。

「ばか野郎!俺を誰だと思ってやがる!ちょろいぜ!がははは!」

「言うねぇ。最初カチカチだった人が。」

その後ろをボソッと陰口たたきながら、通りすぎる吉統。

「あぁ?てめぇ・・・。」

「それにしても、ストレートが来てくれて、実際助かったね。
でも、なぜいきなりストレートを投げたんだろうね?
今日、直澄には徹底して変化球攻めだったのに。」

そう腑に落ちない感じで近寄ってきて来たのは、吉家だった。

「吉統の存在と直澄の意地・・・ってとこでしょうか。」

「ん?どういうこと?」

全く理解できないといった様子。

「まず、吉統のホームスティールを見て、またやってくるかもという警戒心が高まった。なのでその時点でフォークが投げにくくなってしまったんだと思うんです。
さらに、空振りを狙って投げたスライダーがバットに当てられてしまった。
しかも、バットの先だったと言っても、ボールは真後ろに飛んでますからタイミングとしては悪くない。
もし、次に同じ球を投げたら、ひょっとしたら打たれる可能性が。
そう言った、要素が重なってうまれたストレート選択だったんだと思います。」

「なるほどねぇ。」

これで今度はこちらが2点リードした。
さっきまでと違い、明らかに動揺している相手軍の面々。
いきなりの連打に、状況が理解できていないといったところか。

この隙に、あと2~3点は欲しいところだ。
次は、景健・・・。

「いや~、逆転できてよかったね。」

「?!」

・・・カイト?
サイン伝達役なのに、何でここに?

「あ、景健さんからの伝言なんだけど・・・俺にサインは必要ないってさ。」

・・・おいおい。
でもまぁ・・・ここは我が軍の4番に任せるか。



-朝倉景健-

直澄のやつ、やるじゃねえか。
まぁ、それもこれも翔の攻略法のおかげか。
宗滴様亡き後、朝倉家は上手く機能しなくなっていたが。
朝倉家は、あいつに救われるのかもしれねぇなぁ・・・。

さて、ここまで不甲斐ない結果に終わってたんだから、ここらで結果出さなきゃ、男じゃねぇよなぁ。

バッターボックスで構え、頼照に目を向けると、明らかな動揺。
と、共に相手軍の面々は、うちの軍営を確認していやがる。
何かサインが出てないか確認してやがるな。
自軍を見ると、何やら翔が不審な動きをしてやがる。

・・・なるほど。
あいつ、わざと不審な動きをして、相手方にサインだと思い込ませようってか。
まぁいい。それくらいのってやるよ!

「さぁ、何がくんのかなぁ?」

俺は、大声でそう叫びながら、チラッと自軍の翔を確認するフリをした。
さらに困惑する相手方。
痺れを切らしたのか、頼照が投球動作に移った。

余計な球はいらねぇ。一撃で仕留めてやるよ。

-シュッ-

頼照の手から離れた球は、スッと落ちる軌道を描いた。

「その球は・・・見飽きたんだよ!秘技・昇竜!」

-ガウーン-

凄まじい音とともに、打球は高々と宙を舞った。
わりぃなぁ。こんなとこで負けてられねぇんだよ。

-ドスン-

応援席最上段に飛び込んだ打球を確認すると、喝采が飛び交った。

俺が、4番だ!俺が、朝倉景健だ!
3塁を回った辺りで、俺は思わず拳を振り上げた。



-翔-

歓声がこだまする。
ホームベースを踏んで、景健が戻ってきた。

「勝つぜ!」

景健の鼓舞でさらにボルテージを上げる朝倉軍。

「景健。いつの間に秘技など習得したのだ。しかも技名まで。」

景健に話し掛けたのは、景固だった。

「身に付けたのは、出陣前夜だ。まぁ、ずっと何か掴みかけてはいたが・・・ギリギリ形になったってやつだ。
技名・昇竜は、長徳がつけてくれた。
天に昇る竜のように打球が舞うってな。
羨ましいだろ?結構気に入ってんだぜ。」

「ふん。く、くだらん。そんなもの無くとも・・・。」

「一的九扇・・・という名はいかがかとと長徳さんからの言伝です。」

景固の話を遮って話始めたのはカイトだった。

「長徳が?」

「はい。持続型の秘技は、9つの扇から1つを狙い定め、的確に的を射る。
ここぞというときに投げる、寸分違わなぬ投球は、その極みだということで、一的九扇・極はどうかと?
まぁ、お気に召されたらとおっしゃってましたけど。」

ニッコリ、いつものスマイルで返すカイト。

「ま、まぁ、その技名でよしとしよう。」

・・・みんなが感じているだろう。
あの嬉しさを我慢している口元。

・・・気に入ったな。

長徳とカイトは、訓練中は全武将のサポートをお願いしていた。
その時に、景固の秘技を見て、長徳が(勝手に)命名したんだな。

とにかく、これで3点差だ。
頼照は、最大の武器であるフォークを完璧に打たれた訳だから、ダメージは相当大きかったようだ。

得意のはずの変化球のキレが悪くなったのは、目に見えて明らかだった。
また、ヒットも続いたが、動揺からか相手のエラーも目立ちはじめた。

終わってみれば、この回一挙8得点を叩き出した。
あと3回。景固に任せるとは言ったが疲労は明らか。
・・・どうする。

「大丈夫。」

そんな風に考え事をしていた俺に、カイトが呟いた。

「景固さんのことを気にしてるんでしょ?
もう少し様子を見てみたら。」

ニコッと微笑むカイト。
確かに・・・。幸い大量得点のおかげで7点差だし。
行けるところまで、景固に任せよう。

対峙するのは仲孝。逆転されて鬼気迫る様子だ。
ここでまたド派手に打たれると、相手を勢いに乗らせる。
気を付けてくれよ。

-シュッ、カキーン-

初球・・・外角低めにストレート。
火を吹くような打球が放たれた・・・がラインを割ってファール。

-シュッ、バシッ-

2球目、外角高めストレート。
見逃してボール。

-シュッ、バシッ-

3球目、またしても外角高めストレート。

カウントは、バッター有利。

-シュッ、カキーン-

4球目は、一転インコース低めにストレート。
上手くすくわれたが・・・ファール。

あまりの緊張感に、球場全体が静まり返る。
仲孝は、景固のボールを完全に見切っている。
コントロールだけでは、この打者は打ち取れない・・・。
どうする、景固。

振りかぶった景固。
疲労する身体を目一杯つかって投じた球は・・・。

-シュッ-

「?!」

-ブン!-

「さ、三振!アウト!」

主審が右手を高々と上げて、アウトをコールした。

驚いた。景固が最後に投じた球は・・・。
バッターボックスの仲孝も、一瞬何が起こったか理解できていない様子だった。

「ね。大丈夫って言ったでしょ!」

カイトがニコッとしながら、そう話した。
カイトは、この事を知っていたのか?
景固が・・・チェンジアップを習得していたということを。



-魚住景固-

追い込んでから投じた球は、敵だけでなく味方をも驚かせただろう。
このチェンジアップ・・・実は、副軍師から教わったものだった。

軍師の実力は言うまでもなく、変化球もいくつも使いこなす。
また、景紀も器用な人間であり、軍師の教えで、いくつかの変化球をあっさり習得している。
だが、私はそんな器用さもなく、軍師に助言をもらっても、習得はできなかった。

周囲には「この完璧なるコントロールがあるのだから、変化球などいらぬ。」と虚勢を張っていたので、軍師は、私が単に変化球が嫌いで覚えようとしないのだと感じていたかもしれぬ。

そんな状況を察したのが、副軍師であった。彼から教えられたのは緩急。
つまり、それがチェンジアップであった。
他の変化球に比べて、握りもそれほど難しくなく、習得しやすい球種だったように思う。

最初は渋々であったが、「変化球投手を目指すためでなく、コントロールされた速球をより生かすために緩急を武器の1つにしてはどうか?」と言われて、何となく前向きになれた。

それで、軍師たちには「あんなに拒否をしていたのに、やっぱり変化球を訓練してる」なんて思われるのが耐え難く・・・こっそりと訓練を重ねたていた。
本当ならば、この戦で投げることは避けたかったのだが。
だが、効果はあったように思う。
仲孝から三振を奪えたし、相手軍の動揺がさらに高まったように感じられる。

あと3回・・・何としても投げきる。

それにしても・・・あの副軍師。
日頃は、金魚のフンのように、軍師についてまわっており、副軍師とは名ばかりの素人かと思っていたが、あの様子だと相当詳しいとみた。

いったい何者・・・。

まぁいい。今は、この戦に勝つことのみに全力を注ぐとしよう。



-翔-

大量失点、チェンジアップによる緩急、4番仲孝の空振り三振。
相手軍の戦意を喪失させるには充分過ぎるほどの内容だった。

この後も、自軍は得点を重ね、景固は緩急を上手く使い凡退の山を築いた。
終わってみると、14対1の大勝。
静まり返る相手軍に対し、歓喜に包まれる自軍。

まずは・・・1勝。

「やったね。」

カイトが微笑みながら、隣に近づいてきた。

「喜びよりも、安堵感・・・いや疲労感の方が大きいかな。」

そう返し、二人で笑いあった。

「ばーか!俺が殊勲賞だろうがよ!」

「な、なにを言うか!見事完投した私だろう!」

「てめぇ、途中ヘロヘロだっただろうが!」

「そなたも、結局あのまぐれ当たり一本であったではないか!」

殊勲賞はどっちかで言い合う景健と景固の二人。
みんな思ってるだろう・・・どうでもいいと。

「どちらでもないだろう。見苦しい。」

割って入ったのは、景忠だった。

「何だと?」

景健の怒りの矛先が変わった。

「ほほぅ。自分だとでもおっしゃりたいのかな?」

景固も然り・・・。

「自分ではない。・・・敢えて挙げるならば、軍師殿だろう。」

えっ?

「お二方。この場は、景忠殿の意見に賛同・・・ではないですか?」

ニコッと言うより、ニタッと笑いながら話に入る吉家。

「ま、まぁ。そういうことなら仕方なく翔に譲ってやらぁ。」

「ふ、ふん。まぁ今回は初陣でもありましたしね。
ご褒美といったところですか。」

照れながらそう続いた、景健と景固。
少しは認めてもらえたのかと感じると・・・さらに増す安堵感。
頬をつたう水滴。

「お、おぃ。何泣いてんだよっ!」

バシッと俺の背中を叩きながら、ケラケラ笑う直澄。

「まだ、初陣だぞ?ここからだろうよ?」

俺の顔を除きこみ、優しく話し掛ける景健。
まだ、初陣。始まったばかり。

だけど、俺にとっては大きな大きな一歩なんだと、そう思うんだ。
直澄たちに、「泣き虫」とからかわれながらも、「泣いていない」と虚勢をはる・・・。
俺って、こんなに涙もろかったんだろうかと疑問に思う。

とりあえず、早く休みたいと思いながらも、まずは義景への勝利の伝達役を走らせる。
そして自軍の面々を、先程まで相手軍の拠点であった吉崎の町へと移動させた。
戦が野球に変わっても、敗者は瞬く間に拠点を追われる・・・その現実は変わらないんだ。

そんな中、頼照がこちらに近づいてくるのがわかった。

「大丈夫か?」

景健が、心配そうに問いかけてきた。

「大丈夫。害を加える様子はないよ。ちょっと行ってくるよ。」

そう言って、俺は頼照の方に向かい歩き始めた。
徐々にその距離が近づいていき・・・。

「完敗だったよ。」

2人の距離が1~2メートルくらいになった時、頼照が口を開いたら。

「点数差ほどの実力差は、正直なかったと思ってます。
事実、終盤まで試合を優位に進めていたのはあなたたちだった。」

「そのはずだった。正直、仲考のホームランで勝ったと思った。
それが、いきなり何かを掴んだかのように打線に火が付きだした。」

敗北を受け入れたからか、頼照は試合終盤とは違い、落ち着いた様子で話を続けた。

「何かを掴んだのだろうが・・・それは問わない。
まぁ、聞いたところで、俺達に先はないからな。」

「えっ?」

どういうことなのか理解が出来なかった。
確かに、敗れはしたが、本願寺一派の北陸地方本山ともいわれる金沢御堂(後の金沢城地)まで戻れば、顕如を中心とする大軍が待っているはず。

確かに、この地を取られたのは痛いだろうが、大将戦ではないのだから、降伏を余儀なくされることもない。

「吉崎御坊を攻め落とした後、金沢御堂へと進撃し、我ら加賀本願寺一派を一蹴しようとしたのだろうが・・・お前たちは大きな勘違いをしているよ。」

「・・・どういうことですか?」

先程までとは違い、静寂が球場を包み込む中、俺は、頼照の言葉に耳を疑うこととなった。

「・・・金沢御堂に、顕如様はいない。」

頼照の言葉は、直ぐには信じ難い内容だった。
聞いていた情報とは異なる。

「じ、じゃあ誰が指揮しているんですか?」

俺は、次の言葉を急かした。

「・・・いないのだ。」

「・・・いない?」

理解できていない。金沢御堂は、北陸地方における本願寺一派最大の要所。
そこに武将がいない?

「顕如様、その他武将は、つい10日程前に、精鋭数千の兵を引き連れて本山に戻られた。」

「残された兵士や信者の人たちは、そのことを知っているんですか?」

「・・・。」

「まさか・・・見捨てたんですか?」

黙り込む頼照。自分を信じてついてきてくれたんだぞ?
なのに、なぜ見捨ててまで本山に戻る必要があるんだ。

「あいつが来て・・・あいつが来たせいで、顕如様は変わってしまったんだ!」

語気を強めた頼照。怒りを堪えているのがわかる。

・・・あいつ?

「晃二郎と名乗る男だ。」

「?!」

まさか・・・俺と同じ未来から来た人間?
やっぱりいるんだ。俺以外にも。

「何よりも信者の気持ちを優先し、皆から慕われるお方であった。
だが、あいつに唆されて・・・。」

「なぜ・・・なぜ北陸の地を捨てて本山に戻ったんですか?」

歯を食い縛る頼照に、そう話し掛けた。

「我ら本願寺派は、着々と勢力を増している。
だが、勢力を分散させていては、まだまだ敵わぬ敵将が多いと考えたのだ。
特に、この地は朝倉・上杉に囲まれる地。
まだ、無暗に勢力を拡大すべきではないとの意向によって・・・本隊は本山へと移動した。
これが、あいつの進言により顕如様が決められたことなのだ。」

意味はわかる・・・けど、やっぱり許せない。
自分達を信じてくれている兵士や信者を、あっさり切り捨てるなんて。

「頼照さんは・・・逃げなかったんですね。」

「・・・まぁ、だからこそ負けは許されなかったのだがな。
負けぬこと、北陸の地に本願寺一派ありと知らしめ続けること。
それが、この地に留まるために、顕如様と交わした約束であったからな。」

「・・・。」

「言いたかったのはそれだけだ。」

そう言い終わると、頼照は俺の前を後にした。
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