不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

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アラガンからの留学生

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 教室に戻った妾たちは、着席して大人しく日程をこなした。
 昼前には今日の予定が終わったので、生徒たちは寮に戻ったり、すでに部活に入っている者は部室に向かっていく。
 中等科から入学した妾はまだ部活のこともよくわからぬので、寮に戻ることにした。

 初日だし、さすがに疲れたのじゃ。
 手首もまだ痛いしの。
 本当は折れてるかもしれぬし、ヤンヤンに診てもらいたい。
 新品の教科書やら辞書やらを廊下のロッカーに突っ込み、妾はぺったんこの鞄を手に教室を出た。
 じゃが、ふと背後に気配を感じ振り返る。
 なぜか後ろにツノ男子ーーーシェン君がいた。

「なんじゃ、妾にまだ何か用か?」
「ああ、聞きたいことがある」

 やけに硬い表情のシェン君に連れられ、中庭のベンチに行くことになった。
 人通りはなく話をするにはよさそうじゃが、妾ははたと思い出した。
 こやつ、さっき妾に飛びかかってきたような・・・・・・。
 辺りを見回すが人影はなし。
 むむむ。
 もしまた飛びかかってきたら返り討ちにしてくれよう!
 ふんぬ! と気合を入れて向き合う。
 シェン君はなぜかそんな妾を見ると、複雑そうな顔をした。

「いや、そんな構えなくてもいいだろ。って、そうか。おれがさっき・・・・・・」
「思い出したようじゃの。妾に何かするつもりなら、こちらも容赦せぬからな」

 これでも帝国の皇女じゃからな。
 護身術の一つや二つは習っておる。
 とはいえ、剣も魔術用の杖もないので、前に観たアクション映画のポーズで両手をカマキリのように構える。
 すると、ブハッとシェン君が吹き出した。

「なんだよおまえ、それ」

 なぜかゲラゲラ笑い出したぞ。
 失礼な!
 カマキリのポーズで待っているが、ずっと笑っている。

「わかったわかった。何もしないって。教室での事は謝る。おれの勘違いだったようだ」
「勘違い?」
「そうだ。おまえが帝国の姫だと聞いたから、てっきり・・・・・・」
「てっきり?」
「おれの姉に無礼を働いたやつかと思ったんだ」

 話がよくわからぬが、人違いだったと言いたいらしい。

「おれの姉さんのことを知らないんだろ」
「姉どころか、おぬしの名前もさっき知ったところじゃ。シェン何某じゃろ?」
「なにがし? ああ、そうだ。おれはシェン・ウーイェ。東方の龍族の国アラガンから来た留学生だ」
「アラガン・・・・・・」
「おい、もしかして知らないとか言うなよ?」
「・・・・・・知っておる知っておる」

 ええっと、多分東の果てにあるという不可思議な国だったような?
 王宮では地理の授業も受けておったのじゃが、なにぶん地理は苦手であまり覚えておらぬな。

「おまえ、その顔はアラガンの事知らないんじゃないか?」
「えっ? い、いやいや、妾は聞いたことがあるぞ」
「じゃあどんな国か言ってみろよ」
「確か、こっちの竜とは違い、細長い龍という別の生態の神獣がおって、王族だけが龍になれる血を受け継いでおるんじゃ」
「ああ、そうだ」

 よかった。合っていたらしい。
 シェン君はなぜか偉そうに腰に手を当てて妾に言った。

「おれはそこの王族の第二王子なんだ」
「ほう、そうなのか」
「いや、もっと驚けよ」

 そんなこと言われてものぅ。
 妾、もっとすごいこの帝国の皇女だし。
 アラガンも大国じゃが、ドラゴニア帝国は大陸一の面積を誇る大国の中の大国、大大大帝国じゃからな。
 ちなみにこの大陸には大小九つの国がありアラガンもその内の一つなのじゃ。
 妾の国とは比べるべくもない差があるがの。

「それで、話は戻すがおぬしの姉が、帝国の皇女に無礼を働かれたというたな」
「そうだ」
「妾には身に覚えがないが、妾には上に三人の姉がおる。もしかしたらその内の誰かが心無いことを言うてしもうたのかもしれぬな。それならば妹としておぬしに詫びよう。すまなかった」

 姉の顔が順に浮かんできた。
 一番目の姉フレア。
 二番目の姉コーラル。
 三番目の姉サクラ。
 勝気な性格の姉ばかりじゃが、他人にずけずけ物を言うタイプなら、おそらくコーラルじゃろう。
 フレアは賢いので無駄に敵を作ることはしないし、サクラはおっとり優しい性格をしておる。

「しかし姉はいったい何を言ったのか、おぬしは聞いておるのか?」

 訊ねるとシェン君が顔を曇らせた。

「ああ、それは・・・・・・」

 言いにくそうにしておるが、妾が待っているとようやく答えた。

「それは、姉もおれと同じ黒髪で黒い目をしていて、ツノがあるんだ」
「ほう」
「それが、どうやらこの帝国では気味が悪いらしい。面と向かって黒い髪や目は不気味で不吉だと言われたと」
「ん?」

 妾は言われてマジマジと目の前の少年を見たが、何も気味悪くはなかった。

「むしろ黒くてカッコよいぞ!」
「えっ?」
「おぬしのその黒い髪はツヤツヤで羨ましいし、黒い目は吸い込まれそうに深い濃い色で伝説のダークドラゴンみたいじゃ!」
「えっ? ええっ?」
「黒いツノも一目見た時から思っておったが、螺旋状になっておるのがいいのお! 妾もそんなツノがあったらよかったのにと思うておる。ドラゴンは強ければ強いほど色が濃いというじゃろ。黒なら最強ってことじゃ!」
「そ、そ、そう、なのか?」

 なぜかシェン君はアワアワし始めた。
 妙に両手を振って、顔も赤くなっておる。

「何より黒いのは綺麗だし、かっこよいではないか。誇っていいぞ!」
「そ、そうか。うん」

 落ち着きがない様子に見えるが、こくりと頷いておるから、まあいいか。
 妾はにこにこと笑顔でシェン君に気にする事はないと伝えた。

「じゃが、姉が失礼をしたならこの話は問いただしておこう」
「い、いや、もういいよ」
「いいのか?」
「ああ。なんか、気が削がれたし。おれの姉もショックだったみたいだけど、いまおまえが言ったことを話したらきっと笑って許すと思う」

 妾、そんな大層なことを言ったかな。

「よくわからぬが、おぬしがそう言うなら」
「ああ。それで、さ」
「なんじゃ?」
「この後どうするんだ?」
「どうするとは?」
「寮に戻るのか?」

 妾はそうするつもりだったが、なぜかシェン君がまだ昼には早いし学校を案内してくれると言うので、そうしてもらうことにした。
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