不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

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呪術って三回言ってみて

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 部屋の中は薄暗かった。
 唯一ある窓は厚いカーテンで塞がれ、狭い室内の中央に立つのは黒い山羊頭の人間。
 これで飛び上がらない者がいようか?
 いや、いまい!
 か弱き妾の悲鳴の前にさっと背中が現れた。

「ミリィ!」

 なんとシェン君じゃ。
 妾を庇いつつ「部屋から出ろ!」と怒鳴る。

「えっ? じゃ、じゃが・・・・・・」

 外には妾たちを追ってきた妙な女生徒がいる。
 まあ、この山羊人間よりまともそうではあるが。

「オマエタチ」

 突然、山羊人間が喋り出した。

「ナンデココキタ」
「おまえこそ誰だ! 変な格好しやがって。ぶっ飛ばすぞ!」

 シェン君、おぬし本当はアラガンの王族じゃなくて下町のストリートキッズじゃろ?
 妾の知りうる限り王侯貴族はここまで口が悪くない。

「ココハオマエタチ、クルトコロチガウ。デテケ」

 山羊人間が話すのをシェン君の後ろから見ていた妾は、いくつかのことに気づいた。
 まず一つ、なんと声は女性じゃ。
 そして二つ目、生徒に支給されておる体育用のジャージを着ておる。
 最後に三つ目、山羊の頭は偽物じゃ!
 目と口のところに穴が開いていて、安っぽい被り物だった。

「ふ、ふぅ~~。本物の山羊人間かと思うたわ」
「えっ?」

 シェン君が振り返って「当たり前だろ、何言ってんだ」と呆れたように言ってきた。

「く、暗かったからじゃ」
「いや、暗いとか関係なく山羊人間なんているわけないだろ」
「いるかもしれんじゃろ! お、おばけとか妖怪とか、幽霊とかぁ!!」

 妾が言い返した直後、なぜか山羊人間が両手を挙げてバンザイした。

「ブラボォォォ!!」
「は?」
「な、なんじゃ?」

 呆気に取られている妾たちに山羊人間が急に流暢に話し始めた。

「その通~~り! 昨今の何もかもを一律に見ようとする良識の狭い者たちは怪奇現象や心霊現象を科学的根拠に乏しいだとか魔術体系に反するなどと言って断じようとする。だが! だがしかしだ!」

 熱弁はいいが、早口なんじゃ。

「おばけも妖怪も幽霊も、まだ誰も解明したことがないだけなのだ! 我々は陰謀論者でも黒魔術を行う悪魔崇拝者でもない! 未知のものに対して挑まんとする先駆者! パイオニアなのだ!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 興奮気味の山羊人間に対して、妾たち無言。

「赤髪の女子、君には我々と同じ血潮を感じる!」
「い、いや、妾は・・・・・・」

 同じ血潮ってなんじゃ?
 怖いんじゃ~~。

 その時だった。
 トントン!
 トントントン!
 ドアがノックされた。

「今日は来客が多いな」

 山羊人間が妾たちを素通りしてドアを開けに行く。
 なぜかシェン君に引っ張られて、妾はカーテンの裏に押し込まれた。
 山羊人間がドアを開ける。

「わっ! な、何よあなた・・・・・・」
「ナニヨウカ」
「えっ? あ、あの・・・・・・」

 またあの不気味な片言で話しているのが聞こえる。
 妾は一緒に隠れているシェン君を見た。
 口元に指を当て、静かにしろと目で訴えている。

「こ、ここに中等科の女子と男子が来たでしょ? 出してちょうだい」
「シラン」
「えっ? でも、ここしか隠れるところは・・・・・・」
「シラン。イネ」
「ちょっと部屋の中を見せてよ」

 妾たちを追ってきた女生徒のようじゃ。
 なぜここまで追ってくるのかわからぬが、さっきの執拗な様子を考えると嫌な予感しかせぬ。
 どうか見つかりませんように~と願っておると、急に女生徒が震え声になった。

「な、なんなのよ・・・・・・。この部屋。気味が悪い」
「デテケ」
「言われなくても出ていくわよ! 変態!」

 ひどい言い様じゃ。
 女生徒が足音を立てて走り去るのが聞こえた。

「まったく」

 山羊人間がため息をついている。
 ドアが閉められたので、妾とシェン君はカーテンの裏から出た。
 そこで妾は初めて室内の様子に気づいた。
 今まで暗かったし、山羊人間に気を取られていたから見えていなかったが、とんでもない部屋だったのじゃ。

 部屋の中央に不気味な黒焦げのカカシが立ち、その周囲は赤いペイントで妙な文字が書かれている。
 頭が折れ曲がったカカシは断末魔を上げているような顔で、前には大きな皿が置かれていて、その上には首のないニワトリが血まみれで横たわっていた。
 ニワトリの他にもしおれた雑草やらお供えらしき饅頭まんじゅうもある。
 壁際の棚に置かれているのは、アレは髑髏しゃれこうべではないか?
 なぜ頭に蝋燭ろうそくが刺さっておるのじゃ?
 部屋に香る酸っぱい臭いは、どうやらニワトリが腐っているからのようだった。

「・・・・・・わ、妾、そろそろ帰りたいかもなのじゃ」
「・・・・・・おれもそう思ってたとこ」

 シェン君と意見が合致したので、そろりそろりと戸口へ歩き出す。

「マタレヨ」

 山羊人間が妾たちの前に立ち塞がった。
 おそらく妾の顔は恐怖にひきつっておるが、こういう時こそ冷静になるのじゃ。
 しかし、脳裏に浮かんだのはちょっと前に観た犯罪ドラマだった。
 シリアルキラーに誘拐されてあんな事やこんな事されたあげく、見るも無惨な姿で発見される被害者ーーー。

 うえ~~ん、妾、まだ皇帝になってないのに殺されちゃうんじゃ~!
 妾の栄光あるROAD TO EMPEROR の物語が映画化される夢も終わりじゃ~~!

「せ、せめて痛くないのでお願いするのじゃ」

 妾がしょんぼりしていると、山羊人間が不気味な祭壇を背に訊ねてきた。

「呪いを信じるか?」

 ん?

「この世に呪術があることを信じるか?」

 信じるも何も、妾は呪われておるのじゃが。

「ここは呪術同好会。不可思議なことを信じられるのなら、君には我々の同志となる資格を与えよう。どうだ、我々と呪いの真髄を突き止めようではないか!」

 恐怖で硬直していた妾の頭は、この時ようやく動き出した。
 なぜなら、妾は生まれながらに呪われていて、しかも自分の呪いのことをほとんど何も知らなかったからじゃ。

「うむ。妾はこの同好会に入るぞ」

 隣でシェン君が「ハァッ??」と大声を上げた。

「わかった。なら、呪術と三回言ってみよ。それがこの同好会の入会の儀式である」

 山羊人間に言われ、妾は神妙な顔で三回、はっきりと声を張って答えた。

「じゅじゅちゅ、じゅじゅちゅ、じゅるちゅ」

 しばしの沈黙。
 そしてーーー。

「ブハッッ!! 全部間違ってる!」
「・・・・・・クッ」

 盛大に吹き出した山羊人間はいいとしてーーーいや、良くはないがーーーシェン君、おぬしまで肩が震えておるのは許さぬ。
 辱めを受けた妾は、むぐぐぐとうめきながら、絶対この恥辱忘れぬぞと心に刻んだのじゃ。
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