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振り返ればやつがいる
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シェン君と二人で部室棟に歩きながら、実を言うと妾はかなり緊張しておった。
男子と二人きりだわ! きゃっ!
とかそういうアレではないぞ。
妾には婚約者の先生がいるからの。
みな、忘れておったかもしれんが、妾は一途な乙女じゃから、心に決めたら一直線。
他に見向きもしないのじゃ。
なので、この緊張は別のところにある。
そう、ずっと背後から感じている熱烈な視線じゃ。
「おい、ミリィ。おまえも気づいてるよな」
「もちのろんじゃ」
どうやらシェン君も気づいていたらしい。
「どうする? おれが捕まえて絞めるか?」
妾はギョッとして、シェン君を見た。
前から気になっておったが、こやつ結構物騒なやつじゃの。
妾に飛びかかってきたり。
もしや腕力ですべてを解決するタイプか?
「いや、待つのじゃ。妾に作戦がある」
「なんだよ? とっ捕まえた方が早いぞ」
「いいから聞くのじゃ」
妾は少しばかり背の高いシェン君の耳に口を近づけた。
ゴニョゴニョとささやく。
「う~ん。おれとしては気味が悪いから撃退したいけど、おまえがそれでいいなら・・・・・・」
「妾は大事にしたくないのじゃ」
入学初日で問題を起こすのは困る。
父上の耳に入るやもしれぬしな。
この学園に入学することを父上はずっと反対しておったし、これ幸いと連れ戻されてはかなわぬ。
しばらく大人しくしておきたいのじゃ。
え? 問題ならもう起こしただろじゃと?
保健室に運ばれた? さて、何のことやら。
妾、か弱いゆえ初日の緊張で転んでしまったかもしれぬな。
そうに違いない。うむ。
思い出したら手首が痛くなってきたのでこの話はお終いじゃ。
妾とシェン君は視線の主を振り返りもせず、スタスタと部室棟へ向かった。
二階建ての円形ドームの付いた建物で中央は吹き抜けの室内体育館になっているらしい。
昼前で部活動は始まる前。人気はない。
出入り口の扉をシェン君が押すと、重そうに開いた。
二人でそこを通り抜けると、扉が閉じたと同時に妾たちは脱兎のごとく走り出した。
一階の運動部の部室のドアが並ぶ前を走り抜け、シェン君を先頭に二階への階段を駆け上がる。
二階も同じように中央の吹き抜けの体育館をぐるりと囲うように文化部の部室のドアが並んでいた。
ちょうど体育館を半周ほど走ったとき、手すり越しに階段を上がって来た人影が見えた。
「しゃがむのじゃ!」
シェン君の腕を引っ張り、手すりの陰に隠れる。
人影は階段を上がったものの左右どちらに行くでもなく、キョロキョロと辺りを見まわし、不審な動きをしている。
「女か」
「うむ。学園の制服を着ておるな」
「あれ、中等科の制服だぞ」
妾とシェン君は手すりからちょっと頭を覗かせて追っ手を見た。
「ミリィの知り合いか?」
「見覚えはないのぉ。そっちの知り合いじゃないのか?」
「おれもあんなやつ知らねぇよ」
「じゃあ、あの女子はどこの誰なんじゃ?」
薄いグレーのおかっぱの髪に、口元にほくろが一つ。
目元がきりりとしたなかなかの美人じゃ。
妾、視力が良いので、相手が血走った目で辺りを睨みつけているのがよく見えた。
「なんだか知り合いに似ているような気がするのじゃが・・・・・・?」
「そうなのか?」
シェン君はツノがあるので手すりから頭を引っ込めている。
「とりあえず学園の生徒なら、おれかおまえを狙った暗殺者ではなさそうだな」
「うむ。刺客には見えぬ。しかし・・・・・・どこの誰に似ているのか、思い出せぬ」
妾は「う~~ん」と首を盛大にひねった。
女生徒は妾たちを見失ったのがよほど悔しいのか、その場で地団駄を踏んでいる。
癇癪持ちなのかもしれぬな。
遠目にもギリギリという歯軋りが聞こえてきそうじゃ。
ふいに、女生徒が走り出した。
こうなったら一周して見つけ出そうという目論みらしい。
「おい、あいつこっちに来るぞ」
「うむ。このままでは見つかってしまうな」
「どうすんだよ。やっぱり絞めるか?」
すぐに絞めようとするな、こやつ。
さっき大事にしたくないと言ったのをもう忘れたのか。
妾は左右に目を走らせた。
女生徒と反対方向へ走れば、なんとか階段まで戻って逃げ切れるやもしれぬ。
だが、あの女子結構足が速そうじゃ。
それにこっちも走り出せば、さすがに向こうに気づかれるじゃろう。
「よし!」
妾は手近なドアの一つに飛びつくと、ノブを回した。
鍵が閉まっておる。
続いてその隣のドアをーーー。
閉まっていたので、さらに隣のドアをーーー。
「お、おい」
シェン君は驚いていたが、これしか手はない。
部屋に入って隠れるのじゃ。
次々とドアノブに手をかけていくと、なんと! カチャリと一つのドアが開いた。
「ここじゃ!」
妾は追っ手に気づかれぬよう細い隙間から部屋の中へと滑り込んだ。
シェン君も慌てて入ってくる。
ドアをそっと静かに閉めると、二人してハァァァと息がもれた。
「ん?」
「なんじゃ、この臭いは?」
落ち着いた途端、変な臭いに気づいた。
ツンと鼻をつく酸っぱいような臭いじゃ。
部屋中に充満している。
「ミ、ミリィ・・・・・・アレ」
隣のシェン君がなぜか目を見開いている。
妾も部屋の中央に目を向けた。
そこにはーーーなんとも不気味なものが立っていた。
「・・・・・・ぎ、ぎぃやああああァァ!!」
頭が山羊の人間が、ぬぼぉ~~と突っ立っていたのじゃ。
いや、頭が山羊の時点で人間ではないのか?
と、とにかく黒い山羊の二本足の何かが妾たちを見下ろしていたのじゃ!
男子と二人きりだわ! きゃっ!
とかそういうアレではないぞ。
妾には婚約者の先生がいるからの。
みな、忘れておったかもしれんが、妾は一途な乙女じゃから、心に決めたら一直線。
他に見向きもしないのじゃ。
なので、この緊張は別のところにある。
そう、ずっと背後から感じている熱烈な視線じゃ。
「おい、ミリィ。おまえも気づいてるよな」
「もちのろんじゃ」
どうやらシェン君も気づいていたらしい。
「どうする? おれが捕まえて絞めるか?」
妾はギョッとして、シェン君を見た。
前から気になっておったが、こやつ結構物騒なやつじゃの。
妾に飛びかかってきたり。
もしや腕力ですべてを解決するタイプか?
「いや、待つのじゃ。妾に作戦がある」
「なんだよ? とっ捕まえた方が早いぞ」
「いいから聞くのじゃ」
妾は少しばかり背の高いシェン君の耳に口を近づけた。
ゴニョゴニョとささやく。
「う~ん。おれとしては気味が悪いから撃退したいけど、おまえがそれでいいなら・・・・・・」
「妾は大事にしたくないのじゃ」
入学初日で問題を起こすのは困る。
父上の耳に入るやもしれぬしな。
この学園に入学することを父上はずっと反対しておったし、これ幸いと連れ戻されてはかなわぬ。
しばらく大人しくしておきたいのじゃ。
え? 問題ならもう起こしただろじゃと?
保健室に運ばれた? さて、何のことやら。
妾、か弱いゆえ初日の緊張で転んでしまったかもしれぬな。
そうに違いない。うむ。
思い出したら手首が痛くなってきたのでこの話はお終いじゃ。
妾とシェン君は視線の主を振り返りもせず、スタスタと部室棟へ向かった。
二階建ての円形ドームの付いた建物で中央は吹き抜けの室内体育館になっているらしい。
昼前で部活動は始まる前。人気はない。
出入り口の扉をシェン君が押すと、重そうに開いた。
二人でそこを通り抜けると、扉が閉じたと同時に妾たちは脱兎のごとく走り出した。
一階の運動部の部室のドアが並ぶ前を走り抜け、シェン君を先頭に二階への階段を駆け上がる。
二階も同じように中央の吹き抜けの体育館をぐるりと囲うように文化部の部室のドアが並んでいた。
ちょうど体育館を半周ほど走ったとき、手すり越しに階段を上がって来た人影が見えた。
「しゃがむのじゃ!」
シェン君の腕を引っ張り、手すりの陰に隠れる。
人影は階段を上がったものの左右どちらに行くでもなく、キョロキョロと辺りを見まわし、不審な動きをしている。
「女か」
「うむ。学園の制服を着ておるな」
「あれ、中等科の制服だぞ」
妾とシェン君は手すりからちょっと頭を覗かせて追っ手を見た。
「ミリィの知り合いか?」
「見覚えはないのぉ。そっちの知り合いじゃないのか?」
「おれもあんなやつ知らねぇよ」
「じゃあ、あの女子はどこの誰なんじゃ?」
薄いグレーのおかっぱの髪に、口元にほくろが一つ。
目元がきりりとしたなかなかの美人じゃ。
妾、視力が良いので、相手が血走った目で辺りを睨みつけているのがよく見えた。
「なんだか知り合いに似ているような気がするのじゃが・・・・・・?」
「そうなのか?」
シェン君はツノがあるので手すりから頭を引っ込めている。
「とりあえず学園の生徒なら、おれかおまえを狙った暗殺者ではなさそうだな」
「うむ。刺客には見えぬ。しかし・・・・・・どこの誰に似ているのか、思い出せぬ」
妾は「う~~ん」と首を盛大にひねった。
女生徒は妾たちを見失ったのがよほど悔しいのか、その場で地団駄を踏んでいる。
癇癪持ちなのかもしれぬな。
遠目にもギリギリという歯軋りが聞こえてきそうじゃ。
ふいに、女生徒が走り出した。
こうなったら一周して見つけ出そうという目論みらしい。
「おい、あいつこっちに来るぞ」
「うむ。このままでは見つかってしまうな」
「どうすんだよ。やっぱり絞めるか?」
すぐに絞めようとするな、こやつ。
さっき大事にしたくないと言ったのをもう忘れたのか。
妾は左右に目を走らせた。
女生徒と反対方向へ走れば、なんとか階段まで戻って逃げ切れるやもしれぬ。
だが、あの女子結構足が速そうじゃ。
それにこっちも走り出せば、さすがに向こうに気づかれるじゃろう。
「よし!」
妾は手近なドアの一つに飛びつくと、ノブを回した。
鍵が閉まっておる。
続いてその隣のドアをーーー。
閉まっていたので、さらに隣のドアをーーー。
「お、おい」
シェン君は驚いていたが、これしか手はない。
部屋に入って隠れるのじゃ。
次々とドアノブに手をかけていくと、なんと! カチャリと一つのドアが開いた。
「ここじゃ!」
妾は追っ手に気づかれぬよう細い隙間から部屋の中へと滑り込んだ。
シェン君も慌てて入ってくる。
ドアをそっと静かに閉めると、二人してハァァァと息がもれた。
「ん?」
「なんじゃ、この臭いは?」
落ち着いた途端、変な臭いに気づいた。
ツンと鼻をつく酸っぱいような臭いじゃ。
部屋中に充満している。
「ミ、ミリィ・・・・・・アレ」
隣のシェン君がなぜか目を見開いている。
妾も部屋の中央に目を向けた。
そこにはーーーなんとも不気味なものが立っていた。
「・・・・・・ぎ、ぎぃやああああァァ!!」
頭が山羊の人間が、ぬぼぉ~~と突っ立っていたのじゃ。
いや、頭が山羊の時点で人間ではないのか?
と、とにかく黒い山羊の二本足の何かが妾たちを見下ろしていたのじゃ!
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