不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

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最新刊のゆくえ part2

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 一口サイズの苦い芽キャベツ二個と格闘した末、勝利した妾は食事を終えて、ようやく兄二人から解放された。
 フェニックスは小言が多いし、アカネはヘデス王国への旅行を羨ましがってばかりだし、列車で疲れた妾はそそくさと部屋に逃げこんだ。

「ひめ様、明日も早いですから、もうお休みになられますか?」

 ヤンヤンに訊かれる。

「うむ。列車では座っていただけなのに、なんだか疲れてしもうた」
「そうですね。慣れない場所が続きますから、休める時に休んでおきましょう」

 今日はヤンヤンと一緒の部屋で休むことになる。
 宿の部屋が足りないので、妾はヤンヤンと、ジョーはミンミンと同室なのじゃ。
 シェン君は従者のサイファと同室で、護衛の騎士二人は交代で休みを取ると言っておった。
 宿にはフェニックスとアカネもいて、その護衛騎士や従者もいる。
 もはや手狭すぎてベッドが足りないらしいが、明日には妾たちがいなくなるので、今日だけのことじゃ。

 さて、寝ようとベッドに潜り込んだ妾は、ものの数分で夢の世界へご案内されていた。
 夢ってなんであんなに荒唐無稽こうとうむけいなんじゃろうな。
 なぜか学園の廊下でジョーに追い回されてラクロスのラケットで緑のネバネバをぶつけられる夢を見た。

「ううう・・・・・・む?」

 ネバネバが髪について取れないよ~とヤンヤンに泣きついているところで目が覚めた。
 じゃが、部屋の中は真っ暗じゃ。

「まだ夜ではないか」

 また寝ようと思ったが、部屋の中がやけに寒い。
 帝国の北の端に来ていることを思い出す。
 外は風が強いらしく、ガラス窓がガタガタ音を立てていた。
 薄暗い中で目を凝らしてヤンヤンのベッドを見る。
 こんもりと膨らんだ布団の中から、すうすうと寝息が聞こえる。
 ヤンヤンも疲れておるのじゃな。
 体を起こしたせいで冷えたのか、ぶるっと身震いが出た。

「う~む、ちょっと用を足したいかもしれぬ」

 帝国の皇女でもお花を摘みに行く必要があるからの。
 ヤンヤンを起こすのも忍びないので、こそこそとベッドを抜け出し、椅子にかけてあった上着を羽織って、鍵を開ける。
 廊下に出ると、すぐに声がかかった。

「バーミリオン殿下、どうなされたのです?」

 扉の真横にクラウゼンが立っていた。
 きちんと騎士団の制服を着て、部屋を見張っていたらしい。
 部屋にトイレがなかったので出てきたが、このような若めの騎士には言いにくい。
 さすがの妾も、モジモジしてしまった。

「ちょ、ちょっとそこまでじゃ」

 廊下の突き当たりを指差す。

「ああ、わかりました。一人で大丈夫ですか?」
「うむ」

 察しが良い男で良かったのじゃ。
 さっさと済まそうと廊下の奥へ行く。

 用を終えて出てきた時だった。
 近くの部屋の扉が開いて、一人の男子生徒が姿を現した。
 妾と同じように目が覚めてトイレに行きたくなったのじゃろうな、と思ったが、手に何かを持っている。

 ん? 本?

 金髪の男子生徒が近寄ってくる。
 顔に覚えがあった。
 フェニックスの友人じゃ。

「こんばんは、バーミリオン様」
「う、うむ。こんばんは・・・・・・ええっと?」
「ぼくはリード・バンゲードと申します。昼間に書店でお会いしましたね」
「そ、そうじゃな」

 なんか昼間と印象が違う気がする。
 どこが、とは言えないが・・・・・・。

「フェニックスとは寮が同じなので、入学当初から仲良くさせてもらっているんです」
「ほう」

 ということは、フェニックスの幼馴染みということじゃ。
 フェニックスが学園に入学したのは七歳の時じゃったからな。
 それにしても、フェニックスから友人の話など聞いたことがなかった。
 まあ、王宮でもフェニックスとそんなに会っていたわけでもないしの。

「夜分に話しかけるのは失礼かと思ったのですが、どうしてもこれを渡したかったので」

 バンゲードが差し出してきたのは、書店で妾がゲットできなかった『秘密のポケットで魔界無双』の七巻だった。

「ほわっ!? な、なぜこれを?」
「フェニックスには止められましたが、やはりバーミリオン様に先に読んでいただいた方がいいかと思って」
「なぜじゃ? おぬしも読みたかったから買ったのじゃろう?」
「それはそうですが、ぼくは学園に戻ってから町の書店で購入できますから。バーミリオン様も楽しみにしていたのでしょう。だったらぜひお先にどうぞ」

 こんなに親切な人がこの世にいるとは!

「惚れてまうやろ~~」
「えっ?」
「な、なんでもないのじゃ」

 思わず心の声が漏れてしもうた。
 バンゲードは、にこりと笑って本を渡してくる。
 そのとき、バンゲードの首の横に妙な赤い点が見えた。
 昼間は厚手のコートで隠れていたようじゃが、今は薄いパジャマなので、それがはっきりと見えた。
 虫刺されにしては大きいし、隣り合って二つ付いている。
 ハッとして妾は目を逸らした。

 もしや、これが世に言うxxxマークじゃろうか?
 大人の本で読んだことあるぞ。
 そ、そうなのか?
 刀剣部には女子部員もいるからの。
 見てはいけないものを見てしもうた。

 妾がアワアワしているのに気づかず、バンゲードはきびすを返して廊下を戻って行く。
 慌てて妾は本のお礼を言った。

「あの、ありがとうなのじゃ」
「いいんですよ。ぼくはいつでも読めますから」

 手を振って爽やかにバンゲードが去ると、妾は本を胸に抱いたまま、顔がほころぶのを止めることができなかった。
 xxxマークのことなど、すっかり頭から消えてしまう。

「殿下、上機嫌ですね。それは何ですか?」

 部屋の前に戻ると、立っていたクラウゼンに訊ねられた。

「最新刊じゃ」
「はぁ」

 にまにましながら部屋に戻った妾は、当然我慢できなかった。
 布団を被ると、本を読むために目を赤外線視に切り替える。
 翌朝、ヤンヤンに叩き起こされ怒られたのは言うまでもない。
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