Sprint・High!(スプリント・ハイ!)

成瀬リヅ

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北城市地区予選 準備編

第45走 二木山高校

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 まさにリレー強豪校の名に恥じない走りだった。

「今田さん、詰まりましたね。0.2秒ぐらい出るの遅かったかもです」

「ごめんな、お前が思ったよりスピード乗ってたから判断遅れた」

 3、4走の根本裕と今田は、早速バトンパスの反省をしている。
 根本裕は先輩に対してもハッキリと意見が言えるメンタル持ち合わせているようで、早速今田にダメ出しをしていたのだ。
 対して1、2走の林と根本仁は、特に言葉を交わす事は無い。
 いつも通りにバトンを渡せたようだ。

 すると何故か競技場で一番興奮している様子の山口渚が、それを抑え切れずに根本兄弟に駆け寄る。

「おい兄弟!お前らのバトンパス、何だあれ!早すぎていつ渡したか見えなかったぞ!あんなの見た事ない!」

 ゆっくりホームストレートへ帰ってきた根本兄弟に、渚は飛びかかる勢いで話しかけていた。

「当たり前やないすか。だって兄弟ですよ?あんなん朝飯前、いや、この時間だと夕飯前ですわ!」

 弟・根本仁は右の親指を立て、先輩の渚に満面の笑みを見せた。

 その1秒後に”他校の先輩に失礼だ”と兄・根本裕に注意されていたが、結局笑顔が絶える事は無い。
 すると横から第1走の林も声をかけた。

「凄いでしょ、アレ。俺も初めて見た時は、自分が今までやってきたバトンパスは低レベルだったって痛感したよ。でもアイツらが入ってきたお陰で、個人種目では何も残せない俺達に希望を与えてくれたんだよ」

 林はスパイクを脱ぎながら渚に語っていた。
 ほとんど表情が変わらない林だが、同じ4継に情熱を注ぐ渚には満足感に満ちている表情に映るのだった。

————————

 結城はというと、手に持ったタイマーの数字が”高校陸上において”どれほどの価値があるのか分かっていなかった。
 まだ高校生になったばかりなので仕方ないといえば仕方ない。

 だがバトンパスのレベルが異常に高い事だけは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。
 血が繋がっているだけで”こんな大きな武器が生まれる”のかと、そう驚かされていたのだ。

 するとそんな様子を察してか、根本仁が結城にも話しかける。

「どうやった早馬?日本記録保持者から見て、俺らの4継は?」

 相変わらず高い自分の知名度に恥ずかしくなりつつも、結城は答える。

「いや、凄かったっす!特にバトンパスなんて、中学では見た事のない速さでした。瞬間移動したのかと思いましたよ!?」

「まぁな!俺らがどれだけリレーに心血注いできたか分かってくれてよかったわ!ところで、早馬はもう4継のメンバーには入ってるんやろ?何走なんや?」

 根本仁は当然の疑問を投げかけた。
 結城の100mベストタイムは、高校でも十分すぎる程に通用する速さだ。
 4継メンバーに入っていると考えるのは、他校の人間からすれば必然だった。

 だが当然今の結城は、4継はおろか全力疾走すら出来ない。

(でもいずれバレる事だしな……)

 結城は心の中で悩んだ末、今は”ケガから復帰したばかり”という事実だけは話しておく事にした。
 だがトラウマの事は話さない。
 そこを話す必要性は感じなかったからだ。

「そっか。まぁ中学生の体であれだけのスピード出してたら、ケガもするよね」

 幸い兄の根本裕は結城の話に同情し、そして気を遣ってくれた。

「でも確かに、早馬君ほどの選手がどこの高校に進学したのか話題にならなかったもんな。まさかそんな事になってたとは」

 するとそれを聞いた3年の林も続く。

「でも今は帰ってきて再スタート切ったなら、それでいいじゃん。プレッシャーも半端なかっただろうし。二木山もさ、去年4継で全国行ったんだよ。メンバーは今田と当時3年だった先輩3人でね。なんなら9年ぶりに県でも優勝したしね。でも、そのせいで今年の俺らに対する期待とかは異常に高いんだよ。去年と比べると1秒以上遅いタイムなのに」

 林はスパイクをリュックにしまい、そこでようやく結城の目を直接見た。

「俺はキャプテンて事もあったし、プレッシャーで頭おかしくなりそうだったよ。でも今はそんなの無視して陸上を楽しむ事だけ考えてる。だからプレッシャーを乗り越えた俺らは強いよ。日本記録と比べると小さい話だけどね」

 そう言って少し照れ笑い浮かべた林は、ゆっくりと立ち上がる。

「キタ高も佐々木(隼人)を筆頭に、10秒台の1年、そんでアンカーの山口。それだけでも4継が強いのは分かってる。だから県大会楽しみにしてるよ」

 そして人差し指をユックリ渚へと向けた。
 まさにそれは、宣戦布告せんせんふこくに相応しい行動だ。

 すると渚はそれに対し、目だけ笑っていない笑みを浮かべた。
 ”4継こそが全て”の渚を煽ったのだ、彼の心に火を点けるには十分だったようだ。

 すると最後に林は”意外な事”も口にする。

「あぁ、それにキタ高には如月きさらぎ(美月)さんもいたよね?あんな美人がいる学校に負けたら俺達には何も残らない。何も残らないんだ。だから絶対に負けないよ」

「女のケツ追っかけてる内に、俺が先にゴールしてやるよバーカ」

 そのやりとりを聞いた結城は、あまりの空気の悪さに震えていた。

(え、何ここ、治安悪いよぉ……)

————————

 結城と渚は帰りの電車に揺られている。

「なんか面白そうな学校でしたね、二木山」

「普段はな。でも本番の時のアイツらは別人だぞ。あんなにペラペラ話す奴らだとは想像できない程にな。まあ市予選から戦うし、楽しみにしときな」

 そう言って渚は、行きと同様に再びスマホゲームを始める。
 だがなぜかその横顔は、喜びに満ちているようにも見えるのだった。

————————
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