46 / 136
北城市地区予選 準備編
第45走 二木山高校
しおりを挟む
まさにリレー強豪校の名に恥じない走りだった。
「今田さん、詰まりましたね。0.2秒ぐらい出るの遅かったかもです」
「ごめんな、お前が思ったよりスピード乗ってたから判断遅れた」
3、4走の根本裕と今田は、早速バトンパスの反省をしている。
根本裕は先輩に対してもハッキリと意見が言えるメンタル持ち合わせているようで、早速今田にダメ出しをしていたのだ。
対して1、2走の林と根本仁は、特に言葉を交わす事は無い。
いつも通りにバトンを渡せたようだ。
すると何故か競技場で一番興奮している様子の山口渚が、それを抑え切れずに根本兄弟に駆け寄る。
「おい兄弟!お前らのバトンパス、何だあれ!早すぎていつ渡したか見えなかったぞ!あんなの見た事ない!」
ゆっくりホームストレートへ帰ってきた根本兄弟に、渚は飛びかかる勢いで話しかけていた。
「当たり前やないすか。だって兄弟ですよ?あんなん朝飯前、いや、この時間だと夕飯前ですわ!」
弟・根本仁は右の親指を立て、先輩の渚に満面の笑みを見せた。
その1秒後に”他校の先輩に失礼だ”と兄・根本裕に注意されていたが、結局笑顔が絶える事は無い。
すると横から第1走の林も声をかけた。
「凄いでしょ、アレ。俺も初めて見た時は、自分が今までやってきたバトンパスは低レベルだったって痛感したよ。でもアイツらが入ってきたお陰で、個人種目では何も残せない俺達に希望を与えてくれたんだよ」
林はスパイクを脱ぎながら渚に語っていた。
ほとんど表情が変わらない林だが、同じ4継に情熱を注ぐ渚には満足感に満ちている表情に映るのだった。
————————
結城はというと、手に持ったタイマーの数字が”高校陸上において”どれほどの価値があるのか分かっていなかった。
まだ高校生になったばかりなので仕方ないといえば仕方ない。
だがバトンパスのレベルが異常に高い事だけは一目瞭然だった。
血が繋がっているだけで”こんな大きな武器が生まれる”のかと、そう驚かされていたのだ。
するとそんな様子を察してか、根本仁が結城にも話しかける。
「どうやった早馬?日本記録保持者から見て、俺らの4継は?」
相変わらず高い自分の知名度に恥ずかしくなりつつも、結城は答える。
「いや、凄かったっす!特にバトンパスなんて、中学では見た事のない速さでした。瞬間移動したのかと思いましたよ!?」
「まぁな!俺らがどれだけリレーに心血注いできたか分かってくれてよかったわ!ところで、早馬はもう4継のメンバーには入ってるんやろ?何走なんや?」
根本仁は当然の疑問を投げかけた。
結城の100mベストタイムは、高校でも十分すぎる程に通用する速さだ。
4継メンバーに入っていると考えるのは、他校の人間からすれば必然だった。
だが当然今の結城は、4継はおろか全力疾走すら出来ない。
(でもいずれバレる事だしな……)
結城は心の中で悩んだ末、今は”ケガから復帰したばかり”という事実だけは話しておく事にした。
だがトラウマの事は話さない。
そこを話す必要性は感じなかったからだ。
「そっか。まぁ中学生の体であれだけのスピード出してたら、ケガもするよね」
幸い兄の根本裕は結城の話に同情し、そして気を遣ってくれた。
「でも確かに、早馬君ほどの選手がどこの高校に進学したのか話題にならなかったもんな。まさかそんな事になってたとは」
するとそれを聞いた3年の林も続く。
「でも今は帰ってきて再スタート切ったなら、それでいいじゃん。プレッシャーも半端なかっただろうし。二木山もさ、去年4継で全国行ったんだよ。メンバーは今田と当時3年だった先輩3人でね。なんなら9年ぶりに県でも優勝したしね。でも、そのせいで今年の俺らに対する期待とかは異常に高いんだよ。去年と比べると1秒以上遅いタイムなのに」
林はスパイクをリュックにしまい、そこでようやく結城の目を直接見た。
「俺はキャプテンて事もあったし、プレッシャーで頭おかしくなりそうだったよ。でも今はそんなの無視して陸上を楽しむ事だけ考えてる。だからプレッシャーを乗り越えた俺らは強いよ。日本記録と比べると小さい話だけどね」
そう言って少し照れ笑い浮かべた林は、ゆっくりと立ち上がる。
「キタ高も佐々木(隼人)を筆頭に、10秒台の1年、そんでアンカーの山口。それだけでも4継が強いのは分かってる。だから県大会楽しみにしてるよ」
そして人差し指をユックリ渚へと向けた。
まさにそれは、宣戦布告に相応しい行動だ。
すると渚はそれに対し、目だけ笑っていない笑みを浮かべた。
”4継こそが全て”の渚を煽ったのだ、彼の心に火を点けるには十分だったようだ。
すると最後に林は”意外な事”も口にする。
「あぁ、それにキタ高には如月(美月)さんもいたよね?あんな美人がいる学校に負けたら俺達には何も残らない。何も残らないんだ。だから絶対に負けないよ」
「女のケツ追っかけてる内に、俺が先にゴールしてやるよバーカ」
そのやりとりを聞いた結城は、あまりの空気の悪さに震えていた。
(え、何ここ、治安悪いよぉ……)
————————
結城と渚は帰りの電車に揺られている。
「なんか面白そうな学校でしたね、二木山」
「普段はな。でも本番の時のアイツらは別人だぞ。あんなにペラペラ話す奴らだとは想像できない程にな。まあ市予選から戦うし、楽しみにしときな」
そう言って渚は、行きと同様に再びスマホゲームを始める。
だがなぜかその横顔は、喜びに満ちているようにも見えるのだった。
————————
「今田さん、詰まりましたね。0.2秒ぐらい出るの遅かったかもです」
「ごめんな、お前が思ったよりスピード乗ってたから判断遅れた」
3、4走の根本裕と今田は、早速バトンパスの反省をしている。
根本裕は先輩に対してもハッキリと意見が言えるメンタル持ち合わせているようで、早速今田にダメ出しをしていたのだ。
対して1、2走の林と根本仁は、特に言葉を交わす事は無い。
いつも通りにバトンを渡せたようだ。
すると何故か競技場で一番興奮している様子の山口渚が、それを抑え切れずに根本兄弟に駆け寄る。
「おい兄弟!お前らのバトンパス、何だあれ!早すぎていつ渡したか見えなかったぞ!あんなの見た事ない!」
ゆっくりホームストレートへ帰ってきた根本兄弟に、渚は飛びかかる勢いで話しかけていた。
「当たり前やないすか。だって兄弟ですよ?あんなん朝飯前、いや、この時間だと夕飯前ですわ!」
弟・根本仁は右の親指を立て、先輩の渚に満面の笑みを見せた。
その1秒後に”他校の先輩に失礼だ”と兄・根本裕に注意されていたが、結局笑顔が絶える事は無い。
すると横から第1走の林も声をかけた。
「凄いでしょ、アレ。俺も初めて見た時は、自分が今までやってきたバトンパスは低レベルだったって痛感したよ。でもアイツらが入ってきたお陰で、個人種目では何も残せない俺達に希望を与えてくれたんだよ」
林はスパイクを脱ぎながら渚に語っていた。
ほとんど表情が変わらない林だが、同じ4継に情熱を注ぐ渚には満足感に満ちている表情に映るのだった。
————————
結城はというと、手に持ったタイマーの数字が”高校陸上において”どれほどの価値があるのか分かっていなかった。
まだ高校生になったばかりなので仕方ないといえば仕方ない。
だがバトンパスのレベルが異常に高い事だけは一目瞭然だった。
血が繋がっているだけで”こんな大きな武器が生まれる”のかと、そう驚かされていたのだ。
するとそんな様子を察してか、根本仁が結城にも話しかける。
「どうやった早馬?日本記録保持者から見て、俺らの4継は?」
相変わらず高い自分の知名度に恥ずかしくなりつつも、結城は答える。
「いや、凄かったっす!特にバトンパスなんて、中学では見た事のない速さでした。瞬間移動したのかと思いましたよ!?」
「まぁな!俺らがどれだけリレーに心血注いできたか分かってくれてよかったわ!ところで、早馬はもう4継のメンバーには入ってるんやろ?何走なんや?」
根本仁は当然の疑問を投げかけた。
結城の100mベストタイムは、高校でも十分すぎる程に通用する速さだ。
4継メンバーに入っていると考えるのは、他校の人間からすれば必然だった。
だが当然今の結城は、4継はおろか全力疾走すら出来ない。
(でもいずれバレる事だしな……)
結城は心の中で悩んだ末、今は”ケガから復帰したばかり”という事実だけは話しておく事にした。
だがトラウマの事は話さない。
そこを話す必要性は感じなかったからだ。
「そっか。まぁ中学生の体であれだけのスピード出してたら、ケガもするよね」
幸い兄の根本裕は結城の話に同情し、そして気を遣ってくれた。
「でも確かに、早馬君ほどの選手がどこの高校に進学したのか話題にならなかったもんな。まさかそんな事になってたとは」
するとそれを聞いた3年の林も続く。
「でも今は帰ってきて再スタート切ったなら、それでいいじゃん。プレッシャーも半端なかっただろうし。二木山もさ、去年4継で全国行ったんだよ。メンバーは今田と当時3年だった先輩3人でね。なんなら9年ぶりに県でも優勝したしね。でも、そのせいで今年の俺らに対する期待とかは異常に高いんだよ。去年と比べると1秒以上遅いタイムなのに」
林はスパイクをリュックにしまい、そこでようやく結城の目を直接見た。
「俺はキャプテンて事もあったし、プレッシャーで頭おかしくなりそうだったよ。でも今はそんなの無視して陸上を楽しむ事だけ考えてる。だからプレッシャーを乗り越えた俺らは強いよ。日本記録と比べると小さい話だけどね」
そう言って少し照れ笑い浮かべた林は、ゆっくりと立ち上がる。
「キタ高も佐々木(隼人)を筆頭に、10秒台の1年、そんでアンカーの山口。それだけでも4継が強いのは分かってる。だから県大会楽しみにしてるよ」
そして人差し指をユックリ渚へと向けた。
まさにそれは、宣戦布告に相応しい行動だ。
すると渚はそれに対し、目だけ笑っていない笑みを浮かべた。
”4継こそが全て”の渚を煽ったのだ、彼の心に火を点けるには十分だったようだ。
すると最後に林は”意外な事”も口にする。
「あぁ、それにキタ高には如月(美月)さんもいたよね?あんな美人がいる学校に負けたら俺達には何も残らない。何も残らないんだ。だから絶対に負けないよ」
「女のケツ追っかけてる内に、俺が先にゴールしてやるよバーカ」
そのやりとりを聞いた結城は、あまりの空気の悪さに震えていた。
(え、何ここ、治安悪いよぉ……)
————————
結城と渚は帰りの電車に揺られている。
「なんか面白そうな学校でしたね、二木山」
「普段はな。でも本番の時のアイツらは別人だぞ。あんなにペラペラ話す奴らだとは想像できない程にな。まあ市予選から戦うし、楽しみにしときな」
そう言って渚は、行きと同様に再びスマホゲームを始める。
だがなぜかその横顔は、喜びに満ちているようにも見えるのだった。
————————
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる