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第23章:優しい拒絶
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佐伯さんが去った後のメール室は、以前よりもずっと広く、冷たく感じられた。
デスクに残された、隼人さんが口をつけたマグカップ。
さっきまであんなに愛おしかったそれが、今は「あってはならない証拠」のように僕の目を刺す。
(佐伯さんの言う通りだ。僕は……あの人を、この暗い地下に引き止めてちゃいけない)
午後三時。
いつものように扉が開く音がした。けれど、僕は顔を上げることができなかった。
「智之、昨日の電話の続きなんだが――」
「……風巻さん」
弾むような彼の声を、僕は意識的に冷たく、事務的なトーンで遮った。
隼人さんが、入り口で足を止めるのが気配で分かった。
「……智之? どうした、そんな顔をして」
「すみません。今、急ぎの仕分けがあって……。それと、これからは郵便物がある時以外、ここへ来るのは控えていただけませんか」
一瞬、空気が凍りついた。
隼人さんがゆっくりと僕に近づき、震える僕の肩を掴もうとする。僕はそれを、ひらりと身をかわして避けた。
「何があった。……佐伯か? あいつが何か言ったのか」
「関係ありません。……僕が、気づいただけです。風巻さんは二十二階にいるべき人で、僕はここにいるのがお似合いだって。僕の淹れるコーヒーは、あなたの時間を奪ってまで飲む価値なんて……ないんです」
視界がじわりと滲む。でも、ここで泣いたら、彼を引き止めてしまう。
「山﨑智之! 君は、本気でそんなことを言っているのか?」
隼人さんの声が、怒りと悲しみで激しく震えていた。
いつも完璧な彼が、地下一階の隅っこで、僕一人の言葉に傷つき、ボロボロになっている。
その姿を見ることこそが、僕にとって最大の苦痛だった。
「……はい。本気です。お仕事の邪魔をしたくありません。……お疲れ様でした」
僕は一度も目を合わせないまま、奥の倉庫へと逃げ込んだ。
扉の向こうで、隼人さんが立ち尽くしている。
追いかけてこないのは、彼もまた、僕の「本気」の拒絶に、どうしようもなく打ちのめされてしまったから。
重い扉が閉まる音がした。
一人になった倉庫の中で、僕は口を抑えて、声を殺して泣いた。
これが彼のためだと、自分に言い聞かせながら。
デスクに残された、隼人さんが口をつけたマグカップ。
さっきまであんなに愛おしかったそれが、今は「あってはならない証拠」のように僕の目を刺す。
(佐伯さんの言う通りだ。僕は……あの人を、この暗い地下に引き止めてちゃいけない)
午後三時。
いつものように扉が開く音がした。けれど、僕は顔を上げることができなかった。
「智之、昨日の電話の続きなんだが――」
「……風巻さん」
弾むような彼の声を、僕は意識的に冷たく、事務的なトーンで遮った。
隼人さんが、入り口で足を止めるのが気配で分かった。
「……智之? どうした、そんな顔をして」
「すみません。今、急ぎの仕分けがあって……。それと、これからは郵便物がある時以外、ここへ来るのは控えていただけませんか」
一瞬、空気が凍りついた。
隼人さんがゆっくりと僕に近づき、震える僕の肩を掴もうとする。僕はそれを、ひらりと身をかわして避けた。
「何があった。……佐伯か? あいつが何か言ったのか」
「関係ありません。……僕が、気づいただけです。風巻さんは二十二階にいるべき人で、僕はここにいるのがお似合いだって。僕の淹れるコーヒーは、あなたの時間を奪ってまで飲む価値なんて……ないんです」
視界がじわりと滲む。でも、ここで泣いたら、彼を引き止めてしまう。
「山﨑智之! 君は、本気でそんなことを言っているのか?」
隼人さんの声が、怒りと悲しみで激しく震えていた。
いつも完璧な彼が、地下一階の隅っこで、僕一人の言葉に傷つき、ボロボロになっている。
その姿を見ることこそが、僕にとって最大の苦痛だった。
「……はい。本気です。お仕事の邪魔をしたくありません。……お疲れ様でした」
僕は一度も目を合わせないまま、奥の倉庫へと逃げ込んだ。
扉の向こうで、隼人さんが立ち尽くしている。
追いかけてこないのは、彼もまた、僕の「本気」の拒絶に、どうしようもなく打ちのめされてしまったから。
重い扉が閉まる音がした。
一人になった倉庫の中で、僕は口を抑えて、声を殺して泣いた。
これが彼のためだと、自分に言い聞かせながら。
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