窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase

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第24章:雨音と、熱に浮かされる夜

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​ 無理をしていたのは分かっていた。
 隼人さんを拒絶した翌日から、僕の世界には色がなくなった。
 メール室の埃っぽさが喉に刺さり、何も手についてもいないのに、仕事だけは完璧にこなそうと神経を削った。あの日、倉庫で泣き腫らした夜から、ひどい悪寒が止まらなかった。
​ 翌朝、どうしても体が動かず、僕は震える手で会社に「病欠」の連絡を入れた。
「……お兄ちゃん? 大丈夫? 顔、真っ赤だよ。ポカリスエット、枕元に置いとくね」
 裕香の声が遠くに聞こえたのを最後に、僕は深い熱の中に沈んだ。
​ どれくらい時間が経っただろう。
 不意に、インターホンの音が部屋に響いた。裕香は大学へ行ったはずだ。
 這うようにして玄関へ向かい、鍵を開ける。
​「……ゆう、か……?」
「智之!」
​ そこに立っていたのは、雨に濡れ、肩で息をする隼人さんだった。
 二十二階にいるはずのエースが、どうして平日の真昼間に、ここに。
​「病欠だと聞いて、心配で……。会議を一つ飛ばしてしまった。……君は、俺を遠ざけてまで、こんなボロボロになるまで……!」
​ 隼人さんは、倒れそうになる僕を力強く抱きとめた。
 冷たい雨の匂いと、彼特有の清潔な香水の香りが混じり合う。
 
「離して、ください。……風巻さんに、迷惑が……」
「黙れ。……もう、そんな言葉は聞きたくない」
​ 彼は僕を軽々と横抱きにすると、寝室へと運んだ。
 布団に横たわらせ、濡れた上着を脱ぐのももどかしそうに、彼は僕の熱い手を握りしめた。
​「佐伯に何を言われたのかは分かっている。あいつには、俺からも厳しく言い含めた。……智之、よく聞いてくれ。俺にとっての価値は、幹部の椅子でも、数億の契約でもない。……この地下一階で、君が淹れてくれるコーヒーを飲む、あの五分間なんだ」
​ 隼人さんの瞳から、一筋の涙がこぼれ、僕の手に落ちた。
 完璧な男の、初めての涙。
​「君がいない世界で、何がエースだ。……頼むから、俺を一人にしないでくれ」
​ 熱に浮かされながら、僕は彼の震える手を握り返した。
 佐伯さんの言葉も、現実の壁も、今の彼の熱量の前では形を失っていく。
 僕はただ、彼に必要とされているという事実だけに、身を委ねることにした。
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