【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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80. 異世界1164日目 王都モクニクへ

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80. 異世界1164日目 王都モクニクへ
 今回の目的の一つである遺跡の調査をするためにまずは王都で調査の許可証をとらないといけないので王都モクニクに向かうことにした。王都はここから南西方向に6日ほど行ったところにあるのでそこまで遠くはない。途中に山とかもないからね。
 ここアラクからモクニクまでは主要道路なので道路もかなり綺麗に整備されており、警備もキチンとされているので移動には問題がなさそうだ。何もなければ4日くらいで着くだろう。

 昨日は一日買い物をして準備はすべて終わっているので朝早くに出発することにした。いくら交通量が多いとは言え、地球のような渋滞が出るほど車が流通しているわけでもないけど、朝早いとさらにすいているので快適だからね。それに車の速度が違うので目立ちすぎるしね。
 討伐も行き届いているみたいで索敵範囲にはほとんど魔獣の気配を感じない。出てきても初階位の魔獣がいいところだ。


 途中の町には寄っていくが、特に泊まる予定はない。町に入るときも優先して手続きをしてくれるので待ち時間も無いのがありがたい。他に貴族がいてもペンダントの色を見せると先に手続きをしてくれるからね。やはり中位爵相当のペンダントを持つ人は珍しいようだ。まあ他国の下位爵なので特に接待しようという動きはないからいいけどね。
 町では食材関係を見て何か変わったものがあれば購入している。買い物の時は大量でないとき以外は普通にリュックに入れているし、車で入ったときには店員が車まで運んでくれるからね。

 途中の町は貴族エリアと平民エリアできちんと分かれてはいないんだけど、使える店はやはり分けられていた。アラクの町ではそこまで気にしていなかったんだけど、店の入口にプレートが貼られていて、それで区別されているようだ。貴族用は鷹のような鳥が描かれているもので、もう一つは人をかたどったような簡単な形のものだ。
 貴族用はもちろん貴族しか入ることができない。平民用には貴族も入ることができるが、ほとんど入ることはないらしい。商店などは両方掲げているところもあり、こちらはどちらも自由に入っていいことになっている。
 食堂や衣類の店などは完全に別れているけど、食料などの生活必需品は共用という感じみたいだ。まあ貴族と言っても地方の町にそんなに一杯いるわけではないだろうからね。


 4日ほど走って昼過ぎにやっと王都モクニクが見えてきた。最初に目に入ったのは湖畔に建つお城だった。物語に出てきそうな眺めだね。壁はなにかで塗られているのか、白っぽい色になっていた。なかなか綺麗な城だ。
 町の北側が湖になっていて、その南側のちょっと高くなったところに城が築かれている。町はその湖の南側に広がっているようだ。
 湖を迂回してから東側の門に向かうと、すでに町に入ろうとする人達の行列ができていた。町は城壁に囲まれているので中は見えないが、城より高い建物は見えなかったので高さの規制をしているのかもしれない。

 ここには入口の門が3つあり、1つは通常の門、もう一つは許可証を持っている人の門みたいだけど、どちらも結構人が並んでいる。列が長い方が初めて来るときに受付をする門だろう。入るだけでも一日とかかかりそうな気もするね。
 もう一つの門は貴族用らしく、列はない。使う人は少ないようだけど、門はかなり立派な造りになっていて彫刻などかなり豪華に飾り付けられている。さっそく手続きをするとすぐに終わって町の中へ入ることができた。

 門の兵士に町の簡単な状況を聞くと簡単な地図を渡してくれた。ありがたい。町の北側に貴族エリアがあり、東側が鍛冶屋や商店などが多いみたいだ。西側と南側は住居が多いが、南西の方はあまり行かない方がいいと言われる。やはりどこの町でも治安が悪いところはあるみたいだね。

 町の大きさはヤーマンのサクラとあまり差が無いようだ。まずは最初に用事を済ませようと一応おすすめと聞いていた平民エリアにある宿を押さえてから町の南西エリアへと向かう。

 ここに来た目的の一つにスレインさんからのお願いがあった。国の脱出を助けてくれたグループがここにいるらしい。もちろん表だっては話せないが、いくつか預かりものがあるので渡してほしいと言われていた。

 変装してから南西エリアにある教会に行くが、結構寂れているのがちょっと気になるところ。中に入ると、少し年配のシスターと思われる人がやってきた。

「何かご用でしょうか?」

「いえ、単に神様への祈りを捧げに来ただけです。あと、もし病人がいるようであれば治療を行うことができますよ。」

「治療ですか?でも治療してもらっても払うお金はここにはありません。」

「いえ、治療代は必要ありません。自分たちの治癒魔法のレベル向上のためにやっているだけですから。」

「もしかして・・・

わかりました。もしそうであればよろしくお願いします。

 あ、挨拶が遅れて申し訳ありません。私はここの教会のシスターをしていますカロライナと申します。」


 外から見るとかなり寂れているようだったけど、建物の中は綺麗に掃除もされていて荒れているという感じではない。たんに建物が古いと言うだけのようだ。

 かなりの数の子供達がいて、みんな結構痩せ細っている。治療よりも栄養をとらないといけない人が多いのでいつものように食料を寄付していくことにした。食材を見ると子供達はかなり歓声を上げていたけどね。治療もすませて一段落したところで本来の用件を済ませる。

「自分たちからの寄付に関しては以上です。あと、伝言がありますのでお伝えしますね。」

『お世話になりました。カルトニアのご加護と愛を授かりますように。チカより。』

 シスターが少し驚いた顔をしたが、それも一瞬ですぐに元に戻った。

「こちらは寄付になりますので運営資金として使って下さい。特に使い道については指定しません。」

「・・・ありがとうございます。伝言の意味は分かりかねますが、寄付としてありがたくいただいておきます。」

「これ以上の話は不要だと思いますのでこれにて失礼します。

 あ、そうだ。あまり関係ないことなんですけど、自分達の女性の友人の4人が昨年結婚したんですよ。そのうちの2人にまもなく子供を授かりそうなのでもし良かったらあなたからも祝福をお願いします。」

「そうですか、その友人達にも祝福があらんことを・・・」

 教会を出て宿に戻る。

「あれで伝わったのかな?」

「おそらく大丈夫じゃないかな?」

 スレインさんたちが国外に脱出する時に手伝ってくれた団体があるのだが、その窓口の一つがあの教会だったらしい。もちろん詳細までは話せないので確認は取れないが、聞いていた容姿も名前も一緒なので間違いないだろう。


~教会のシスター・カロライナ~
 ちょっとこのあたりには似つかわしくない感じの二人組がやってきたときは何かと思ってしまった。なにか因縁をつけられるのかと不安になったのだが、怪我をしている人がいれば無償で治療をするという話をきいてさらに驚いた。
 もしかして少し話に聞いていたさすらいの治癒士なのだろうか?治療をお願いするときちんと治療をしてくれた上に食料まで寄付してくれた。

 そのあとの言葉に一瞬驚いてしまった。なぜその言葉を知っているのだろうか?もしかして探りに来たのだろうか?でもチカというのはあの4人姉妹のことだろうか?

 それ以上特に追求も無かったのだけど、最後に言葉を残していってくれた。友人の4人というのはきっとあの4姉妹だろう。そうなのね、無事にヤーマン国について結婚して幸せになっているのね。よかった・・・。

 どこまで真実かわからないけど、手助けした人達が幸せになったと聞くのはとてもうれしいことだわ。
 寄付と言われたものも驚くほどの金額だった。これでまた他の人達の援助をすることができるわ。多くの女性を救ったと言われる聖女カルトニアの意思はきっと引き継がれていくはずだわ。

~~~~~


 この町でも役場は平民エリアと貴族エリアに分かれているようなんだけど、まずは平民エリアの役場に行ってみる。どうも貴族エリアの雰囲気は好きじゃないからなあ・・・。
 アラクの町で貴族エリアにも行ったけど、服装が普通だったせいもあってかなりいやな目で見られたからね。一応はちゃんとした格好だったんだけど、貴族然とはしていなかったせいかもしれないね。店に入るときもかなり訝しげな目で見られるんだけど、ペンダントを見せると手のひらを返したように態度が変わるんだよなあ・・・。

 役場に行ってから拠点変更の手続きをするが、やはり貴族と言うことで貴族エリアの役場の方に行くことを薦められる。一応こちらでもできるようなんだけど、この町では貴族エリアと平民エリアで役場業務は完全に分かれているみたいなのでいろいろと手続きに時間がかかるらしい。
 もちろん平民エリアにある依頼を受けるのであれば問題ないが、変更手続きなど申請関係は向こうでやった方がいいようだ。


 しょうがないのでいったん移動することにするが、その前に面白いものがないかと依頼書を確認してみる。そこには「遺跡の調査及び護衛」と書かれた依頼書が張ってあった。特別依頼のようなんだが、受注者がいないのだろうか?
 2級以上の遺跡の調査許可証が必要と書かれており、実際の調査の時には護衛だけでも構わないらしい。

「すみません。この遺跡の調査および護衛という依頼はどのようなものなのでしょうか?」

「遺跡の調査許可証の必要なある遺跡の調査と護衛依頼になります。」

「これが受注されないのは何か理由があるのですか?」

「調査の護衛だけであればいくらでもいるのですが、問題は調査許可証の方なんです。依頼された方は残念ながら3級調査許可証しか持っていないみたいで2級以上の調査許可証を持っている冒険者を募集しているんですよ。
 遺跡の調査許可証を持っている人は一人につき2名が同行することができるので、その調査許可証を持っている人を探しているみたいです。
 ただ調査許可証を持っている方は持っている方で個別に調査を行うのが普通ですし、一応管理されている場所とは言え魔獣が出ることもあるので同行者は護衛を雇うのが普通ですからね。」

 まあ確かに調査許可証を持っている人は調査するのが目的の人だろうからわざわざ一緒に調査する人を雇ったりはしないだろう。雇うなら護衛の方だよなあ・・・。

「調査許可証を発行されないと言うことは調査と言うよりは見学をしたいという人の依頼なんですかね?」

 ちょっと困った顔になって説明してくれた。

「あまりおおっぴらには言わないでくださいね。
 依頼者は古代語や遺跡をきちんと研究している人なんですが、下位平民と言うこともありなかなか調査許可証が発行されないようなんです。」

 こんなところでも差別されているのか・・・。

「調査したい遺跡はここから東に行ったところにあるテルクの遺跡なのですが、調査をするには最低限2級の調査許可証が必要なんです。もう1年以上はこの依頼が出されていますが、そうそう許可証を持っている方もいらっしゃらないですからね。
 まあ本人もそこまで期待しているわけではないようですが、可能性がゼロではないから依頼を出しているみたいです。報酬も依頼者が出せるギリギリの額らしいです。」

「わかりました。説明ありがとうございました。」

 この調査許可証が手に入ったら一回この人に会ってみてもいいかもしれないな。報酬は別にかまわないし、どのくらいの能力なのかはわからないけど、いろいろな意見が聞ける可能性もあるからね。


 役場を出てから貴族エリアへと向かう。ゲートに行くとすぐに通してくれたんだけど、なんか驚いた顔をしているのは貴族本人のせいだろうか?役場は平民エリアと違ってかなり立派な造りになっている。先ほど聞いた情報だと、こっちで働いている人達は貴族の子女が中心らしい。

 受付に行ってから活動場所変更の手続きをする。係の人は貴族の子女と言っても対応が変なわけではないのでちょっとほっとする。遺跡の調査許可証の発行について聞くと別の窓口のようなので言われた窓口へ向かう。

「すみませんが、遺跡調査の許可証の発行をお願いします。これが調査許可証依頼と紹介状です。こちらの役場であれば許可証を発行してくれると聞いています。」

 首をかしげながらも渡した書類を見て見てすぐに奥に走って行った。少しして上司を思われる人が一緒にやってきた。

「すみません。確認作業を行うのでこちらに来てもらえますか?」

 部屋に案内されてから今回の紹介状についての説明があった。

「アルモニア国からの正式な調査許可証の発行依頼を確認しました。申し訳ありませんが、本人確認のために依頼書に魔力を当ててもらえますか?」

 依頼書のサインのところが光った。

「はい、これで本人確認は間違いありません。アルモニア国の依頼書に加え、ジョニーファン様からの紹介状もあったことには驚きました。」

「それでは遺跡の調査許可証を発行してもらえると言うことでいいですか?」

「はい、それは問題ありません。ただし手続きに時間がかかりますのでお手数ですが明日もう一度訪問していただけますか?」

「ちなみにその許可証でテルクの遺跡の調査などはできますか?」

「国が特別に規制してるところ以外、すべての遺跡の調査ができますので安心してください。」

「ありがとうございます。それではまた明日訪問させていただきます。」

 とりあえず問題なく許可証が出そうだな。良かった。


 平民エリアに戻って受付で先ほどの依頼のことについて聞いて見る。調査許可証が手に入るので話を聞きたいというとかなり驚いていたがすぐに連絡を取ってくれるようだ。

 資料を見ながら待っていると、一人の男性が駆け込んできた。あの人かな?ちょっと大柄で髪の毛がかなり伸びているんだがそれを無造作に後ろで縛っている。

「調査許可証を持った人がいるって聞いたんだけど、ほんとですか!?」

「ええ、そちらのお二人です。」

 かなり怖い顔でこっちをにらまれてしまった。

「あなたたちが遺跡の調査許可証をお持ちなんですね。同行させてくれると言うことでよろしいのでしょうか?テルク遺跡に入るのは2級以上の調査許可証が必要ですが、大丈夫ですよね?」

「申し訳ないですが、許可証の受け取りが明日になりますのですぐには見せることはできません。ただ事前に確認したところ、テルク遺跡の調査はできると言うことだったので大丈夫なはずです。」

「ほんとですか!」

「ただし、自分たちも遺跡の調査を行うのが目的です。その際にいろいろと助言をいただけると判断できたなら同行をお願いしたいと思います。そこで申し訳ありませんが、こちらとしても十分な知識があるのか確認させていただかなければいけません。」

「わ、わかりました。」


 このあと役場の部屋を借りて遺跡の研究についていろいろと聞いて見る。彼はデリアンという名前で、今は25歳と言うことだった。学校で遺跡の研究にはまった後、卒業後も研究を続けているらしい。ただし研究だけでは生活できないため、他に仕事をしているが、それ以外はすべて研究に費やしている状態のようだ。

 話をしてみると、遺跡についてはかなり詳しいみたいで、最近出された古代ライハン語の解読についても勉強しているようだった。
 あと持ってきていた研究の報告書も簡単に見せてもらい、説明を受けたところ、いろいろと考察もされていてかなりの知識があるように思われた。それ以前に本当に遺跡の調査が好きでしょうが無いという印象だ。
 一通りの話を聞いた後、ジェンと二人で少し話をする。遺跡調査ではかなり助言もしてもらえそうだったのでこの依頼を受けることにした。

「いろいろと話を聞かせてもらってありがとうございます。今回説明いただいた内容から、あなたに同行をお願いしたいと思います。」

「ほんとですか!!」

「はい。許可証は2枚申請していますのであと4名同伴できますが、自分たちがあなたを護衛することを考えるとあと1名だけであれば同行してもかまいません。」

 初級の魔獣であればある程度対応できるが、やはり並~上階位となると対処できないので護衛を考えると2名くらいまでしか厳しいだろう。

「ありがとうございます。もう一人はすぐに手配できます。」


 依頼の受領手続きをしていると、同行するという女性がやってきた。スレンダーな感じでデリアンさんと同じように長い髪を後ろで縛っていた。ちょっとかわいい系の女性だ。

「初めまして。遺跡の調査に同行させていただけると聞いてやってきました。カルアといいます。」

「初めまして、自分はジュンイチ、彼女はジェニファーと言います。今回はよろしくお願いします。」

 デリアンさんは自己紹介もなくいきなり本題に入ってきたんだが、この女性はまだ対応は普通でほっとする。

「えっと、デリアンさんの奥さんか彼女なんですか?」

「えっ?いや、あの・・・。」

「そんなわけないよ。あくまで研究仲間だよ。まあ学生時代からだからもう10年以上の付き合いだけどな。」

 デリアンさんの言葉にちょっと不機嫌そうな顔になるカルアさん。うん、なんとなく関係はわかった。カルアさん、頑張れ・・・。

 今日はせっかくなので夕食を一緒に食べることにしておすすめの店に連れて行ってもらう。店は居酒屋という感じのところでいかにも地元民がやってくるようなところだった。

 簡単に自分たちのことを話したり、ヤーマンやアルモニアの国や遺跡のことを話すとかなり興味を引いていた。

 モクニクでは遺跡調査は貴族が独占している割には遅遅として報告が上がってこないらしい。研究をしていればお金がもらえるから実際にはやっていなくてもやっているとごまかしているんだとかなり愚痴っていた。
 このため平民は以前の報告書などから研究しているらしい。あとは新たに見つかった時に国の指定が入る前に確認するとかのようだ。大変そうだなあ・・・。



 翌日、夕べはデリアンさんたちと結構遅くまで話していたので朝は遅めに起きることにした。ジェンは結構飲んでいたんだけど、治癒魔法をかけてすっきりしたようだ。もう魔法がなくなったらしゃれにならないだろうね。

 今回泊まった宿は一泊1000ドールのところで食事は付いていないので朝に焦る必要も無い。シャワーやトイレは共用だが、ベッドなど部屋の設備はいいところだと聞いていたとおりで快適だったのはよかった。
 部屋でサンドイッチで簡単に朝食をとり、準備してから出かけることにする。もうすでに1時を回っているので人通りはだいぶ少ない。まあ平日だからね。



 貴族エリアの役場に行って調査許可証を二名分受け取る。身分証明証よりも少し小さく、地球でよくあるポイントカードくらいの大きさのカードのようなものだった。そこには「特級調査許可証」という文字と国の名前と誰かのサイン、そして自分たちの名前が書かれていた。
 他には使用方法についての注意書きなどが書かれており、その説明の一つに3級~特級遺跡の調査ができると書かれていた。

「すみません。この特級調査許可証というのはどの程度のものなのでしょうか?どうやらかなりランクの高い許可証みたいですが・・・。」

「はい、ジョニーファン様からの紹介状もあり、1級ではなく特級の調査許可証を発行することとなりました。国が調査を禁止しているところ以外の遺跡はすべては入れると考えて問題ありません。
 ただし遺跡の調査で新たな発見があった場合は報告をお願いします。必須というわけではありませんが、できるだけご協力をお願いします。」

 このあと細かく説明を聞いたところ、かなり特別な許可証と言うことでちょっと驚いた。許可証は3級、2級、1級、特級となっていて遺跡の重要度によって許可証の等級が決まっているようだ。遺跡自体は1級、2級、その他という形でランク付けされており、遺跡の重要度により等級が決められている。もちろん遺跡の調査内容によりこの等級は入れ替わるみたい。
 3級の調査許可証だと警備もされていないほとんど価値のない遺跡くらいしかはいれないので許可証の意味があまりないものだ。まあ調査を行っているという最低限のライセンスと言うものだ。2級と1級はそれぞれの遺跡の調査ができるものだが、遺跡の場所によって入れないところもあるらしい。
 1級だと2級遺跡のすべて、特級だと1級遺跡のすべてを調査が可能となるため、特級許可証は基本的にすべての遺跡の調査が可能になると言うことになる。国が禁止している遺跡というのはヤーマンでクリスさんが入った遺跡とかいうレベルだろう。

 お昼にデリアンさん達と待ち合わせをしていたのでそれまでは適当に買い物をしながら町をぶらつく。せっかくなので貴族エリアの店にいくつか入ってみたが、そこまで興味を引かれるものはなかった。

 お昼に待ち合わせの店に行くと二人が表で待っていてくれたので一緒に店に入る。いろいろと込み入った話もあるので個室のようになっている部屋を用意してもらった。

「無事に許可証は手に入りました。遺跡の調査はいつから行かれるつもりでしょうか?」

「よかったです。一応しばらく仕事は出られないと職場には説明してきたのですが、3日後の4/18に出発しようと思います。テルクまではバスで5日ほどかかりますので4/22にテルクの町で待ち合わせでどうでしょうか?一緒に行ってもいいですが、どうしますか?」

 バスで5日と言うことは車だったら3日くらいで到着できるだろう。乗せていくこともできるけど、いろいろと不都合なこともあるので現地集合の方がいいだろう。

「わかりました。せっかくなので町を見て回りたいこともあるので自分たちは先に移動しておこうと思います。4/22にテルクの町で待ち合わせましょう。現地についたら役場に連絡をしてください。」

「わかりました。」

「調査は5~10日間と言うことですが日程は確定ではないんですね?」

「そうですね。調査の状況によって日程は変わると思いますが、現地での調査は最長で10日くらい予定しています。あと、遺跡は2級遺跡なので許可証は少なくとも2級以上必要ですが大丈夫ですよね?1級だとかなりうれしいですけど。」

「ええ、これです。特級の調査許可証を発行してもらうことができました。」

 もらった調査許可証を見せる。

「「えっ!!!???」」

 なぜかかなり驚いている。

「と、特級の調査許可証・・・。初めて見た。」

「ほんとに発行されるものなんだ・・・。」

 このあとどうやってこれを手に入れたのかと二人に質問攻めにされるが、あまり詳しくは言えないのでそこは勘弁してもらった。

「あと、結局はばれると思いますので先に言っておきますが、一応こういう身分もあるのでそれも影響していると思います。」

 持っている黄色のペンダントを見せると、二人とも固まってしまった。

「「申し訳ありません!!」」

 椅子から降りて床に膝をついて頭を下げてきた。日本で言う土下座に当たる行為なんだが、頭を下げたまま黙ってしまった。ジェンも二人の行動に固まってしまっている。

「あ、あの・・・」

「デリアンさん、カルアさん、顔を上げてください。私たちはこの国の貴族ではありませんし、正式な貴族でもありません。今までと同じように接していただいてかまいません。いえ、今までと同じように接してください。お願いします。」

 しばらくすると二人は顔を見合わせてからこちらを見上げてきた。

「い、いいのですか・・・」

「はい、とりあえず座ってください。」

 まさかここまでおびえられるとは思っていなかったのでかなり驚いてしまった。カステルさんたちはまだここまでなかったんだけど、貴族に対してこんな反応をする人もいるんだな。

 とりあえず自分たちのことをもう少し説明してからやっと納得してもらった。どうやらデリアンさんは下位平民、カルアさんは上位平民なんだけど、以前は下位平民だったらしい。
 二人とも下位平民だった学校に行っていたときにいろいろとあったらしい。まあ小さい頃から色々と迫害を受けていたらこんな対応にもなるのかな?遺跡調査の話をした時は遺跡に入れると言うことで浮かれていて身分について確認することが完全に飛んでいたようだ。

 このあとは言葉遣いなどがやっと元に戻ったんだけど、やはりかなり緊張していたのは間違いないだろう。貴族の子女ではなく、貴族本人だからなおさらなんだろうね。

 打ち合わせの後、このまま仕事に行くというので働いている店にも顔を出していくことにした。どうやら昼休みに抜け出てきていたらしい。
 これでカサス商会だったらびっくりだと思ったんだが、さすがにそんなことはなかった。ただ置いている店の商品が似通っていたので聞いて見ると、カサス商会と縁があるらしく、ヤーマンからの商品の一部を融通してもらっているらしい。
 重量軽減バッグの宣伝が貼られていて、どうですかと薦められる。なんかこうやって自分の魔道具が宣伝されているとこそばゆいな。


~デリアンSide~
 小さな頃に読んだ本で古代文明に魅せられて少しでもその文化に触れたくて勉強をした。家が下位平民で裕福でもなかったので勉強にかけるお金もなかったが、知り合いの商会の人に成績の上位を維持できるならと言うことでお金を出してもらえた。
 学校では常に上位の成績を確保しておかなければ授業料免除の特典が得られないので頑張った。そのせいもあって貴族の子女からいじめを受けることがあったが、無事に卒業をすることができた。

 残念ながら研究だけでは生活できないので働かなければならなかったが、学校を出たと言ってもいい就職があるわけではない。しかも遺跡の研究をしたいので長期の休暇を取れる仕事でなくてはならない。このためしばらくは短期の仕事をやっては研究をすることを繰り返していたため、さすがに生活はかなり厳しかった。
 そのときにも助けてくれたのがカルアだ。商店を経営しており、そこで働けるように口添えしてくれたのだ。遺跡調査のために長期の休暇を認めてくれたので、その分できるだけ仕事は頑張った。

 学生時代にはまだ遺跡の調査に行くことができていたが、卒業してから遺跡調査の許可証が必要となってしまったためなかなか遺跡の調査をすることができなくなってしまった。学生の引率として調査に参加したりといろいろと手を回し調査を行ったが、それ以外はほとんど価値のない遺跡のみとなり、過去の報告書や資料を基に研究する日が多くなった。
 貴族の連中は許可証を持っているくせにほとんど調査を実行していないというのが悔しかった。せっかく古代ライハン語の解読の糸口が見つかったのにちゃんと調査結果が報告されていないのだ。

 もう諦めなければならないのかと思っていたんだが、わずかな望みをかけて出していた冒険者への依頼を受ける人がいたという連絡を受けて驚いた。ほんとに?
 会ってみると若い二人だったが、テルクの遺跡に入れる許可証を発行してもらえる予定だと言われた。二人も遺跡に興味があるらしく、あくまで自分たちの遺跡調査のサポートをお願いしたいと言うことだった。
 このため、遺跡や古代文明に対する知識について確認されることとなった。こちらの説明に対してかなり的確な指摘が入ったりするので正直驚いた。特に古代ライハン語の解読については正直自分よりも上と感じた。

 頑張って自分の研究してきた内容を説明したところ同行することを認めてくれた。護衛を考えるともう一人であれば一緒に行ってもかまわないと言うのでカルアにも声をかけることにした。カルアも学生時代には一緒に勉強した同士であり、今も研究を手伝ってくれているので知識としては大丈夫だと言って了承してもらえた。


 翌日許可証が発行されたというので話を聞きに行くとなんと特級の遺跡調査許可証を持ってきた。特級許可証って実物を持っている人に会ったのは始めてだ。たしかに許可証は存在していたが、普通は持っていても一級だ。
 どういう伝で手に入れたのか気になったんだが、残念ながらそれは教えてくれなかった。どうやらそういう方面で有名な人と縁があったらしく、紹介状を書いてもらったらしい。その人ってジョニーファン様くらい有名なのかな?

 そのあと見せてもらったのが黄色のペンダントだった。カルアと二人で跪いてしまった。二人に謝られて話を聞いたところ、正式な貴族ではないと説明された。それでもハクセンとヤーマンで下位爵をもらえるってすごいことだ。この年齢で貴族本人だからな。
 貴族エリアはどうも水が合わないらしく、普段は平民エリアで生活しているらしい。ヤーマンでは貴族と言ってもそんなに特権があるわけでもないし、少し前までは貴族という肩書きもなかったと言うことでなんとか納得した。それでもやはり緊張してしまう。

 話を終えたあと、仕事に戻るという話をすると一緒に行くと言われてちょっと焦ってしまった。店を案内すると、ヤーマンからの商品に興味を持っていた。カサス商会のことを説明するとやはり知っていたらしく、そこから少し融通してもらっていると話すと納得していた。重量軽減バッグのことを話すともう持っているから大丈夫と言われていた。まあヤーマン国産だからね。
 いろいろと見て回ったあと、結構な商品を購入していってくれた。買っていった額も結構な額になるのでさすが貴族と言ったところだろうか?


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