【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

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79. 異世界1149日目 モクニク国へ到着

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79. 異世界1149日目 モクニク国へ到着
 一度だけ魔獣の襲撃を受けたが、その後は特に襲撃はなかった。まあもともと襲撃があるのは年に数回程度みたいなので襲撃があったこと自体が珍しいようだ。そのために索敵をしているんだからね。
 航海の間は知り合った冒険者達と一緒に訓練をしたり、食事をしたり、情報交換をしたりしてすごした。襲撃の可能性が高いのは中の5日間だけだったのでそれを過ぎるとかなり気分的にも落ち着いた。

 10日目に予定通りナンホウ大陸が見えてきた。到着するのは港町のアラクというところで、ナンホウ大陸の窓口は基本的にここになる。それ以外だと距離が遠くなって陸の移動よりも危険を伴うからだ。

 手続きは事前に部屋で行ってくれるのでよかった。普通はこの手続きだけでも結構時間がかかるみたいで、カラストさんが嘆いていたからね。今回は魔獣の退治もあったのでお金の20%を返却してくれた。
 入国手続きの時にペンダントを渡される。どうやらペンダントがこの国での身分を証明するものらしい。このペンダントはモクニク国だけでなく、サビオニアでも共有されているみたい。
 この等級を示すペンダントを不正利用したり偽装することは死刑に相当するらしく、盗まれることはほぼないと考えていいらしい。どっちにしろ、ある程度のところでは身分証明証も確認されるしね。
 等級は7段階に分かれているみたいで、貴族の上位爵、貴族の中位爵、貴族の下位爵、準貴族、上位平民、下位平民、奴隷となっているみたい。ちなみに貴族の家族などは準貴族という扱いになるようだ。
 自分たちは2国の下位爵を持っているため、中位爵という扱いになるらしく、黄色っぽい色の宝石がついているペンダントだった。二人ともに爵位を持っているので二人とも同じ色だ。ちなみに上から青、黄、緑、紫、赤、黒のペンダントとなるが、奴隷にはないようだ。


 徐々に陸が近づいてきて昼過ぎに港に着岸する。町の雰囲気はそれほどオカニウムとは変わらない感じがするが、気温はかなり高いみたいで出迎えに来ている人達の服装がかなり薄着だ。船は気温管理されているからわからなかったんだけど、結構暑いのかもしれない。

 下船すると、結構暑い空気を感じる。オカニウムはまだちょうどいい感じだったんだけど、やっぱり赤道が近いんだろうか?
 貴族と平民は完全に別けられていてこっちはかなりスペースがゆったりとしていた。ほとんどの人は迎えに来た車に乗って移動しているようだ。車の前後にもそのグレードを示す色が取り付けられていた。ほとんどが緑だから下位爵なのかな。
 一応自分たちもプレートはもらっていたので車を取り出して取り付けておく。取り付けるとなぜかすぐに係員がやってきて誘導してくれた。同じ貴族でも上下の関係が強いみたいでこちらを優先してくれるようだ。

 港は少し町から離れていたのである程度町の近くへ移動してから車を収納する。道路は舗装されていて走るのに問題は無い。ただ建物は石造りのものもあるんだけど、土のレンガのようなものもある。まあ魔法で固めているとは思うんだけど、よくよく見てみるとやっぱり町の雰囲気は違うんだな。

 町はかなり発展している感じで規模的にはオカニウムと同じくらいだ。ただ町の区画は貴族エリアと平民エリアが完全に分けられていて、貴族エリアには基本平民は入れないようになっているみたい。
 実際に治安の面からもやはり貴族エリアの方がいいのは当たり前だろう。ただいろいろと情報を得るのなら平民エリアでも話を聞きたいんだよなあ・・・。平民エリアも地域によって違うようだけど、スラムと言われるエリアはヤーマン国よりもやばいところらしい。気をつけよう。
 ハクセン国でのこともあるので、ジェンにはフードを被って、軽い認識阻害の魔道具もつけてもらっている。もうあんなことがあったらいやだからね。

 役場は平民エリアにあるんだけど、貴族エリアにも出張所のような感じであるみたいだ。どっちに行ってもいいんだが、とりあえず平民エリアの役場へ。

「申し訳ありませんが、こちらは平民用の窓口となりますので、対応に不備があるかもしれません。貴族様用の窓口は貴族エリアにありますので、そちらを使った方がよろしいのではないでしょうか?」

 ペンダントをみた係員はちょっと驚いた顔をして言ってきた。

「いえ、ヤーマン国から来たものなのでそのあたりは気にしなくても大丈夫です。貴族と言っても普段と同じ対応していただいてかまいません。」

 するとちょっとほっとしたような顔になって手続きを進めてくれた。まずは活動場所の変更の手続きを行ってもらう。こっちでの注意事項として話を聞くと、やはり平民が貴族に対して何かした場合は有無を言わさず捕まってしまう恐れがあるらしい。ただ貴族同士だと話し合いや裁判がきちんと行われるようだ。平民と貴族だとたとえ裁判になっても平民はかなり不利な結果となるようだ。

 カステルさん達の話だと買い取りについてもグレードによって買取額に差があるらしい。これには正直驚いた。準貴族を0とすると上位平民は-10%、下位平民は-30%らしい。逆に貴族は+10~30%となるようだ。なんかすごいな・・・。ポイントや昇格についてはひいきがないということだが、どこまでかは不明だ。
 まあ貴族の冒険者の相手は貴族がやっているようなのである程度制約はしているとは思うんだけど、いろいろとありそうな気もするね。


 とりあえずこの日は事前に聞いていたそこそこいい感じの平民用の宿に泊まることにした。一泊800ドールなので結構お手頃だ。ヤーマンとかでも泊まったアパートのような感じのところで、普通にダブルベッドの部屋に共用のシャワーやトイレがついているところだ。

 宿を確保したところで近くにある食堂に向かう。船で一緒だったカステルのメンバーと一緒に食事をとることにしていたからだ。他にも色々と話を聞きたいこともあるので、他に知り合いも声をかけてもらうことにしている。夕食代はおごるというとかなり喜んでいた。

 居酒屋のような感じの店に着くと、カステルのメンバーがやってきた。それなりの人数になったので部屋を取ってくれているようだ。
 カステルの4人の他にやってきたのはイクサという良階位の3人パーティーとカレニアという上階位の4人パーティーだ。ここではパーティーのメンバーの頭文字からパーティー名を決めることが多いらしい。
 彼らは王都モクニクとここアラクなどモクニク国の北部を中心に活動しているらしい。まだ拠点を持つまでにはなっていないが、いずれは拠点を買いたいと思っているようだ。イクサはパーティーとしては良階位だが、まだ一人が上階位なので他の国には行ったことがないらしい。

「今日はわざわざありがとうございます。いろいろと聞きたいことがあるのでよろしくお願いします。ちなみに事前に話してたとおり、今日は自分たちのおごりですので、気にせず飲み食いしてください。」

 こう言うとかなりの歓声が上がった。

「まあ何でも聞いてくれ。分かる範囲でいいなら答えるぞ。」

 最初は貴族と言うことで少し警戒していたようなんだが、お酒も入ってくるとかなり打ち解けてきたと思う。

 とりあえずここの国の貴族に対する愚痴がかなり出てくる。ホクサイ大陸の方が活動しやすいのはわかるんだけど、やはり育った国と言うことでここに住んでいるみたい。移住するにもかなりのお金が必要らしい。
 国外に行くときにもかなりのお金を払わなければならないらしいが、冒険者の良階位以上であればその金額がかなり安くなるようだ。ヤーマンではこっちの方の国から来たということにしていたのでこのあたりは変に思われなかったかなあ・・・。まあ今更だけどね。
 良階位になると上位平民、優階位の冒険者になると準貴族あつかいとなるみたいなので、早く優階位になりたいと言っていた。
 ただ平民の立場は南のサビオニアよりはましらしい。そっちの国は平民はそもそも国から出ることができないようだ。

 いろいろと愚痴を聞いたりしながらもかなり詳しい情報交換ができたのでよかったな。とりあえず貴族の権利を持っている限りはそんなに変なことにはなりそうにもない。でもこれ見よがしに見せつけるのはやめておいた方がいいだろうな。
 全員の食事代で結構な金額が飛んでいったけど、それ以上に収穫もあったのでいいだろう。こっちの国に知り合いもいないのでこういうところで知り合いを増やしておかないと何かの時には困るからね。


 このあたりの建物は基本的にエアコンのようなものがつけられているので大丈夫なんだけど、外に出るとやはり結構暑い。まだ耐えられない暑さではないんだけど、本格的に夏になったら結構厳しいかもしれないね。
 風魔法を体に循環させているので汗でベトベトになることもないし、魔法で温度管理もある程度できるのでかなり快適に過ごすことができる。ある程度魔法を使う人は同じようなことをやっていたりするらしいけど、無意識にできるようになるまでになっている人は思ったほどいないようだ。氷魔法を覚えておいて良かったなあ。
 このため普通は魔道具を使っているようだけど、やはり魔獣石の消費もあるのである程度お金に余裕がある人しか使っていないようだ。まあこういう道具があるだけでもかなり快適なんだけどね。地球だとまだ携帯用のエアコンは無理だからね。

 まずは町の見学をしようと朝早めに起きてから港の近くにある市場へと向かう。卸売市場のようなところもあるけど、近くに小さな店がたくさん出ており、新鮮な魚が並んでいる。やはり売っている魚の種類が違っていてカラフルなものが結構多い。なんで暖かいところの魚はカラフルになるんだろうね?
 調理方法など色々と聞きながらある程度食材を買っていく。やはり暑いせいかここも刺身で食べる風習はないらしい。まあ腐りやすいだろうからね。

 魚だけでなく野菜や果物も買ってみるが、やはりこっちも扱っている種類が異なっている。ヤーマンでは高級果物として取り扱っていたものが結構普通の値段で売られていた。まあ輸送費とか考えると高くなるのはしょうが無いんだろうけどね。

 買い物にやってきているのはやはり平民だけのようで、貴族らしき姿は見当たらない。まあ普通に考えて買い物とかに貴族本人が来ることはないだろう。
 他には奴隷と思われる人達も結構いて、荷物の運搬などをしている。ホクサイ大陸では奴隷はいてもそれほど見かけなかったし、内向きの仕事が多かったのかもしれないけど、ここでは結構普通に奴隷が外で働いているようだ。顔に契約紋が施されているのですぐにわかるからね。

 一通り市場を見て回った後、カサス商会がこの町にもあるようなので顔を出しておく。支店長のタリフさんに挨拶をしてからしばらくはこの町にいることを伝える。
 タリフさんはもともとこっちの人で他の商店で働いていたらしいけど、カサス商会にスカウトされてこの店の支店長になったようだ。ちなみに生まれもここモクニクのようだ。

 以前は下位平民だったけど、今は上位平民として生活しているようだ。どうやら納税額が多くなると上位平民となるみたい。さらに税額が多くなると準貴族としての地位までは得ることができるようだ。
 爵位についてもここモクニク国では下位爵はある程度のお金があれば購入することができるという話だ。もちろん爵位だけなんだけど、こういう国だからこそ貴族としての価値が大きいらしい。もちろんその分毎年の納税額がかなり増えるみたいだけどね。
 それを考えると、褒章での爵位相当をもらっているのは正直ありがたいね。特別な納税義務もないのに貴族特権が使えるんだからね。まあ貴族相当の褒章が出されることがかなり珍しいみたいだけどね。ヤーマンでも10年ぶりくらいとか言われていたからね。

 商売ではやはり貴族の権限が強いせいもあっていろいろと無茶を言われることもあるようだけど、そのあたりの駆け引きはうまくやっているようだ。その辺はさすがに自分たちだと何も手が出せないな。

 重量軽減バッグはこちらでもかなりの人気商品らしく、最初の頃にはかなり爆発的に売れたようだ。いまはだいぶ落ち着いてきているみたいだが、新型のバッグも出たのでまた売れ行きが上がってきているらしい。もう少ししたら追加発注の依頼があるかもしれないと言うことだった。
 今は重量バッグの加工は各国で行っているらしく、魔符核だけが輸送の対象となっているみたい。できるだけコストは下げたいので町を出るときに持っている分だけを先に納めてもらうように言われる。まあ需要はあることはわかっていたのでちょっとずつだけど作っていたから大丈夫だ。

 それぞれの町の規模はヤーマンとあまり差はないようだけど、やはり同じ町でも場所によって建物の造りが違っている。通常は石で作られた建物なんだけど、周辺に行くほど土のレンガのようなもので造った建物になってきた。やはりコストの問題なんだろうね。

 せっかくなので貴族エリアにも入ってみることにした。確認のための門があるんだけど、ペンダントと身分証明証を見せるとすぐに許可が下りた。さすがに貴族エリアは一軒一軒が広い。ただ歩いている人はほとんど見かけないのは車で移動するのが普通だからだろうか?

 こっちにも商店街のようなところはあるんだけど、売っている食材の値段が高い。ものは同じくらいなのに値段が高いのは、商店の場所代とかが高いのだろうか?ただ海外のものなど変わったものも扱っているけどね。
 店は雑貨品の店はほとんど無くて、洋服や装飾品などの店が多い。まあ食材関係はよほどでない限りは平民エリアの方に買いに行くんだろう。ただ装飾品関係については値段がかなり高いと思うのは気のせいだろうか?まあジェンもそこまでほしそうにはしていないからいいけどね。

 こちらの役場の出張所にも顔を出してみるが、こっちはあまり広くはない。もともと貴族の冒険者は多くないようなのでこれでも十分なのかもしれない。
 話を聞くと、特別依頼は指名依頼では無い限りはこっちで最初に受付をして誰も受けない場合のみ平民側に渡されるらしい。
 置いている資料は同じものだったけど、こっちの方がかなり綺麗なものだった。読む人が少ないのだろうか?せっかくなのでこのあたりの魔獣などについても資料を読んでみる。
 買い取りの店などは平民エリアにしかなく、役場で買い取り対象のものであってもここでは解体しないみたい。あくまで出張所という扱いのようだ。ただここで収めることはできるみたいだけどね。

 話を聞いて見ると、冒険者として活動している貴族は家を相続できない家の子供達が多いみたいで三男以降の人が多いようだ。貴族の女性で冒険者となっている人はほとんどいないらしい。
 家を継げない子供達は本人は準貴族として扱われるが、妻や子供達は対象外で平民となってしまうようだ。このあたりはかなりシビアらしいのでなんとか爵位を得ようといろいろとやる人の一部が冒険者となっているみたいだ。特階位の冒険者になれば爵位がもらえるみたいだけど、そうそうなれる人なんていないだろう・・・。

「冒険者で青どころか黄色のペンダントをしている人はそうそういませんよ。」

 受付に話をしたときに自分たちのしているペンダントを見て驚いていた。まあたしかに貴族の子供がなると言うことだから紫色のペンダントが普通なんだろう。

「運良く2つの国から褒賞をもらえたからラッキーでしたよ。」

「いえいえ、運が良くてもそうそう緑玉章なんてもらえないですから。黄色のペンダントを持った人が普通に出歩いていることもそうそうありませんから。」

「ええ、必要なとき以外は見せないようにしていますし、普段は平民エリアなので必要ないですからね。」

 やはり黄色のペンダントはちょっと危険もあるような気がする。受付とかには見せざるを得ないが普段は見えないようにしていた方が良さそうだな。

「それなら大丈夫そうですね。頑張って下さい。」

 資料を一通り読んでいると戻ってくる冒険者達の姿をちらほら見かけだした。装備は結構立派なものをつけているんだけど、階位は低そうな感じだ。倒してきた魔獣は初~上階位くらいだからね。
 受付への態度を見ているとちょっと話しかけたくない印象だ。こっちへは一週間交代でやってくるらしいけど、おそらくいやな部署の一つなんだろうなあ。まあ全部が全部こんな人達では無いとは思うんだけど、今日やってきている人達にはとりあえず声はかけたくないし、変に絡まれてもいやなのでそうそうに退散することにした。

 平民エリアに戻ってから昨日の宿へ向かう。貴族エリアにも宿はあるんだが、一泊が最低2000ドールからとなっているんだよなあ。値段が高いのに設備は普通だったりする感じだから正直お金がもったいない。まあ治安とかはいいのかもしれないけど、こっちの宿でも十分問題ないからね。


 翌朝早く出発して狩り場へと向かう。さすがに日帰りのエリアでは魔獣の階位が低すぎるので向かうのは車で1日くらい走ったところになる。移動する間も目についた魔獣を倒していくが、解体は後回しにして収納だけやっていくことにする。

 目標となったのは町の東側の山の麓付近で、このあたりは上階位~良階位の魔獣が多く出没するようだ。到着したときには大分時間も遅くなっていたのでこの日の狩りは断念するしかなかった。まあ普通だったら1日だと到着できないところだからね。
 日が落ちる前に良さそうな場所を探してから拠点を出す。気温は高いんだけど拠点では空調管理もしているので問題は無い。さすがにあまり寝られないまま狩りをするのは危なすぎるからね。

 今日の夕食は購入しておいたちょっとスパイスの利いた鶏肉だ。タンドリーチキンという感じのものだったのでせっかくなので保存しておいたカレーと一緒にいただくことにした。温かいまま保管できるようになればいいのになあ・・・。ご飯は炊くのが面倒だったのでナンのようなパンと一緒に食べることにした。

 ホクサイ大陸ではなかなか手に入らない鶏肉なんだけど、こっちでは結構普通に手に入るみたい。今日は見かけなかったけど、今回倒すこともできるだろう。
 鳥の解体はやったことがないのでうまくできるようになるまでは時間がかかりそうだけど、やり方だけは確認してきているので大丈夫だろう。

 狩りに出ているときは夜の生活は自重している。いくら拠点を作っているとは言え、いきなり襲われる危険もあるからね。まあ当たり前と言えば当たり前のことなんだけど、小説の馬鹿カップルがそういうことをしているというのを読んだことがあるが、襲われそうな場所でやるとか死に直結するのにあり得ないだろう。


 翌朝はパンとソーセージと野菜のスープ、目玉焼きなどで簡単に朝食を済ませてから移動を開始する。索敵を展開すると、結構な魔獣の気配を感じることができた。いるのは並~上階位くらいだが、森の奥に進めば良階位の魔獣もいそうな感じだ。

 索敵を展開して周りを注意しながら森の中を進んでいく。牙兎や大狼や魔猪など今まで見かけた魔獣もはさすがに倒し慣れているので油断しなければ大丈夫だ。
 上階位下位までは特に問題なく狩ることができるが、上階位の中位からは油断しては危険だ。まあ弱い魔獣でも油断すると危ないんだけどね。近くに同族がいるとまとめて襲ってきたりもするので索敵で周りも注意する必要がある。

 しばらくして魔鳥という魔獣の鳥を発見した。飛べない鳥だけど、足が速く、攻撃力もかなり高いようだ。形はエミューみたいで体長は800ヤルドくらいあり、首と足が体長の半分以上を占めている。全身羽毛に覆われていて足は走るためかかなり肉付きがいい。
 魔鳥は並階位中位レベルなので特に問題は無いはずだが、結構な数がいるので集団でくると怖いものがある。ただ、かなわないと思ったら逃げようとするので、弓にしろ魔法にしろ遠距離攻撃ができないと狩るのは大変らしい。

 あと森の中ではないが、森の外れで大魔鳥にも遭遇した。こっちは上階位中位の魔物になるんだけど、大きさが魔鳥の2倍くらいあので結構怖い。エミューそのものと言った風貌で生えている羽も結構な強度があるのでなかなか刃が通らない。
 こっちもある程度ダメージを与えたと思ったら逃げだそうとしたので土魔法で足場を作ったら慌てていたせいか引っかかってこけてくれたのであっさりととどめを刺すことができた。

 日が暮れる前に拠点に戻ってからまずは魔獣の解体を済ませる。ほとんどは解体魔法で解体できるけど、魔鳥と大魔鳥は自分でやらなければならない。
 魔鳥は肉しか使えるものはないので血抜きをした後は羽をむしってから火魔法で表面を焼いておく。そのあとは手順に沿って解体して行くが、思ったよりも肉の量は少なかった。首から頭の部分は食べられないし、体にもそんなに肉が付いているわけではない。肉の大半はもものあたりになる。
 大魔鳥は手順は一緒なんだけど、大きいので結構大変だった。本当は血抜きだけでも大変なんだけど、水魔法が使えるのはありがたい。こっちは羽が一応買い取りしてくれるところもあるらしいけど、手間を考えると面倒なので肉のみを切り分けることにした。
 羽が付いたままでも解体できればいいんだけど、さすがにそれは無理がある。解体魔法を覚えてもナイフなどでの解体を基本としたものなので、羽などの前処理はしなければならない。羽がついたまま処理できれば解体魔法でもできるかもしれないが今のところは諦めておいたほうが無難だろう。

 夕食はさっそく解体した鶏肉を使って唐揚げを造ってみる。ニンニクとショウガを入れた出汁に簡単につけ込んでからあげていくが、なかなかいい感じに仕上がった。中津のからあげが懐かしい・・・。

「鶏肉はなかなかいいね。ホクサイ大陸では手に入らなかったけど、やっぱり蛇肉とは違うよね。」

「そうね、やっぱりお肉の脂がとても美味しいわ。これは確保しておかないといけないわね。」

「収納魔法もあるからある程度の量は売らずに持っておいていいよね。自分もやっと次元魔法のレベルが上がってかなりの収納ができるようになったしね。」

 こっちの大陸に来る前に収納魔法のレベルも上がって収納の容量が一気に増えたのでかなり余裕がある状態となっていた。収納バッグの必要がなくなったのでどうするか考えているところだ。売るならオークションの方がいいからね。

「魔鳥は大魔鳥よりもあっさりしているけど、料理によって使い分ける感じなのかな?重さあたりの値段はあまり変わらなかったよね?」

「確かそうだったはずよ。とれる肉の量が倍くらいだから大魔鳥の方が買取額は高い印象だけど、単価は変わらなかったわね。」

 初めての料理を堪能しながら食事を終える。このあとは魔法の訓練などをしてから眠りにつく。狩りに出ても生活サイクルは変えないのが基本だ。まあ夜の見張りがない時点で普通ではないかもしれないけどね。

 翌日からも同じように狩りを続けて10日ほどしてから撤収することにした。今回初めて倒した魔獣は魔鳥と大魔鳥の2種だけだったんだけど、こちらは自動で解体できるようになった。もちろん羽の前処理はしないといけないけどね。
 かなりの肉を確保できたのでしばらく鶏肉には困らないだろう。拠点では水炊きとかチキン南蛮とかも造ってみたけどなかなか良かったからね。

 遠征から戻ってきていらない素材を買取に出す。通常の店は正規の金額だが、役場で買い取りする良階位以上の魔獣については買取額は20%アップしてくれた。なんかずるをしているような感じだけど、せっかくもらえるものなので素直に受け取ることにした。ここで何か言っても何も意味が無いからね。
 良階位の素材になる魔獣はホクサイ大陸でも狩っていた巨猪、巨角牛位だったけど、この素材は結構なお金になるから美味しいんだよね。お肉も美味しいし。1匹あたり8千~1万ドールだけど、20%アップなのでかなりの上乗せになる。

 革などは防具の補修用に使いたいんだけど、革の前加工をしなければならないのでそこまで手が回っていない状態だ。このため補修に使うための素材は前処理を行ったものを購入している。
 ある程度魔法を使いながらなので地球でやるよりも手順は簡単らしいけど、結構な時間と専用の道具がいるからね。このため皮の加工は専門でやっているところが多い。ゲームみたいで皮を手に入れたらそのまま使えるとかだったらいいのになあ。

 上乗せで金額ももらえたのでこの日はちょっと高めの宿に泊まることにした。貴族用は値段が跳ね上がるので、平民用の高級宿という感じのところだけど、一泊2000ドールという値段だ。
 シルバーフローとかと同じ感じのところで、建物は5階建てなんだけどエレベーターも付いているので階段を上らなくていいのはありがたい。
 夕食は町の中で定食のようなものを食べた。いろいろな料理が小さめのお皿に載っているのでこっちの食べ物を色々と堪能できる。港町なので魚を使ったものが多いが、味付けは特に辛いというわけではない。ちょっと変わった香辛料を使っているものもあったけどね。
 夕食を終えてから少し買い物をしてから宿に戻る。こっちはあまりお風呂という風習がないみたいでお風呂がある宿はかなり高いところしかなかったので今回は諦めている。気分的なものなんだがシャワーを浴びてから久しぶりに夜遅くまで頑張った。さすがに治癒魔法を使うまではしなかったけどね。

~魔獣紹介~
魔鳥:
並階位中位の魔獣。森や草原などに生息している鳥形の魔獣で、体長800ヤルドくらいの大きさで数匹~10数匹の群れを造って生活している。
飛ぶことはできないが、その分足が発達しており、かなりの速度で走ることができる。長い首からのくちばしでの攻撃は鋭く、目などをやられてしまったという報告があるので注意が必要。
かなわないとみると全速力で逃げ出してしまうため、一気に仕留めるか、魔法や弓などの遠距離攻撃が有効。
素材としての買い取り対象は肉の部分となるが、特にももの部分の肉が高価。

大魔鳥:
上階位中位の魔獣。草原に生息している鳥形の魔獣で、身長は1500~2000ヤルドくらいの大きさとなる。集団を造ることは稀で、通常は1~2匹で生息している。
飛ぶことはできないが、その分足が発達しており、かなりの速度で走ることができる。全身を覆われた羽は強度があり、魔法も効きにくくなっている。
かなわないとみると全速力で逃げ出してしまうため、一気に仕留めるか、魔法や弓などの遠距離攻撃が有効。
素材としての買い取り対象は肉の部分となるが、特にももの部分の肉は高価となる。羽も買取対象となることがあるが、常に買い取り対象ではないので注意が必要。また買取をする場合もかなり程度のいいもののみが対象となる。



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