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第七章
更なる新たな契約 中編
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「おはようございます。アーベル、出勤しました」「おはようごさいます」
私とユーリが「ケルークス」の店内に入った。
ユーリはそのまま厨房の方に向かう。
アイリスから指定された九時にはだいぶ早い時間なので、私はいつものカウンター席の隅に陣取った。
奥の方に目をやったが、アイリスの姿はない。空のコーヒーカップが置かれているから、相談客の相手をしているか、長老会議のメンバーの相手をしているかのどちらかだろう。
さすがに平日の朝っぱらから相談に来る客はいないと思うので、後者の方が可能性が高そうだ。
更に店内を見回したが、他の客はいない。
もともと客の多い時間帯ではないので、こういうことも時々ある。
あと三〇分もすればカフェ利用の精霊客が来るはずだ。
「おはようございます、アーベルさん」
少しして相談員のベネディクトが店内にやってきた。
この時間に彼が顔を出すのは珍しい。
「アーベル、来ておったか」
ベネディクトのパートナーであるメイヴからも声をかけられた。彼がメイヴを連れてくるのは珍しいことではないのだが……
「そろそろ時間かの。アーベル、上へ来るのだ」
指定された九時の少し前、何故かメイヴから上の応接室に行くよう指示された。
「アーベルさん、所長から指示を受けているのでお願いします」
「そういうことか、わかった」
ベネディクトが補足してくれたおかげで状況は理解できた。
何故メイヴとベネディクトが、という点はよくわからないのだが……
「アーベル、少し待っていてくれんかの。他にも来る者がおるのでな」
応接室で椅子を勧められ、言われた通りに座ったところでメイヴから他の参加者が居ることを告げられた。
「メイヴ、ここでいいんだよね?」
すぐにユーリが応接室にやって来た。相談員ではない彼女がここに来るとはどういうことだろうか?
「失礼します」
少しして、カーリン、リーゼ、メラニー、ニーナ、オリヴィアの五体がやって来た。私のパートナーばかりがやって来ているが、この展開は……?
「カーリンたちも呼ばれたのか?」
「はい、アーベルさん。私たちにとっても重要なお話があると聞きましたので」
カーリンの答えから推測するに、私だけではなくパートナーたちにも関係する話なのだろう。
最近、カーリンたちがアイリスに頻繁に呼び出されていたのも同じ理由だと思われた。
となると、新たな契約を結べという話だろうか?
私が契約しているパートナーの数は平均よりやや少ないからあり得る話だ。
約束の九時を少し過ぎてから、バン! と応接室の扉が乱暴に開けられた。
その直後、
「あ、申し訳ありませんですわ。わたくしとしたことが……」
と取り繕いながらカーリンとよく似た外見の精霊が中に入ってきた。
赤みがかった金髪のショートと髪の色こそ違えどカーリンとよく似たこの精霊はヘスティアといい、長老会議のトップを担っている。
その実態は重度のヒキコモリで、モノグサの究極系らしいのだが。
「あ、あやつ……まあいつものことか」
億劫そうにソファに腰掛けたヘスティアを見てメイヴが頭を抱えたが、すぐに気を取りなおした。
「それではヘスティア、始めてくれんかの」
「面倒だけどルールだからやりますわ。アーベルはそこのあなたね。前に下で顔を見たような気がするけど……まあいいですわ」
メイヴに促されてヘスティアが話を始めた。
何やら手元で持ってきたバッグをガサゴソ探りながら、だ。
「ええと……ありましたわ! アーベル、あなたとの契約を望んでいる精霊がいます。背景がウザ……じゃなかった、メンド、じゃなくて、複雑なので説明の場を設けたという訳ですわ」
バッグから紙を取り出してようやく本題に入ったので、この紙を探していたのだろう。
ウザ、とかメンド、というところでメイヴにキッと睨みつけられていたが、要するに厄介な背景を持つ精霊が私との契約を望んでいる、ということらしい。話題は予想通りだ。
「妾から補足するがの、この手の相手との契約に先立って、背景の説明をするのがルールとなっておる。ベネディクトと妾の時もそうじゃった。同席しているのはそのためじゃ」
メイヴの説明で彼女やベネディクトが同席している理由が理解できた。
背景的にメイヴと近い精霊で知っているのは数体だ。
問題は契約となると、属性的な相性で問題が生じそうな相手ばかりなのだが……
最も可能性の高そうな相手は見当がついているのだが、念のためパートナーたちの方に目をやってみる。
するとユーリが心配そうな顔でこちらを見ている。
その点は気になるが、パートナーの誰か一人でも契約に賛成でなければ私としては新たな契約を結ぶつもりはない。
「アーベルにはみっつの選択肢がありますわ。最初は……」
ヘスティアが示した選択肢は次の通りだ。
一番目、契約を望んでいる相手の名前を聞いてからその者の背景の話を聞くかどうか選択する。
二番目、名前を聞く前に契約を望んでいる者の背景の話を聞く。
三番目、何も聞かずに契約を断る。
契約を望んでいる者の背景の話を聞く場合、その内容を他言してはならない。ただし、本人や長老会議や移住管理委員会から求められた場合はその限りではない。
「僕もメイヴから契約を求められたときに同じ選択を求められました。当時の僕は精霊の名前など全然知らなかったので二番目を選択しました」
恐らくベネディクトはこの説明をするために呼ばれたのだろう。
「……名前を聞いてから判断したいので、相手の名前を教えていただけますか?」
私がベネディクトと異なる一番目の選択肢を選んだのは、契約を望んでいるのが予想した精霊と異なった場合、その背景の話を聞くつもりがないからだ。
ただ、私が想像している精霊は私と属性に関する部分で合わない場所があったはずだが……
「アーベルはそう選択されましたか。いいでしょう、契約を望んでいるのはお宅の所長、アイリスですわ」
「……なるほど。属性の流れとしてはあまり相性が良くないのではないかと思いましたが」
女性型で原初の精霊か初期の精霊、そして現在契約しているパートナーがいない、という条件となると私の知り合いにはそれほど数がいない。
該当するのはアイリス、目の前のヘスティア、「ミスルトゥ」の所長のビーチェ、現在は「カクタス」と呼ばれている相談所の所長のフィデリアくらいだ。
私と相性の良い属性は水と風。ヘスティアは火属性、フィデリアは闇属性のイシュタンだからこの時点で除外される。
ビーチェは風属性のアルセイスなのだけど、「ミスルトゥ」には二ヶ月くらい応援に行っただけだし、正直彼女とはそこまで親しくない。
となると消去法でアイリスとなる。フランシスやエリシアあたりからは私の前だとアイリスは態度が変わるとからかわれていたから、可能性はあるとは思ってはいたが。
だが、私は殆ど属性に流れがないタイプ。アイリスはある程度流れのあるタイプで、アイリス自身がそのことを気にするような言動を何度かしていた。その点はどうなったのだろうか?
「そうでもありませんわ。アーベルは属性の流れが最も弱いグループ。アイリスは弱い方のグループだから、割と相性よい方ですわ」
「そういうものなのですね」
第三者のヘスティアがいうなら、それほど相性が悪くはないのかもしれない。
ただ、彼女は筋金入りのモノグサらしいから、この場をとっとと終わらせたいがためにこのような発言をしている可能性は否定できないが……
「みんな、正直に答えて欲しい。アイリスが加わるのは嫌だろうか?」
狡いと言われても仕方ないが、私の腹は決まっている。
パートナーのうち一人でも嫌がるのならアイリスとの契約は拒否するが、そうで無い限りは契約する覚悟だ。
正直アイリスは仕事モードと、そうでないときの落差が激しいのだけど、接していて悪い気分になったことはない。
精霊の中では一番付き合いの長い相手であるし、ある程度勝手は理解しているつもりだ。
また、アイリスとの契約が成立したら、これ以上の契約はしない。
ドナートのようにキャパシティが豊富でないので、これで契約は打ち止めにしたいところだ。
「どうした、ユーリ? 何かあるのか?」
ユーリが祈るような仕草を見せているのが気になって、思わず声をかけてしまった。
「あ、わ、私は大丈夫だから! イヤだなんて絶対言わない!」
ユーリが慌てた様子で反論した。
「アーベルさん」
「カーリン、どうした?」
「私たちは何度もアイリスと話をしましたし、皆でも話をしました。私たちの意思は『アーベルさんの決定に従います』です」
「そうか、わかった」
相変わらずというかいつものパターンで外堀は既に埋められていたということだ。
ならば、順を追ってプロセスを進めていくだけ。
「……わかった。ヘスティア、アイリスの背景を聞かせて欲しい」
私の回答にヘスティア一瞬だが露骨に嫌そうな顔を見せた。
「ヘスティア、そなた一体何を考えておるのだ!」
「はいはい、わかりましたわ」
メイヴに睨まれて不承不承ヘスティアがアイリスの背景を説明するのを承知した。やはりヘスティアは筋金入りの無精者らしい。
「アーベルは、アイリスがかつて別の名を持っていたことをご存知でしたかしら?」
「はい、どこかで聞いたことがあります」
アイリスがかつては「レーテ」という名だったこと。
そして改名した理由が、あまりに多くの偉業を成し遂げたため、他の精霊たちにプレッシャーを与えかねないというものだったはずだ。
「なら彼女がレーテという名だったこともご存知でしょうね?」
「ええ」
「それでしたら話が早いですわ。彼女は初期の精霊、すなわちわたくしたちのような原初の精霊によって生み出された存在ですわ」
アイリスのかつての名がレーテであったことをこちらが知っていると聞いた途端、急にヘスティアの機嫌が良くなった。何があった?
「研修で聞いたことがあります」
「彼女は生命を司るナイアス。ナイアスたちは精霊の『揺らぎ』を止めるため沢山の生物を造りましたわ。その中でもアイリスは最も多くの生物を造りましたわ、以上」
それだけ言い切るとヘスティアは急いで席を立とうとする。
「お主は何をやっておるのだ?! 説明になっておらんだろうが!」
メイヴがぱこーんとヘスティアの後頭部をひっぱたいた。ということは、この行為はヘスティアが嫌がっているものではないのか?
「あたた……なにをする、のでございますの?!」
「肝心なことを何一つ説明しておらんだろうが! とっとと帰ろうとするな、このモノグサが!」
「……チッ」
「何か言うことはあるかの?」
「……」
メイヴに注意されてヘスティアが舌打ちしたが、メイヴが無理矢理椅子に座らせた。
「観念してはよ説明を再開せい!」
メイヴのひと睨みで渋々ながらヘスティアが説明を再開した。しかしこれでは、メイヴの方がヘスティアよりかなり偉く見える。
「仕方ない……ですわ。アイリス、かつてのレーテは最も多くの生物を造った、というのは事実ですわ。ナイアスは全部で三〇体近くいますけど、その中でもレーテの魔力は群を抜いておりましたわ……」
観念したのかヘスティアがようやく丁寧な説明を始めた。
私とユーリが「ケルークス」の店内に入った。
ユーリはそのまま厨房の方に向かう。
アイリスから指定された九時にはだいぶ早い時間なので、私はいつものカウンター席の隅に陣取った。
奥の方に目をやったが、アイリスの姿はない。空のコーヒーカップが置かれているから、相談客の相手をしているか、長老会議のメンバーの相手をしているかのどちらかだろう。
さすがに平日の朝っぱらから相談に来る客はいないと思うので、後者の方が可能性が高そうだ。
更に店内を見回したが、他の客はいない。
もともと客の多い時間帯ではないので、こういうことも時々ある。
あと三〇分もすればカフェ利用の精霊客が来るはずだ。
「おはようございます、アーベルさん」
少しして相談員のベネディクトが店内にやってきた。
この時間に彼が顔を出すのは珍しい。
「アーベル、来ておったか」
ベネディクトのパートナーであるメイヴからも声をかけられた。彼がメイヴを連れてくるのは珍しいことではないのだが……
「そろそろ時間かの。アーベル、上へ来るのだ」
指定された九時の少し前、何故かメイヴから上の応接室に行くよう指示された。
「アーベルさん、所長から指示を受けているのでお願いします」
「そういうことか、わかった」
ベネディクトが補足してくれたおかげで状況は理解できた。
何故メイヴとベネディクトが、という点はよくわからないのだが……
「アーベル、少し待っていてくれんかの。他にも来る者がおるのでな」
応接室で椅子を勧められ、言われた通りに座ったところでメイヴから他の参加者が居ることを告げられた。
「メイヴ、ここでいいんだよね?」
すぐにユーリが応接室にやって来た。相談員ではない彼女がここに来るとはどういうことだろうか?
「失礼します」
少しして、カーリン、リーゼ、メラニー、ニーナ、オリヴィアの五体がやって来た。私のパートナーばかりがやって来ているが、この展開は……?
「カーリンたちも呼ばれたのか?」
「はい、アーベルさん。私たちにとっても重要なお話があると聞きましたので」
カーリンの答えから推測するに、私だけではなくパートナーたちにも関係する話なのだろう。
最近、カーリンたちがアイリスに頻繁に呼び出されていたのも同じ理由だと思われた。
となると、新たな契約を結べという話だろうか?
私が契約しているパートナーの数は平均よりやや少ないからあり得る話だ。
約束の九時を少し過ぎてから、バン! と応接室の扉が乱暴に開けられた。
その直後、
「あ、申し訳ありませんですわ。わたくしとしたことが……」
と取り繕いながらカーリンとよく似た外見の精霊が中に入ってきた。
赤みがかった金髪のショートと髪の色こそ違えどカーリンとよく似たこの精霊はヘスティアといい、長老会議のトップを担っている。
その実態は重度のヒキコモリで、モノグサの究極系らしいのだが。
「あ、あやつ……まあいつものことか」
億劫そうにソファに腰掛けたヘスティアを見てメイヴが頭を抱えたが、すぐに気を取りなおした。
「それではヘスティア、始めてくれんかの」
「面倒だけどルールだからやりますわ。アーベルはそこのあなたね。前に下で顔を見たような気がするけど……まあいいですわ」
メイヴに促されてヘスティアが話を始めた。
何やら手元で持ってきたバッグをガサゴソ探りながら、だ。
「ええと……ありましたわ! アーベル、あなたとの契約を望んでいる精霊がいます。背景がウザ……じゃなかった、メンド、じゃなくて、複雑なので説明の場を設けたという訳ですわ」
バッグから紙を取り出してようやく本題に入ったので、この紙を探していたのだろう。
ウザ、とかメンド、というところでメイヴにキッと睨みつけられていたが、要するに厄介な背景を持つ精霊が私との契約を望んでいる、ということらしい。話題は予想通りだ。
「妾から補足するがの、この手の相手との契約に先立って、背景の説明をするのがルールとなっておる。ベネディクトと妾の時もそうじゃった。同席しているのはそのためじゃ」
メイヴの説明で彼女やベネディクトが同席している理由が理解できた。
背景的にメイヴと近い精霊で知っているのは数体だ。
問題は契約となると、属性的な相性で問題が生じそうな相手ばかりなのだが……
最も可能性の高そうな相手は見当がついているのだが、念のためパートナーたちの方に目をやってみる。
するとユーリが心配そうな顔でこちらを見ている。
その点は気になるが、パートナーの誰か一人でも契約に賛成でなければ私としては新たな契約を結ぶつもりはない。
「アーベルにはみっつの選択肢がありますわ。最初は……」
ヘスティアが示した選択肢は次の通りだ。
一番目、契約を望んでいる相手の名前を聞いてからその者の背景の話を聞くかどうか選択する。
二番目、名前を聞く前に契約を望んでいる者の背景の話を聞く。
三番目、何も聞かずに契約を断る。
契約を望んでいる者の背景の話を聞く場合、その内容を他言してはならない。ただし、本人や長老会議や移住管理委員会から求められた場合はその限りではない。
「僕もメイヴから契約を求められたときに同じ選択を求められました。当時の僕は精霊の名前など全然知らなかったので二番目を選択しました」
恐らくベネディクトはこの説明をするために呼ばれたのだろう。
「……名前を聞いてから判断したいので、相手の名前を教えていただけますか?」
私がベネディクトと異なる一番目の選択肢を選んだのは、契約を望んでいるのが予想した精霊と異なった場合、その背景の話を聞くつもりがないからだ。
ただ、私が想像している精霊は私と属性に関する部分で合わない場所があったはずだが……
「アーベルはそう選択されましたか。いいでしょう、契約を望んでいるのはお宅の所長、アイリスですわ」
「……なるほど。属性の流れとしてはあまり相性が良くないのではないかと思いましたが」
女性型で原初の精霊か初期の精霊、そして現在契約しているパートナーがいない、という条件となると私の知り合いにはそれほど数がいない。
該当するのはアイリス、目の前のヘスティア、「ミスルトゥ」の所長のビーチェ、現在は「カクタス」と呼ばれている相談所の所長のフィデリアくらいだ。
私と相性の良い属性は水と風。ヘスティアは火属性、フィデリアは闇属性のイシュタンだからこの時点で除外される。
ビーチェは風属性のアルセイスなのだけど、「ミスルトゥ」には二ヶ月くらい応援に行っただけだし、正直彼女とはそこまで親しくない。
となると消去法でアイリスとなる。フランシスやエリシアあたりからは私の前だとアイリスは態度が変わるとからかわれていたから、可能性はあるとは思ってはいたが。
だが、私は殆ど属性に流れがないタイプ。アイリスはある程度流れのあるタイプで、アイリス自身がそのことを気にするような言動を何度かしていた。その点はどうなったのだろうか?
「そうでもありませんわ。アーベルは属性の流れが最も弱いグループ。アイリスは弱い方のグループだから、割と相性よい方ですわ」
「そういうものなのですね」
第三者のヘスティアがいうなら、それほど相性が悪くはないのかもしれない。
ただ、彼女は筋金入りのモノグサらしいから、この場をとっとと終わらせたいがためにこのような発言をしている可能性は否定できないが……
「みんな、正直に答えて欲しい。アイリスが加わるのは嫌だろうか?」
狡いと言われても仕方ないが、私の腹は決まっている。
パートナーのうち一人でも嫌がるのならアイリスとの契約は拒否するが、そうで無い限りは契約する覚悟だ。
正直アイリスは仕事モードと、そうでないときの落差が激しいのだけど、接していて悪い気分になったことはない。
精霊の中では一番付き合いの長い相手であるし、ある程度勝手は理解しているつもりだ。
また、アイリスとの契約が成立したら、これ以上の契約はしない。
ドナートのようにキャパシティが豊富でないので、これで契約は打ち止めにしたいところだ。
「どうした、ユーリ? 何かあるのか?」
ユーリが祈るような仕草を見せているのが気になって、思わず声をかけてしまった。
「あ、わ、私は大丈夫だから! イヤだなんて絶対言わない!」
ユーリが慌てた様子で反論した。
「アーベルさん」
「カーリン、どうした?」
「私たちは何度もアイリスと話をしましたし、皆でも話をしました。私たちの意思は『アーベルさんの決定に従います』です」
「そうか、わかった」
相変わらずというかいつものパターンで外堀は既に埋められていたということだ。
ならば、順を追ってプロセスを進めていくだけ。
「……わかった。ヘスティア、アイリスの背景を聞かせて欲しい」
私の回答にヘスティア一瞬だが露骨に嫌そうな顔を見せた。
「ヘスティア、そなた一体何を考えておるのだ!」
「はいはい、わかりましたわ」
メイヴに睨まれて不承不承ヘスティアがアイリスの背景を説明するのを承知した。やはりヘスティアは筋金入りの無精者らしい。
「アーベルは、アイリスがかつて別の名を持っていたことをご存知でしたかしら?」
「はい、どこかで聞いたことがあります」
アイリスがかつては「レーテ」という名だったこと。
そして改名した理由が、あまりに多くの偉業を成し遂げたため、他の精霊たちにプレッシャーを与えかねないというものだったはずだ。
「なら彼女がレーテという名だったこともご存知でしょうね?」
「ええ」
「それでしたら話が早いですわ。彼女は初期の精霊、すなわちわたくしたちのような原初の精霊によって生み出された存在ですわ」
アイリスのかつての名がレーテであったことをこちらが知っていると聞いた途端、急にヘスティアの機嫌が良くなった。何があった?
「研修で聞いたことがあります」
「彼女は生命を司るナイアス。ナイアスたちは精霊の『揺らぎ』を止めるため沢山の生物を造りましたわ。その中でもアイリスは最も多くの生物を造りましたわ、以上」
それだけ言い切るとヘスティアは急いで席を立とうとする。
「お主は何をやっておるのだ?! 説明になっておらんだろうが!」
メイヴがぱこーんとヘスティアの後頭部をひっぱたいた。ということは、この行為はヘスティアが嫌がっているものではないのか?
「あたた……なにをする、のでございますの?!」
「肝心なことを何一つ説明しておらんだろうが! とっとと帰ろうとするな、このモノグサが!」
「……チッ」
「何か言うことはあるかの?」
「……」
メイヴに注意されてヘスティアが舌打ちしたが、メイヴが無理矢理椅子に座らせた。
「観念してはよ説明を再開せい!」
メイヴのひと睨みで渋々ながらヘスティアが説明を再開した。しかしこれでは、メイヴの方がヘスティアよりかなり偉く見える。
「仕方ない……ですわ。アイリス、かつてのレーテは最も多くの生物を造った、というのは事実ですわ。ナイアスは全部で三〇体近くいますけど、その中でもレーテの魔力は群を抜いておりましたわ……」
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ご購入はこちらから:
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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